エルマルは……終わらねえっ! 作:ONE DICE TWENTY
エンジェル島での生活は早二ヶ月に達しようとしていた。
もう完全に慣れた空島の環境に加え、一切手を出してこない……というか世間話までする仲になったホワイトベレーの皆さん。
ニコ・ロビンはそれでも彼らを信じていないようでひっそりと生活しているけれど、俺はもうバリバリオープンだ。青海の砂だらけの国で生活していたことや、そこでの苦労、あるいは面白かったことなど、空島の人々には想像もつかないだろう話をたくさんしている。
あと、パガヤさんとコニスにも出会った。原作通り良い人柄で、仲良くなった……かはわからんけど、見かけたら挨拶するくらいの関係値は手に入れたように思う。
それで、思った。
仮に……ニコ・ロビンを欠いてでも麦わらの一味がここへ来たとして。
でも、エンジェル島……消えちゃうんだよな。
んー。
よーし。
「行くのね」
「……何その"私わかってました"みたいな顔」
「いいえ? でも、私の言った通りになった。違う?」
それを「私わかってましたみたいな顔」っつーんだよ。
……。
「ああ、行く。どうする? 空島での生活が気に入ったってんなら」
「特定の場所を気に入る、なんて。……私には無い感情よ」
「そかそか。んじゃ」
バイト代で買ったウェイバーを持ち出す。
確かに乗るにのにはコツがいるけど、持ち手の付いた動力付きのサーフボードって感じの操作感だったから、なんとかなった。多分コ〇ンのスケボーよりは乗りやすいはず。
「ポーネ・グリフ見つけて帰る、でもいいんだけどさ。なんとびっくり、ポーネ・グリフってば敵の親玉の手元にあるんだわ」
「あら。この島で、敵。エンジェル島ではそんなものがいるなんて聞かなかったけれど」
「でも聞いたでしょ。数年前に現れた新たなる神の話」
「ええ、そうね」
ウェイバーをどるんどるんと唸らせる。
砂岩ウォークは後で使う。初動はこっちの方が速いしね。
「どうする? 敵は神だってさ。アンタ、正面切って戦うタイプじゃないでしょ?」
「ここで待ってるわ、と。そう言うと思うの?」
「前みたいに目だけ咲かせりゃいい。だろ?」
「でも──この島はその全域が、"敵"の射程内。そうでしょう?」
そうとも。
ニコ・ロビンはちゃんと見抜いてくれていたらしい。俺が今まで確信めいたことを何一つ喋ってこなかった理由を。
だから、途中から彼女も余計なことを言うのを止めていた。
風貝を──発動させる。
瞬間、凄まじい推進力が全身を襲う。
さらにさらに、バイト代で溜めに溜めたミルキーダイアルをしこたま放り投げて、一時的ではあるけれど、加工雲のジャンプ台を作り出す。
行く。
「──る、と思っていたからな!」
行った。
いやまさか神官すっ飛ばしてそっちが来るとは思ってなかったけど、出鼻を挫くのが趣味のヤハハさんなら絶対ここで攻撃してくると思ったからな。最初っからフルスロットルだ。フルスロットルで、ジャンプ台まで行って──アッパーヤードへ向けてかっ飛ぶ。
「相手は雷を?」
「ゴロゴロの実の雷人間。勿論自然系」
「フフ、嫌な縁ね」
「っとにね」
……そういう意味で言えば、スナワニさんもヤハハさん特効だったのでは?
でんきタイプにじめんタイプは効果抜群だし。ならピーカもか? いやあれはいわタイプ……。
高度が落ち始めたらミルキーダイアルで坂を作り、さらに飛ぶ。それを何度も何度も繰り返して、アッパーヤードを目指す。
神官は……来ない。アッパーヤード内に入らないと出てこないか、これ。
シャンディアの姿も見えない。狙撃されることもなさそう。
「ニコ・ロビン。俺はいまから、あらゆる可能性を考えて動く。でも行動は全部直感だ。つまり」
「察しろ、と? 私達、そんなに仲のいい関係だったかしら」
「できなきゃ死ぬだけって話で」
急停止、からの──アッパーヤードへ水平方向に直進。
そのまま聖地への侵入を果たした。
残念だけどウェイバーとはここでお別れ。
海雲を走る技術こそ習得したけど、この速さの乗り物を使って森の中を爆走するのは無理。
よって、ダッシュを選択。ふはは、砂漠という死ぬほど足元の悪い環境で走り続けた俺の足。木の根が密集している程度で掬えると思うなよ!
