エルマルは……終わらねえっ! 作:ONE DICE TWENTY
第1話 転生! 砂の国の緑の町
なーんか治安良さめの砂漠の街。
目覚めたらそこにいた。
++
いやね、多分ここはONE PIECEの世界だと思うんだ。見た目がクリソツだから。
ただねー……やばいね。
この砂漠……砂丘? いや、砂漠か。マジで何もないの。いやあるよ? 家とか人とかあるしいるよ? でも……マジでなーんもないんだわ。なんて表現したらいいかな。
コンビニが無い田舎って感じ。
どうしたもんかと。
これはどうしたもんかという話ですよ。
ああね、勿論俺は転生者で、チート能力は持ってるんです。
……でも別に戦えるとかじゃないからやべーのよ。独学で修行してゲッポゥ! とかできたら苦労はねーんだわ。
そもそも六式だの四式だのが誰でも辿り着ける領域にあるなら"六式使い"!! みたいに騒がれてねーのよ。だったらコビメッポみたいに海軍必修科目にしろっつー話で。
俺には無理ネー。せめて教本が欲しい。欲を言うなら教師が欲しい。
ただこの国じゃ無理ダヨネーってのが所感。
ああ、うん。そう。多分ここアラバスタ。アラバスター!!
砂と砂漠とスナワニと──争乱の国。
いやねー、クロコダイルさんねー。来ないで欲しいわぁ。なんでってここねー。
エルマルなのよ。
「いやぁ、熱い。熱い。暑いねー、まったく」
「うるせぇ」
「いやでもそう思うだろ?」
「思っても言うな。余計暑くなる」
トーブを着けて、頭に水瓶を乗せた男性。
まぁ俺の親父なんだけど、彼と一緒に水瓶を持って歩く歩く歩く。
エルマルはまだ緑の町だ。結構植物あるし、まぁ普通のトコからは考えられない程とはいえ雨も降りはする。ただしサンドラ河の勢いは弱まりつつあって、辛うじてまだ枯れていない──その時期のエルマルってことね。
それでもこーやってサンドラ河の上流から水運んでんのは、雨水だけじゃ足りない部分がどーしてもあるから。非力な奴はラクダ使って、俺や親父みたいに力あるのは直接運んで。
ま、生活に必要なことだ。
俺は実は転生チートで飲まず食わずでいけるポテンシャルがあるんだけど、ほら、家って必要だし。あと知り合いが枯れていくのは見たくねーしなー。
「なぁ親父、次の雨っていつ降るんだ?」
「さぁな」
「ま、わかったら苦労しねーかー」
なんだかんだ言って好きになってきたこの砂漠での生活。
どうしたもんかなーって。だって原作じゃエルマルは滅びるの確定なんだぜ? どうにかして救いてぇよ俺だって。
考えてることはあるんだ。
まず一個目。スナワニ倒す。うん無理無理。どんだけチート持ってたって俺はパンピーなのよ。相手はマジモンのギャングよ? おしっこちびっちゃうって。
んじゃ二個目。サンドラ河減衰の理由を調べる。
これねー、原作でも明かされてないんだよね、原因。まぁ河川が減衰するってことは別にワンピ世界じゃなくてもあることだ。いつまでも水源が保たれ続けるなんてことはないし、何よりこの河700kmくらいあるからね。上流のどっかでなんかが突っかかってるだけで全体に広く影響するだろう。
少なくともこれさえ解決すれば、エルマルは緑の町のままでいられる。他は知らんけど。
だからこの二個目はとりあえず保留。俺がこの仕事から解任されたらかなーって感じ。
んで、三つ目。
海水ろ過装置を発明する!!
できるかい!
