エルマルは……終わらねえっ! 作:ONE DICE TWENTY
割と、というか。
ウェザリアwithナミとの勉強会は、俺にとってかなーりためになった。
俺一人じゃ中々作り出せなかった気圧勾配も、条件を整えりゃ作れるようになったし。
"
また、その間一味は俺を通じて手紙での連絡を取り合い、原作よりも距離が近いまま、けれど各々が強くなっていっている。トナカイは無事抜け出せたらしい。
そうやって麦わらの一味限定の配達屋をしている──そんな折。
「運び屋レコダ」
「ん、そっちの名前で呼ぶ奴は珍し……え」
「──届けてほしいものが、ある」
え。
……。え?
「アンタ……意識あんの?」
「……」
大男。
白黒の大男。彼は、ただそれだけを言って、俺に一つの「プレゼントボックス」を渡して……消えた。
……。
どこまで考えてんだか。アイツこそ未来視できんじゃねーの、ホント。
そんな一幕のすぐあとくらいだろうか。
ウィーハッハッハッハに壊されていないバルティゴにて、ドラゴンからの呼び出しを食らった。
俺なんかしたっけなー、とか思いつつ行ってみると──それは珍しい「命令」。
「……はっきりした言葉言っていい?」
「構わん」
「イワンコフとイナズマはいい。他が嫌だ」
「……あの二人だけを外に出す説得材料を用意しろ、ということか」
「ああ」
それは、インペルダウンにいるイワンコフとイナズマを脱獄させてほしい、というものだった。
革命軍の仲間として、そして頂上戦争が起きないが故に出てこないから、であるのだけど……他が嫌だ。
元は凶悪な囚人だ。それを解放するのはお断りである。
同時に、チャブルも彼ら彼女らを置いて脱獄、ということはしないだろう。
するとしたら、ドラゴンの命令があった時だけ。俺から説得できる気はしないので、何か材料を用意してくれないとインポッシブル。
その一線は譲らない。この命が軽い世界で、どれだけの国の自警団や海兵たちが、どれほど犠牲になって捕まえた囚人か。海賊ばかりに焦点の当てられやすい世界で、それを解き放つことのどれほど愚かしいことか。
思想という点では俺はハンニャバルに大賛成だ。その国、その国ごとの囚人が脱獄でもすれば、捕まえた兵士や通報した住民は震えて夜も眠れなくなろうさ。良い事をしてその報いがノイローゼなんて目も当てられん。
クロスギルドとかいう最悪の集団ができかねないってことも含めて、たとえニューカマーのみであっても解放はお断りだ。
「俺の機嫌を取るかエンポリオ・イワンコフの機嫌を取るか。簡単な話だろ」
行き過ぎたノイジーマイノリティだ。
一悪けりゃ九十九良くても悪いんだよ、俺の中じゃ。
「……わかった」
「おう、じゃあ他の奴を──」
「お前の意見を尊重する。少し待て、文を書く」
……マ?
自分で言うのもなんだけど俺、そこまで革命軍としての才能無いよ??
──正義の門の上。
そこに座って、インペルダウンを眺む。
運び屋レコダ君としてはまー、お手紙届けるのは良いんだけどね。
あのドラゴンもどこまで見えてんだか、って感じ。
「ヤだな、素直に」
言葉に出す。
……元から俺はそういう人間だ。チャブルとハサミは「反政府勢力だから」って理由での投獄らしいからまだいいけど、その他は単なる犯罪者だろう。中でもニューカマーランドの奴らは、償うべき罪を償うこともせず、看守を監視し返してやりたいことだけをやってる集団。
助ける理由が一つも見当たらない。
もし。
もし、ドラゴンの手紙を読んで尚、あの二人が囚人を連れ出そうとしたら──適当なフロアの牢屋の中に放り込めるよう位置を記憶しておくべきだな。
私刑に意味はない。というか殺したら罪償えないし。
じゃあ今までお前がやってきたのはなんだったんだ、って。
それを言われちゃおしまいよ、ってね。俺も同じ穴の狢さ。捕まってないってだけの。
「──
正義の門から落ちながら、インペルダウン内部に侵入する。
LEVEL1、紅蓮地獄。その天井付近で砂岩ホバリングしながら、色々考える。
俺の
そういうのをちゃんと考えないといけない。考えないと*いしのなかにいる*になる。まぁ飛び込まなきゃいいだけなんだけど。
モーリーに貰った百年前のインペルダウンの中の構造図を手に、考える。どこに跳ぶのがベストか。
「おい! おい! そこの兄ちゃんなんで牢の外にいるんだ!? もしかして脱獄か!?」
「飛べる能力者か! いいな、俺も連れて行ってくれよ!」
「へへ、おれは看守が鍵仕舞ってる部屋知ってるぜ! どうだ、有用だろ、おれなら役に立てる!!」
馬鹿が。
お前らが騒ぐと……ああほら。
折角電伝虫の死角にいたのに、これ伝わったな。ダル。
……看守は私闘もするような輩ばかりだけど、罪は犯していない。いや、私闘は罪なんだけど、ワンピの法律だと黙認されてるっぽい。相手は犯罪者だから、と。つーか看守煽るような行動してない囚人は普通に暮らしてるから、煽ってる奴が悪いとしか思わん。
それに攻撃?
