エルマルは……終わらねえっ!   作:ONE DICE TWENTY

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第2話 解明! 悪魔の実の名と新事実

 運が悪いというかいやもう当然というか。

 あの場はなんとか切り抜けたものの──カトレアからユバへの配達の途中で、その後結成された砂砂団に見つかってしまった。

 全ては道中にいたならず者のせいだ。いつも通りタライ降らして終わり、にしようと思ったらあいつら結構数がいやがって。

 どうせすぐに消えるとはいえ、局地的なタライの大雨が降る結果となってしまった。

 さらにそれを縛って、王国軍に気付かせるために狼煙を焚くなんて労力まで支払って。

 

 その遅れがあさイチでの配達に間に合わずの、コレ。

 

「おまえ! レコダだろ。知ってるぞ」

「……そういうお前は、トトさんとこの泣き虫坊主だろ」

「あ!? 誰が泣き虫だ!」

「笑い虫坊主の方が良かったか?」

「そういうコトじゃねーよ!!」

 

 じゃあどういうことだよ。

 あとなんで俺は砂砂団に囲まれてんだよ。

 

「決闘しろ、おれと!!」

「断る!!」

「はぁ? 断るなよ! おとことおとこの戦いだぞ!」

「まず理由がないのと、俺は別に喧嘩強いわけじゃねーんだよ。んじゃ配達あるから今度な!」

「逃がすか!」

 

 こちとら精神年齢は大分上なんだ。肉体に引っ張られてるとはいえ。

 子供の殴り合いに付き合ってられっかよい。

 

 ……ってことでピョーイと子供たちの輪を脱し、近くの民家の屋根へと飛び移ってそのまま逃げようとした……ら。

 

「あ」

「ん? ……げ」

「なんという身のこなし!」

 

 すげー怪しいオジサン二人と遭遇した。

 

 マーだ。んん゛っ、マー。

 

「どこ行ったあいつ!」

「すげージャンプしたぞ!」

「散らばれ、砂砂団! 見つけたら叫んで知らせろ!」

 

 おっと人海戦術。

 死角ではあるけれど、その死角を保つにはオジサン二人と顔を合わせなければならない。

 

「あー……オジサン二人は怪しいものだろうけどさ。俺は怪しいものじゃなくてさ」

「誰が怪しいものだ誰が!」

「叫ぶな叫ぶな。子供に見つかんでしょーが」

 

 マー。

 ンマー。

 

「君は確か、あの時の……」

「王? お知り合いなのですか?」

「見ていなかったのかイガラム。コーザ君の後に来た」

「ステイステイ、怪しいおじさん。俺とは初対面だ。んで、多分アンタらも見つかるわけにはいかない系統のアレソレだろ? お忍びで、みたいな」

「……だとしたら?」

「俺が囮になる。ってことで、アデュー!」

 

 ぴょーいと飛び跳ねて、子供たちのど真ん中に着地する。

 当然──大騒ぎになるので、彼らの上をぴょんぴょん跳ねてその場を脱する。

 

 天才だ。これならコブラ王と長く話をすることもなく、砂砂団からも逃げられる。

 

 

 ……ところでビビ王女はどこにいたのだろう。

 あの二人が見ていて、コーザまでいたのに、彼女がいなかった。

 

 そんなことある……?

 

 

 

 

 

 だよね過ぎる展開が眼下に広がっている。

 ゲッスい声で「おーうじょさまー? どっこですかー」とか聞いてる男二人。と、隠れてる男数人。

 

 そして息も絶え絶えに身を隠しているビビ王女一人。

 おいコーザの見せ場シーンだろ。何やってんだよ。俺に決闘吹っ掛けてる場合じゃねーだろ。

 

 ……あー、見つかるなぁコレ。

 どうするべき? コーザいないと捕まって身代金でアラバスタ傾いて……そうすればスナワニ来ない可能性? ナイナイ。アイツの狙い別にアラバスタ本体じゃねーし。

 

 しかしまー、こう。

 いつもいつも、タイミングの悪いことで。

 

「──みぃーつけた」

「ともーじゃん?」

 

 ガラァン! と。

 タライがならず者の頭上に降ってきて、直撃する。

 