「レコダ、何をしている」
「ああ、なんでもないよ。ただ俺の頭の悪さ加減に嫌気が差してただけ」
「そうか」
水瓶四つを持って、トテトテと親父に追いつく。
いやぁ。
どーにかしないとなぁ、なーんて。
生まれてからずっと思ってるんだけどネー。
朝夕の水運びが俺の仕事で、だから昼間は割と時間がある。
他の子供が遊び惚けている中、俺は少しばかり違う事をして……まぁ遊んでいる。
それが。
「ようレコダ、今日も来たのか」
「まぁね。見てて飽きないし」
「見るのはいいけど触るなよ?」
「もち~」
装飾店。
いやほら、原作でビビが使ってたじゃん、孔雀スラッシャー。なんかアクセサリーっぽい武器。
砂漠って水っ気少ないから金属アクセが多いんだよねー、って前世の古物商が言ってたんだけど、こっちでもそうらしい。
エルマルは別に観光地ってわけでもないのに貴金属を装飾できる人がいて、その人曰くそれはレインベースに出す予定らしいんだけど、その出荷前のものを見せてもらっている。
いやぁ、ご近所さんには奇異の目で見られているだろうね。
まだ四歳のガキンチョがキンラキンラしたアクセサリーにくぎ付けになってんだから。ご近所さんっていうか、店主さんにも最初はそこそこ奇異の目で見られていた。
「そうだ、レコダ」
「うん?」
「お前さん、貴金属加工に興味があるんなら、弟子にならねえか?」
「遠慮しとくよ。大変なんでしょ?」
「っぷ、あっはっは! 仕事はなんでもかんでも大変だよ、なんて、お前さんの歳じゃわかんねぇか! ま、気が向いたらでいいんだ。いつでも歓迎してるからよ」
「うん。気持ちだけ受け取っとくー」
なんというか、店主のおやっさんには気に入られているらしい。
俺この人の名前も知らないんだけどね。
なんならこの人だけじゃない、俺に声かけてくれる人は結構いる。
というのも、俺が結構な力持ちだってコトはそこそこ広まっているらしいのだ。齢四つにして水瓶四つ持って砂漠を行き来する男の子ってね。
どうにも俺が水運びを手伝うようになってから余裕が出たっていう家庭もあるとかで、歩いてるとなんかたまーにもらったりする。
人気者ってほどじゃないけど、なんぞや知られてるガキンチョ。
それが俺、レコダである。
現状をどうにかするための方法として、もう一つ思いつくのは、やっぱり悪魔の実だ。
チート能力は戦闘向きじゃない。から、戦闘に使える悪魔の実を食べる。……けど泳げなくなるの、ワンピ後半だと結構致命的っつーか、いっちゃん大事な時に響いてくるっていうか。
能力者じゃない覇気使いが結局最強なんだよね、みたいな描かれ方してるじゃん? だからなんだかなーみたいな。
そもそも悪魔の実なんて高価なモン手に入るわけないんだけどね。
「目の前のこれが悪魔の実でなければ、だけど」
なんか不自然に盛り上がった砂があって、なんでっしゃろ、って掘り起こしたらあった。
いやいや。
まさかまさか。悪魔の実ってアレじゃんね、前の使用者が死んだら海に再生成される奴じゃんね。
人々の夢の結晶だっけ?
でもこれ再生成時は海に浮かんでる……とは限らなかった気がする。あのスマイリー君の死後、近くの果物が悪魔の実に置き換わっていた描写が……じゃあ元の実どこ行ったんですか問題。
とかは、まぁ考える意味はない。
どうする。
悪魔の実図鑑を買ってこれが何の実か調べるか。……エルマルに売ってるの見た試しがないんだけど。
食べてみる……か? さっきワンピ後半がどうのとか言ったけど、別に海賊になる予定も海兵になる予定もないので、アラバスタで完結するならカナヅチになったところで感はある。スナワニをルフィが倒してくれるまで待つ……エルマルをどうにか維持しながら、みたいな。
キッツーイ。
そもそも戦闘系じゃなかったらどーすんだって話。いやさ戦闘系でも結局スナワニやBW相手に何もできない能力だったら食ったって意味は──。
「レコダ、そこで何をしている」
パク。
……。
「ふぃひゃへふに?」
「……拾い食いか? 砂漠のイチゴは食うなよ」
「おんう」
……。大丈夫まだ噛んでいない。
赤っ鼻と同じルートを辿るわけには行かない。……でもバラバラの実的なものだったら割と嬉しいんだよな。覇気使ってるはずのミホさんの斬撃を赤鼻ピエロは回避できてたし、覇気とか一切関係なしに斬撃無効っぽいパラミシアは案外──。
「砂嵐が近い。早くしろ」
「……ういー」
……ふぅ。
ド不味かった。
……こーれは悪魔の実です。この不味さで悪魔の実じゃなかったら、それは相当優秀な樹形図を辿って来た植物なのだろう。あ、いや、種子を飛ばすためと考えたら相当アホな樹形図になんのか?
