成り上がりの英雄譚   作:カニ漁船

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契約してから決めること。


最初の目標とトウメイ登場!

 模擬レースが終わった翌日。

 

(それにしても、ついに契約したか……!)

「長かった気がするな~……!」

「なにがだよ?」

 

 ご飯を食べて感傷に浸っていると、先輩に声をかけられた。そうだ、先輩にも報告しよう!俺もついにウマ娘と契約したことを!

 

「聞いてください先輩!俺、ついに担当ウマ娘を持つことになったんです!」

「へ~。そいつは良かったじゃねぇか……もしかしなくても、ヒカルイマイか?

 

 なんでそんな小声、と思ったけどそりゃそうか。誰が聞いてるか分からないから、前回みたいなことになるかもしれないし。

 

「そうですね、ヒカルイマイです。彼女の担当をすることになりました」

「なんだってお前は新人なのに茨の道を……まぁいいか」

 

 先輩は立ち上がり、笑顔を見せる。

 

「ま、なんにせよ頑張れよ。道のりは険しいだろうけど、まずは1勝。お前らの旅路を応援してるぜ」

「せ、先輩……!ありがとうございます!俺、頑張ります!」

「お~。気合入れていけよ~」

 

 手をひらひらさせて去っていく先輩。よ~し、頑張るぞ!

 

 

 放課後。早速イマイとの打ち合わせなのだが。

 

「イマイは何か目標とかあるの?オープン入りしたいとか、クラシックに出走したいとか」

「知らん。ひたすらに勝ちまくって、クソ親を探す。それだけじゃ」

 

 イマイの目標はどうやら親を探すことらしい。やっぱり親に会いたいとか、そんなところだろうか?ちょっと微笑ましいな。

 

「へ~。親に会ってどうするの?やっぱり」

「決まってんだろ。手前がやったことの落とし前をつけさせる。そして、絶縁状を叩きつけてやるんだよ」

 

 前言撤回。全然微笑ましくなかった。もしかして、親への復讐ってやつだろうか?自分を捨てた両親に対する復讐、か。

 

「勝って勝って勝ちまくって。手前が捨てた娘はこんだけ強いってことを証明する。儂を捨てるようなクソ親じゃ、どうせ金や名声を手に入れたらノコノコと現れるに決まってるからな」

「そ、そうかな?その辺の事情はよく分からないけど」

「後は……儂を見下したエリート共を今度は儂が見下す番だ。そのためにゃ何をすればいい?トレーナー」

 

 イマイの目的は置いといて、手っ取り早く頂点であることを示せばいいだろう。そのために必要なレースと言えばやはり……八大競走の制覇だな。

 

「イマイの目標を達成するなら、誰もが認める頂点になるのが一番の近道かな?だから、八大競走の制覇を目標に据えることになると思う」

「八大競走……あ~、なんか授業でやってたな。確か、てんのーしょー?とかそんなのがあったはずだ」

「そうそう。天皇賞はシニア級のレースだから、イマイが目指すなら皐月賞・東京優駿・菊花賞かな?もしくは桜花賞にオークスが目標になる」

 

 八大競走の中でもクラシック限定のレース、皐月賞を始めとしたクラシック三冠は分かりやすい頂点だろう。現時点で達成者は2人のみの偉業、例外なく生徒会長の座についているし。

 

「頂点に立つのが目標なら、クラシック三冠がいいね。現生徒会長のシンザンも3つのレース全てを制したウマ娘だよ」

「へ~。だったら儂もクラシック三冠を獲ればいいじゃねぇか」

「簡単に言わないでよ……八大競走は日本の中で一番格式の高いレースだよ?」

「そうなのか?その辺はよく分からん」

 

 俺も軽々とクラシック三冠を目標に据えたが、まず厳しいってのが現実的な見方だ。そりゃイマイの実力は信用しているけど、中央でデビューするウマ娘達は強豪ぞろい。加えて八大競走は出走権をもぎ取るとこから始まるわけなんだけど。

 

「デビューしたウマ娘の中で、限られた者しか出走を許されないレース……走るだけでもかなりの狭き門なんだ」

「は~……」

「いや、ボケっとしてるけどね。かなり難しいことなんだよ?少なくとも、新人トレーナーが足を踏み入れるのはほぼ無理ってぐらいには」

 

 経験を積んだトレーナーがコツコツと実績を積み重ねて、ようやくたどり着く領域。それが八大競走のレースだ。俺みたいな新人がクラシック三冠目指してます!なんて言ったところで、他のトレーナーからは現実を見ろと一喝されるだけだ。何だけど……。

 

「くだらねぇ。ンな固定概念に囚われてんじゃねぇよバカバカしい」

「い、イマイ?」

 

 イマイは不遜な態度を崩さない。自信満々に宣言する。

 

