エルマルは……終わらねえっ!   作:ONE DICE TWENTY

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第3話 決着! 天気予報はいつも雨

 避ける。避ける避ける避ける。

 目隠しをした状態で、木剣を避ける。

 耳で聞け。鼻で嗅げ。

 砂まみれの足場には無い匂いと圧力。風。押し出される空気が肌に当たるのを感じろ。

 

 見聞色の覇気に目覚めた──とかじゃない。

 これはただの訓練。ペルさんの感情なんか何にもわかんないし、木剣が白くぼんやりと見えるとかでもない。

 

 ただ、五感を総動員して避けているだけ。

 

 袈裟、横薙ぎ、振り下ろし、斬り上げ。

 

「よし、いいぞ。ではこのまま、模擬戦に移行する」

 

 ザク、と。 

 俺の隣の砂に突き刺さるは、空より降って来た木の棒。

 

 それを掴んで、俺のバックステップの距離じゃ間に合わないレベルの踏み込みをしてきたペルさんの木剣を受け止める。

 当然のように負ける膂力。だからそのまま押し返されて──背面宙返り。

 

「おっと」

 

 チッと掠めた感覚があった。つま先。木剣が引かれる。

 バックステップが間に合わないとわかっていたのに、上体を逸らし過ぎたな。修正。

 

 二秒、しっかりカウントして、全身のばねを用いて今度はこっちからの急襲。左からの振り下ろし。それに対処せんとするペルさんの木剣の風切音を聞きながら、彼の身体を真っ二つにするつもりで棒を振り切る。

 直後、降って来たもう一本の棒を空中で掴み、身体が捩れ開くのを利用して打撃と蹴りを入れる。……掌の感覚。防がれている。

 

「良いフェイントだ。だが──」

「飛べもしないのに地から足を離すのは良くない。だよね?」

「ほう?」

 

 さらに二本、三本四本と降り注ぐ木の棒。それらを掴んで砂に突き刺し、今まさに掌底を受けようとしていた体を無理矢理引っ張る。

 余りは全てペルさんに向かって投擲したり蹴ったりしながら、尚も降る木の雨の中を転がるようにして進む。

 

 そして、十分な距離が取れたあたりで──砂に突き刺さった木の棒を伝い、もう一度の急襲を仕掛ける。

 行うは盛大な振り下ろし。面だ。剣道の面。

 子供の膂力でも、てこの原理でなんとか形になるそれは、けれど当然防がれて。

 

「ここまで」

「……参りました」

 

 まだ隠し玉はあったけど。

 頃合いなのは、確かだ。

 

 目隠しを取れば、ギラつく太陽に少しの立ち眩みを覚える。

 

 周囲は……絨毯爆撃でも受けたのではないかと思うほどにボッコボコになった砂の山。

 突き刺さっていたはずの木剣は全てが消えている。

 

「全く、模擬戦闘と言っているんだ。いつか君があのならず者達を倒した時のようなことをしてきても良いというのに」

「いやぁ、あれは完全能力ありきの技だからなぁ。俺はどっちかというとこういう……なに? 能力を駆使して肉体も使う、って戦いの方が好きなんだよ。戦ってる感あるし」

「君の嘘にも慣れたよ、レコダ。とっさの判断で能力を使うと、殺傷能力の高いものを使ってしまいかねないから、だろう?」

「う……。まぁ、そう」

 

 天候人間、と銘打たれてはいたけれど、多分違うことはわかっている。

 いや、天候を操れるのは事実なのだろう。恐らく前任者は自身を鍛え上げ、天候操作をモノにしていたのだ。だから悪魔の実図鑑にはああやって記載されていた。

 

 けれど多分、それ以外もできる。

 そっちは喉から手が出る程欲しい能力だけど──強力なのはこっちだ。

 

 

 ──ペルさんとの共同生活を始めてから、早五年が経った。

 スナワニ上陸まであと三年。ただ、それ以外に海賊の台頭……というか激化が増している。

 ナノハナの治安が悪くなったとかよく聞くし、砂漠にはならず者が増え、アルバーナでも見かける始末。

 

 成程、とは。

 思ったかもしれない。これら海賊やならず者を全て〆て、この国を王下七武海の縄張りとして宣言し、木っ端海賊を近寄らせないようにしたというのなら……スナワニの人気が出るのも頷ける。