まっず。
マズイわー。でも吐き出す程じゃないんだよな。不味いだけ。苦くもない辛くもない。ただ不味い。
で?
何ができるようになったん。もう食っちゃったんだからさ、何かできろよ、俺。
「レコダ、来ないなら置いていくぞ」
「ああ今行く今行く」
足を踏み出す。……特に何かに変じることはない。
身体を前に出す。……特に何かを操れる気配はない。
歩く。……特に何かが起きることはない。
もしかして:ただ不味いだけの実。
「レコダ?」
「よし! マジでなんでもないぜ、親父!」
「うるせぇ。テンション上げるな。暑苦しい」
……あとでサンドラ河に足をつけてみよう。能力者になってたら、海水じゃなくてもへにゃるはず。
なってたわ。力抜けて草。
えー!
じゃあ何! じゃあ何の能力!!
おい腕伸びねーぞ! バラバラにもなれんて!
それともアレ? なんか攻撃受けないとわからない系? エグいエグい、エルマルの四歳の子供に攻撃する奴なんておらんて! そうじゃなくて攻撃されたくないって!
……能力が分からなかったら俺、ただ泳げなくなっただけ? マジ?
ハンデが過ぎるだろ。
「悪魔の実図鑑? ……あー、まぁあるらしいけど、ここには置いてないねえ」
「だよね」
「なに、興味あんのかい?」
「いやだって、売ったら一億ベリーだぞ一億ベリー。一攫千金どころじゃないじゃん」
「どこに売るんだいアンタ」
「……確かに」
そういえばどこに売るんだ? 海軍?
海軍がそんな高額で買ってくれんの?
「まず手に入らない、偽物かもしれない、売り先もわからない、んで売った一億ベリー、何に使うんだいアンタ」
「確かに。おばちゃんもしかして天才か?」
「アンタが馬鹿なだけだよレコダ」
「マジか」
確かに。
一億ベリーなんて大金持ってるだけで大変だ。キャッシュレスなんか一切進んでないしこの世界。銀行はあるところはあるかもしれないけど、少なくとも今のアラバスタには無いし。
そこに四歳の子供が一億ベリー持っててみろ。
持てるかよ。
「一億ベリーで雨降らせるとかできねーかな」
「できたらとっくにネフェルタリ王家がやってるよ」
「おばちゃんやっぱ天才だろ」
「アンタが馬鹿なだけだよ」
まぁもう手元にないから売るも何もなんだけどね。
ただ食った実がなんなのか知りたかったってだけで。
「おばちゃん……俺決めたよ」
「何をだい?」
「雨を降らせる悪魔の実を見つける! これが最適解じゃね?」
「どうやって?」
「え。……こう……将を射んとする者はまず馬を射よ的な」
「おやレコダが何か頭の良さそうなこと言ってる。こりゃ明日は雨が降ってくれるかねえ」
ひでぇ。
と。
ポツ、ポツ……と。
「え?」
「おや」
さーっと、だけど……雨が降り始めた。
エルマルの人達は今やっていることをすぐにやめて、桶やら何やらに水を貯め始める。
まだ緑の町。されど水が貴重であることに変わりはない。
「これ俺だったりする?」
「かもねぇ」
「……えーと、一夜一夜に人見ごろ、人並みにおごれや、富士山麓に鸚鵡鳴く、似よ翌々、菜に虫いない、庭には呼ぶな、人鷹は三色に並ぶや」
「レコダ、レコダ。雨足上がっちまったよ」
「え、俺のせい!?」
「かもねぇ」
難しいこと言ったら雨が降る能力、とかじゃねーの?