お断りだな。そもそも俺、政府機関はほとんど攻撃しないんだ。シュロロロ以外。
"蘂降る桜"で周囲の空気を降らせる。
声ってのは喉の震えだけど、空気を吐き出さずに叫ぶ、なんて技術を持ってる奴はそんなにいねーだろ。
「何を騒いでいる!!」
ああ、看守が入って来た。
もうちょい待ってな。
「ち、もう来やがった! なら……道連れだ! ほら! あそこ! 脱獄者だ看守、ぐっ!?」
何の恨みがあって……とか思ったけど、元からそういう奴らだったわ。
上顎が降る、っていう経験はないだろ。黙っててくれ。
「確かに何かいるな……ブルゴリ!」
うわ壁走って来やがった。
仕方ない、一旦飢餓地獄に跳ぶか。
砂漠出身者にとっちゃ屁でもない熱と、元より飲食を必要としない体。
ここ、俺にとって苦でもなんでもないな。ここならゆっくり計算ができる。
とりあえず一個下。焦熱地獄の窯の中に入るのだけは避けたい。能力者なんで。
逆に極寒は別にいい。むしろ冷たい空気貰い放題はありがたい……そう考えると焦熱地獄の熱気もちょっと貰っていくか。
うーん。
このモーリーがくれた図なぁ。……本人の体感でしか書かれてないから、具体的な距離がわかんねーんだよな。
とりあえず極寒行って軍隊ウルフの巣の森探すのが楽かぁ。折角地図貰ったけど、すまんなモーリー。
「
「初手王手やめねぇ?」
大人しく飲まれる。
通り過ぎていく毒の竜は──まぁ、なんてことはない。
「……懸賞金四億ベリー、天害レコダ。いつ侵入したか、など今は聞かない。牢にぶち込んだ後で、詳しく聞かせてもらおう……!」
「いやまぁ一切バレずに、は難しいとは思ってたんだけど、なんでバレたか聞いても良い?」
「上の奴らだ。サディちゃんが少し痛めつけるだけで、情報はいくらでも出てくる」
「ああそりゃまた、杜撰だな、俺もそっちも」
麻痺毒に神経毒ね。
うーん残念。シュロロロもそうだけど、俺はそっち系の天敵なんだわ。
「革命軍の懐刀が、何をしに来た」
「ああそういう認識なんだもう。だったら話は早いでしょ。エンポリオ・イワンコフとイナズマを解放しに来たんだよ。他の奴らは知らん、っつーかもっと厳重に固めておいてくれ。隙見て出て来ようとするなら俺が押し戻してもいい」
「……エンポリオ・イワンコフ。イナズマ。その二人はとうにいなくなった。無駄足だったな」
「ああ、そうらしいな。だから見逃してくんね?」
「それはできない相談だ……!」
厚みの計算を終える。
上で警報なってるけど、まぁ下に来たとは思わないだろ、今の口振りなら。
「うん、思ったより寒くないな」
流石に夜の砂漠よりは寒いけど、寒い場所はそこそこ経験して来たしなぁ。
で……軍隊ウルフの巣、だよな。木々の密集したところだと思うんだけど……結構あるな。
……こっちよりアレだな。死体置き場の方が見つけやすそう。
見つけた。
穴があって、スロープになっているそこを通り抜けると──宴会場があった。
──冷たくなる心を無視する。
「お!? 新しい住民か!?」
「抜け穴を見つけたのね!」
「っていうかお前その服……もしかしてマゼランの毒食らったのか!? 早く治療しねーと死ぬぞ!」
「っていうか死んでる! その量食らってたら死んでる!!」
なんでそんな楽しそうにしてられるんだ。
「エンポリオ・イワンコフに用がある。案内できないなら、どっか行っててくれ。一線を越えそうになる」
「……そ……そんなにカリカリしなくていいんだぜ? ほら、見ろよ俺達の自由さ! 確かに死ぬほどの思いしてここに辿り着いて、気が立ってるのはわかるがよ」
「そうそう! 自由になれるのよ、ここは! インペルダウンはLEVEL5.5、ニューカマーランド! あなたも自由になりま」