 

「レコダ。君は暇があれば何かと海を見ているな。……もしやとは思うが、海に出たいのか?」

「全然。悪魔の実の能力者が海に出たいわけないじゃん」

「そうか」

「うん」

 

 そうだ。

 何より、やっぱりおかしいアラバスタは……住みやすい国になりつつある。

 サンドラ河の水量減衰が抑えられ、旱魃被害が減り、他の国に比べたら少ないものの、雨もそこそこ降るようになった。

 原作と今とで何が違うかって、どう考えても俺の存在だ。

 

 だとして……スナワニがダンスパウダーを使った場合、それを維持できるかはわからないけど。

 

「っと、そろそろ時間だ。んじゃ俺、配達行ってくるから」

「ああ。私も出よう」

 

 ユバが交易の街として機能し始めてから、配達の仕事はかなり減った。

 当然だ。行商人というマジモンの配達人がいる以上、俺を頼る理由がほとんどない。昔馴染みの人たちは俺を使ってくれてるけど、デカい荷物なんかは完全に行商人頼みだ。

 そして俺もそれで構わないと思っている。それで機能するならその方が良い。

 

 ……機能し続けるなら、だけど。

 

 

 

 さて、各地を回って、最後の配達先はアルバーナ。

 

 そこで──ばったり。

 

「会わない!」

「ま、待って!!」

 

 逃げべ逃げべ。

 アレはビビ王女じゃない。ペルさん曰く、無断外出を避けるようになり、単独行動をしなくなったビビ王女があんなところにいるわけがないので、多分偽物だ。センシティブな所から孔雀ッキー・スラッシャーしてくるだけの人だ。

 

 じゃあ本物じゃん。

 

「フフーフ、五年を経てさらに早くなった俺の脚についてこられる……人が隣にいる」

「こうして面を合わせるのは初になるか。私は」

「知らぬ!」

 

 ジャッカルは人語を喋らないのでアレはチャカじゃない。

 おいおい、何があったら俺を追いかけて来るんだ。なんか衛兵総動員してないか。気のせいか。気のせいだなわっはっは。

 

 ……屋根に逃げてもダメか。

 そもそもおかしい依頼ではあったんだよな。先述の通り交易の中心街になっていたユバからアルバーナへ向けての荷物とか。行商人に頼めよって話で。

 

 まさか罠とは。……つまりばったりでもなんでもないってコト!?

 

「待ち、待ちたまえ! どうしてそう逃げる!」

「それはとても簡単なことSir.」

 

 アルバーナの外まであと一歩。

 そんなところで──身体がふわりと浮いた。

 

「──すまない、ビビ様の依頼でな、レコダ。君をビビ様の元に届けて欲しい、と」

「裏切り者めぇ!!」

「君が何を恐れているのかはわからない。だが──これほどの時を過ごしても、やはり私は頼れないだろうか」

 

 ……。

 そういう問題じゃないんだワサ。

 

 頼れるか頼れないかとかじゃない。頼りになる度で言えばペルさんは最上級に頼れる。

 それで頼ってんなら最初から頼ってる。

 

「ここは空だ。誰が聞いている、ということもない。それでも無理か、レコダ」

「……俺の話を王に話さないと誓えるなら言ってもいい。でも無理でしょ」

「それは無理だな」

「そうであってくれなきゃ困る。俺なんかよりアラバスタへの忠誠優先でしょ。……ビビ王女は、なんで俺を?」

「決心がついた。直接会ってお礼がしたい、だそうだ」

「もう聞いたから要らんって言っておいて」

「言って聞く王女に思うか?」

「いいの、それ。不敬じゃない?」

「ここは空だ。誰が聞いている、ということもない」

 

 さいで。

 

 ……協力する、という選択肢は……無くはない。

 だけど、味方が増えれば増えるほどアイツが厄介すぎる。

 ペルさんみたいな動物系ならそれでいい。だけど、俺の場合見た目が変わらないから……ダメだ。

 