「ん、だぁ!?」

 

 あー、一撃で気絶してくんない系か。

 だるぅい。

 

 よーし。

 

 降りる。

 遺跡の一番高い所から、ビビ王女のいるところにまで。

 

 ヒーロー着地……は膝に悪いのでやめましょう。やったけど。

 

「あぁ? なんだ、ガキが増えたな」

「だ……誰?」

 

 だよね。けれどそれでいい。

 

 悪魔の実の能力で、槍を降らせる。一本。

 

「っ、なんだ!?」

「殺すと、最悪お尋ね者なんでね。文字通り痛い目見てもらう」

 

 姿勢は低く、獲物を狩る直前の猫のように。

 子供だからさらに低いその姿勢から──弾けるように、降って来た槍を掴んで抜いて斬り上げる!

 

「くっ!」

「まぁ止めるよなぁ、子供の膂力で振ったところで速度なんか出ねえし。けどまー、頭上注意って奴でさぁ」

「何──を……」

 

 ガン! と。

 ならず者の後頭部にぶつかるは──野球のボール。

 頭部死球。痛かろう。硬かろう。しかしすまんな、あんまり固くしすぎると頭部外傷で殺しかねんし、かといって小さかったり空気抵抗受けすぎるものだと威力が足りなかったりで、調整難しいんだ。

 瓦礫、とかにした方が良いんだろうけど、この世界の瓦礫は「降るモノ」扱いらしくてさ。ランクダウンすると砂になるんだわ。それでも十分強いんだけど。

 

 とまぁ、そういうことで、俺の想像しやすいモン──野球ボールやサッカーボール、バスケットボールなんかをならず者の頭上に降らせていく。

 一撃目のタライで意識を刈り取れたら御の字、できなかったら注意が上に向くので大立ち回りをして意識を下に向けさせての二撃目。それが今の基本的な戦闘スタイル。

 遺跡にいるならず者の数はすべて把握しているし、どこにいるかもわかってる。局所的に降り注ぐ圧倒的スポーティー空間の前にひれ伏すが良い。

 

「何がおきてんだ、このォ!」

 

 熱……の方が、発砲音より早く伝わった。

 狙いなど定めていないのだろう、ほぼ暴発に近い発砲。

 ただ、運悪くそれが俺の腕に当たった。それだけのこと。

 

 いや、俺だったからよかったけどさ。

 ビビ王女に当たってたらどうしてたの。身代金とかの騒ぎじゃないんだけど。

 

 ──んじゃその銃持ってる腕、折れるけど勘弁してな。殺人じゃないので。

 

「ギ──!?」

 

 ソイツの腕に降って来たのは、ボウリングの弾。

 普通に砲丸。パーヒャク折れたね。潰れた。

 

 そのままバスケットボールを当て続けてノックアウト。

 

「あ……嫌……血……」

「ん? ……ああ、大丈夫。貫通してるし、骨にも当たってない。子供だからね、肉が薄いんだわ」

「と、止めないと! 血……血が」

 

 まぁ王女様にはショッキングな光景か。

 えーと、じゃあ適当な布で腕を縛って止血止血。

 

「ビビ! 大丈夫か!」

「ビビ様!!」

 

 ……これ大丈夫か? ビビとコーザの大切なシーンだろ色々。ビビの決意にも繋がる。

 コーザは勝手に反乱軍立ち上げそうではあるけど……いやまぁ大丈夫か。二人は何があろうとなかろうと、原作通りの行動をしただろう。正義感の塊みたいなもんだし。

 

 それに、エルマルを守ると決めた以上、原作通りになる必要はないしな。

 

 というわけで、退散!

 

「あ、君!!」

「安心していい、我々は味方だ!!」

 

 知ってるから逃げてんだわ。そのまま謎の少年Rくらいに思っててくれると助かる!