近づいてきた囚人がパタ、と倒れる。
「別に殺しちゃいないよ。脳に向かう空気一時的にシャットアウトして気絶させただけだ」
ガスガスの実程上手くは操れないけど、近づかれたらできる。ただ
さて、仲間の一人が倒れたとあっては──ニューカマーランドは騒がしくなる。
すわ襲撃者かと。あるいは相当気が立ってるから、鎮静させる必要があると。
銃だの剣だのを向けて。
やめてくんないかなー。
俺の身体は貧弱なんだって。撃たれても斬られても死ぬっつーのにさ。
「全く、朝っぱらから何事ッチャブル! ヴァナータ達、少しは静かにできない──……アラ、新しいコね? ようこそニューカマーランドへ! ここは自由の5.5番地! 看守の目も、性別も、身分も立場も──何もかもを気にすることない自由の国!!」
「……」
「だから、ヴァナタ……その殺気をしまいなさい? 怖い怖い、鋭く薄い、深海を伝う氷のような殺気。そんなものを出されたら、ここにいる子たちが冷え上がっちゃ」
「エンポリオ・イワンコフ。ドラゴンからの伝令だ。読んでくれ」
「は──ドラゴン?」
投げ渡す書状。
それを受け取ったチャブルは、上から下までを読み終えて。
「……なぜ?」
「何が書いてあるか俺は知らない。俺に下った命令は一つ。エンポリオ・イワンコフとイナズマ、その両名をインペルダウンから解放すること。読み終わったのなら身支度でも整えろ」
「なぜ、と聞いているの。……ここにいる子たちを、置いていけ、というのは……どういうことッチャブル!!」
「知るか、と言った。決断しきれないのなら、エンポリオ・イワンコフは革命軍より囚人との縁を大事にした、と報告するだけだ」
肩や頭に付着していた
地面に落ちたそれはジュウという音を立てて沈黙した。
「どういうこと……? ドラゴンはこんな冷酷な判断を下す男じゃない。……そもそもヴァナタは誰!!」
「天害レコダ。革命軍情報管制官副官」
「……ギルテオの部下。でも、ヴァターシはヴァナタを見たことが無い。つまり新顔も新顔。そんなヴァナタにあのドラゴンが伝令を任せたというの? ヴァターシには新聞を通じてでも情報を届けられるのに?」
疑いの目。
ま、そりゃそうだ。ドラゴンの性格を考えれば、インペルダウンに侵入して情報を届ける、なんて役割を新米に任せるわけがないし、今チャブルの言った通りわざわざ人を派遣しなくても言葉は伝えられる。
チャブルとハサミは別に俺の手助けなんかなくとも脱出できるだろうしな。その手段は知らんが。
「……ヒー!! ハー!!」
突然叫んだチャブル。
冷静沈着にテンションとノリで生きてるコイツの言動は予測がつかん。
「ヴァナタでしょう、ドラゴンに口添えをしたのは! ひしひしと感じる、ここにいるコたちへの殺意! ヴァナタが受け入れなかったから、ドラゴンはヴァターシに仲間を見捨てろ、なんて文を付け加えた!」
「かもしれない。それで、答えは?」
「当然! 受け入れられるわけがない!!」
「そうかい。んじゃあ力尽くになるよ。すまんな、エンポリオ・イワンコフ。──
近く、俺達の様子を見ていた囚人の足元に穴が開き、そのまま降っていく。
一人じゃない。二人、三人と。男女関係なく。武器の所持はちゃんと見てる。それで看守が撃たれたら目も当てられないからな。
「止めなさい──ンナ! DEATH WINK!!」
「
風圧を逸らす。……こう考えるとホントにカイドウやばかったなぁって。壊風特に性能エグいんだよなアレ。アレ連打してるだけで勝てた説あるもんな。プロレス好きじゃなかったらマジで最強の生物だった。
「ヴァターシの仲間をどこへやったの!!」