 服を脱いで、ペルさんの拘束から脱する。

 そして能力を用いて砂岩を降らせ、飛び乗り続ける、を繰り返して滞空する。スカイウォークやゲッポゥ! ほどじゃないけど俺も飛べるって話。

 ちなみに砂岩は地面に着く前に消える。消滅までの時間はある程度操れるようになったんだ。時間を延ばすのは無理だったけど、減らす方がね。

 

「……一人で背負ったところで、良いことは何も起きないぞ」

「そこまでの滅私精神はないから大丈夫。ほら、服返して。上裸でエルマルまで帰るつもりはないよ俺」

 

 何やら神妙な顔のままのペルさんに、服を返してもらう。

 降り注ぐ砂岩を飛び移りながら服を着るという大道芸をし、そして。

 

「今日で終わりにしよう、ペルさん。五年間、お世話になりました」

「……もう信用できないか」

「そうだね。配達の仕事を利用して俺を動かす、ってのは……俺がどこに行くかをわかってるペルさんにしかできないことだっただろうから。これから先の仕事を全部疑っちゃ疲れちゃうよ」

 

 ペルさんは……口角を上げた。

 

「君の嘘には慣れたと言っただろう? またな、レコダ。速達便があれば、私を使うといい」

「うん。本当、お世話になりました」

「ああ」

 

 踵を返す。

 二人が、二人とも。

 

 ──あと三年。

 

 

 

 

 経った。

 そして、そいつはやって来た。

 

 カトレア周辺にいたならず者を退治し、コブラ王に快く迎え入れられた海賊。

 王下七武海──サー・クロコダイル。

 

 まずは一手目。

 

 ──降る。降れ。降らせる。

 

 血の雨を、降らせる。

 かつてない規模で、かつてない範囲で、かつてない長時間。

 

 スナワニがこの国に迎え入れられてからの七日間──血の雨がアラバスタに降り注ぎ続けた。

 

 

 

 ざわめきがあった。

 

「聞いたかい? 数日前に来た王下七武海の話」

「ああ、勿論さ。ったく、不吉ったりゃありゃしない」

 

 不信。

 不審。

 

「ほとんど雨の降らないこの国で、七日も降り続けた血の雨。発生原因は未だ不明……ね。ニュースクーにも載せられてるじゃないか」

「当然だろう、コイツは神様の怒りって奴だよ。結局海賊は海賊だ。それを受け入れて、悪いことが起きないはずがない」

 

 不安。

 不穏。

 

「レインベースの降雨量が一番多かったそうだよ」

「レインベースって言えば、その海賊が家を買った街じゃないか!」

「あそこのオアシスは大切な水源なのに、一時血まみれになったって……はぁ、恐ろしいねえ」

 

 計画通り、だ。

 

 

 二手目。

 

「よ、っと……。いやぁ、流石は自然系。人が生み出すモノとは思えんね、こりゃ」

 

 砂岩を乗り継いで眺めるは、巨大な砂嵐。

 突然現れたソレは、ユバの交易先の一つであるセズサナ村を襲おうとして……止まっている。

 

 いや、引き返そうとしている。

 

「はっはっは……下手人としてその場にいるわけにゃいかねーもんなぁ。能力者の手から離れた砂嵐は、結局自然の砂嵐でしかねーんだわ。だったら」

 

 八年をかけて、砂漠の形を変えた。

 時には砂を降らせ、時には重い物を降らせて砂を巻き上げ、溝を作り。

 また、「時間が経ったら消える砂」を「湿らせた土砂」で固めて、砂丘クラスの巨大な山を創り上げたり。

 ただそれだけじゃあどうにもならない部分があるので、今こうして俺が出向いてきている。

 

 砂にァ砂ぶつけんだよ!!

 

 わかってる。スナスナの実の出力に敵うはずがないってことくらい。

 だから、八年の結集に加えての砂だ。さらにこの砂は、消える。自身が降り落とした砂。入れ替わるように入って来た砂が突如消えれば、勢いは弱まる。そこに空洞の砂丘だ。どれほど巻き上げようにも中身がないんじゃどうしようもない。外側の土砂は重く作ってあるしな。

 

 ──止まれ、砂嵐。

 

 果たして。

 

 

 

「こりゃ……近年稀にみる砂嵐だねぇ。レコダ、お前も大変だな。偶然居合わせるなんて」

「いやぁ……まぁ、運が悪かったな」

「だな」

 

