ウマ娘ポケモンダービー   作:稗田之蛙

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『ウマ娘』。彼女たちは、走るために生まれてきた。

 ときに数奇で、ときに輝かしい歴史を持つ別世界の名前と

 共に生まれ、その魂を受け継いで走る――。

 それが、彼女たちの運命。

 

『ポケットモンスター』――縮めてポケモン。

 それは謎を秘めた、不思議な不思議な生き物の事。

 人間、そしてウマ娘と仲良く暮らしているポケモンもいれば、草むらや、空。

 

 その中には、水の中にいる野生のポケモンも……。

 

 

 

「…………」

 キングヘイローというウマ娘は、真剣な顔つきで、ボロい釣り竿を公園の池の中に垂らしていた。

 彼女は中央トレセン学園で学生の身分ながら、陸上競技で活躍しているウマ娘の一人である。勉学は優秀にして身体は健脚。その才能は、一流として生まれてきた事の証明であった。そう、本人は自負している。

「……」

 そんなキングヘイローは釣り竿の先、池の表面をじっと見つめていた。しかし、一向に獲物がかかる様子はない。

「はぁ……」

 キングヘイローの口からため息がこぼれる。彼女は、電気ネズミポケモンのピカチュウを肩に乗せて駆けていく10歳くらいの見知らぬ少年を横目に見送りながらも、どこか羨ましそうにしていた。

「釣れない……」

 キングヘイローはそう呟くと、ポケモンを捕獲する為の道具『モンスターボール』を片手に持って、手持ち無沙汰にしていた。

 彼女の手元には新品のモンスターボールは10個ほどあるのだが、そのどれもが空っぽである。つまり、ポケモンを一匹も所有していないのがうかがえる。

 

 この世界において、ポケモンとは人類と共存出来る頼もしい存在でもある。

 たとえばトレーニングの一環として、遥か昔から人間の重労働を手伝っている怪力ポケモンの『ゴーリキー』。石器時代の頃から人間と共に暮らしていたとされる子犬ポケモンの『ガーディ』など……それ以外にも様々。

 そんな彼らと上手く付き合っていく事は大事な教養の一つであり、トレーナーとして接していく事が一般的な職業となり得るほどの重要な事柄である。

 だから先ほど見かけた少年のように、10歳辺りからポケモンを与えられるというのがもはや通過儀礼ですらあるのだが……。

「……私も、ほしいわ……」

 キングヘイローはため息をつく。彼女にとって、ポケモンにはあまり接した事のない存在であった。

 人間と共存しているポケモンは周囲にいれど、彼女自身がポケモンを所有した経験は、今まで一度たりともない。今まで幾度か「私だって皆と同じようにポケモンと付き合っていきたい!」と母親に訴えかけはしたものの、返ってくる言葉はいつも決まっている。

 

『あなたには向いてない』

 

 キングヘイローの母親は、一流の選手であると共に、一流のポケモントレーナーでもあった。

 ライブ興行で母親が歌うと共に、彼女が従える美麗なポケモン達が華麗なワザで場を演出してみせていたらしい。母親が引退した今ですらその光景は話題にあがるほどであり、武勇伝のように語り継がれている。

 種族によってはウマ娘と共に歌えるし、体を使って演奏さえもしてみせる。ライブの共演者としてもポケモンは共存出来うる存在だ。

 だから、トレセン学園に所属するウマ娘の多くも、何かしらのポケモンを所有して日々をこなすと共に、ポケモンの世話をしている。

 

 しかしキングヘイローはそうではない。その点で彼女は浮いていた。だが母親に何度頼み込んでみても「あなたには向いていない」と返されるだけであり、今でもポケモンを一匹も所有出来ていないのが現実なのだ。

「……」

 釣り竿を持つ手が下に落ちる。友人から借りた釣り竿を池に投げ入れて数時間経つ。キングヘイローは肩を落としながら、「お母様の言う通りなのかもしれない」と一瞬だけ思いかけた。

 

 そんな時である。ピクリと浮きが動いた。

「え?」

 キングヘイローが視線を上げると、釣り竿の浮きが池に引っ張られていた。

「きっ、きたわっ!」

 キングヘイローは釣り竿を引き上げようと力を込めた。ウマ娘の腕力ならば引き上げるのは軽々、である。

「えいっ!」

 キングヘイローは釣り竿を引き上げた。すると、釣り針の先にポケモンが食いついていた。

「……これは……『コイキング』?」

 それは『コイキング』と呼ばれるポケモンであった。赤い体色、長いひげに王冠のような背びれと腹びれが特徴のコイ型ポケモン。キングもその種別くらいは知っている。

「でも、この池にコイキングなんていたかしら? スカイさんは釣り上げた事なかったみたいだけど」

 キングヘイローは疑問に思う。この公園にはたまに来るが、この公園で釣り上げられているのは見た事がなかったからだ。

「おーっほっほっほ! でも、ようやく……私もポケモンが釣れたわ!」

 

『あのお姉ちゃんコイキング釣って喜んでる』『なんかはじめて手に入れたポケモンなんだってー』

 

【挿絵表示】

 

 

 公園で遊んでる児童達からそんな声が聞こえてくる。たぶん、数時間も座っていたから独り言を聞かれた上に目立ったのだろう。

 それはともかく。コイキングは地面に打ち上げられて、例の如く跳ねている。しかし、その跳ね方はいかにも弱々しい。本来、手持ちのポケモンでバトルを行ってからモンスターボールで捕獲する形が通例だが。この状態ならばモンスターボールを当てるだけでも捕らえられるように思える。

「……」

 コイキングは世界で一番弱くて情けないポケモン……なんて話は子供でも知ってるくらいには有名だ。ここでシビアに考えるなら、このままリリースするのが正しいのかもしれない。

「フッ……キングは一流のウマ娘。いずれは一流のトレーナーにもなるのだから、筆は選ばないわ」

 正味は弱っている姿が放っておけなくてポケモンセンターに連れて行きたいのが本質だった。

 そう言って、キングヘイローはモンスターボールをコイキングにゆっくりと押し当てた。するとさほど抵抗もなく、体長よりも小さなボールに滑り込む。

 ポケモンという生き物は、弱った時に狭い場所に小さくなって逃げ込むという性質を持つらしい。

「一流のキングに相応しいのは、一流のポケモンよ。だから、あなたを一流のポケモンに導いてあげる! あなたにこのキングと一緒にポケモンマスターを目指す権利をあげるわ! お~っほっほっほ!」

 

『コイキングですっごく喜んでるー』『よほど嬉しかったんだねー』

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