……だとしたら何の実だよって話なんだけど。
おい雨降らせる能力だったらルフィ待たずしてアラバスタ救えんぞコレ。研究あるのみだろ。
毎日雨降る国だったらスナワニも撤退する説ある。湿気多くなったらスナスナできないだろうし。
これあるってぇ!!
無いわ。
マジで能力の発動条件がわからん。そんで何が発動してるのかもわからん。
俺何人間?? 水で力抜けるから悪魔の実の能力者なのは確実なんだけどマジでわからん。マジでわからん。わからんでマジ。マジらんでわか。
え……こう、無いの? 悪魔の実って食ったら使い方が脳に浮かぶ的なお助け無いの?
……合ったら皆覚醒待ったなしか。使い方熟知しちゃうもんな。超人系とかは特に発想次第工夫次第な感じあるし。
……よし。
仕方ない、最終奥義を使うか。これだけは使いたくなかったんだが……。
「身一つ世一つ行くに無意味。曰く泣く身に宮代に。虫散々闇に鳴く。これに母よ行くな居ろ。掘削草薙入れ子や触れくな。抑止よ国璽されな、八色よ玲瓏。不破無二例箔、悔やむ府我、指谷に忌じふ、狒狒な玲瓏鳴く!!」
どうだ。
円周率コンマ以下百桁の完全詠唱──……!
俺の覚えている語呂合わせで最長のもの。これ以上となると寿限無か外郎売くらいしか暗記してない。
さぁ、さぁ!
雨よ──降れ!!
「……」
……。
……。
「そんなんで降ったら誰も苦労しないんだよなぁ!!」
地面の砂を蹴っ飛ばす。
無駄な時間を過ごした。
あーあ。非課税の5000兆円でも降ってこねーかな。
──眼前。砂漠に何かが着弾する。
巻き上げられる砂。ぶっ飛ばされる俺。
「ぺ、ぺっぺ! なんじゃあ!?」
自分の上にかかってきた砂を退かしながら生き埋めを回避。暑っ苦しい砂の中から剥いで出て見れば。
「……え、マジ?」
そこには、あまりにも懐かしい万札が500億枚あった。
……こーわ。それは。
それからというもの、仕事が終わったら砂漠へ行って色々やってみて、ようやく能力の概要が掴めてきた。
どうやら俺は天候を操ることができるらしい。……ただし雨とか雷とか曇りとかにできるわけじゃなく、「降るわけがないもの」とか「天気から一個ランクダウンするもの」とかを降らせることができる。
前者は5000兆円とかで、後者は通り雨とかにわか雨とか。
土砂降りの雨は呼べないけど、にわか雨にご注意ってなぁ……! はできるというわけだ。
微妙と思う勿れ、結構使える。というかかなり強い能力だ。
任意で水分確保できるのがまず強いし、どっちかというと「降るわけがないもの」を降らせる能力が鬼強い。
「つまり──槍でも降りそうだな、っていうのが」
眼前。絨毯爆撃か、って思うほどの勢いで降り注ぐ、槍という槍。
それによってアラバスティアンデスワームは死滅した。
こーれ強いです。
……でも超人系なのか動物系なのか自然系なのかよくわからんなコレ。体が変化しているわけでもないし。
ちなみにチート能力の方はまったく別物なので、そっちへの勘違いってわけでもない。
な……なんだ? 俺何人間なんだ?
天候人間を名乗るにはちょっと過ぎないか?
なお、降った槍や非課税の5000兆円はしばらく時間が経つと消える。
だから一億ベリー降らせてもあんまり意味ない。すぐに買い物して逃げ出す、とかしないと紙幣が消えてバレる。剣とか槍とか降らせてすぐに武器チェンジしても、戦ってる最中に消えられたら最悪だ。
同じ理由で雨もちょっと迷ってる。
今すぐにでもエルマルに定期的な雨を降らせることは可能……なんだけど、消えるんだよね、その水。
飲むと喉は潤うけど、その後消えてるから多分脱水にもなりやすいと思う。
マージで限定的。
そういう意味じゃvsスナワニの時だけめっちゃ役に立つ能力かもしれない。というかそのためだけの能力かもしれない。
……俺がやれって?