 

 

 

 助からなかった。

 

「腕の傷。医者に診せないで良いのか?」

「これくらい包帯巻いて安静にしとけば治るよ。子供なんだし」

「子供だからこそ、大きな傷は大人になっても残るぞ」

「可愛い女の子じゃねーんだ、腕の傷なんか勲章みたいなもんでしょ」

「咄嗟の時に古傷が痛んで判断が鈍る、ということもある」

 

 ……。

 ペルさん。もう、王女が襲われたんだから彼女のそばにいてやりゃいいのに、現場から逃げ出した俺を真っ先に捕まえに来て、なんなら俺をその背に乗せて、今高空を飛翔中。

 流石にこの高さから落ちたら死ぬな、って高度を飛んでいるので降りることもままならず、こうしてゆっくり自分で応急手当をさせてもらっている。

 

「痛みは?」

「そりゃあるけど、あって当然でしょ。撃たれたんだし」

「痛みを止めたい、とは思わないのか」

「どんな処置したって数日は痛むよ。むしろ医者に見せただけで痛みが完璧に収まったら怖いって」

 

 なお、ペルさんとはもうそれなりの付き合いがあったりする。

 俺が砂漠を爆走しているとそれなりの頻度で見つけてくるし、ならず者を成敗して狼煙を上げると一直線に飛んでくる。

 俺からのペルさんへの態度はそれはもう砕けたものになった。彼からの生暖かい視線は暖かいものに変わったが。

 

「まぁ、正直悪かったなぁとは思ってるよ」

「悪かった?」

「ビビ王女。今になって考えてみれば、同い年くらいのガキが目の前で撃たれて傷を負うって結構なショックだわな。油断した油断した。しかも暴発に近い弾に当たるとか、もっと後ろに下がってるとかしときゃよかったのに」

「君はビビ様を守った。悪いことなどない」

「誘拐からは守っただろうけど、精神的に傷つけたことに変わりはないでしょ。五十良くても三十悪かったら残りの二十と最初の五十も悪くなんの。ノイジーマイノリティーなの」

 

 何より俺は、最初に彼女を助けることを逡巡している。

 アレが無ければ、そもそも彼女の前に現れることもなかった。視認した時点で全員昏倒させる、だってできたんだから。

 

 それをしなかった時点でだろ。

 

「……決めた」

「何を?」

「君を医者に診せよう。何、既にアルバーナ上空だ」

「……なんか風の流れおかしいと思ってたけど、やっぱりエルマルに向かってなかったのか! くそ、だったら!」

 

 だっ、とペルさんの背から飛び降りる。

 イチかバチか、ランクダウンした嵐を呼んで──。

 

「危ないぞ」

「……ですよね」

 

 普通に、キャッチされた。爪で。

 

 隼だもんな。

 急旋回もローリングも余裕だわな。

 

 あ~、ヤな予感しかしね~。

 

 

 

 その予感は的中……しなかった。

 

 周囲を見渡す。……いない。

 

「はい、これで大丈夫」

「ありがとうございます」

 

 医者。……だ。普通の医者。

 王宮お抱えの、とかじゃない。

 というか王宮じゃない。

 

「こっちの腕はね、しばらく安静にね」

「はい。ありがとうございます」

 

 お金はペルさんが払ってくれた。別に俺でも払える額だったけど、何も言わずに。

 そうしておそるおそる建物を出ると……普通にアルバーナの街中。

 

「君は、コブラ王に会いたくないんだろう?」

「いやまぁ……まぁ、そう」

「さっきも言ったが、君は王女を救ってくれた恩人だ。そんな君の望まないことを進んでしたいとは思えない。傷だけは診せなければと思ったから連れて来たが」

 

 ありがたい……のか?

 ううん。

 

「でも報告はする、んでしょ?」

「それはな。その義務がある」

「俺の名前は?」

「聞かれない限り出さないことを約束しよう」

 

 もうコブラ王にはバレてんだけどね。

 ただ……妙に持ち上げないでくれる、ってのは助かるかもしれない。

 

「レコダ。君が何故そうも王家から身を隠そうとするのかは知らないが──総じて君は、善なる人物だと私は見ている」

「でも五、悪いかもよ」

「君の理論ではそうだな。だが、私は九十五良ければ、その悪い五には目を瞑ろうと思う。君の言葉の全てが正しいわけではないだろう?」

「そりゃあ……返す言葉もないけどさ」

 

