「おい、まず儂はなにをすべきだ?分かりやすく言え」
「え、え~っと……」
「早くしろ」
とりあえず、この状況にツッコみたいんだけど……後回しでいいや。ヒカルイマイの機嫌を損ねるのは勘弁だし。
「ふぉ、フォームの修正だね!今の走り方だとちょっと走り辛いんじゃない?」
「あ?つっても、教本だとこのフォームが良いって書かれてたぞ?」
「確かに教本に書かれてることは基本間違ってないけど、全部一緒に真似する必要はないんだ。自分のフォームに教本のフォームを落とし込まないと」
「ふ~ん……よく分かんねぇけど、走りやすいフォームで走っていいんだな?」
「そうそう!その方が君の持ち味を活かせると思うよ!」
とりあえずヒカルイマイのトレーニングを見ることになった。本人のお願い?で。なんで急に心変わりしたんだろう?トレーニングが終わった後一応聞いてみたけど。
「あ?手前に関係あるかよ。儂の言葉に文句でもあんのか?」
「な、ないです!」
速攻で睨まれたのでもう気にしないことにした。けどこれで一歩前進!ヒカルイマイを育てていこう!……トレーナーじゃないけど。
「えっと、ヒカルイマイは「イマイでいい」い、イマイはスピードを伸ばそうか。後は走るスタミナとか」
「……なんでだ?その辺儂はよく分からんが」
「君はトップスピードに入るまでが凄く早いんだ。加速が凄い、瞬発力があるって言うのかな?だから君の強みをできるだけ伸ばす方向性で行こう」
スピードに関しては天性のものだ。ヒカルイマイ……イマイはこのスピードが飛び抜けている。重要なのはそのスピードをどこで切るかになる。なので。
「今の君に必要なのは我慢することだね!」
「なんじゃ手前、儂が我慢のきかないウマ娘だって言いたいのか?」
「え!?そうじゃないの!?」
あ、ヤバッ!と思った頃には手遅れ。イマイに蹴られた。手加減してくれてはいるんだろうけど、それでも痛い……悪いのは自分だけど。
「フンッ。儂は謝らんぞ」
「イテテ……と、とにかく。スピードやスタミナを重点的に鍛えつつも、我慢することを覚えよう。後はコーナリングにレースの展開に……覚えることが山積みだね」
「なんとかならんのか?こう、一気に解決するような妙案」
「あるわけないでしょ……俺は魔法使いじゃないんだから」
それができるんだったら今すぐやってるよ。
色々と問題はあったが、とりあえずはコーナリングの練習からすることに。イマイのコーナリング技術はまぁド下手糞だ。本番のレースにコーナーはあるわけだし、少しでも改善しなければならない。
「だ~クソ!いい加減直線走らせろや手前ッ!」
「ダメダメ!君のコーナリングは下手なんだから!もっと上手くなるまで直線での走りはお預け!」
「ドストレートに言いやがって手前!走り終わったら覚えてろよ!」
俺が蹴られることが確定したがそれはいいとして、この辺は曲がり方を教えて身体に沁み込ませるしかない。理論や理屈よりも実戦で鍛えた方が伸びるタイプだろうし。身体を動かした方がイマイも覚えやすいだろう。
トレーニングをしていく中でイマイともそれなりに仲は良くなり。俺の質問にも答えてくれるようになった。
「前々から気になってたんだけど、そのスカジャン気に入ってるの?いつも身につけてるけど」
「ン?まぁな。コイツはジジイとババアが儂の祝いにって渡したもんだ」
そうなのか。だとしたら大切なものなのも分かるな。
「ったく、なんでよりによって渡すもんがこれなのか。どうかしてる」
「の割には嬉しそうにしてるね……いてっ!?」
またイマイに蹴られた。照れ隠しだなコレ。
ちょっとナイーブだと思ったけど、気になったから質問せずにはいられない。彼女の親について。
「イマイ。答えにくいとは思うんだけどさ……君の両親って?」
聞いた瞬間、イマイの怒気が増した。や、やっぱ質問すべきじゃなかった!
でも、思いの外イマイは冷静で?
「……まだ物心つく前の儂を捨てたクソ親じゃ」
全然冷静じゃない。忌々し気に吐き捨てた。というか、物心つく前に捨てたって……。
(一体、どんな事情があって?)
「じ、じゃあ君の祖父母は?捨てられた君を拾ったの?」
「詳しくは儂も知らん。だが、少なくとも親戚関係なのは間違いねぇ。儂をジジイ共に押しつけたわけだからな」
イマイの育ての親である祖父母に押しつけた……ますます意味が分からないな?イマイ憎しで捨てたわけじゃない?本当にどんな事情があったんだ?