走りながら、
直後森の中が真っ白い光に照らし出され──OK、位置把握。
「何かいるわね、この森」
「いなきゃフラッシュダイアルなんか投げないっての」
「……そう」
俺の足の速さと奴らの土地勘を鑑みて、絶妙に追いつけないルートを選びながら巨大豆蔓を目指す。
「できるんなら」
「ええ、やっているわ」
ありがたい。
追い縋る者の中で、銃器などの飛び道具を持つ者への妨害をお願いしようとしたんだけど、既に、だったらしい。やっぱつえーよなハナハナの実。倫理飛ばせば口の中とか眼孔とかに拳咲かせてぐちゃ、もできるわけだろ?
遠隔攻撃系の超人系の強さは俺が一番知ってるんでね。ただハナハナはフィードバックがあるから、そこがネックかなー。
「スピード上げるぞ」
「お好きにどうぞ」
姫抱きから背負いに変えて、姿勢を低くし速度を上げる。
「振り落とされるなよ!」
来た。
先程のとは比じゃない速度、規模の雷。
それを避ける。全部避ける。未だ見聞色など習得していないこの身で、
遺跡ではなく巨大豆蔓を目指す俺に何かを感じ取ったのだろう、雷が止まる。
「択は二つ。あっちの遺跡に、そこそこ価値のあるもんがある。俺の目的はそれじゃない」
「そう。で?」
「この島はそれなりに危険だけど、アンタならまぁなんとかなるだろう。互いの生死なんて気にする仲じゃないんだ、好きな方を選ぼうや」
ニコ・ロビンは。
遺跡に、行かなかった。
そのまま巨大豆蔓まで俺の背を離れなかった。
「一応、理由を聞いておこうか?」
「遺跡は好きよ。でも、本当に大事なものは、こっちにある。そうでしょ?」
「ああ、まぁそうかもね。でも危険度もこっちのが上だよ」
「どこにいても危険だと言ったのはあなた。その度合いが低かれ高かれ、"仲間"は一人でも多い方がいい。なんせ雷が降っているのだから」
「当たる確率が減るってか。いいね、なら言葉はないよ」
残念ながら、俺の足じゃ垂直に近い巨大豆蔓を直線で登るのは無理だ。だから二重螺旋の蔦をそのまま走っていくしかない。
妨害は来るだろう。確実に。
でも、本格的になるのは多分。
「行くぞ」
考える前に走りだす。
ニコ・ロビンを姫抱きにして、上へ上へ。
少しずつ高度の上がっていく視線。
木々の高さ。そして四方にある祭殿を超え──シャンドラの遺跡が、同じ高さとなってくる。
「"
ぼふっ、と。
ナニカが、今降らせた砂の雨にぶち当たる。
いやワンピの世界だからさ、能力者になった以上技名はあった方が強いんじゃね理論で頑張ってみたんだけどさ。
原作の技が大体おしゃれでカッコイイから、まぁ肖るよね。
「今のは……スナスナの実?」
「の、真似事」
ホ〇ケモンと違って、別に地面も砂も雷を通す。
だけど、ヤハハさんの移動方法が「雷になって瞬間移動する」というものであるのなら、こうして遮ってしまえばとりあえずの一旦停止はさせられる。
ほんとはニクロムの雨とか降らせられたらよかったんだけど、具体的なイメージのできないものやその正体を俺が知らんものは降らせられないっぽくて。でもそれが、ラニラニの実の前任者が天候操作の能力だと勘違いしていた理由の裏付けにもなるというか。
「──ヤハハハ……神と同じ目線の高さを持たんとするだけでなく、愚弄までするとは。余程の死にたがりと見た」
「ああ、理由やっぱりそれだったんだ。見下ろされるの絶対嫌だろうな、って思ってヤマ張ってたんだけど、効いたみたいで何より」
砂のカーテン越しに聞こえる声は──少なくない怒りを孕んでいる。
ヤハハさんはプライド高いからね。まぁそれでいてちゃんと達人でちゃんと反省してちゃんと対抗策練れるタイプの厄介ボスなんだけど、初見殺しこそ俺の華。
彼がゴロゴロの実の能力者だからこそ、俺の勝る点が一つある。
「
ゴロゴロの実。雷を操る力と、マクシムの雷雲を作る能力。
その二つがあってようやく天気を操れる。
プロセスが一個多いんだ。
砂のカーテンを突き抜けて来た雷を、避ける。
能力の相性で言えば、互換でも天敵でもないだろう。だけど。
「天を
それが、雷を避けられる理由で。
そして──無理ゲーだと思った俺が真正面から突っ切って来た理由は。
「そうだ、神・エネル。
「……青海の猿が、何故その名を知っている」
「この星からどうかは知らんが、六十三光年先にある青い星にな、珍妙な天気を持つ惑星があるんだ」
悪魔の実とは、想像次第。
こんなことができたらいいな、という人間の理想の
百獣海賊団は悪魔の実の能力に素晴らしい可能性を与えてくれた。
つまり、実際がどうであれ──。
「今日の天気予報だ、神・エネル。スカイピアはアッパーヤード上空──晴天。ところにより」
砂が、キラキラしたものに変わる。
変質する。
「──ガラスの雨が降るでしょう」
「!?」
豪雨。嵐。
横殴りに発生するガラス片の雨。……実際は溶けたガラスだろうから電気伝導率もいいんだろうけど、俺の想像できる「ガラスの雨」はこっちだからな。
電気を通さないガラス。その破片がこれでもかと降り注ぐ。
「"
鉄ほどの強度はないけれど。
上裸ヤハハさんには、刺さるでしょう?