 そういう思想を持っている、ってだけだし。

 それをそのまま返されたら、口を噤むしかない。

 

「──礼を。ビビ様を守ってくれて、ありがとう」

「……まぁ国民だからな。王女様守んのは普通でしょ。それよか、とっとと王女のとこ行ってメンタルケアしてやんなよ。守護神なんだろ、アンタ」

「そうだな。……エルマルまで」

「送らなくていい。もう知ってるだろ、俺の足の速さは」

「ああ、わかった。腕、安静にするんだぞ」

「はいよー」

 

 人混みに紛れ去っていくペルさん。

 彼が完全に去ったのを確認して……ふぅ、と一息ついた。

 

 これが未来にどう影響するかはわからないけど……まぁ、人助けは良いことだったと思おう!

 

 

 

 

 後日、ユバへの届け物をしている最中に、こんな光景をみた。

 コーザが高らかに何かを話している。砂砂団相手に。

 

 ──けれどその隣に、ビビ王女はいない。

 

 おいおいおいおいおいおいおい。

 

 っべーか?

 っべーことしたかこれ?

 ここの友情が育まれきらなかったら……ビビ王女、反乱軍を止めないとかありそうじゃねえか?

 

 っべーかこれ!?

 

「おや、レコダ君」

「あーっと……トトさんか。……ん? 何してんです? そんな大荷物……どっか旅行?」

「いやぁ、先日コブラ王から驚く打診があってね。──このユバの村を、街にしないか、って話で。これは今他の村から集められて来た物資だよ」

 

 ……そ……こ、は……進むの?

 コーザの件がまるっとないのに?

 

 ……いや俺もおかしいとは思ってたよ? 一向にユバが枯れねーんだもん。つーかあの身代金の話だって、ユバじゃなくてアルバーナ周辺の遺跡で起きてたはずだし。だから油断してたんだし。……だからコブラ王たちがいることに驚いてたんだし。遠いから。

 

 なんだ?

 俺……なんかやったか? もしかして旱魃被害をこう……良い感じに抑えてたりするのか? 悪魔の実の能力で。

 

 どうやって?

 

「へぇ、そりゃ面白そうだ。……っと、すまんトトさん、俺まだ配達が」

「ああ、いってらっしゃい。気を付けて」

「はいよー」

 

 俺の悪魔の実……何か環境に良い作用する能力持ってたりする??

 

 

 

 *

 

 

 

「それで、彼の容態は?」

「彼自身が把握していた通りでした。弾丸は貫通し、体内に残されておらず、骨にも当たっていない。ただ酷い裂傷でしたので、医者の処置を受けさせました」

「そうか」

 

 ──王宮。

 誠当然ながら、報告されている「彼」の件。

 

「なぜ、彼が私達を避けるのか。それについては未だわからんままか?」

「はい。ただ、害意は見受けられませんでした」

「だろうな。害意があるのならば、ビビを助けたりはせん。あるいは先に誘拐するなりしているだろう。あれほどの実力があるのなら」

「……」

「ペル。そう心配せずとも、彼を探し出す、などという無粋な真似はせんよ」

「いえ、そこは心配していません。ただ」

 

 齢はビビ王女と変わらないくらいの少年。

 そのような子供でありながら、単身砂漠を駆け巡り、各地への配達を生業とする彼。

 

 撃たれて、欠片の動揺も、痛がる素振りもしない彼。

 加えてその後に出た言葉。

 

「……彼は、国民なのだから、王女を守るのは当然。普通のことをしたまでだ、と言っていました」

「そうか。……いつまでも、そう思われる国で在らねばな。そして、我らもまた、国民を守り返せる王でなければいかん」

 

 果たして本当にそれだけだろうか、と。

 ペルの脳裏に考えが浮かび……翳る。

 

「滅私が過ぎる、と。そう考えているのだろう、ペル」

「……はい」

「確かに子供の持つ考えではない。いや、大の大人でもそう考えられる者はそうそういないだろう。──この国が良い国だから、と。それだけでは片付けられぬ話だ」

「はい」

 

 国王コブラは、少しだけ笑み。

 