「儂は勝ち続けてやる。その八大競走とやらも、全てのレースで結果を残してやる。手前はただ儂についてくればいいんだよ」

 

 ……ついていけばいい、か。残念だけど、それは()()()()

 

「ついていく、はできないかな。君が走る道を舗装する……それが俺の役目だからね」

「ケッ、勝手にしやがれ」

 

 いけないな、始まる前から弱気になっていた。まだレースは始まってもいないのに、現実的な見方をしてしまった。固定概念に囚われてしまっていた。()()()()()()()

 

(現実的な見方は捨てよう。イマイがやりやすいように、結果を出せるように。俺は手を尽くす)

 

 そもそも、これまでの常識だったらイマイはまずデビューすら無理だ。だから今まで積み重ねてきた常識はすべて壊してしまおう。イマイが勝てるように最善を尽くして、イマイのためになるように行動する……これだな。

 話が逸れたから戻すか、と思ったところに。部屋をノックする音が聞こえた。

 

「失礼。ヒカルイマイはこちらにいますか?」

 

 イマイに用事?というか、どうしてここにいることが分かったんだろう?とりあえず開けるか。

 扉を開けてまず飛び込んできたのは──小柄な黒鹿毛のウマ娘の姿。ツリ目で勝ち気な印象を与えるウマ娘だが……イマイが慌てる。

 

「げぇ!?トウメイのババア!手前、なんでここにきやがった!?」

 

 トウメイ?どこかで聞いたことがるな、と思ったのもつかの間。トウメイはイマイとの距離を一瞬で詰め、座っている彼女に拳骨を振り下ろした。

 

「誰がババアですか。あなたと少ししか違わないでしょう」

 

 心外だ、とばかりにトウメイは嘆息する。うん、大分アグレッシブな子だな。

 

 

 お客様であるトウメイにお茶を出し、3人で会話をすることに。イマイは不貞腐れてるけど。それにしても、トウメイは大分小柄だ。150あるかないかぐらいの身長しかない。

 

「さて、イマイ。私がここを訪れた理由は1つです」

「……ンだよ。儂はまだなんもしとらんぞ」

「まだってことは何かする気だったのイマイ」

「手前は黙ってろボンクラ!」

 

 よし、黙っておこう。いらんことを言い出しかねない。

 

「あなた、他のウマ娘に土下座を強要したそうですね?」

 

 え?それって……もしかして先日の模擬レースのことか?すでに話が広まっているなんて、早いもんだなぁ。

 

「あ゛?何を言い出すかと思えば……強要した覚えはねぇ。模擬レースの結果、負けたヤツが土下座をすることになっただけだ」

「本当ですか?私の目を見て言えますか?」

「嘘じゃねぇよ!つーか、最終的に向こうも同意したんだ!それを糾弾される謂れはねぇ!」

「……おかしいですね。私が聞いた限りだと、あなたが対戦相手の子をレースでボコボコにした挙句土下座させたと聞いているのですが」

「そんなことしてないよ!?」

 

 ヤバい、思わず口に出してしまった。トウメイはこちらを睨みつけている。だ、だけどさすがに譲れないぞそれは!

 

「イマイは相手の子をボコボコになんてしてない!それは確かだ!」

「……ふむ」

「確かに土下座なんて必要ないんじゃない?って俺が止めても土下座しろって言ってたけど、それは相手の子も了承済みだ!だからイマイだけが悪いわけじゃない!」

「余計なことまで口走ってんじゃねぇよボンクラァ!」

 

 いった!?また蹴られた!

 

「……イマイ。それは本当ですか?」

「ッチ。ま~確かに土下座しろとは言ったが、どの道アイツはする気だったんだよ。儂が許すまでずっと頭を下げやがって……やりにくいったらありゃしねぇ」

「ふぅむ……嘘を言ってるようには見えませんね。噂に尾ひれがついたのでしょうか?」

 

 考え込むトウメイ。少し経ってからイマイに頭を下げた。

 

「どうやら私の早とちりだったようですね。お前のような無法者ならばやってもおかしくないと思っていたので急いできたのですが、杞憂だったようです」

「儂に対する信頼0だな手前」

「普段の行動を省みなさい」

 

 困ったな、何も言い返せない。いや、確かにイマイはそう簡単に手をあげるようなウマ娘じゃないのは分かってるけど、噂だけならやっててもおかしくない。

 

「まぁ、お前のことだから手をあげた理由も想像がつきますが」

「手は出してねぇよ!ちゃんと模擬レースに勝ったわ!」

「分かっていますよ。後、いつも言っていますが年上に対する言葉遣いを覚えなさい。学業も疎かにしているようですね?また補習だと先生から聞き及んでいますよ?」

「う、うぐっ。て、手前には関係ねぇだろ」

 

 トウメイが相手だとイマイも分が悪そうだ。それにしても、教育係みたいだなトウメイは。

 

「関係あります。私はあなたのためを思って言ってるのです。後、たとえ気に食わない相手だとしても、貶めるのは心の中だけに留めておきなさい。レースでぶちのめせばいいのです」

 

 いや、それもどうなの?確かにレースで勝てばいいけど、前の下りはいる?

