エルマルは……終わらねえっ!   作:ONE DICE TWENTY

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第14話 絶望! 集結せども越えられぬ壁

 攻撃に意味はない。多分カイドウにとってはそよ風が当たって来てるレベルだ。

 時々地面に穴を開けて転ばせようとする……けど、見聞色だろう、普通に避けられる。降るわけがないモノを降らせても同じ。

 こーれは長引きます。

 ただ同時に、仕込みも順調ではある。

 

 糸天蚕魔(スティグマ)を始めとした、「張り付く天空」。それは着実にだけど効果を発揮している。

 

「はぁ……っはぁ……!」

「流石にィ……タフだなァ、カイドウ!」

「ウォロロロロロ! あぁ楽しくて堪らねェ! 老いさらばえて尚、伝説で在り続ける海軍元大将!! おれを見て、欠片もひるまねェ、むしろ楽しそうにまでしてやがるロギアのルーキー!! もっとだ、もっと……!」

 

 技名は言ってないけど、多分酒龍八卦状態……のはずなんだけど、かなり理性的だ。

 多分原作は宴会で既に酒が入りまくってた上でのあれだったからなんだろう。……別の理由だったら知らん。

 

「ウォロロ……対して、なんだ、お前は……。覇気も無ェ、意志も無ェ、立ってることがやっとで……ちょいと特殊なだけの能力を使うただの超人系(パラミシア)……。死なねぇのはわかったが、……くだらねぇ。本当にくだらねぇ。お前を視界に入れるだけで気分が落ち込む……」

「そりゃどーも。アンタが落ち込んでくれたら戦力下がるんじゃねえかって期待しちまうよ」

「それだ、っつってんだ……。相手の戦力が下がって喜ぶ姿勢。相手は! 強い方が良い! 違ぇか!?」

 

 楽しそうだったりいきなり落ち込んだり。

 やっぱり酒龍八卦状態だ。だから落込か泣き、甘え辺りの時に仕留めたい……けど。

 

 火力が足りねえ。

 やっぱり搦め手しか無理だな、コイツ。

 

「──鳴鏑(なりかぶら)!!」

 

 と思ってた矢先。

 フロアドームの天井、つまり俺達の立っているところから、衝撃波がぶっ飛んでくる。

 

 こ、この声は。

 

「すまない、遅れた! 忍者の君、助かったよ!」

 

 ヤマトだ。その足元には、なんらかの植物が。モサモサだな。

 ……つーかどーにか隙見つけてモドモドしたらダメなんかなカイドウ。モドモドも大概チートなんだよな。

 

「──いた!」

 

 そのヤマトは、カイドウ、ゼファー、エースの戦いを──ガン無視して、俺の所にやってくる。

 ……なになになに。良いから戦ってくれ。重傷者かなんかだと思ってんなら違うから無視してくれ。

 

「浜色の髪の人!! 君がそうだな!?」

「またそれか……。いや……まぁ状況証拠的にはまぁそうなんだけど……もしかしておでんの日記に書いてあったりした?」

「そう! 凄いな! 今君が言った言葉は、おでんの航海日誌に書かれていた言葉と()()()()()()()()!」

 

 はぁ?

 そこまで……予言できるもの?

 万物の声を聴く……ロジャーの……だから、原作で言う「20年以上あと~」の件と同じ??

 

「浜色の髪の人! ぼくは君の手となり足となる! さぁ、言葉を紡いでくれ! 君はカイドウの殺し方を知っているんだろ!?」

「ちょ、そんな叫ぶことじゃ──」

「さっきから黙って聞いてりゃァ……いきなり出て来て、父親に挨拶も無しか、ヤマトォ!!」

 

 八斎戒が振り下ろされる。

 覇王色は……纏われていない! 咄嗟にヤマトと俺を包む形で大気の壁を作り、ぶっ飛ばされることでダメージを無効化する。

 

「また……」

「っと、信頼してくれてるトコすまんが、カイドウの殺し方はまだ()()()しか準備し終わってない! しかも確実性が無ェんだ、もう少し準備させてくれ!」

「おれの──殺し方だと?」

 

 十通りの策。

 その内の一つは起動済みだけど、残りの九個は下準備段階。さらに今言った四通り以外はもうすこし状況が揃わないと使えない。

 