「良いぞ、ペル。平和な国だ。それに、チャカもいる」

「……しかし、それは」

「何よりお前なら、有事の際が来たとしても、即座に駆けつけることができるだろう?」

「……」

「ならば、王命としようか。それならば動きやすいだろう」

「……ありがとうございます」

 

 さらに笑みを強めるのだった。

 

 

 

 声がかかる。

 今まさに飛び立とうとしていたペルに。

 

「ペル」

「どうされましたか、ビビ様」

「あの子のところ、行くの?」

「ええ。よくわかりましたね」

「……ごめんなさい、って。伝えて欲しいの」

「わかりました。必ず伝えます」

 

 あの事件以来、王女ビビは大人しくなった。

 無断での外出は控え、出るにしてもちゃんと護衛を付ける。

 

 死が怖かった――のではない。

 

 自分のせいで、国民が。

 それが当然のように行われて……理解したのだ。

 

 狙われる立場にあることを。

 幸か不幸か、ユバの発展のためにコブラ王はとある決断を下した。それによってユバで活動していた子供達……砂砂団も多忙になって行くだろう。

 まだ子供。されど、成長の期ではある。

 

「他に伝えたいことはありませんか?」

「……ありがとうございました、も」

「はい」

 

 言葉を託され、ペルは空へと舞い上がる。

 向かう先は緑の町エルマル。周囲の村が旱魃の被害にあっても、年々弱まっているサンドラ河に海水が逆流してきていても──変わらず緑を保ち続ける町。

 

 あの少年の、住まう町へ。

 

 

 *

 

 

 というわけで、ペルさんが半ばウチに住むことになった。

 

 え??

 

「レコダ。ビビ様からの伝言だ。ごめんなさい。そして、ありがとうございました、と」

「いや良いけどさ。国民の義務みたいなもんだから。そんなことよりペルさんでしょ。国王の護衛隊の副官でしょ。何しに来てんの??」

「少し……いや、多大に気になることがあった。だから、君を監視させてもらうことにした」

「そう言えば俺の気が楽になるって思って言ってる? 俺が心配で見に来たって言っても別に変わんないよ俺の態度」

 

 か……帰ってくんないかな。

 俺今絶賛暗躍中なんだけど。

 

 監視とか、クリティカルヒットなんだけど。

 

「腕の調子はどうだ?」

「特に変わりはないよ。これでOK? なら帰ってくれ、コブラ王が心配だ」

「心配するようなことがこの国にあるのか?」

 

 これからあんだろーがよ。

 まだ八年後、っつーか激化するのは九年後だけど。

 

 つーか一緒に生活されるのはマジで困る。

 

「……一つ、聞きたい」

「なに」

「ここは本当に君の家か?」

「え? ああ、そうだよ。親父も母さんも今はアルバーナに住んでるけど」

「……」

 

 足をやってしまった親父は、母さんと一緒に親父の実家のあるアルバーナに移り住んだ。勿論俺も連れて行かれかけたけど、まだやりたいことがある、の一点張りで残った。

 エルマル捨てるって選択肢は俺にねーんだわ。それ破っちゃったら俺はもう海に出るって。知らねーもんスナワニとか。

 

「金に困っているのか?」

「全然? 配達、ちゃんと大変なのみんなわかってくれるから、そこそこ持ってるよ俺」

「それにしては──生活感が無さすぎる」

 

 う。

 

「貯水もしていないようだし、食料を貯めているわけでもない」

「いや、まー。外で食って飲んでるから。ほぼ」

「……」

 

 一緒に生活するのが困る理由第一。

 俺がチート能力で飲まず食わずオッケーなポテンシャルしてるせいで、マジで飲まず食わずで生活してるのがバレること。

 いやね、金の管理面倒だし、いつか買う悪魔の実図鑑までにお金取っておきたいし。日々の生活費なんかで消費してらんないんだよ。

 

 結局俺が食った悪魔の実はなんだったのか。

 俺がやってることは合ってるのか。もっと凄いことができるんじゃないのか。

 そういうの調べたくて悪魔の実図鑑が欲しいのに、いざという時金がないんじゃぁ話になりゃせんじゃろ?