 

「それと好き嫌いもしないように。バランスの良い食事が健全な肉体を作るのです。肉だけを食べるのではなく、野菜だけを食べるのではいけませんよ?しっかりと考えて……」

「だ~!相変わらずうるせぇな手前は!?儂の母親か!」

「なにを言いますか。これくらい口うるさく言わなければやらないでしょう?それにトレーナーもです。早く見つけないと、本当に学園を去ることになりますよ?」

 

 ……あれ?もしかして俺トレーナーと思われてない?

 

「おいトウメイ。儂はもうトレーナーはついてるぞ」

「……名義貸しではないでしょうね?」

「違うわ!つーか、ここに手前の知らない人間がいる時点で察しやがれ!」

 

 トウメイがこちらへと視線を向ける。訝しんだ表情をした後、ビックリした表情で俺を見た。何だと思われてたんだ俺は……。

 

「もしや、あなたがイマイのトレーナーなのですか?」

「……まぁ、一応やらせていただいてます。中島です」

 

 トウメイの反応はというと──感激した様子だった。

 

「まぁ……!まぁまぁ!イマイ、ついにあなたにもトレーナーがついたのですね!」

「あぁ、そうだよ。だから「あなたのような無法者の乱暴者にトレーナーがつくのだろうかと毎夜心配していましたが……私は嬉しいですよ、イマイ」手前は儂を何だと思ってやがる!?」

「いや、イマイ。噂を考えたらトウメイの心配も分かるよ」

 

 言い返せないのかイマイは悔しそうに押し黙ったままだ。多分この後蹴られるんだろうな、俺。

 トウメイはこちらへと向き直り、深々とお辞儀を!?

 

「ちょちょ!どうしたの!?頭を上げて!」

 

 しかしトウメイは頭を上げない。下げたままだ。

 

「中島トレーナー。どうかイマイのことをよろしくお願いしますね。心根は良い子ですので、ずっと担当してくれると嬉しいです」

「手前は本当に儂の母親か!?過保護が過ぎんだろ!」

「……何となく君達の関係性が見えてきたよ」

 

 イマイとトウメイの関係性は、反抗期の娘と母親みたいなもんだなと思った。

 

 

 その後トウメイは去っていき。イマイと2人きりになる。

 

「クソ……相変わらずおせっかいを焼きやがって」

「いつもなの?トウメイは」

「あぁそうだ。知り合ってからというものの、何故か儂にちょっかいをかけてきやがる。良い迷惑だぜ本当」

 

 とは言いつつも、本気で嫌がってはなさそうだけどな。口に出したらまた蹴られるから心の中に仕舞っておこう。

 トウメイの登場で横道にそれたが、重要なことを聞いておかないと。

 

「さて、話を戻すけど……イマイは勝ちまくるって言ってたね?」

「あ?あぁそうだ。勝ちまくって儂をバカにしたヤツらを見返す。今度は儂が見下すんだよ」

 

 イマイは見下してきた人達を見返すために結果を出すと言っていた。そしてもう一つ、勝ちたい理由があった。

 

(両親に絶縁状を叩きつける……か)

 

 いわばイマイを突き動かしているのは、復讐心だろう。自分を見下してきた相手を見下すために、自分を捨てた親を見返すために走る。それがイマイを突き動かしている。

 良いか悪いか?って問題じゃない。これはイマイ個人の問題だ。だから、俺が突っ込むのは野暮ってものだろう。

 

(それでも……いつか直面した時は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 俺は彼女のトレーナーなのだから。イマイを正しく導いていかないと。

 

「……さて、とりあえず目標は定まったかな」

「おう。最初はどうすんだ?」

「まずは──メイクデビューを勝つことに集中しよう。クラシック三冠やオープンよりも前に、まずはデビュー戦を勝つってのが大前提だからね」

 

 詳しい説明は後に回そう。いっぺんに教えても混乱するだろうし。

 

「1勝をコツコツと積み重ねていく。それが俺達の目標だ!」

「ふ~ん……ま、その辺は任せる。儂よりも手前の方が詳しいだろう。よろしく頼んだぜ」

「うん!任せてくれ!」

 

 こうして俺とイマイはトゥインクル・シリーズへと乗り込むことになる。トレーニングも頑張らないとな!




トウメイ ヒカルイマイには何かしらのシンパシーを感じるらしい。学園では彼女のお目付け役となっている。かなり小柄。
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