「強さ的に見合いそうなフロアの牢に送還した。殺してないよ」
「なんてことを……!!」
「まぁそうだろうな。一度甘い汁を知った人間だ。また地獄に転落するとなれば、今まで普通に刑期を全うしてた囚人よりも早くに心が折れるやもしれん」
「それがわかっていて、ヴァナタは」
「それがわかっていて、凶悪犯に甘い汁を吸わせていたんだろう、エンポリオ・イワンコフ」
原作ではまだ"時"じゃないと思っていたとはいえ、脱獄する気ではいたんだ。奇跡的に盆暮れが女王に成り代わったから良いものの、それがなければどうなるかなんて想像に難くない。
指導者を喪った、看守を舐め腐った囚人たち。次第にうまくいかなくなっていく盗みは食糧問題や不自由を生み──後に残るのは奪い合いか、ヒエラルキーの形成か。
自制心のある奴らじゃないからここに収監されたんだろうに。
「……ヴァナタが犯罪者嫌いなのはわかっチャブル。だから、ドラゴンに伝えなさい! ヴァタシはヴァターシの手段で脱獄する! シャバに出る気のある子たちを連れてね!!」
「エンポリオ・イワンコフとイナズマを解放して来い、という命令。その失敗を俺に押し付ける、という認識で良いか?」
「命令失敗がそんなに怖いの? ──やっぱり新顔ね。それに、革命軍の理想とする未来が見えていない」
「
「ローリング・エステ!!」
……。
まぁ、そうだ。
「イナズマ!!」
「はい」
「このボーイを閉じ込めて頂戴!!」
「仰せのままに」
ハサミが出てくる。
チョキチョキの実なー。強いとは思うけど、戦闘向きかっつったら微妙だよな。
「"
「な、なんだァ!? 地下で雷!?」
「ヴァナタ達、奥へ! バッキャな事言ってないで、逃げるのよ!! もう地獄には戻りたくないでしょ!?」
「逃げた先に
「!!」
集まってくれるんだ。
そんなありがたいことはない。
「い、イワさ……!」
「嫌だ、嫌だ!! もうあそこへは」
「許してくれ、おれは焦熱地獄から来たんだ、おれは、もうあんな場所に耐えられはしねぇ──」
「なんでこんな酷いことをするの!? 私達は──」
ぞっとする殺気が来た。
エンポリオ・イワンコフ。カマバッカ王国女王にして、革命軍G軍軍団長。
「イナズマ、壁を作る方に集中して! コイツはヴァタシがやる!」
「はい」
「視認してなけりゃ穴ァつくれねーんなら俺はどうやって入って来たんだよ」
声がする。
チャブルに助けを求める声が、今ハサミの持ち上げた床の向こうで。
「……!」
「これでもまだニューカマーランドの半分も持っていけてねーだろ。さぁ、どうするエンポリオ・イワンコフ。アンタが頷きさえすれば、少なくともこいつらは元のフロアに戻らずに済む。アンタが頷かねェなら、俺は力尽くでここにいる全囚人を基のフロアに戻し、5.5番地自体を塞ぐ」
「……エンポリオ・顔面成長ホルモン!!」
巨大化するチャブルの頭部。
そこまででかくなってくれるなら、むしろ、だ。
瞼を降らせる。
「ンナ!?」
「瞬きの風圧で攻撃すんなら、最初から目ェ閉じさせりゃいいだけだわな」
「ンンン……ググググ!!」
「さて、そう頑張って目を開こうとしている間にもどんどん囚人が元のフロアに戻っていくぞ。奇抜な服装だからな、まずは裸に剥かれて、囚人服を着せられて。ああ、その前に拷問か。今までどこにいたのかを吐かせられる苛烈な拷問。その後、誰か一人がここへの行き方を吐いて、全滅。想像に難くない」
「ヴァナタは……何の恨みがあって……!」
「恨みなんかないから殺してねーんだろ。元居た場所に戻してるだけだよ。奴隷やら体制やらが気に入らねーってのには大賛成だが、犯罪者を甘やかすのは全く違う話だろうよ」