 

「今日からは私が食事を作ろう」

「いや、まぁ勝手にしてくれていいけど、ペルさんの分だけでいいから。俺基本ずっと外にいるし」

「配達の仕事も、手伝おう」

「なんでだよ。ペルさん来たら驚くってみんな。んで不安になるよ。王の護衛隊が何してんだ、って」

「君から見て、この国はそんな国か?」

 

 ぐ。

 

 ……その程度で不安になるようなら、スナワニを快く引き入れたりしなかっただろうな。海賊を退治した程度で、そんな。

 

「つーかペルさんの方が速いんだから、やっぱダメだって。俺の商売あがったりじゃん。みんなペルさんに頼むようになっちまう」

「だからこそ共に住むんだ。同じ家……あるいは配達屋として開業すれば、速達便は私が、普通の配達は君が、といった具合で分業できる」

 

 おいおい理論武装完璧か?

 やめてくれ、俺馬鹿なんだぞ。本屋のおばちゃんに相変わらずって言われるくらい馬鹿なんだぞ。

 

 よーし。

 

「俺は協力姿勢見せないからそのつもりで。やりたいなら勝手にしてくれていいけど、食われない飯ほど可哀想なモンは無いって知ると良いよ」

「ふふ、それは君に帰る言葉のような気がするが、わかった。勝手にしよう」

 

 今馬鹿にしたね。確実に。

 それは馬鹿にした笑いだったよねぇ!!

 

 ……まぁいい。エルマル内部での暗躍を減らして、ペルさんの動向をしっかり確認しつつやればバレないはずだ。

 気にしなければいい。意識するから気にしちゃうんだ。気にしない気にしない!

 

 

 

 気になるわ!!

 

 俺がちょっとでも配達ルートから外れたら「大丈夫か?」って聞きながら急降下してくるわ、夜遅くになって家に帰ったら冷めても問題ない料理が置いてあるわ、しかもまだ寝てないわ。

 

 寝ててよ! 今日は遅くなるって言っただろうが!

 

 

 そんな生活が半月くらい続いて、ある朝。

 

「やはりか」

「……今度は何」

「稼ぎの計算をしていた。支出額を。──食費の一切が無い。外食をしている、というのは嘘だな、レコダ」

 

 ……そこの工作するの考えたけど、じゃあ浮いた金どうすんねん、になって、まぁ顕著になってきたら考えりゃいいか、で終わってたんだよな。

 はえーのよ気付くのが。

 

「まぁ──とりあえず常識から考えたら? そんなわけないじゃん。半月食わないで活動してられる人間がいるかって。計算間違いだよ計算間違い。珍しいねー、ペルさんが」

「既に聞き込みも終えている。周辺の村、町の飲食店に、君が来たかどうかの聞き込みを」

「怖っ……じゃなくて、いやまぁ、なに? 隠れ家的な店があんのよ。常連しか行けないみたいなのが」

「国への営業許可も取らずに営業している店があるのなら、それは看過できないな」

「ああいや、国への許可は取って──」

「レコダ」

 

 ペルさんの、隼のような真っすぐな目。

 やめてくれ。嘘吐きがその目で見られると、立っていられなくなる。

 

「……別に私は、君の秘密を王に報告する気はない。ただ、隠す必要はない、と伝えたいだけだ」

「……。はぁ。まぁ、そう。わかったわかった。そうだよ。俺は水を飲まなくていいし、腹を満たさなくてもいい。そういう悪魔の実の能力。便利でしょ?」

 

 チート能力、とは言わない。

 体質であるとも言わない。体質関係は最悪黒ひげと関連付けられかねんし。

 

「そうか。……だが、食べることはできる」

「まぁね。でも食べたいと思わない。食べなくていいんだから、無駄でしょ。お金勿体ない」

「金が必要なら、ビビ様を助けた時にでも王から報奨金を貰えば良かっただろう」

「いやそんなには要らないっていうか……つーかなんで王女様守って金貰うんだよ。傭兵になった覚えは無いんだけど」

「相応の働きには相応の報酬が発生してしかるべきだろう」

「なーにが働きだよ。あんなガキンチョ王女様を暴漢から守んのが仕事だ、って思ってる奴いねーよ。誰だってあんな現場に遭遇したら相応どうこう考えずに守るだろ。ガキ守んのがそんなに特別かっての」

