「は?ヒカルイマイのことについて教えて欲しい?」
「はい!お願いします先輩!」
ヒカルイマイと最悪の出会いを果たした翌日。彼女のことについてもっと詳しく知りたいと思い行動。身近な人への聞き込みをすることにした。先輩は意味が分からないって感じの顔してるけど。
「彼女の学園での態度とか、改めて聞いておこうと思って。お願いします!」
「別にそれぐらいいいけどよ……つかなんでヒカルイマイ?アイツの悪名ぐらいお前も聞いたことあるだろ?」
「まぁ……一応」
ヒカルイマイっぽいウマ娘の悪名は聞いたことあるけど、それでも別人の可能性を考慮しておかないと!もしかしたら違うかもしれないし!
「つってもヒカルイマイなぁ。大体昨日言った通りだぞ。誰の言うことも聞かねぇ気性難ってな」
「そ、それ以外には何かありますか!?こう、凄い素質を秘めてるって噂とか」
「ねーよ。てか、そんなもんあったら今頃スカウトされてるわアイツ」
うぐ、もっともな意見。
「それに学業も大分やべーからなアイツ。赤点で補習常習犯だし、授業態度も最悪なんて噂もあるぞ」
「ま、マジですか……」
「授業態度最悪に関しちゃただの噂だから信憑性はないけどな。ただ、補習常習犯ってのは確かだ」
補習常習犯なのか……ぶっちゃけそんな気はしてた。なんていうか、勉強得意そうには見えなかったし。
「後は他のウマ娘と問題を起こすことが多いな。アイツは喧嘩っ早いのか、気に入らないことがあるとすぐに癇癪を起こすらしい。んで、相手のウマ娘に手を出すと」
「素行不良……ってことですか?」
「それで済めば可愛いもんだがな。アイツに手を出されたウマ娘は数知れず、って話だ」
う、う~ん。良い噂が一つもないぞ。よく学園にいられるな彼女。
「俺が知っているのはこれぐらいだ。本当に噂ぐらいでしか聞いたことないからな」
「成程……ありがとうございます!」
「参考になりゃ良いんだがな。他のヤツにも聞いてみろ。多分ろくな回答が返ってこねぇけどな」
そんな気はする。先輩ですら良くない噂をたくさん知っているぐらいだし、他も大体同じような気がする。なんとなくの勘だけど。
「にしても、なんで今更ヒカルイマイなんだよ?もしかしてお前……アイツをスカウトしようとでも思ってんのか?」
からかい気味な先輩。多分、冗談か何かで言っているのだろう。でも、
「はい。俺はヒカルイマイをスカウトしようと思っています」
「あ~はいはい。そんな……はっ?」
俺は彼女の脚に魅せられた。夕方、彼女が1人でトレーニングしている時に見せたあの脚に俺は惚れ込んだ。だから彼女を育てたい、彼女と一緒に駆け抜けたい!そんな思いに駆られるようになった……選抜レースでは評価が下だったのに、我ながら単純な男だけど。
鳩が豆鉄砲を食ったような表情の先輩。次の瞬間には──俺の肩を掴んでがくがく揺らしてきた。
「お、お前正気で言ってんのか!?アイツをスカウトすんの!?あの
「は、はい!俺は彼女をスカウトしたいです!」
「
「失礼ですね先輩!俺はいたって正気ですよ!」
周りのざわめき声も大きくなってきた。て、てか揺らされ過ぎて気持ちが悪くなってきたっ!
「絶対に止めとけ!アイツはお前の手に負えるような相手じゃない!つーか、学園にいない方がいいだろ!」
「とりあえず揺らすの止めてください先輩!き、気分がっ」
「お、おぉ悪い」
は、離してくれたか。ようやく楽になった。ただ、依然として先輩は信じられないような表情。俺を止めようとしている。
「いや、にしたって……考え直せ!相手は
「で、でも!俺は見たんです!彼女の潜在能力を!」
「潜在能力ぅ?何見たってんだよ!」
決まってる。夕暮れ時に、稲妻のように走ったあの末脚を!あの衝撃的なスピードを、俺は覚えている!
「彼女のスピードです!あのスピードは凄い、どんな名ウマ娘だって敵じゃない!彼女は間違いなく最速だ!」
自信をもって言える。彼女の末脚はどんなウマ娘にだって勝てるって!それだけの衝撃があったんだ!先輩は……懐疑的な目。訝しげだ。俺の言っていることが信じられないのだろう。でも、先輩だってあの末脚を見ればきっと考えを改めてくれるはずだ!