無理だろ。まだ来てないけど、相手王下七武海だぞ。まだ政府公認海賊だぞ。
明確な証拠なく手を出せばお縄、けど明確な証拠なんか組織が大きくなるまで掴めるはずもなく、そして組織が大きくなれば俺……はだまだしも周囲に被害が及ぶ。乱歩ドイルにならなければならなくなる。
きっちぃ。
しかもこの能力あくまで降らせる限定だから、屋内とかだとゴミオブゴミ。うぇーい、これからレインベースにカジノ作るんしょスナワニさん。それって屋内だよねぇ!
あるいは──エルマルを捨ててどっかに行くか。
どうせアラバスタは麦わらの一味がなんとかすんだから、大丈夫っしょ、って。
生まれ育った町が、少しずつ枯れ果てていく様を見ながら、知りながら、どっかでのんびり。
できるかボケ。
さては馬鹿だろう。ばーかばーか。
俺がそんな薄情者だったらここがアラバスタって気付いた時点でどっか行っとるっちゅーねん。なんで反乱軍なんかが生まれるってわかってる場所に、枯れるってわかってる町に居座らなきゃならんねん。
よし。
感情の整理終了!
なんにせよとりあえずは強さだな。強くならんとこの世界なんもできん。
どうやって強くなるかは知らん。覇気は意志の力らしいけど俺みたいなポヤポヤした奴に使えるとも思えんし、そっちは後。六式だの四式だのも冒頭の理由で無し。
よって悪魔の実を使いこなすのが最優先事項だ。いつか来るスナワニに備えて、力をつける。
よーし!
まぁ日常がそのままパッと過ぎるわけではないから、今日も今日とて水瓶運びの仕事である。
これやらんとね。みんな大変だからね。
あと、どれほどみんなが「そろそろ雨降らねえかなぁ」とかいってても能力は使わない。ぬか喜びが一番つらいんだ。加えて、消える水ってまわりまわってコブラ王にヘイト行きそうだし。
つーか今何年なんだろうな。都合よく俺と同い年だったりしねーかなルフィ。だとしてもまだエルマルが緑の町である以上関係ない……っていうかもしやアレか?
クロコダイル上陸まで今がいつなのかわからん説無いかコレ。
きびぃ。マジきびぃわ。もういっそのことアルバーナ行ってコブラ王に全部ゲロるとかじゃダメなの?
……国連加盟国だから、なんかいそうだよなアレ。密告者。
未来予知でもしようものなら神仏様が動きそう。見聞色ですよナハハハとか絶対通じないじゃん。
ど……どうすんべコレ。
「レコダ」
「ん、何親父」
「歩くの早いな。そのペースで行けるなら、もう一往復追加できる」
──ハッ。
考え事してたからいつもは実は速度緩めてたの忘れてた。
今更遅くするのは……心象悪いよね、うん。
「もうちょい早く出来そうだけど、した方が良い?」
「無理して疲れてぶっ倒れられた方が面倒だ。もう一往復だけでいい」
「わかった。んじゃ親父、置いていくけど、ぶっ倒れんなよ」
「誰に言ってんだ。早く行け」
仕方がない。成長した、ということにするか。
四歳だしな。成長期成長期。
そうして増えた仕事に文句の一つも言わずに従っていれば、やっぱり声をかけてくる人は増える。
水って大事だからな。
「レコダー。ちょいと屋根の修理手伝ってくれんかー?」
「いいけど駄賃貰うよ」
「おーう」
とか。
「ちょいとレコダ、この苗を上流の水で湿らせて来てくれないかい?」
「良いけどなんか袋無いと運んでる最中に乾くよ」
「ああお待ち、麻袋がね、余ってるから」
「あいよー」
とか。
力持ちで疲れ知らずで足が速い。
というのが知れ渡るのにそう時間はかからず……。
六年が光陰矢の如しっていった。
「レコダ、レコダー」
「なんだおばちゃん。もう歳なんだから叫ぶなブホラァ!?」
「あたしゃまだ81だよ!! んなことより、ほれ、今日の分」
御年八十一になる本屋のばーさんに渡されるは……便箋。
「どこ宛?」