 減衰はさせた。

 だけど、止まらなかった。

 

 巻き込まれる前にセズサナの村に降り、知り合いの家に入れてもらって──反省。

 

 足りないか。無理なのか、砂嵐を止めるの。

 あるいは俺が横風を吹かせられるなら。……気圧勾配を操る……には、大規模な能力の行使が必要だ。砂嵐周辺だけでそんなことが起きれば、流石に気付かれる。

 スナワニの目論見を知っている悪魔の実の能力者が、故意に妨害している、ということが。

 

 俺に身寄りがなければ。

 あるいはエルマルにかかわりが無ければ、バレたってそれでいい。

 

 だけど相手はマフィアだ。それも狡猾な。

 確実に見極めてくる。そして、狙ってくる。

 

 砂嵐の周囲を飛び回る小さな影と──ソイツの近辺にいる人々の命を。

 

「レコダ、どうせ今日は配達物全部砂まみれだろうからさ、コレ収まったら帰んなよ」

「え? いやいや、屋根とか砂まみれだろ。掃除手伝っていくよ」

「馬鹿言え、そんなことしたら俺達がエルマルの連中にどやされちまう」

「そうだよ、レコダ君。アンタ案外大切にされてんだから、早く帰って安心させてやんな」

「……ちょっとだけ。ちょっとだけ手伝ってくから。そんですぐ帰るから。な?」

「気持ちはありがたいけど、大丈──」

 

 ──破砕音。

 亀裂の入る音。悲鳴。

 

 減衰させても、そんなにか!

 

「不味い、床下の倉庫に隠れろ!」

「レコダも来い!」

「いや……いいよ、俺は。そんなスペースないだろうし」

「馬鹿言ってんじゃないよ、食料掻き出せば子供一人が入る隙間くらい」

「んじゃ! 二人はちゃんと隠れてろよ!」

 

 失敗だったな。

 余計な心配をかけた。

 

 扉を開け、出て、すぐに閉じる。

 うおー、肌に当たる砂の粒がチリチリと。

 

「なんつーかなぁ。やっぱ……ペッペ」

 

 長年かけた計画とかさ。

 腹に秘めたる感情とかさ。

 

「どーもそういうので動けねぇみたいだ、俺は」

 

 ……雨を降らせる。

 まだ大雨クラスは無理。だけど、小雨程度の雨を。

 

 それは──確実に砂嵐の砂を重くしていく。地面を湿らせ、砂嵐の原動力を奪い去る。

 

 あり得ない雨だった。

 狐の嫁入りってレベルじゃない雨。

 

 ……奇跡と呼ばれたら、それでいい。

 けど……。

 

 

 

 

 数日後。

 確実に、ユバの交易先周辺にならず者が増えた。

 いや、ならず者とは呼べない。なんせ住民に手を出すことはないのだから。

 

 ただひっそりと、何かを監視するように路地裏で潜む人影。

 

 ……三年前の時点でもうこんなにも組織力があるのか。

 

「おや、レコダ君。君がユバに来るのは久しぶりだね」

「トトさん。……ちょっと痩せました?」

「はは、沢山働いているからねえ。太ってもいられない」

 

 現時点では、監視の目が俺だけに向いている、ということはない。

 どちらかというと周辺域全てを見て怪しい奴をリストアップしてるって感じだ。

 

 あんまり健脚も見せない方が良いかね、これは。

 

「今日はなんでここに?」

「久しぶりに配達物が一個も無かったんで、競合他社の様子でも見に」

「ああそうか……君がユバに来なくなったのは」

「おっと冗談です冗談です。行商がちゃんとした方が絶対良いですし、俺の商売なんて元は力持ちで速く走れるから、なんて理由でやってただけで、物流に誇りとか無いですし」

 

 ……待てよ?