ただ、先輩が分かってくれることはなく。
「ヒカルイマイだけは止めとけ。その方がアイツも幸せだろ」
それだけ告げて去っていった。
◇
その後もヒカルイマイについて聞き込みを開始。どんなことでもいいから知っていることを教えて欲しいと色んな人に聞いて回った。
「ヒカルイマイ?あ~……止めといた方が良いよ?関わらない方が身のためっていうか」
「サボりの常習犯、補習常習犯だ。お目付け役のトウメイが絡んでいるが、ありゃ無理だな。聞きやしねぇ」
「わざわざ生徒会長が出向いたスカウト生だってのになぁ。あんなのスカウトするとか、ついに耄碌したのか?」
「素行も悪けりゃ良い噂も聞かねぇ。とんでもねぇ気性難だよ本当」
「この前も他のウマ娘と問題を起こしてたねぇ。本当、飽きないものだよ」
結果は、良い噂を全く聞かない。ヒカルイマイの評判は最悪の一言に尽きる。
(まさかこれほどとは……)
というか、生徒会長が直々に出向くほどのスカウト生だったのか。現在の生徒会長はめんどくさがりで有名なのに、そんな彼女がわざわざ出向くほどの逸材ってことか?……あの脚を考えたら当然か。
「スカウト班の耄碌、他生徒に喧嘩を売る行為、成績も最悪……本当にヤバいな」
そして全員もれなく関わるのを止めとけと釘を刺してきた。ヤバすぎるだろ。
け、けど!これぐらいじゃへこたれない!現在時刻は放課後、ヒカルイマイがトレーニングしている可能性がある!
「またあの末脚が見れるかもしれない。だから、また練習場に行こう!」
そうと決まれば早速向かうぞ!
練習場。予想通りヒカルイマイはいた。いたのだが。
「なんじゃ手前、昨日の変態じゃねぇか」
「や、やぁヒカルイマイ。とりあえずその一件に関しては弁明を」
「弁明したところで手前が変態なのは変わりねぇだろ。とっとと失せろ」
「い、いやだから「とっとと消えろ!」ひゃい……」
取り付く島もないとはこの事。一喝された。け、けど!ここで引き下がるわけには!
(でもどうする?こっちの言うことを素直に聞くとも思えないし)
何か良い案はないだろうか?弁明に関してはこの際どうでもいいとして、せめて彼女のトレーニングを見てみたい。彼女の火山が爆発する前になんとか考えつきたいところだがっ!
(良い考えが浮かんだ!)
「な、なぁヒカルイマイ。俺は君のトレーニングになにも口を出さない」
「あ゛ぁ゛?だからなんじゃ?ンな当たり前のこと今更口にしてんじゃねぇよ」
「俺はその辺の空気と一緒だ。空気にいちいち怒るのもバカらしいだろう?」
「……」
よ、よしよし!ちょっと考える余地ありだと思っているぞ!多分。
「俺はいないものとして扱ってくれ!練習場で君のトレーニングを見ているのはいない、俺は空気と一緒!お、オーケー?」
「……チッ」
ヒカルイマイは舌打ちしながらも何も言わずに立ち去る……よ、よし!これは許されたな!早速彼女のトレーニングを見ていこう!
彼女はというと、何やら本を持っているようだが。タイトルは見えない。
「チッ、もっとわかりやすく書かんか。不親切な教本じゃのう」
どうやらトレーニング本らしい。そういうの見るんだ……しかも結構使い込まれている感じがする。意外とマメなんだな。
そして始まるトレーニングだが。なんというかまぁ、いかにも教本を聞き齧ってトレーニングしてますって感じだった。
(てか、放り投げてこっちに来たからタイトルが見えたけど、俺も持ってる本だったな)
有名なトレーニング教本だ。それなりに分かりやすくまとまっていたはずなんだけどなぁ。
トレーニングに関してもツッコミどころが満載だ。教本に書かれていることをとにかくこなせばいいと思っているのが見てとれる。
(俺も素人だから下手なことは言えないけど、見てるだけなら本当に素人丸出しだ)
けど、独学でなんとかしようという努力が垣間見える。彼女なりの努力の形なんだな、きっと。
その後も彼女は一生懸命トレーニングしていた……1人で。
「あ~あ、アイツまだいんの?」
「本当本当。さっさと辞めないかしら?」
「根本的に向いてないのにね~」
周りの生徒のバカにするような声。その時嫌な予感が頭をよぎる。
(ヒカルイマイは喧嘩っ早い……っ!もしかして!)