「ユバさ。アンタならいけるだろ?」
「いや行けるけどさ。……マジで申してる?」
「マジで申してる」
「カーッ、普通十歳の子供を単身で砂漠越えさせるかねえ」
「普通はさせないけどね、アンタ普通じゃないだろう」
「……やっぱおばちゃん相変わらず天才だろ」
「アンタの馬鹿はいつまで経っても直らないね」
俺は、砂漠の配達員になっていた。超カルガモ部隊ではない。
運ぶものは基本的にモノか手紙。時折人。
既に周辺の町には足を運んでいて、顔も知れている。
……一応コーザにも会った。まだ反乱軍じゃない子供コーザに。それでようやく今が何年なのか掴めた。
十一年前、あるいはそれよりちょっと前だ。ルフィたちがアラバスタにくる、つまり原作の。スナワニが来る八年前。
あと八年もあんのか……って気持ちとあと八年しかないのか……って気持ちが混在している。
混在しながらも、日々を全うするしかない。
残念ながら、ユバは既に枯れつつある。旱魃。ただしこれはスナワニの仕業じゃなく自然現象だ。にわか雨を降らせた程度で何がどうなるわけでもない。
「ユバの誰?」
「トト、って名の恰幅の良い男さ。知ってるかい?」
「あー。まぁ知ってるな」
「なら話が早い。頼んだよ」
「りょーかい」
そしてタイムリー。
中身は見てないけど、書かれていることはなんとなくわかる。
ささやかながらの俺の抵抗のおかげもあってか、エルマルの旱魃は全くと言って良いほど来てない。スナワニの手でダンスパウダーで踊らされるまでは多分平気……と思える程度には雨が降る。
だから、知り合いなら、移住して来い、くらいは言うんだろうなぁ、と。
──トーブを目深に被り直す。
他の配達物もチェックして、けれど一番近いユバを目指して──レッツラゴー。
親父が足をやって水を運べなくなってからは、水運びはほぼ俺だけの仕事になった。そうなってから、歩いてちゃ埒が明かんので走ることにした。砂の上というのはそりゃあもう走りづらかったけど、まぁ慣れた。
慣れてしまえばこっちのものだ。水運びも各地への配達も、走って走って走るだけ。成長期成長期と言い訳をして爆走すれば、あっという間にユバである。そんなにあっという間じゃないけど。
到着したユバは……まぁ、まだ枯れ切ってはいない。言っちゃなんだけどただの旱魃だ。
だから住民みんな大変そうな顔はしているけど、死にそうな顔はしていない。
「おお、やっぱりレコダか。あんな砂煙出して村に向かってくるのはお前さんしかいねぇからなぁ」
「どうしたーレコダ。届け物か? だがすまんな、走ってきて疲れてるだろうが、今お前さんに出せる水が」
「ああいいよいいよ。俺この後アルバーナ行くから、途中でサンドラ河渡るし。そこで飲むからさ」
「そうか。悪いな」
「気にすんなって。……それより、トトさんどこにいるか知らねえ? 届け物があんだけど」
「トト? ああ、なんかすんげー形相でアルバーナに行ったばっかだよ。お前の脚なら追いつけるだろ」
「なんでアルバーナに?」
「コーザだよ。コーザがこの旱魃を止めらんなかったのは王のせいだ! とか言い出してな。コブラ王は寛大だから許してくださるとは思うんだが、ほら、トトは心配性だろ?」
……タイムリーだな、ほんと。
それが今日、なのか。
「あー。んじゃ俺もすぐアルバーナ向かうわ。おっちゃんら、なんか届け物とかある?」
「無い無い。今のユバは誰かに届けるものなんかないよ」
「ま、そうか。……んじゃーな、おっちゃんら。干からびて死ぬなよー」
「お前こそなー!」
うん。まだユバは死んでいない。
旱魃だって正直慣れたものだ。溜め込んである水を使って、なんとかやりくりするだろう。
ただその中で、行動力があるけど物事への理解がまだ及ばないコーザが暴走したってだけの話。