「くだらねェ! 真正面からぶつかってくることもできねェ奴が、おれを殺すなんて大言壮語を吐くんじゃねェよ! 楽しい楽しい宴が台無しになるだろォが!!」

「じゃあさらに台無しにしてやるよ。ヤマト、アンタは好きにやんな。俺に作戦考える頭は無いんでね、強大な力ってのは自由に動いててくれた方が良い。勝手に利用するから、そのつもりで」

「わかった! あの燃えている男と大きな腕のお爺さんは味方でいいんだね!?」

「心強い味方だ。頑張んな」

 

 うん! と強く頷いて主戦場へ向かっていくヤマト。

 ……台無し、ね。良い言葉を吐くじゃねーの。

 

「秘策、一個目──」

「ウ!?」

 

 ワンピ世界でも竜は空想上の生き物で、カイドウが今なっている青龍も幻想種の名の通り、現存しない生き物である。

 であるが──まぁ、他の動物系を見る限り、体内構造は()()()()()()()()()と推測できる。

 つまり、ヘビヘビの実モデル青龍ではなく、ウオウオの実モデル青龍なのだ。

 魚で、青龍で、ちゃんと風や火を使う……五行思想であるところの木に重きを置いている生物であるのなら、明確な弱点が存在する。

 

「天網恢恢疎にして漏らさず──天空海闊!!」

 

 ぐわん! と。

 鬼ヶ島上空に、超巨大な「天空」が開く。

 降り注ぎしは──。

 

「うわっ、寒ィ!?」

「こりゃあ……雪? いや、寒波か!」

「鈴後より寒い……! どうなっているんだ!?」

 

 広げに広げた天空海闊。距離を伸ばした八方4000kmにある冬島という冬島、その全て。

 

 そこから持って来た「寒さ」を鬼ヶ島上空だけに展開・重複させ、強制的に温度を下げる。

 雪は勿論、雹も降る。否、鬼ヶ島そのものが凍り付いていく勢いだ。流石冬島。

 

「──くだらねェ。壊風(かいふう)ゥ!!」

 

 その、天空そのものが。

 かまいたちによって、()()()()にされる。折角張った天空が崩壊する。

 

「ラッキー二回目……」

「レコダァ! 危ねェ!!」

 

 避け……きれない。仕方ない、右腕を犠牲にする。

 大気の壁だからな、俺が纏ってんのは。かまいたちはそりゃ貫通する。

 

「だ……大丈」

「大丈夫だよ、なぁに、たかだか腕の肉が削げて骨が露出した程度じゃねぇか。肉弾戦をするでもねェ俺に何の関係がある!」

「……信じるよ、浜色の髪の人!!」

 

 嘘でーすクソ痛いでーす。

 ああマジでクソチートだな。もういいにさせてくれよ。気絶できりゃ終わりだろこんなん。

 

遷天枢(センテンス)!」

 

 天空海闊は閉じたわけじゃない。今度は冬島の寒気を砲弾とし、カイドウにぶつける。

 

「これ、貰うよ!! 氷諸斬り(ひもろぎり)!!」

 

 人獣型になったヤマトが、その寒気を金棒・建に纏い、攻撃を行う。

 ……あぁ、そっちの方が良いか。なら、寒気の天空を適当に置いておこう。好きに使ってくれ。

 

「天網恢恢!!」

「スマッシュ・バスター!!」

 

 ベストタイミングだ。

 顎を狙ったゼファーの攻撃に合わせ、獣型……青龍たるカイドウを()()()()

 重いけど、十分!

 

 今までは軽い打撃だったけど、今回のはかなり深くまで入った。

 しかもこっちのやりたいこと察してくれてんのか知らんけど、ゼファーはそのアームでカイドウの顎を掴んで離さない。

 

「ウォ……ウオオオオ!?」

「ふっふっふ! そういや、この腕を付けてからお前と戦うのは初めてだったか! ──この腕は九割が海楼石でできてる! だから、この腕に掴まれた能力者は──」

 

 しゅるしゅると……獣型からヒトの形へ戻っていくカイドウ。

 

 その過程で、べきょ、と。

 人体から鳴っていい音じゃないものが響き渡る。

 