「なんにせよ、アイツらは儂を捨てたクソ親じゃ。とっとと絶縁したいところだ」
「……そうなんだ」
この辺の事情には、アレコレ突っ込むわけにはいかないな。むしろ教えてくれたのが意外だった。
「おし、とっととトレーニング始めるぞ。時間が惜しい」
「あ、そうだね。もうそろそろ次の選抜レースが迫っているわけだし」
「次こそは勝つ……そして、儂を見下したヤツらを……!」
イマイとのトレーニングは充実した日々だった。そんな中で──
◇
異変にはすぐに気づいた。
「あれ?今日はスカジャン身につけてないんだね」
お昼時にイマイに偶然会ったのだが、彼女が珍しくスカジャンを身につけていなかった。いつも身につけているから少し変に思ったんだ。イマイは頭を掻いている。
「あ~……なんか今朝から見当たらなくてよ」
「え!?それって大変じゃないか!」
イマイの大切なものなのに!けど、イマイはそれほど焦っていない。もしかして、心当たりでもあるのか?
「んにゃ、大体目星はついてんだ。朝河川敷の方でランニングしててな、そん時に落としたんだろ」
「あ、あ~……だからあまり慌ててないんだね」
「そういうこった。つっても、早めに取りにいきたんだが……どうしたもんか」
確かに、今から河川敷までいくと間に合うかどうかは微妙な時間だろう。ならここは。
「じゃあ、俺が取りに行ってくるよ!」
「は?」
「俺なら時間は空いてるし、イマイのジャージを取りに行ってくる!」
イマイは目を丸くして驚いているけど、これぐらいわけない。彼女の大切なものだし、ちゃんと見つけないと。
「いや、悪いからいいぞ?落とした儂が悪いし」
「構わないよ。ご飯も食べて、運動もしたい気分だし!」
「昼飯後すぐの運動は身体に悪いんじゃなかったか?」
「ランニング程度だし大丈夫大丈夫!じゃあねイマイ!しっかりと授業受けるんだよ!」
俺は足早にその場を去っていった。
「……変なヤツじゃな本当に」
イマイの呆れたような声を聞きながら。
というわけで、イマイのスカジャンを探しに河川敷へとやってきたわけだが。
「中々見つからないなぁ……」
かれこれ小一時間探しているのだがスカジャンは見つからない。考えてみれば、河川敷の範囲はバカでかいわけだし、闇雲に探しても見つかるわけがないと着いてから気づいた。それでもなんとか探そうと頑張っているけど。
(う~ん、飛び出していった手前、なにか収穫が欲しいところなんだけど……)
次はどこを探そうかと考えている時、河川敷にいたおじいさんから話しかけられた。
「さっきからなにを探しているんじゃ?色んな所を走り回っとるが」
「あ、あ~……実はスカジャンを探してまして。え~っと、こんな柄なんですけど……」
言いながらイマイの写真を見せる。これなら柄も一発で分かるはずだ。
「あ~……これなら、学生さんが持ってってたぞ?え~っと、あの制服じゃと~……中央の生徒さんじゃな」
「ほ、本当ですか!?」
「おぉ。グループでいたし、なにやら楽しそうにしてたからのう。覚えとるわ」
グループでいた……イマイの可能性は低そうだな。イマイだったら昼頃には着てるだろうし。何にしてもこれは耳寄りな情報だ!
「ありがとうございます!助かりました!」
「ほっほ、礼には及ばんよ。頑張れよ~」
「はい!」
急いで学園に戻ろう!学園でまた聞き込みだ!
……ただ、学園では聞き込みするまでもなく見つかった。何故なら。
「ねぇねぇ、そのきったないスカジャンどうすんの?」
「え~?誰のものか分からないし、とりあえず先生に届ける?」
「つかさ、なんか見覚えない?このスカジャン」
授業が終わったであろうウマ娘達が、イマイのスカジャンをどうしようかという話をしている現場に遭遇したわけだから。……というか、まさかサボりじゃないよな?授業が終わるのにはちょっと早いと思うんだけど。
なんにせよ見つかってよかった。すぐに返してもらわないと。
「ね、ねぇ君達。ちょっといいかな?」
「うん?……って、トレーナーさんじゃん。どうしたん?」
「そのスカジャン、俺の知り合いのものなんだ。返してもらえると助かるかな~って」
手を合わせてお願いする。ウマ娘達はというと……あまり良い反応じゃないな。
「具体的に誰のものなんですか~?それを教えてくれないと、トレーナーさんが嘘言ってる可能性あるし」
「うぐっ。まぁもっともか」
冷静に考えても信用できる言葉じゃないだろう。持ち主の名前を言わないと。
「そのスカジャン、ヒカルイマイって子の大事なものなんだ。だから返してもらえないかな?」
そういうと、彼女達は顔を見合わせて──大笑いした。
「アッハッハ!そっかそっか、どうりで見覚えあると思ったら!」
「アイツのスカジャンか!っにしても、本当にぼろっちいわね~」
「ま~仕方ないんじゃない?アイツ、見るからに貧乏じゃん?」
……堪えろ。堪えるんだ。俺が言ったところでなんになる?とにかく、一刻も早く返してもらわないと。
「……納得したかい?だったら、返してもらえると助かるんだけど」
「う~ん……まぁそうだね。嘘言ってるように見えないし、これは返すよ」
スカジャンを大人しく返してくれた。よし、これで一安心「トレーナーさんもさ、アイツと関わるの止めた方がいーよ?」なんだと?