 確かにスナワニが英雄になったのはこの三年前だけど、ビビ王女がBW入りしたのは五年前前後だったはず。

 待て。

 あの日……彼女が俺を呼び出した理由って……まさか。

 

「レコダ君?」

「っと、すんませんトトさん。俺アルバーナに届け物あったの忘れてました。今から行ってきます」

「今からか。……砂嵐には、くれぐれも気を付けるんだよ」

「はーい!」

 

 健脚を見せない方が、とか言ってられない。

 確認しなければならない。あの日、ペルさんが俺との関係を解消してまで行動を起こした真意を。

 

 ──つーかやらかし過ぎだろ俺。

 

 

 

 砂岩ウォークを使って王宮に直でINする。

 当然衛兵が来る……けど、その中にいたペルさんが俺を見て、目を見開いた。

 

「ペルさん、ちょっと! 速達便! 空で!」

「……わかった。すぐに行こう」

 

 彼の背に乗り、空へ飛ぶ。

 開け放たれた密室。声の届かないその場所で──開口一番。

 

「ビビ王女は、今どこに?」

「……」

「その反応だけで十分だ。ごめん、ペルさん。あの日ペルさんが差し伸べてくれた手、取るべきだった」

「……レコダ。君は」

「バロックワークス。ビビ王女が今いるの、そこでしょ?」

「!?」

 

 その決死の雰囲気を見ればわかる。

 ……ああ、酷いやらかしだ。彼女は俺を頼ろうとしていたかもしれないのに。

 

「レコダ。それ以上はダメだ」

「いや、俺だから言うんだよ。俺は元々、バロックワークスからこの国を守るために動いてたんだから」

「なんだと?」

 

 決めた。

 ペルさん。彼を信じる。

 

 あまりにも……遅すぎる決断だけど。

 

「まず──バロックワークスの首魁は」

 

 全てを話す。

 俺が知っていることを。ただし、まだ起きていないことを除いて。

 俺がやってきたことを。ただし、チート能力云々は除いて。

 

 

「クロコダイルが……」

「厄介なのはMr.2 ボン・クレー。マネマネの実の能力者で、他人に成り代わることができる」

「成程。君が頑なに単独行動を貫き、王家に会わずにいたのは、我々が君を信じすぎることを避けるためか」

 

 そうだ。顔を触れられなければいい……などと。

 できる前提で動くのは流石に無理だった。

 

「その結果がこれだけど。……でもまぁ、過ぎたことは悔いない。とにかく今は、クロコダイルとバロックワークスの被害を最小限に抑えないといけない」

「なぜだ?」

「なぜ、って……え? 何が?」

「確かに今、クロコダイルは英雄扱いされ始めている。だがレコダ。()()()()()()()()()によって、未だ不信感を持つ国民がいるのも確かだ」

「……俺の仕業ってバレてたんだ」

「私以外は気付いていないがな。何の理由があったのかも問いたかったが、バロックワークスの手が国中に伸びている今、私が個人的な理由で君に会いに行く、というのは君やエルマルに迷惑がかかりそうだと思い、自重していた」

「その判断は多分正しい。秘密結社。マフィアだ、相手は。だから」

「だから、アラバスタが国力を上げてクロコダイルの粗を探せば、必ず見つけられる」

 

 ……。

 なぜ、はそこに繋がるのか。

 

「クロコダイルに勝てなきゃ意味がない」

「勝てないのか?」

「相手はスナスナの実の能力者。自然系だ。勝てるワケが」

「だが、そのために君は私から剣や武を学んでいたのだろう?」

「それは」

「君には勝つための手段がある。あるいは策が。だが、君には組織力が無い。仲間がいない。だからどうしても後手に回らざるを得ない」

 

 なら、と。

 ペルさんは……笑う。

 

「私を頼れ。まず一人目の仲間が私だ」

「……。うん。それじゃあ、そうだな。……どうしよう」

 

 計画は俺一人で行うものばかり。

 仲間がいる、なんて前提はない。

 

「クロコダイルは王下七武海の一人だ。それを倒せば、俺はお尋ね者になる。……ぶっちゃけそれ自体はどうでもいいんだけど、クロコダイル一人を倒したところでバロックワークスが解体されるまでには時間がかかるだろうし……」

 

 何より、ニコ・ロビンが麦わらの一味に入らなくなる。

 

 彼女を救うのなら、麦わらの一味以外無理だ。そして麦わらの一味も彼女に助けられた部分がある。

 でも、ニコ・ロビンのためだけに、エルマルを、アラバスタを見殺しにする、とか。

 

 ……ん。

 

 よーし。

 