「オオオオオ!?」

「なんだぁ!? ……どうなってんだ、コリャ」

「何かが挟まってて、カイドウが元に戻れないでいる!」

「はは……これが秘策の一つでね。カイドウは獣型と人型、あるいは人獣型で、身体の大きさが大きく変わる。んじゃあよ、海楼石やら海水やらで、強制的に獣型が解除された時……その身体の至る所に、身体の外へ出て行かない、圧縮されることさえない天空があったら、どーなんだ、ってな」

 

 ビチビチと。

 ギチギチと。

 動物系としての基本原理で「元に戻ろうとする身体」を、元に戻させない「天空」。

 自分の意思で戻るんならやめりゃァ良いが、海楼石による強制解除での、だ。どっちも自分の意思じゃないなら──そりゃどんだけの苦痛か。

 

「ウ……グゥゥオオオオオオ!!!」

「あぁ、だよなァ! だったらゼファーをどうにかしようって思うよなぁカイドウ! だが残念、アンタは今飛んでんだよ! ──降れよ、飛行能力者」

「!?」

 

 戻ろうとして引っかかっていた尾。その、鬼ヶ島から大きくはみ出た部分が焔雲を掴めなくなり──さらには落下する。

 落下先は、海。

 

熱息(ボロブレス)!」

鏡火炎(きょうかえん)!!」

 

 ゼファーへのゼロ距離熱息。

 けれどそれは、その口の中に入る勢いで展開された炎の壁によって阻まれる。

 

「こ……の……!」

「下半身は海! 頭は海楼石! 戻りたがる胴体はレコダが抑えてるってんなら──おれはこの爺さんを守りゃいい。合ってるよな!」

「なら、炎以外はぼくが対処する!」

 

 効いている。これは有効だ。

 だけど……読者としての勘がこうも言っている。

 

 そんなんでカイドウが死ぬわけなくね??

 

「ウォロロロロロ!! いいじゃねェか、()()()()()()()()()()()()!! この、お前の能力と、おれの身体! どっちが強靭かってェ話だろう!?」

「馬鹿言え、空気がどんだけ硬いと思ってんだ。物理法則のある限り、お前が身体に取り込んだ大気が潰れることは無ぇよ」

「そんなもんやってみなけりゃわからねェだろ……?」

 

 気体だけに限った話じゃないけれど、完全に密閉状態にある気体や流体は固体よりも硬い。

 況してやカイドウは今ほとんど生身だ。どころか海楼石によって脱力までしている。その身体が強制的に引き戻され、戻れずにめり込んできてるって大気に対して、何のアプローチをかけられる。

 

「とかって、慢心する性格じゃねェんだわ! 天晴糸(テンパレイト)!!」

「──今度は何だ!?」

 

 よそから持って来た天空でカイドウの身体を包む。

 

「ドフラミンゴの糸でさえほぼ完全に止まった"距離"だ! アンタの身体がどんだけでかく、長くとも、縮み切るには途方もない時間を要する!」

「オオオオ、オオオオ!!」

 

 相手の身体が硬いんだ。

 相手の身体を利用する以外勝ち目なんてあるわけないだろ。

 

 今もなお、獣型のカイドウは人間に戻ろうとしている。それを「張り付いた天空」が阻害し、「纏わりついた天空」が引き延ばす。

 

「──何してるゥ、海賊! 娘!! オレとレコダがカイドウの動きを止めてるんだァ、守りなど気にするな、全力で叩け!!」

「っ、言われなくても!」

「わかった! けど、ぼくは娘じゃない! 息子だ!!」

「……わかったァ、坊主! そう呼べばいいんだな!」

「うん! ありがとう!!」

 

 理解速。

 そんで。

 

「おい、そこに隠れ潜んでる二人。アインとビンズ、だったな」

「っ……何?」

「正面立ってるとあぶねえから、横に居ろ」

「……先生の……戦いを見ることさえ、許されないの?」

「ちげーよ。能力者なんだから横合いから攻撃しろっつってんの。ああでもモドモドはあんまり使うなよ。この拘束が解けかねん。……そっちの侍もだ!」

「ぬおっ!? ば……バレていたでござるか?」

「おい、河松! どういうことだ! カイドウの討ち入りどころか、止めの段階じゃないか!」

「カッパッパッパ……浜色の髪のお方から感じられた強さでは丁度良い頃合いだったのだが、仲間が他にいたとは思わなかった。拙者の思い込みだ、許せ!」

 

 赤鞘九人男。

 ……ただし、人数はかなり少ない。

 