彼女達に噛みつこうとするんじゃ!?と思っていたのだが。
「クソ、クソッ!」
驚いたことに何も言わなかった。聞こえているはずなのに、聞こえるようにあの子達は言っているのに。ヒカルイマイは言い返すことなく黙々とトレーニングをこなしていた。悔しさを必死に堪えるように。
(……なんだろう)
てっきり喧嘩を売りに行くかと思っていた。人から聞いた話だと彼女は喧嘩っ早いと聞いていたし、あんなに分かりやすくバカにされてるんだったら噛みついてもおかしくないはずなのに。でも彼女は何もしない。何も言い返さない。それが当然だとばかりに。
「……人から聞いた話ってあんまりあてにならないなぁ」
そう思いながら、ヒカルイマイのトレーニングを見守っていた。
その後もヒカルイマイのトレーニングを見学する。
「なんだ手前、またいんのかよ?」
「だ、大丈夫大丈夫!俺、空気。いないもの、オッケー?」
「ンでそんな片言なんだよ。バカにしてんのか?」
「ば、バカにしてないよ!本当本当!」
「……まぁいい。邪魔だけはすんじゃねぇぞ」
このやり取りにも慣れてきた。口に出さず、彼女のトレーニングを見守る日々。でも、その内この日々を終わらせないとなぁ。彼女をスカウトしたいわけだし。いつかはちゃんと言わないといけない気がする。
(とはいっても、現状これ以上の手立ては見つからないし……我慢するしかないか)
どうにか打開策はないかと考えているお昼時。学園内を歩いているとノートが落ちているのを見つけた。拾い上げると、少し汚い字で名前が書いてある。
「え~っと……【ヒカルイマイ】?彼女のノートか、これ」
それにしても、なんで外に落ちてたんだ?鞄から落っこちたのだろうか?まぁいい、なんにせよ落し物は届けに行かないとな。
「なんか、変態と罵られそうな気がするけど……でも困ってるだろうし届けるか」
職員室に足を運ぶ。先生にでも渡しておけば確実だろう。
そして職員室に着いたのだが。
「ハァ、イマイさんまたですか?」
「だから!ちげぇつってんだろ!儂はちゃんと提出した!運んだヤツが落としたんだ!」
「言い訳をするにしても、もうちょっとマシな言い訳をしなさい」
「言い訳じゃねぇ!」
なんか、ひと悶着起きてるんですけど。しかも渦中にはヒカルイマイがいるし。先生と口論になっている。先生側は呆れた表情、ヒカルイマイは分かりやすく怒っている。
近くに先生がいるので耳打ちで聞くことにした。
「あの、何かあったんですか?」
俺の登場に驚いていたが、先生は答えてくれる。
「ヒカルイマイって子がまた提出物を忘れたんだとよ」
「また?常習犯なんですか?」
「結構な頻度で忘れてますから」
そうなのか。それにしては……かなり必死だ。どうもヒカルイマイが嘘を言っているようには見えない。
「それにしても、自分の過失を人のせいにするなんて最低なことよ。大人しく自分が忘れたことを認めなさい」
「ッ!違う、違うッ!儂は本当に提出したんだ!だから!」
「はいはい。その証拠は?ま、出せないでしょうけど」
……ヒカルイマイの評判は最悪だ。だから、先生もまともに信じちゃいない。素行不良の生徒の言うことなんて信じるに値しない、そう思っているのだろう。でも、いくら何でもあんまりじゃないだろうか?
(あんなに必死になってるんだから、もうちょっと取り合ってくれてもいいはずなのに)
ヒカルイマイは悔しそうに歯噛みしている。血が流れそうなほどに拳を握り締めている。気づけば俺の足は──彼女達の下へと向かっていた。
「すみません、先生。ちょっとよろしいですか?」
「あ?……手前、変態!」
「なんでしょうか?見ての通り、今は取り込み中なのですが」
拾ったノートを先生に手渡す。先生は驚いていた。
「中庭を歩いている時見つけました。おそらく、誰かが落とした物だと思われます」
「これは……イマイさんのノート!?」
「はい。おそらく、彼女の言っていることは本当です。宿題はちゃんとやってきた。だけど誰かが落とした……そういうことでしょう」
誰が落としたのか?というのは詮索しない。ここで重要なのは、ノートの中身だ。
パラパラとめくる先生。やがてノートを閉じ、椅子から立ち上がって──ヒカルイマイに頭を下げた。
「ごめんなさい、イマイさん。本当にちゃんとやってきてたみたいね……悪かったわ」
誠心誠意、心を込めた謝罪。自分の非を認めたのだろう。ヒカルイマイは戸惑いつつも鼻を鳴らした。
「ふ、フンッ!分かりゃいいんだよ!じゃあのっ!」
「えぇ……ただ、これからもキチンと提出するように。分かりましたね?」
「わ、わーってるよ!」
ずんずんと音を鳴らして退出するヒカルイマイ。先生は、俺にも頭を下げていた。
「ごめんなさいね、トレーナーさん。わざわざ持ってきてくださって」
「い、いえいえ。誰かが困ってたらいけませんから」
「それにしても……私も反省ね。あの子ったらいつも宿題を忘れるものですから。ついキツく言っちゃったわ」
「あ、あ~……はい」
それに関してはノーコメントで。
職員室を出ると。
「おい、手前」
ヒカルイマイが待ち構えていた。な、なんだ?何の用だ?
「な、なにかな?俺は空気「別にいーよそれは」と、とりあえずなにかな?」
「……」
ヒカルイマイは照れ臭そうに頬を掻いた後。
「……手前のおかげで助かった。ありがとよ」
「へ?」
「ッ!な、なんでもねぇ!また練習場でな!じゃあの!」
凄い勢いで去っていった……それにしても、また練習場でって。
「もしかして、一歩前進?」
だとしたら嬉しいなぁ。
コツコツと進めていこう。