「四の五の考えると、大体やらかすんだよね、俺って」

「そうだな。君は考えていない時の方が強い」

「酷い。……レインベースに行く。ただ、ペルさんは」

「わかっている。チャカや王への進言だな」

「うん。でも、()()()()()()()()()()()()から」

「必ず説得してみせる」

「自分を大事にね」

「レコダ。君に言われる日が来るとは」

 

 空中で別れる。

 

 俺は砂岩ウォークを使ってレインベースに直行。ペルさんはアルバーナへ急行。

 ここで終わらせられるなら……そうさ。

 

 それに越したことはない。

 

 

 

 *

 

 

 

 レインベース。

 その中の、クロコダイルの住まう家に──ボウリングの弾を落とす。砕ける建材。何かの割れる音。周辺住民の悲鳴。

 

 直後、ぶわっと砂が舞って、外に出て来た。

 

 それは俺の立っている場所……向かいの家の屋根の上に纏まる。

 

「……今のは、お前か、ガキ」

「ああ。初めまして、Mr.0。サー・クロコダイル」

 

 屋根の上とはいえ往来で。

 誰にでも聞こえるくらいの音量で。

 

 スナワニの額に青筋が入る。

 

「他人の家潰して、責任は取れるんだろうな」

「国家転覆を狙ってる奴に言われたかないね」

「そうか」

「そうだよ」

 

 なら、死ね。

 

三日月形砂丘(バルハン)

 

 ラリアット気味の砂の刃が迫る。

 それを、俺は。

 

 ──避けない。

 

「ん……なんだ、口先だけか?」

「いや、脱水症状が俺にとってどういう扱いになるのかを確かめたかった、って感じ」

「……」

 

 俺の身体を通り抜けた砂。

 けれどそれは、俺から水分を奪うことも、ミイラにすることもない。

 

「……能力者か」

「そんなのアンタの家をぶっ壊した時点でわかってたでしょ?」

「フン、あの程度能力なんざ使わずにできる」

「それはそう」

 

 んじゃ、検証も終わった所で。

 

 やりますか。

 

「天気予報だ、サー・クロコダイル。今この時より、レインベースはところにより──」

砂漠の宝刀(デザート・スパーダ)!!」

「血の雨が降るでしょう、ってな!」

 

 それを避けて、肉薄する。

 降り始めた血の雨。それはクロコダイルの身体を固める。

 

「こいつぁ、てめぇの仕業だったか!」

「今アンタの危険さに気付いてんのは俺くらいしかいないんでね、トーゼン!」

 

 腰に佩いたサーベルによる斬り上げ。

 それをスナワニは上体を後ろに逸らすことで避ける。

 砂化は……できていない。いいね、ならいける。

 

「砂になれなきゃ殺せる、とでも思ってねえだろうな」

「思ってるからこうして殺しに来たんだよ、サー・クロコダイル」

「……付き合ってられねえな。オイ、ミス・オールサンデー」

 

 全身に──腕が、生える。

 けれど、それがキマる前に、俺の周囲に真っ黒い液体が降り注いだ。

 ハナのように解ける腕。

 

「コールタールの雨。どう? 視認性最悪でしょ」

「……」

 

 ハナハナの実の発動条件は視認。もうちょっと成長すると視認していようがいなかろうが関係なく全てに生やせるようになるけど、今は視認が必要なはず。

 だから対処はこれでいい。

 

 粘性の高い雨だ。落ち切るのに時間がかかる。良いカーテンになる。

 

 ──もう一度スナワニに斬りかかる。ただ、スナワニ自体の戦闘力も名だたるものだ。全て既のことで避けられる。

 覇気は習得していないはずなので、単純に俺の剣が遅いだけだろう。

 

 反撃。

 

 腹を掠めたソレ──毒針。

 服をじゅくじゅくと溶かしていくソレは、けれど俺の肌には何のダメージも与えない。

 

「てめぇの能力はなんだ」

「言うワケ」

 

 直上より落とすは、砲丸。

 血とコールタールに濡れた身体で受ければ即死。そのレベルの重さ。

 

 ……は、腕のフックの柄部分ぶつけることで往なされた。

 あれそんなに硬いんだ。

 

「掴めねえな」

「何が?」

「そんだけこっちの事情を把握してて、単身で乗り込んできた意味が理解できねえ」

「俺だけで十分だからね、アンタを殺すにゃ」

「短絡的が過ぎる、って言ってやってるんだ」

 