──とりあえず登り切った。
その登り切った先、巨大豆蔓の上に突き刺さった黄金の鐘楼まで来た。
「……本当にあるなんて」
「思いもしなかった?」
「半信半疑だったのは事実。何よりあなたは、ここに書かれている言葉の内容を知っているようだったから」
「……さてね。んじゃ、俺はさっきの人殺してくるから、好きなだけ読んでて」
「ええ」
俺もあれだけでヤハハさんを殺せるだなんて思っていない。
目的の一つ目としてあったポーネ・グリフ。そこにニコ・ロビンを置いてくること。
彼女と行動を共にする、しないの問答の前にも述べたけど、俺は単身の方が強い。誰かと一緒に戦うことに圧倒的に向いてない。
だから、足手まとい……とはちょっと違うんだけど、邪魔だったのだ。彼女が。
身一つで落ちて行けば──眼下に暗雲が見えた。
成程。
「溶かしちゃえばいいと。大正解だ、神・エネル」
「……」
彼が原作で見せた2億V・
その姿になった彼が、そこに佇んでいた。彼の周囲に来たガラス片は悉くが溶かされ、彼の身体を通り抜けていく。
して……嫌に冷静なその顔。
「……読めんな」
「マントラが機能しない?」
「否。……何を目的としているのかが理解できん。あの鐘楼が目的であるのはわかっていた。私の足止めをし、見事辿り着いて見せたことは認めよう。だが、なぜ降りて来た?」
「あれ、聞こえてたんじゃないの?」
「私を殺す。そう聞こえたが……それが理解できんと言っている。お前の中に、私を殺す動機が欠片も無い。だから読めぬと言った」
ふむ。
まぁ、現時点では確かに。別に仲間らしい仲間もいない、そのいない仲間を傷つけられたわけでもない。
ジャヤで猿のおっさんたちと約束したわけでもなければ、個人的に嫌ってるとか恨みがあるとかでもない。
ただ。
「エンジェル島。あそこの人たちと仲良くなっちゃったからさ。殺しに来たんだ」
「……ただの気狂いか」
「OK、その認識は間違いじゃない。ただ、どっちかというとただの馬鹿かな」
降り注ぐ砂岩を定期的に乗り継ぎながらの会話。
あちらも最強の技と自称するだけあってその状態保つの結構エネルギー要りそうなモンだけど、まだまだ余裕なのか、それとも俺を量っているのか。
「あの女はなんだ」
「アレは俺の弱みを握ってる奴。俺もアレの弱みを握ってる。そういう共生関係」
「私を殺すことに、あの女との関連性は?」
「無いね」
「ふむ」
命乞い……ではない。そんなことをヤハハさんがするわけがない。
となるとこれは。
「ヤハハ……決して、ただの気狂いなどではないな。天を操る
「へえ。俺が呼吸してないってわかるんだ」
「当然だろう」
飲食が要らない。呼吸も必要ない。だからカナヅチにはなったけど、俺は溺れ死ぬことはない。……脱力するからそのまま海の底で水圧圧死はするだろうけど。
チート能力は戦闘には役に立たないけど、ちゃんとチート能力だ。俺はそれを有している。
「択をやろう。私の計画に」
「乗らない。殺しに来たんだ、乗るわけがない」
「ならば気狂いのフリなどしていないで、理由を言え、天を操る男。その理由を聞いて──こちらも相応の態度を取る」
ただの勧誘かと思ったら、そこまで?