「アイツの酷さ知ってんでしょ?なにしてもダメダメの落第生!」
「しかも喧嘩っ早くて停学食らったこともあるって噂だし!」
「才能もなけりゃ親もいない。あんなのにトレーナーがつくかっての」
彼女達はヒカルイマイのことを好き勝手に貶める。受け取ったスカジャンを持つ手に力がこもる。
「とっとと学園を去ればいいのに。本人もエリート嫌いなんだからさ」
「そーそー!分不相応な場所に来てんだから「さすがに、言い過ぎじゃないかな?」……あに?なんか文句でもあんの?」
さすがに学生と言えど看過できない。
「彼女だって君達と同じだ。この学園に通う権利があって、ここで生活している。分不相応なんてことはないと思うよ」
ただ、あくまで優しく諭すようにだ。学生と大人なのだから。
けど、彼女達は笑うだけで反省する様子を見せない。
「だって、親無しの才能なしだよ?結果も残せないのにさぁ!」
「生徒会長のスカウトって話もどうせ嘘でしょ!どうやって入学したんだか」
「……正規の方法に決まってるよ。裏口できるようなとこじゃないからね」
「え~頭も悪いのにぃ?できるわけないない!」
彼女達はイマイをバカにするようにキャハハと笑う。正直我慢の限界だけど、それでも堪えなきゃいけない。
「てかさ、そんだけ庇うってことはトレーナーさんも一枚嚙んでたりして?」
「「「ありそ~!」」」
できるわけないだろ俺みたいな新人トレーナーに。彼女達もそれが分かってるだろうから冗談で言ってるんだろうけど。
──でも、
「いい加減にしろ手前らッ!」
どこにいたのか、今までの会話を聞かれていたのか。ヒカルイマイが怒り心頭といった様子で現れた。今にも掴みかかりそうな怒り具合で。
けど、目の前の彼女達は悪びれる様子を見せない。
「さっきから好き勝手言いやがって!儂はちゃんとスカウトされてきたんじゃ!文句があるなら生徒会長に言えや!」
「どうだか。どうせ脅したんじゃないの?」
「
「……それはそうね」
そこは冷静になるんだな。確かに生徒会長は脅しに屈するようなウマ娘じゃないけど。
「儂のことはどれだけバカにしようが構わん。結果で黙らせてやりゃあいい!だけどな……儂以外の悪口は許せんのじゃ!」
「なになに?乱暴者が正義感気取り?」
「じゃかあしい!ぶん殴ってでも黙らせて「ダメだ!イマイ!」止めんじゃねぇ!」
イマイと拾ってくれた子達の間に立ちはだかるように身体を滑り込ませる。間違ってもイマイが殴ってしまわないように。
「ここで殴ったら、君は停学だよ!ヤバいんじゃないの!?」
「うるせぇ!知ったこっちゃねぇ!」
「ダメだって!君の評判はただでさえ悪い、これ以上問題事を起こしたらただじゃすまないよ!」
きっと彼女達もそれが狙いだ。イマイに問題を起こさせて退学に追い込もうとしている。現にクスクスと笑ってるし。
「いったん冷静になろう!ほら、君のスカジャンは取り戻したから!」
「……クソがッ!」
「それにあんな連中、君の敵じゃないよ!君が本気を出せば、彼女達に勝てるから!」
「はぁっ!?」
あ、ヤバい。今度はこっちに飛び火した。
「なんですって……?私達が、そいつに劣るっていうの!?」
「い、いや。今のは言葉の綾と言いますか……」
「……プっ!ハハハ!その通りじゃ!コイツが言うには儂にはすさまじい才能があるらしいからなぁ。手前らなんぞ敵でもねぇわ!」
「こ、コイツ……!落第生の癖に!」
「刺激しないでよイマイ!」
原因は俺だけどさ!
「もうあったまきた!今から模擬レースよ!私達が勝ったらあんた土下座しなさい!」
「ハン!土下座でもなんでもしてやるわ!手前らこそ、儂に負けたら土下座せぇ!」
「フン!土下座でもなんでもしてやろうじゃないの!」
──こうして。ヒカルイマイは模擬レースをすることになった。大丈夫かなぁ?原因はほぼ俺にあるけど……。
そんなこんなで模擬レース。