成り上がりの英雄譚   作:カニ漁船

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タイトル通り。


ジュニア級最後のレース

 阪神レース場のオープンレース。これが今年最後のレースだ。

 

(最後のレース、儂が勝って、清々しい気持ちで年越してやる!)

 

 とは言っても、前を走っているヤツらがウザってぇ……!とっとと追い抜きたいけど、トレーナーやトウメイの言葉が頭から離れねぇ。

 

「あなたに我慢なんて言葉があるわけないでしょう」

(ウッセぇんだよ!余計なお世話だババア!)

「我慢を覚えるんだ、イマイ。我慢を覚えた君は──誰にも負けない」

(……ッチ!)

 

 儂の我慢しろだのなんだの……気持ちの良い走りができて勝ったらそれでいいだろうがよ!悪態をつきながらレースは進んでいく。

 

《ヒカルイマイは最後方!バ群は縦長の展開となっています。先頭を走るのはヒデオーギ!ヒデオーギから2バ身程離れてファインニアルコ、3番手はラブリーブルー。4番手トップランチャー5番手マサインディ、そしてヒカルイマイと続きます》

《1番人気のヒカルイマイは変わらずの後方待機策。ですがこの少人数だと少々厳しいかもしれませんね》

《悠々と逃げるヒデオーギ。まもなく最後の直線だ!》

 

 けど、トレーナーはそれだけじゃダメだと言っていた。レースには我慢も必要だと。これから先を勝つためには、儂は我慢する必要があるのだと。でも、どうしても身体の奥から湧き上がる衝動を我慢できない。前にいるウマ娘どもを蹴散らせと、追い抜かせと誰かが囁きかけてくる。

 我慢する、いや行く。いいや我慢だ。頭がこんがらがりそうになる……!ストレスばかりが溜まっていって……。

 

「……ウガァァァ!もう我慢できるかぁ!」

 

 儂の中でなにかが弾けた。第4コーナーだけどここでぶっ飛ばしてやる!もう知らねぇ!我慢なんてできるかぁ!

 

《ここでヒカルイマイが上がってきた!ヒカルイマイが最後方からグングン位置を押し上げる!ですがこれはかなり外に膨らんでいるぞ!外ラチめがけて突っ走るヒカルイマイ!》

《あ~、これはスピードが乗り過ぎてますね。痛い距離ロスです!》

《最後の直線、先頭で入ってきたのはヒデオーギ、ヒデオーギが先頭だ!隊列は変わらず、大外へと膨らんだヒカルイマイ!この距離ロスを縮めることはできるのか!?》

 

 距離ロスなんて関係ねぇ、儂なら届く!いや、届かせてやる!

 

(ぶっ飛ばす……!全員まとめて、ぶっ飛ばしてやる!)

 

 負けてたまるか、絶対に負けねぇ!儂をバカにした連中を見返すんだよ!

 ──けど。現実ってのは非情だ。思いだけでどうにかなるほどレースってのは甘くねぇ。1人、また1人と追い抜いて。

 

(ハッ!見たかトレーナー、トウメイ!我慢しなくても勝てんだよ!)

 

 勝てると思っていたのに。最後の1人をもう少しと追い詰めたところで……レースは終わった。

 

《ヒデオーギ逃げ切ったゴールイン!阪神レース場、ジュニア級オープンレースを制したのはヒデオーギ!最初から最後まで先頭で走った逃走劇でした!2着はヒカルイマイ、最後方から見事な追い込みを見せてくれましたが》

《やはり第4コーナーの距離ロスが痛かったですね。スピードが少し落ちて、再加速するのに時間がかかりました。もう少し我慢したら、立場は逆転していたかもしれません》

《ですがこれがレースの厳しさ!オープンレースを制したのはヒデオーギであります!》

 

 アタマ差の2着。我慢できずに突っ走って、その結果がこれだ。

 人によってはよくやったと褒めるだろう。2着でも頑張ったというだろう。けど、()()()()()()

 

(勝たなきゃ意味ねぇんだよ……!)