追いつけるか、あるいはアルバーナまで入るか。
王宮はなー。なんとなく入りたくないからニャー。
──首都アルバーナ。
うん、結局道中にトトさんはいなかった。コーザも。なーにが「行ったばっか」だ。時間感覚狂い過ぎだろ。
とりあえずアルバーナへの届け物を先に片付けて、トトさんを探す……も。
いねーのよね。
そんで……ちょっぴり王宮の衛兵がね、なんかざわついてんのよ。
ひぇー。
「……あー、すんません衛兵さん」
「ん、どうした坊主」
「ここに俺のちょい上くらいの子供と太ったおっさん入っていきませんでした?」
「ああ、ユバから来たっていう二人か。通ったよ」
「これ、その太ったおっさんへの手紙なんですけど、渡してもらうとか……無理スよね。衛兵さんの仕事じゃねーし」
「ああ、おれ達はここを離れることができない。が、君が中に入ればいい」
そうなると思ったよ。
なんだこの衛兵さんの純粋な目は。俺を一ミリも疑ってやがらねえ。
そりゃいい的だろうよアラバスタ王国。スナワニもクハクハ笑うわそりゃ。
「いやー、王宮の中とかちょっと……俺みたいなのが入るにゃ」
「あっはっは、そんなことを気にしてるのかい? 気にすることは無いよ。それに君は、仕事をしにきただけなんだろう?」
「いやいや。子供だからってアレすよ。ほら。王家が住む場所なんだし」
「王家に危害を与える気があるのかい?」
「いや無いスけど」
「ならいいじゃないか」
──どうする。別に大丈夫大丈夫つって王宮入るか?
いや国連加盟国のうんたらかんたらとか最早どうでもいい段階で、気にしてるのはビビ王女とかイガラッポイとかコブラ王に会ってしまわないか、って方なんだけど。
会って何か不味いことがあるのかと聞かれたら……ある。将来的に。
か……顔を仮面で隠すとか。いまさら? つかそれはもう一発アウトだろ。
……出待ちが一番かなぁ。
「そこな衛兵、何をしている?」
「あ、ペルさん」
……あれぇ、あなた王の側近的なアレじゃないっけぇ。
チャカに任せてりゃいいってかァ? ……違いますね、多くの兵士を引き連れて……海賊退治かなんかの後かなこれ。
「この子、今王宮に来てる親子に手紙届けるためにユバからアルバーナまで来たらしくて」
「ユバから? 凄いな。入れてやれ」
「ええ、私達もそう言っているのですが」
「? では何を」
これ。
……拒否る方が、心象悪いな?
「あー……っと、お兄さん、偉い人?」
「ああ」
「じゃあこれ、手紙を中にいる人に……」
「君が届ければいい。君が届けに来たのだろう?」
うんうん、そうだね。
良い人だ。よし、拒否るのやめよう。これ以上は怪しすぎる。
「……っす。わかりました」
「ついでに私も王への報告がある。ともに行こう」
ゲェーッ。
コブラ王邂逅確定ルートだコレェ! こんなことなら最初の衛兵さんの時に頷いてこそこそしてりゃよかった!
「こっちだ、少年。……ああ、名を聞いても良いか?」
「レコダです。エルマル出身のレコダ」
「エルマル? ユバではないのか」
「トトさんがユバに住んでて、エルマルから届け物で、でもトトさんが今アルバーナにいるって聞いて」
「そんな遠回りをしてきたのか。凄いな君は」
おうおうおうおう。純粋な目純粋な目。
そういえばトリトリの実って世界に五つしか確認されていない飛行能力を持つ身らしいけど……もう全然そんなことないよね、ってくらいみんな飛んでるよね。
まぁ悪魔の実図鑑に記載がないんだろう、他のは。
ペルに連れられてる、ってことで、でっかい麻袋背負ってんのに衛兵全スルーで王宮を行く。どうすんだよこれで中身銃器だったら。コブラ王別に戦える人じゃねーんだから俺がヤベー奴だったらやべーぞこれ。
……そんですれ違わないんだよね! コーザにもトトさんにもね!