 傳ジロー、河松、菊の丞、アシュラ童子……そして錦えもん。

 カン十郎は、いない。

 

「ウォロロロロロ!! なんだァ……役者が揃い始めたじゃねェか……!! ちょっと待ってろ、こんなくだらねェ小細工、すぐに抜け出して──」

「おい侍。正々堂々とか、馬鹿馬鹿しい言葉吐くつもりねーだろうな」

「……相手がそうであれば、そうした。だが、敵は卑劣なりしカイドウ! 今更でござる!!」

「じゃあ、頼むわ。カイドウ以外は全員味方だ。だから──」

「応!!」

 

 最後まで言うまでも無く。

 赤鞘九人男の内の、五人は、カイドウへと突貫する。

 

「──ここにイヌアラシが居らぬ事が残念でならないが──」

「三人いるんだ、十分だろう!」

「行くぞ──おでん様より受け継いだ技!!」

「ッ」

桃源十拳(とうげんとつか)!!」

 

 腹でも胸でもないけれど。

 顎を掴まれたカイドウの顔面に──十字の傷が入る。

 

「オオオオ!? そりゃ──おでんの!!」

「硬い! だが!」

「傷は付けた!!」

「へぇ、やるじゃねえかワノ国の侍」

「す、凄い! 流石は赤鞘九人男……五人しかいないけど……」

 

 傷はついた。

 だけど、その程度だ。顔に傷が付いた程度じゃどーにもならんのがカイドウ。

 

 だから──秘策を秘してないで、全部ぶち込む!

 

「ゼファー! ちゃんと掴んでてくれよ!!」

「誰に物を言っているゥ!」

「今の俺に出せる最高火力だ──天明朝(ラニアケア)超銀牙弾(スーパークラスター)!!」

 

 それは、天空という概念。

 地上から空──天という全て。物理的、あるいは自然科学的な「天空」ではなく、形而上、概念的な「天空」。天つ空のその全てを──弾丸として降らせる最終奥義。

 

「オオオオオオ!?」

「へぇ、こりゃ強烈だ! なんで今までやらなかった!」

「準備と計算にどんだけ時間かかると思ってんだ馬鹿野郎!! この辺にある大気の全部を把握して、その上でそれを無視した弾丸こさえるんだぞ! 科学知識があればあるほど邪魔するんだ、そんなん感覚で使えるか!!」

「科学知識?」

 

 まぁ、多分。

 純粋なこの世界出身の人間なら、もう少し楽に使えるんだと思う。

 

 ただ俺は、「天空」というものは「宇宙」に切り替わることで途切れる、っていう余計な知識があるので、それを一旦忘れないといけない。その知識アリでやったら威力は1/100くらいになる。

 この技は「天空」を円柱状に切り取り、それをそのまま降らせる、というもの。クソ強い、クソ硬い、クソ痛い空気砲……っつーか鉄柱が落ちて来てるようなモンだ。

 その威力は相当なんだけど……あ、いや。

 

 効いては……いる。ちょっとは。

 

「これほとんど俺の奥義だぞ! それでちょっとしかダメージ入らねぇのかよ!!」

「──へへ、だったらおれも! 神火(しんか)不知火(しらぬい)──一灯(いっとう)!」

「武装硬化ァ! はっはっは! バトルスマッシャーだけじゃねェぞ、オレはァ!」

「雷鳴八卦!!」

「残雪鎌!!」

 

 攻撃が集中する。

 効いてはいる。効いてはいる。

 効いてはいる……けど。

 

 なんだろうね。

 こう……百億くらいあるHPに、一ダメずつしか入れられてない、みたいなこの気の遠くなる感じ。HPバーがミリで減っていっているのはわかるんだけど、「これもしかして四日くらいかかるくね?」のこの感じ。

 

 おかしいだろ、それはもう。

 今お前無抵抗で殴られてんだぞ。しかも動物系のタフさ失ってんだぞ、海楼石と海水で。

 

 それで……それで、なんでそんなに。

 

「とかなってると思うけどさァ! んなこた知ってて乗り込んできてんだわ!」

 

 刀を抜く。

 今までカイドウの頭から遠く離れたところにいた俺が、近づく。

 

「──流石は小物。ウォロロロ……馬鹿だな、お前さえやれば、こんな拘束は──」

「来ちゃダメだ! 浜色の髪の人!」

「レコダ、逸るな!」

 

 その口が、開く。

 

「アラバスタ王国護衛隊剣法──」

「噛み殺してやるよ!!」

「──なんてマトモな技使えるわけねーだろ! 回天土(エクステンド)!!」

「!?」

 

 確かに習ったよ。ペルさんから剣術は習った。

 ハ! 馬鹿め! 俺がそんなカッチリした剣術使えるかっつーの!