 

 今回の悔しさを胸にターフを去る。それに、この後またトレーナーに怒られるだろう。当然だ。また我慢できずに負けたわけだから。

 

「……ハッ、まぁいい。適当に聞き流せばな」

 

 そう思い、控室へと戻っていく。

 

 

「よしよし、()()()()も我慢できたね」

「は?」

 

 開口一番、アイツはそういった。叱られるかと思っていた儂は肩透かしを食らう。

 

(おい、手前の意見を無視して負けたんだぞ?もっとこう、何かあるだろ)

 

 いくらコイツがお優しいと言ってもだ。手前の意見を無視して、その結果負けたんだからもっと怒鳴ってもいいだろう。それこそ、前回みたいに。なのに怒りは……いや、ちょっと怒ってるかもしれない。分からんが。

 てか、前回よりもってなんだ?

 

「おい、前回よりもってなんだ?」

 

 思わず口に出して質問してしまう。アイツは、特に気にすることなく教えてくれた。

 

「前回よりも少しだけ仕掛けを遅らせただろう?少人数だけどしっかりと後ろに控えることができたし、ちゃんと言いつけを守ってた」

「そりゃあ……だって、手前が後方待機策を取れっていうから」

「うん。イマイの末脚を活かすなら、後方待機策が一番だから。まぁ今回は少人数だからちょっと発揮しづらかったけど」

 

 苦笑いを浮かべるトレーナー。あぁ、これは怒る気ないヤツだ。

 

「それに、まだまだイマイは発展途上。これからもっともっと改善していって、クラシックまでには間に合わせよう!」

「……」

「勿論走る以上は勝ちたい。今回だって、仕掛けを最後の直線まで遅らせてれば勝てたレースだった。これは反省だね」

 

 しっかりと反省点も洗い出すんかい。いや、そうじゃなきゃ困るんだが。甘い対応されてもこっちが困るし。

 

「……とりあえず、レースの疲れもあるから今日はここまでにしておこうか。いつまでもここに居座るわけにもいかないしね」

「……おうよ」

 

 相変わらず調子が狂うヤツだ、コイツは。

 

 

 

 

 

 

 翌日。明日には実家に帰省するから今年最後の反省会だ。

 

「イマイのコーナリングはマシになったけど、それでも上の子達に比べればまだまだだ。昨日のレースで良く分かっただろう?」

「ウッセぇ」

「うるさくてもいいよ。第4コーナーでスピード出して突っ込むもんだから、危うく外ラチにぶつかるところだったし」

 

 痛いとこを突かれる。そう、儂は第4コーナーで加速したは良いが、制御し切ることができなかった。結果、外ラチに突っ込みそうになり減速。最後の直線でまた再加速をすることになった。このロスが痛かったわけだ。

 

「やっぱり、最後の直線までしっかりと我慢するのが大事になってくる。加速は申し分ないし、スピードだってあるんだから。徐々に改善していこうか」

「……あぁ」

「そうなると、年明けからは忍耐力をさらに鍛えないとね。今のトレーニングの量を増やそうか」

 

 はぁ!?マジかよ!今でも座禅に勉強、さらにはお灸だってやってるのにさらに増やすってのかよ!

 

「これ以上忍耐力を鍛えてどうにかなんのかよ!?」

()()()。前にも言ったけど、我慢さえ覚えた君は最強だ。断言してもいいってね」

 

 ~ッとうにこいつは!どっからそんな自信湧いてくるんだよ!

 

「爆発だよ、イマイ。感情の爆発だ」

「ば、ばく……なんで?」

 

 おい、ボンクラが急にわけのわからんこと言い出したぞ。気でも狂ったか?