なんで? こっから王の間って一本道じゃないの??
「コブラ王、ただいま戻りまし──」
ペルが扉を開ける、その前に。
扉が開かれ……瞳いっぱいに涙を溜めた少年が走り去っていった。
あー。
ここかー。
「コーザ! こら、待ちなさいコーザ!!」
「あ、トトさん。お届け物です」
「ん、ああレコダくんじゃないか、どうして王宮に」
「それじゃあ届けたので。俺こっからカトレアまで行かなきゃなんで。ハイ。ハイ。そんじゃあ」
大丈夫、まだコブラ王の目には入っていない。
行儀は悪いが──廊下を走らせてもらおう!!
アデュー、アルバーナ。俺のことは忘れてくれると助かる!
助からなかった。
「待ちなさい」
「おっと悪魔の実」
「……なぜ、逃げるように去ったので?」
ペルさんだ。
ここはアルバーナからカトレアへ向かう直線上のど真ん中あたり。
わざわざ飛翔して追いかけて来たらしい。怖いよ隼だから普通に。
「いやぁ、ははは」
「何かやましいことでも?」
あるように見えたから追いかけて来たんだろうなぁ。
……今はない。やましいこと。麻袋の中身を調べられようと、入っているのは配達物ばかりだ。
だけど、俺の顔を覚えられると……あとが面倒くさい。
というのをどう説明すべきか。
怖い眼光だ。逃がしてくれそうな気配がない。
どうするか。
よーし。
「……実は、やましいことがあって」
「話してみると良い」
「……その。実は俺、悪魔の実の能力者なんです」
ちょっとゲロる。
するとペルの目が細められた。せやろ? 悪魔の実の能力者は武器持ってなくても兵器扱いだ。そんなのを入れたとあっちゃあ。
「それで?」
「え? ……あ、いや、だから。悪魔の実の能力者なんで、危ないんですよ俺。そういうのが王宮内に居続けるのってどうかなー……みたいな」
「悪魔の実の能力者だから、危ない。ということは、私は相当な危険人物になるな」
「あーいや、その、なんだ。国の管理下に置かれていない悪魔の実の能力者は危険……でしょ?」
「具体的に、どう危険なのかを教えて欲しい」
「いやいや。どう考えても危険でしょ。王宮にはコブラ王もビビ王女もいて、そこに悪魔の実の能力者ですよ。何してくるかわかんないじゃないですか。意思を持った鉄砲みたいなモンですよ能力者なんて。あ、いやペルさんは違くて」
とても。
とても生暖かい目を向けられている。
クソ、この「子供らしい言い訳」でなんとかなると思ってたけど、これもしや逆効果か?
本屋のおばちゃんの「アンタの馬鹿はいつまで経っても相変わらずだねぇ」は真理か? やっぱおばちゃんはベガパンク並の天才か??
「──そんな感じで、俺は仕事の途中なんで!」
「ああ、わかった。王にはそう報告しておく」
「あーっす」
「しかし、まさかとは思うが、この距離を走っていく気か?」
「え? ああまぁ」
「……悪魔の実の能力は?」
「……いやまー。ね?」
「教えたくないなら構わない。私が聞きたいのは、その能力で配達屋をやっているのか、ということだ」
「ああいや、違います違います。今も王宮にいた時も悪魔の実は使ってなくて。いやマジで。ホントに。誓って」
……ん。
間違えたか俺。
「なら──カトレアまでは私が送っていこう」
「いや。マジで問題ないス。いつもやってることなんで」
「そうか。つまり君は、アラバスタ王国護衛隊副官である私に、子供一人を砂漠のど真ん中に捨て置いて去れ、と言いたいわけだな」
あー。それ、コブラ王が聞いたらチョップしそう。
そして面白がってペルはありのままの真実を話しそう。
「観念したか、少年」
「……っすねー」
まぁ、ペルならまだ、マシか。
人気だけど、案外この人顔広くないし。ある程度なら行ける行ける。
スナワニが来るまで、後八年、かぁ。
色々頑張んないとなー。