 

熱息(ボロブレス)!! 壊風(かいふう)!!」

「──!?」

 

 俺の背後に現れた天空より出でしは、熱線とかまいたち。

 獣型で吐き出したそれを、生身で受けろ。しかも──咥内に。

 

「グゥゥオオオオオオオオオ!?」

「今のは……カイドウの!?」

「なんだ今の! 完全にアイツの技だったぞ!?」

「レコダ、お前……実はマネマネの実の上位種かなんかの能力者だったりするのか?」

 

 なワケ。

 

「これはさっきカイドウが吐いた技だよ。天網恢恢疎にして漏らさず──天空で受け止めた攻撃を、引き延ばして引き延ばして、時には全く別の場所に吐き出してまた天空で受け止めて、そうやって"お手玉"してたものを吐き出しただけ」

 

 だからラッキーっつってたんだ。

 飛び技で、相手がロギアじゃない。そんな状況中々無かったから使う機会あんま無かったんだけど。

 

「カ……う……ウォロロロロ!!! っはぁ……いいじゃねェか……なんだお前……どう見ても、この場にいる誰と比べても──雑魚のくせに、大した力も持ってねぇくせに……()()()()()()()()!!」

「言っただろうよ。俺はアンタ殺しに来てんだ。折れる必要性が見当たらねえ」

「それだけの強い意志がありながら、覇気が宿らねェってんなら!! おれはこの世の不条理を謳ってやるよ!!」

 

 これは、ちっとは認められたってことで良いのかね。

 

 ──まだだ。まだ来んなよ。

 

「だが……お前らばっかり楽しそうにしやがってよぉ……おれだって……楽しく戦いてぇんだよ……!!」

「っ……顎を持ち上げ……!?」

「ウソだろ!? 身体半分海に浸かってんだぞ!?」

 

 カイドウの顎が持ち上がる。

 当然──それを掴んでいたゼファーも持ち上げられて行く。

 

 まずい、と思った。

 

「ビンズ! クッション!!」

「わかっている!!」

 

 叩き、付けられる。

 ……モサモサのクッションは間に合っていない。

 が。

 

回天土(エクステンド)

「……あァ、また借りができたなァレコダ」

 

 叩きつけってのは、着地点がわかりやすいからな。

 そこに天空敷いて上空に放り出せば、その衝撃もかなり和らげられる。

 

 しかし。

 

「ウォロロロロロ……残念だったな、良い作戦だったことは認めるさ。だが……知らねェってことも無ぇだろ? 何も悪魔の実の能力者だからって、足をちっと海水につけたくらいじゃ全力を削がれるってことは無ェ。──おれはそれが、半身浸かっても大差無ぇってだけだ……」

「……まるで効いてない……のでござるか?」

「どんな生物だよ、ったく……」

(イン)天波槍(テンパランス)

「ウォロロロ!! 良いなァ……お前の良い所はそこだ。初めはうざってぇとしか思わなかったが、そりゃ長所だ。──容赦が無ぇ。余韻も油断も、お前の前には存在しねェ!」

「だが効かなきゃ意味が無い、ってか?」

「そうは言ってねェさ!! どれだけ効かないとわかってても、一切折れねェその心! おでんや赤鞘九人男とは違う、自分の攻撃が通るなんて一切思ってねェのに、殺意だけは絶対に途切れねェ! 口ではなんとでも言うし、態度だって小物のそれだが……とんだ傾奇者だ! おれには何故お前に覇気が宿らねェのかわからねぇくらいだよ!!」

 

 ……身体に張り付いている天空はまだ残っている。

 カイドウは獣型から戻れていない。だけど、海楼石と海水がなけりゃ別に戻らなくてもいい。そのまま獣型で戦ってもクソ強いんだ、関係ない。

 人獣型を封じられるのはデカいが……火力か、やっぱり。

 