 

「別に怒るな、ってわけじゃないんだ。感情を溜め込んで、最後の直線で一気に爆発させる……これはそのためのトレーニングだよ」

「感情の、爆発」

「そう。道中で溜めたフラストレーション……ストレスを、最後の勝負所で一気に解放するんだ。むかつくヤツらを全員ぶっ飛ばす!って気概でね」

 

 ファイティングポーズをとるトレーナー。え~っと、つまり……道中はムカつくことを我慢して、最後の直線で全部ぶっ放す、ってことか?

 

「そりゃまた、なんでだ?」

「う~ん……例えばだけどさ、普通に殴った時とムカつく相手に殴る時。どっちの方がスカッとする?」

「ムカつくヤツぶん殴る時に決まってんだろ」

「即答だね……まぁ気持ちが乗るか乗らないかって言うのは結構重要なことなんだ。ストレスフリーで走るのも悪くないんだけど、君の場合感情の大きさが末脚に比例するところがあるし」

 

 ほ~ん……てことは、我慢した方が儂は速くなれる、ってことか?なんでそんなことになってるのやら。

 

「ひとまず、君のスタイルを完成させよう。クラシック戦……皐月賞までには完成させないと」

「クラシック、か」

 

 トレーナーが頷く。コイツの言うクラシック戦というのは、レースの中でも特に格の高いレースの1つらしい。散々教えられたからな。さすがに覚えた。

 儂のような農家上がりが、格の高い皐月賞を制する……そんな時、学園のヤツらはどんな表情をするだろうか?

 

(……考えただけで笑いが止まらねぇな)

 

 儂に対して嫉妬の感情をぶつけるだろう。お前のようなヤツは相応しくないと罵るだろう。だが、知ったことか。勝って見下ろし、ヤツらを見下すのが儂の目的。何ら変わりねぇ。

 

「クックック……」

「悪い顔してるねイマイ……それはともかく、またファンレター届いてるよ」

「あぁ?またかよ。ババアも物好きなもんだ」

 

 トレーナーが渡してきたのは儂宛のファンレター。とはいっても、ババアが送ってきたもんだが。律儀なこって。

 文の内容は、この前のレースに関することだった。儂が初敗北を喫したレース。負けたことを悔しがる内容、次こそは勝ってくださいと綴られ、これから先も儂の活躍を期待しているという言葉が続いていた。

 

(直接言やぁいいものを……なんでわざわざファンレターなんか)

 

 まぁ、嬉しくないと言えば嘘になる。一応、育ての親になるわけだし。

 とりあえずニコニコしているトレーナーのケツに蹴りを入れ、反省会が終わったので帰省する準備をする。

 

「とりあえず儂は実家に帰省する。手前も良い年にするんだな」

「イテテ……イマイもね。風邪とか引かないように気をつけてよ?」

「ガキか儂は」

 

 心配するトレーナーの言葉に呆れつつも、帰ろうとする。そんな時だった。

 

「すみません、ヒカルイマイさんはいらっしゃいますか?」

 

 学園の職員がやってきた。どうも儂に用があるらしい。

 

「あぁ、なんじゃ?」

「先程ご家族の方から手紙が来まして。はいこちら、お手紙です」

「おう」

 

 用事はそれだけだったみたいで、職員は去っていった。にしても手紙ねぇ。封をビリビリに破って中身を確認するが……ハァ!?

 

「何考えてやがんだクソジジイ!」

「え?な、なに?どうかしたのイマイ?」

 

 儂が大声を上げたことに驚いたトレーナーがこっちに来るが、儂は無言で手紙を渡す。トレーナーは不思議そうな表情をしているが、手紙の内容を確認すると……驚いた表情を浮かべていた。

 数分経って、状況を飲み込めたトレーナーが遠慮がちに儂を見る。

 

「え~っと、イマイ?どうしよっか?」

「……どうするもこうするもねぇ。手前がこなきゃ儂がどやされる」

「そ、そうなの?じゃあ……お邪魔します」

「……ッチ」

 

 手紙に書かれていた内容。それは──帰省する時に儂のトレーナーも連れてこいというものだった。

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