 ──首に手が巻き付く。

 おっと。コールタールのカーテンが切れた? ……違う。

 

「クハハハ。理解できねえって顔をしてるな」

「そうでもない。大方、アンタの身体に目を生やして、それで俺を視認した。そんな感じじゃない?」

「……つまらねえガキだ。今自分の命が握られてるってのに、焦りもしねえ」

「命を握られているのはそっちでしょ? 逆に俺は安全だよ。なんたって、この手が俺を殺すことは絶対にないからね」

「くだらねえ虚勢だな。──やれ、ミス・オールサンデー」

 

 背中、肩口あたりから生えた腕。

 その腕の先にある手が、俺の首を絞める。

 

 絞める。

 絞めようとする。

 

「何してる。早く殺せ」

「そうしよう」

 

 ザク、と。

 ──クロコダイルの背中に、槍が突き刺さる。

 

「ガッ……!?」

 

 一本や二本じゃない。何本も何本も。

 

 これ以上好きにさせて堪るかと、振り返ったその背に降る。

 走り出した足。犠牲にしてでも防ごうとした腕。あらゆるもののと、それらの合間を縫うようにして──槍が降る。

 

 覇気なんて必要なかった。

 いいんだ、これで。

 これで……原作通りに何もかもが上手く行かなかろうと、知ったことか。

 

 エルマルを守る。

 アラバスタを守る。

 

「バロックワークスは壊滅させる。組織を潰すんだ、まずは頭から。効率的だろ?」

 

 未だ、俺の喉を絞め続けている手に語り掛けるように。

 

「天気予報だ。本日のレインベースは所により血とコールタールの雨。時々──槍の雨が、局所的に降り注ぐでしょう」

 

 さようなら、スナワニ。

 そしておやすみ、バロックワークス。君達の理想郷が眠る日だ。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 クロコダイルが殺されたとして、騒然となるレインベースの中で。

 壁を挟んで、会話が一つ。

 

「あなたの首を絞めようとした時、おかしな感覚が返って来た」

「柔らかいのに硬い?」

「ええ。……自覚があるのね」

「勿論。オハラの悪魔の能力は知っていたし、それがクロコダイルの側近にいることも知っていた。とはいえ、実を言うと関節技への対抗策はあんまりなくてね。コールタールのカーテンで身を覆うので精一杯だった」

「そう言うということは……首に、なんらかの仕掛けがあったのね」

「というより、俺は窒息というものをしないんだよ。今回、首の骨を折る、じゃなくて、首を絞める、で来たでしょ? でも首を絞めると窒息する。あるいは頸動脈を絞めれば良かったかもしれないけど、君は気道を狙った。だから窒息扱いになって、それは成功しなかった」

 

 毒が効かない。脱水症状にならない。窒息しない。

 それらは全てチート能力による副産物。

 

「ネタバラシはここまでだ、オハラの悪魔。仮宿が消えた今、この国に居続ける意味はないだろう?」

「……そんなことはないわ。まだ」

「確かにこの国にある歴史の本文(ポーネ・グリフ)には、この国の歴史と、古代兵器プルトンの在り処が書かれている。それを読みたいだけだというのなら、もう少しばかり待って欲しい。それを対価に、この国への工作をやめてほしい」

「……貴方、まさか……読めるの?」

「少しだけ」

 

 原作に登場したものだけは読めるので、嘘じゃない。

 

 ニコ・ロビンの境遇。それを考えると、この人を積極的に殺そうという気にはなれない。

 まだバロックワークスの暗躍もほとんど実害を出していない現状だ。だから。

 

「どうか、手を引いてほしい」

「……それは、脅し?」

「まぁ、そうなるね。手を引かないのなら、海軍に。どうしてもそうなっちゃうよ」

「そう」

 

 ただまぁ、王下七武海を証拠も無しに殺してる時点で、俺もお尋ね者だろうけど。

 

「……」

「……」

「……」

 

 ん?

 

 返事……無さすぎじゃない?

 

 一応、色々警戒しつつ、彼女がいるであろう場所を見に回れば……ありゃ。

 

「フラれちゃったかな」

 

 そこには誰もいなかった。

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