「ハッ、馬鹿言えよ、百獣のカイドウ。お前ほどの男が見誤るな。俺に覇気は宿らねえ。強くなりたい、生きたい、勝ちたい──守りたい。そういう意志にこそ、そういう気概があるからこそ覇気は宿る。相手を打ち砕くための力! 強大な敵から自身や仲間を守るための力!! 王の威光を知らしめるための、その力!!」

 

 刀をしまい、手を開く。

 

「──そんなもん、俺にあるわけねーだろ」

「ウォロロロロロ!!! 良いじゃねェか!! 良いぞ、今だけだ、今だけは──否定してやる! おれの理念を!! 全てを凌駕するものは──覇気だけとは限らねぇ!!」

「はは」

「強い意志だ! 覇気の宿らねぇ意志でも、その強さがあれば……それだけでいい!」

「はははは」

 

 馬鹿言え。

 んなもんあるか、俺に。

 

 俺にあるのは──。

 

「天斉射」

「ウォロロロ!! そういう所だぜ、小僧! 会話の最中でも容赦しねェ、油断も隙も慢心も余韻もなにもかも無い! ただ! 殺意だけの男!」

 

 俺にあるのは、責任感だけだ。

 見抜けねーだろ、ばーか。

 

 

 

 *

 

 

 

 まぁ。

 啖呵切ったけど……まぁね。

 

 無理だよね。

 

 そっからはもう怪獣大決戦だ。

 赤鞘九人男……赤鞘五人男、ゼファー、エース、モドモドモサモサ、ヤマト。

 その戦いを眺めながら……伏す。

 

 体力切れ、スタミナ切れの概念は無い。

 無いけど……集中力も切れないけど。

 

 切れないから、何?

 チート能力で無理矢理切らせられないってだけで、疲労は溜まる。いや消えてんのかもしんないけど、感情が疲れる。

 今はもうサポートに徹している。危なくなった奴や攻撃の意志があるけど飛べない奴を回天土(エクステンド)で飛ばし、移動させ。

 カイドウが大技撃ちそうになったら降らせて叩き落し。

 それでも間に合わなかったら何とか避けて天網恢恢に吸収。計算を一個増やす。

 

 きっちー。

 

「頭パンクするわ……こんなん……」

「それ、どういう計算をしているのか教えてくれる?」

「……あ?」

 

 幻聴……じゃねぇな。俺のチート能力は幻聴を聞かせてこないから。

 

 これは。

 

「……危ないこと……すんじゃねーよ。つか今の俺に喋らせるな……言語リソースが勿体ねえ」

「良いから、どういう計算をしているの? ──あなたの脳で足りないなら、私が手伝う」

「……」

 

 そういやハナハナって。

 疑似ベガパンクできんじゃね? ベガパンクがハナハナ食えばそりゃ凄いことになってたんじゃ。

 

「上の空にならないで。危なくて、大変なのでしょう? ──なら、私を道具として使って」

「……ならまず、アンタのハナハナの実の効果範囲を教えろ。その中でアンタに任せられることを丸投げする。自分の能力の全容くらい把握しててくれると嬉しいんだが、まだなら」

「しているわ。だから」

「ああ、そうかい。──じゃあ」

 

 噓吐きさんにしては珍しく……明け透けに話していく。

 話すのは主に回天土(エクステンド)の内容と計算方法、加えて天晴糸(テンパレイト)、天空海闊の原理。さらにはカイドウの技の速度や威力、範囲、周囲に齎すと考えられる影響。

 

「……これを全部、戦闘中に考えてたの?」

「喋るリソースが勿体ねえ、って俺言ったよな」

「そうね。ごめんなさい。……ここからは私が結果だけ伝えるから、あなたはそれに従って能力を使えばいい」

「あいよ」

「……失敗するとか、ミスをするとか、考えないのね」

「捨てられたくねぇ思春期女がミスするわけねーだろ。お前、俺より年上なんだから、もちっとしっかりしてくれや。……が、助かった。サンキュな」

 

 頭フル回転させてた思考の一部を完全にタスクキルし、開いたタスクで別の技を展開する。

 ああ、いつか言ったシングルタスク。あれ嘘ね。

 

「……速度は……"重さ"」

 