 

 大げさなんだよ。

 生まれた村守んのも、生まれた国守んのも、目の前で襲われてるガキ守んのも、大したことじゃねーだろ。

 それ以前に「原作を壊すから」なんて理由で逡巡したんだぞ。あん時三十悪かったら、とか言ったけど百悪いんだわ俺は。コーザが来るまでビビ王女が襲われるのを指くわえて見てた可能性だってあるんだぞ。助けられる力があんのに。

 ただ衝動が勝っただけだ。子供が誘拐されそうになってて、怖がってる。大人が動くに十分すぎる動機だろうが。

 

 ……まぁガキなんですけどね! 俺もね!

 

「もういいよ、全部吐く全部吐く。俺は金が欲しい。悪魔の実図鑑を買いたいんだ。俺、悪魔の実食ったけど、それが何の実だったのか知らなくてさ。能力はある程度感覚で使えるけど、本当はできるのに俺が知らないからできない、ってことがあったらヤだろ? だから金貯めて、図鑑買って、把握したい。そのために金貯めてて、生活費なんぞに当てたくない。かといって大金貰う理由がない」

 

 働かずに得た金は結局使うのストレスになるからな。

 自分が稼いだって自信が無いと、散財がストレス蓄積とストレス発散の二律背反になって自律神経やっちまうんだ。俺はそれを知っている。

 

「まず」

「ここまで聞いてまだ言うことあんのか」

「悪魔の実図鑑なら──王宮にあるぞ」

「マ???」

 

 え、マ???

 

 

 

 

 ラニラニの実、というらしい。俺が食った実は。

 

「……超人系、天候人間……天候操作……」

 

 できませんが。

 どんだけ願ってもにわか雨か通り雨しか降りませんが。

 

 アレか。能力は結局能力で、本人が鍛えないと云々のあれか。

 

 俺が超鍛えたら、雨を降らせられるようになって……んで解決かアラバスタ。

 スナワニに目ぇ付けられてエルマルごと潰されそう過ぎる。

 

「実の名前はわかったか?」

「……わかった。けど、……」

「別に言わなくてもいい」

「ああうん、言うつもりはないけど……」

 

 どう……する。

 どどどど、どうする。

 

 やっぱり海兵になって六式を習うルートに? いや海兵になったらアラバスタに居られんやん馬鹿か。

 あるいは覇気か。覇気ってどうやって覚えるんだよ前半の海に覇気使いほとんどいねーじゃんかよ。

 

 じゃあ、そうだな。ああ。

 

 よーし。

 

「ペルさん。一個お願いができた」

「なんだ?」

「俺を鍛えてくれ。剣の扱いとか、教えて欲しい」

「……それは、何故」

「アラバスタを救うため」

 

 ……っつーと言葉デカいけど。

 雨を降らせることができるようになって、且つスナワニに負けない……エルマルを守り通せるくらいの力をつけりゃ……この緑の町も、アラバスタも守れる……んじゃないか、って。

 勿論暗躍工作は止めないけど、本当に俺が天候人間なら。

 

「この平和な国を、救う、か」

「……正直それを言われると弱い」

「──構わない。わかった、できる限り君を鍛えよう。私の剣や戦闘の技術を教える。その代わり」

「やっぱりもらうだけじゃダメか。何を払えば良い? 隠してること言わなきゃダメ?」

 

 ペルさんは……ぽん、と俺の頭を撫でて。

 

「食事をするんだ、レコダ。無駄になっても構わないから、私の料理を食べて欲しい」

「えーと? ああまぁそれはいいよ。別に食事、嫌いってわけでもないし。じゃなくて、俺が支払うべきモンは何?」

「何も要らない。子供の頼みを大人が聞くんだ。そんなに特別なことか?」

 

 ……う。

 それを言われると……お手上げだ。だってそれ、俺の言葉だし。

 

 

「……これからよろしくお願いします、ペルさん」

「ああ、よろしく」

 

 こうして、正式に俺とペルさんの共同生活が始まったのだった。

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