全ての犯罪者を元の場所に。悩めば悩むほど数は増え、露見の可能性も増える。
エンポリオ・イワンコフの理想のもとに集まった者ならば口は割らないのかもしれないが、彼らの全てがそうだとどうして言える。
自分がまたこんなにつらい思いをしているのに、あそこにいる奴らはまだ楽しい思いをしているのか、と。
その嫉妬だけで、充分に人の口は軽くなろうさ。
「……わかっチャブル。身支度は必要ないから、これ以上あの子たちを望まぬ地獄に返すのはやめなさい」
「ああ」
「──なんて言うと思ったか、ニューカマー拳法44のエステ奥義の一つ、
「だよな。俺も嘘吐きで不意打ち使いだからそうやってくると思ってたよ」
開くは──二人の足元。
天と天を結ぶ。咄嗟の判断で転がろうとしたのは見事だけど、「空中にあるものを降らせる」ことに関しちゃ俺に軍配が上がる。
「すまんな、エンポリオ・イワンコフ。実はアンタが頷こうが頷かなかろうが、強制的に引き戻すつもりだったんだ」
「……!! ドラゴンは……なぜ、ヴァナータみたいなのを……!!」
「抵抗できるのか。流石だなぁ」
「ググググ……ヴァナータ達!! ヴァタシは──シャバに出る! だから!! ヴァナタ達もまたシャバに戻って、行く宛がなくなったのなら、カマバッカ王国に来なさい! ヴァタシはヴァナータ達のことを忘れない!!」
「イワさん!!」
「イワさーん!!」
「お、置いて行かないでくれよイワさん、オレたち、アンタがいないと」
「くそ、イワさんとイナズマさんを返せ!!」
降らせて閉じて、自分も降る。
陰鬱とした地下から降り注いだ先は、からっとした空気のバルティゴだ。風が気持ちいい。
俺より先に落ちていた二人。俺は砂岩ホバリングでちょいと滞空。
そして──怒鳴り声が聞こえてくる。
「ドラゴン!! ヴァナタ、どういうこと!? ヴァターシとヴァナタは対等!! そうじゃなかったッチャブル!?」
「……久しいな、イワ」
「どういうつもりかを聞いてんだ!! ヴァターシはあんなのが入ったなんて聞いていないし、あんな、あんな……冷たい殺意を持てる奴を、どうして……!」
「確かに」
静かに、ドラゴンが口を開く。
「確かに奴と我々の目的は違う。──だが、奴の理想と、奴の能力は必要だ」
「……!」
「頭を冷やせ、イワ。長くを共にすることは情を湧かす。それはわかる。だが、真の目的を忘れるな」
「……。……降りて来なさい、ヴァナタ」
「降りてったらビンタでもすんだろ。そんで、私は認めない、とでも言う。んなことわかってたら降りないよ」
「イナズマ!!」
「よせ、イワ。奴は命令を遂行したに過ぎん。──当たる先が違う」
「やけに庇うじゃない、ドラゴン……なに? あのボーイに個人的な情でもあるの? ヴァタシ達よりも大切な情が?」
「イワ」
感情的にこそなっていないけど、ハサミからも殺気に近いものを感じる。
思う所はあるんだろうな。
「……納得の行く理由を寄越しなさい。それまで……ヴァターシはヴァナタと口を利かないから!!」
「ああ」
「っ……! この、わからずやッチャブル!!」
ドスドスとわざと足音を立ててバルティゴ内に戻っていくチャブル。追従するハサミ。
それを見届けて、しばらく時間を置いてから……ドラゴンの横に降りる。
「確かに……奴が直情的になり、戻るのを嫌がるようならば、お前の虚言を使うのも構わんと言ったが」
「やりすぎだ、って? 俺としては今回嘘言ったつもりないんだけどね」
「そうか。ならばもうイワとは関わるな。恐らく相性がどこまでも悪い」
「自分で行かせておいてよく言うよ」