 腰の剣を、落とす。

 天空に。その真上に天空を展開し、落とし続ける。

 たかが自由落下と侮るなかれ。この円柱上にある天空をほとんど真空状態にして空気抵抗も減らせば──アレ。あれだよ。エ〇ンズワース的なアレになる。やってることはホ〇ータルなんだけど。

 光の速さは無理だ。でも音くらいならいける。

 高さは……6000メートルくらいでいいか。

 

「あー……あと、おロビ」

「なに?」

「ここから空島までの距離、算出できるか?」

「……記憶の地図との照合になるけれど」

「無いもの強請っても仕方ねえからな。それでいい」

 

 二個目の計算をする。

 距離と時間と、それと後……。

 

 そうだ、アレもあったな。

 

「ゼファー! ちょっとこっち来てくれ!」

「応! 良いだろう!」

 

 カイドウとの戦いを一瞬放棄し、こっちへ来てくれるゼファー。

 

 彼に、聞く。 

 直で聞く。

 

「──ファウス島。使って良いか」

「……ダメだ。あれは……素人に御せるモンじゃねぇ」

「そうかい。じゃあ、別の方法を考える」

「あァそうしてくれ」

 

 すまねーな、ゼファー。

 俺が聞きたかったのは使用の許可じゃなくて、存在の有無なんだわ。

 

「さーて、あとひと踏ん張りかね。まだ秘策も使い終わってねーし、やることやってから休むのが一番ってな」

「急に元気になったわね」

「あァ、俺にスタミナ切れはないんでね。俺みたいな馬鹿じゃなく、アンタみたいなのが計算代わってくれるってんなら、言語も身体も動かすリソースが捻出できる。馬鹿の考え休むに似たり。みんなから離れてぐったり休んでたのはそーいうことさ」

「そういう意味ではないと思うけれど……」

 

 あんまり長く引き延ばす趣味も無い。

 

 とっとと死んでもらうぞ、カイドウ。

 

 

 

 

糸天蚕魔(スティグマ)究極阿鼻(アビエウルト)!!」

「ウ、ガ!?」

 

 開く。

 全身にはっ付けた天空を、展開する。

 

 それによって生まれた硬直。

 回天土(エクステンド)でカイドウの身体を降らせ──鬼ヶ島から遠く離れた海上へ移動させる。

 

「何を」

「天網恢恢!! エース! 空に向かって最大威力の炎くれ!」

「よくわからねェが、わかった! 大炎戒・炎帝!!」

 

 それはvsゼハハで使った技。

 この時点で使えるんだーって読者感と、ありがたいという思いを同時に──降らせる。

 

 海上。またも焔雲をつかんだカイドウの背に落ちる、巨大な炎の塊。いや、もうミニ太陽だろう。

 

「グゥゥウウウゥウウオオオオオオオオオ!?」

「どうする気だ!? 海に落とせば死ぬのか、アイツは!」

「死なねえだろう。奴はウオウオの実の能力者だ。カナヅチになったとて、身体を持ち上げりゃそれで終わり。だから考えがあるんだろう? レコダ」

「ああ。先、謝っておくよゼファー」

「あン? ……待て、まさか!」

 

 降らせるは──たった一つのダイナ岩。特殊な容器に入っているはずのそれは、既に外に出ている。

 

「全員伏せろォォ!!」

 

 ゼファーの声と共に、ワノ国沖合ですさまじいまでの大爆発が起きる。その余波。爆風、衝撃波が鬼ヶ島にまで届く程。

 

 だが、まだ終わりじゃない。

 

「ワノ国からスカイピアまでは、距離にして東に九七一九海里。経度はこの国とほぼ変わらない!」

「サンキュー! あぁそうか、リヴァースマウンテンの方が近いんだな! そりゃ確かに、だ──食らえ、突き落とす海流(ノックダウンストリーム)!!」

 

 天空より、あり得ん勢いの「海流」が噴き出る。海流なんで俺の能力も弾けかけるけど、知るか知るか。

 ンなもんぶっちって――カイドウを叩き落す!!

 

「そんで! アイン!!」

「へ──わ、私!?」

「たりめーだろ、アンタ最強の自覚持ちやがれ! ──飛ぶぞ!!」

「待てレコダ! ダイナ岩はまだ燃え続けて」

「わーってるわンなことは!!」

 

 突っ込む。ダイナ岩の炎の中に。爆発の中に。

 

「──フレイムダイアル!!」

 

 空島で買った、フレイムダイアル。

 その使い切ったモノを、後生大事に持っといた。

 全部は無理だ。わかってる。だけど、俺達の周囲の炎を吸い取るくらいはできる。

 

 俺の天空による防御も加えて──辿り、つく。

 

「五回だ、アイン! たった五回でいい! 戻せ、コイツを──生まれる前にまで!!」

「ッ……モドモド!!」

「それまでは、俺が守る」

 

 吹き上がる爆風。降り注ぐ海流。

 その中に「天空」が積み上がる。

 

「ウォ……ロロロロロ!! なんだ! ……何の能力者だ、女ァ!!」

「ニコ・ロビン。まだ聞こえてるか?」

「ええ」

()()。フロアドーム屋上にいる奴らに逃走を促してくれ。フロアドーム内部にエースの仲間がいるなら、そっちにも」

「……わかったわ。あなたは?」

「俺が飛べるの知ってるだろ」

「モドモド!!」

 

 二回目。

 小さくはなった。だけど……多分、力は増してる。若い頃の方が強いみたいなアレだろ。知ってる。

 

「守る? 守るだと? ──やってみろォ!」

 

 海流にこれだけ晒されてんのに、まだ獣型のカイドウ。

 その口に炎が集まりドン! と、暴発する。

 

「……!」

暗美天(アンビテン)。俺も龍の内臓図は知らねェが、心臓が()()()()()()()()()()()っていうんなら、アンタの内臓図はほぼウナギ目と同じだ。ウオウオの実なんでな──ヘビヘビの実だとちょいと話が違ったが!」

「なん、だ……!? 口が、開かねェ!」

「単なるでけェウツボと考えりゃ! どこの筋肉が顎動かしてるかくらいわかる!」

 

 糸天蚕魔(スティグマ)で貼り付けた天空を暗美天(アンビテン)で広げ、水浸合天(ミズビガーテン)で浸透。

 さらに霞尾天(ミスティルテン)でその筋肉、筋線維の一本一本にまで天空を這わせ──そこから降らせるのは"劣神の裁き(クライン・トール)"だ。

 ドフィで学んだんだ。ただ闇雲に雷降らせたって新世界の奴は痙攣さえしてくれない。だけど、筋線維にまで意識向けられる奴はそうそういねぇだろ、って。

 

「モドモド!」

「三回目。──どうだ、19歳の身体は。懐かしいだろ」

「……年齢を戻す超人系(パラミシア)だと!? フザケた能力も大概にしろ!」

「同感だ。だがよ、まだ良い方だよ。あと五年後にゃあもっとフザけた奴が来てた。それに負けるよりは──まだ()()()()()()()

 

 ドン! と、地面が……じゃない、カイドウの身体が揺れ始める。

 まるで陸に打ち上げられた魚がピチピチ跳ねるみたいに、だ。

 

「きゃ……」

「っと、大丈夫大丈夫。暴れた所でなんもできねーから、集中してくれ。んで、安心してくれ。アンタが失敗してもまだまだ策はある」

「……モドモド!!」

 

 四回目。

 これで、七歳。

 獣型を解けばもうガキだ。だけど、俺の天空が形を変えることを許さない。

 

「はぁ……はぁ……!」

「ウォロロロロ……能力頼りで鍛えねェからスタミナが切れる! 惜しかった……あァ、惜しかったと認めてやるよ。お前達はおれを」

天明朝(ラニアケア)超銀牙弾(スーパークラスター)

「!!」

 

 俺達を避けて、空気砲……大気砲がカイドウの身体に刺さる。

 準備が必要つったな。ありゃ嘘だ。

 計算は必要だが、俺は天空海闊を解いてない。一回準備したらずっと準備終わってんだよ。

 

「いけるか?」

「……ええ。モドモ」

「──やめろォ!!」

 

 静寂。エースのミニ太陽、ダイナ岩、海流。

 その全てがあるのに……静寂。

 

 これは。

 

「……」

 

 どさ、と。

 泡を吹いて倒れる、アイン。

 

 そして、むくむくと……元の身体を取り戻していくカイドウ。

 

「ウォロロロロ……いやァ、懐かしい気分を味わえた。礼くらいは言ってやるよ。だが……仕切り直しだな」

「……マージで。覇王色マジで嫌い」

 

 さて──。

 まだ、だからな。

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