「お前のその移動能力は希少だ。ワプワプの実でも手に入ればまた違うのだろうが……無いものを強請っても仕方あるまい」
と。
ぷるぷるぷる、と。電伝虫が鳴る。俺のだ。
「ちょいと失礼。はいもしもしー?」
『あ、やっぱり居た! ほら、ロビ──』
がちゃ。
「じゃーな、ドラゴン。イワンコフいる日はもう近づかないから」
「ああ」
逃げべ逃げべ。
白ひげ海賊団襲撃の中で獲得した、「天空ってこうだよね!!」の産物である技。
今はこれをどうにかして足場にできないか模索中だ。砂岩ウォークも砂岩ホバリングも、ずっと動いてるから頭を働かせるのに向かない。
どうにかして島雲くらいの硬さにしたい……という一方で、俺の中の「いや天空なんだからすり抜けるに決まってんじゃん」という常識が邪魔をしてくる。
「おーいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいレコダ君。来ていたなら言ってくれたらいい物を、どうしたんじゃ、そんな端っこで」
「ハレダスのジーサン。……いやな、空に座るにはどうしたらいいんだろうって考えててさ」
「……空に座る。ふむふむ。ふむ。ワシに悪魔の実の能力のことはわからんが、素人意見を言わせてもらっても良いか?」
「ああ。今スランプみたいなもんだから、なんでも助かる」
「空に座る、というのはまぁ、無理じゃろう。が、シャボンに座ることはできる」
……確かに。
シャボン、クソ硬いもんな。軽いのに。
「それと同じではダメなのか? 軽いガスを天空とやらの中に入れて、それに座る……というのは」
「あー。……それは別の能力の領域でなぁ」
やっぱりシュロロロずりーよ。ガスガスあればどんだけ色んなことをショートカットできたか。
大気中からヘリウムを作る、ってのもちょっと現実的じゃない。それを持ち歩くのも。
うーん。
やっぱりミルキーダイアル常備が安牌かなぁ。
「ほっほっほ、常識の罠に囚われておるな。そうじゃ、ちょっと待っておれ。面白いものを見せてやろう」
そう言って楽しそうにハレダスのジーサンは自分の家に帰り、そしてすぐに何かを持ってきた。
……液体? 透明な。
「風の結び目は見たことがあるじゃろ?」
「ああ」
「これはそれの液体版じゃ。まだまだ改良の余地はあるが……ほれ」
ぽと、と。
一滴。ハレダスのジーサンが落としたその液体から……風が吹く。……どういう原理だこれはまた。
「ほれほれ」
ボタボタ。ビュー。
「ホレホレホレホレ」
ジャバー。ゴー。
「いやもうわかったからいいけど。何が言いたいのかはよくわからん」
「わからないかね?
「……あー、天空をそういうものだと認識しろ、って? それができねーんだよ俺、ちょっと変な常識があってさ」
「いやいや。レコダ君の言いたいことはよくわかる。大気とはすり抜けるもの。だから立てない。──じゃが、大気とは軽いもの。それはわかるじゃろう?」
──うわ。
マージでタメになるな。
「つまり──こうだな?」
バブリーサンゴを取りだし、その中に「軽い天空」を詰めていく。
人魚が乗っても割れないシャボンだ。そして、「天空が軽い物である」というのは想像しやすい。
よって……今造り出したシャボンは。
「よ……っとと、おお。おー!」
「ほっほっほ。上手く行ったようで何よりじゃ」
乗れた。バランスはムズいけど……俺の体重より中の天空の方が軽いから、上へ上へと昇っていく。
あとはこの中身の天空の軽さを調整すればいいわけだ。
はー。
「マジで助かる。ウェザリア万歳」
変な苦手意識持ってないで、もっと早くに来たらよかった。
──広がるぞ~、戦略! と、小技!
それに……俺のチート能力を考えりゃ、最悪シャボンがなくたって。