……ああでも、大事か。天候を操れる能力は、マクシムにとってもヤハハさんにとっても、それなりに重要なファクターになる。
「下の遺跡にある方舟。アレが完成したらアンタ、ここを出ていくつもりだろ?」
「見たことのないものの存在を知るか。マントラも使えぬだろうに、よくやる」
「その時さ、ここを壊していくつもりだろう。エンジェル島も、アッパーヤードも。アンタが生まれ故郷をぶっ壊した時と同じように」
「……それは、些か知り過ぎだぞ、天を操る男」
先読みとかじゃない。
過去におきた、最早エネルと神官たちしか知らない事実だ。それを青海人である俺が知る術などあるはずがない。
「アンタはいずれエンジェル島を壊す。だから俺はアンタを殺す。理由はこれで十分じゃない?」
「なぜそれを知っているのかは、言わぬか」
「ああ、言わない」
ならば。
雷速で、のの様棒……パルチザンの形をしたそれが迫る。
それを目の前に降らせた槍に当て、槍だけを蹴って離脱。さらに降り注ぐ槍を掴み、ヤハハさんに投げつける。
当然だけど、ただの槍だ。鉄製の。だから避けられもせずヤハハさんの身体を通り抜け、巨大豆蔓に突き刺さ……りすらせずに、落ちて行った。
弾ける。
「!」
「っとと、ヒュウ、怖いね」
弾けて溶けたのは、鉛。というか銃弾。
鉛の雨を降らせてやるぜ! の奴ね。一切効かないんだけど。
ただ、人体より電気伝導率の良い物を周囲にばら撒けば、ヤハハさんの意思で動かしている雷以外はそっちに吸われる。
「"
といいつつも、落とすのはカーテンではなく莫大な量の砂。
瓦礫は降らせられないのでランクダウンした、けれど量そのものは瓦礫と同等であるそれが──ヤハハさんの身体に当たった瞬間、バチバチと音を立てて吹っ飛んだ。
あー。
不純物混ぜれば電圧弱まるんじゃね? とか思ったけど、結合が強すぎて入り込む余地ない感じですか。
「ヤハハ……一つ理解したぞ、天を操る男。お前の力で降らせることのできるものはしかし、それ以上の速度を持たない。速度は威力。自然落下の域を出ないのであれば──それらは何一つとして私に効かない」
その通りだ。
スナワニを殺せたのは砂を血で固め、彼が普通の人間と同じ身体になっていたから。だから天空から降る槍で突き刺して殺せた。
だけど、現状雷化を止める手立てがなく、それでいてヤハハさんの身体の……結合なのか形なのかはわからんけど、それを崩すレベルの速さ・威力を出せるようなものが存在しない。ガラスの雨は
速度を上げるならもっともっと上、超超高度から降らせる、って手はあるけど……それだと狙い定めるの難しいし、風の影響受けるし、何より遅すぎる。見聞色で先読みできるようになってからとかじゃないと扱いづらいだろう。
「だが、これで頭打ちということもあるまい」
「ヤだねぇ、慢心しない強者。ちょっとくらい油断してくれたっていいんじゃない? こちとらまだ十代のガキンチョだぜ?」
「ヤハハハ! だとすれば年上を敬え、天を操る男」
「そりゃそうだ。言い返す言葉がないね」
はらはらと。
あるいは、ちらほらと。
天気が、変わる。
「火……にしては、火力が無いな」
「火の粉さ。フレイムダイアルにも劣る小さな火」
空気抵抗の大きいソレは、俺とヤハハさんの周囲に満ちていく。
彼は静観の構え。どちらかというとこっちが何をしてくるか冷静に観察して、その上を行こうとしてるって感じかな。
ありがたい。
「二番煎じで悪いけどね。──コールタールの雨だ」
真っ黒い雨が降ってくる。この、火の粉満ちる空間に。
ニトログリセリンでも良かったけど、多分それだと俺がヤバいので。
起きるのは、大爆発。
さて、純粋な雷でできた身体に爆発は──。
「ヤハハハハ! どうした、天を操る男! まさかとは思うが、もう品切れか!?」
効かないかぁ。
雷だもんなぁ。
仕方がない。ちょいと遠回りだけど――。
「ちなみにもう品切れ、って言ったら許してくれたりする?」
「良いぞ? お前が真に私への忠誠を誓うのならだが」
「ああ、じゃあ無理だね」
落ちてきたソレを、避けようとすらしないヤハハさん。
だから──驚くだろう。
「が……ぁっ!?」
「いやー、色々迷ってたんだけどね。俺がちゃんと想像できる絶縁油ってなんだろうなー、って。でも化学式とか名前を知ってたところで、それが雨として降る姿をあんまり想像できなくてさ。だから、遠回りも遠回りで悪いんだけど」
ガン、ガン、ゴン、と。
それが──降り注ぐ。
「"
電柱。
電柱、である。
地震の多い国では露出し、少ない国では地下にありがちなアレ。
石で出来ていて、電線でつながっているアレ。
その全て。
絶縁油が使われている場所──だからトランスとかコンデンサとか遮断器とか安定器とか、電柱についてるモン全てを降らせる。
理想を言えば、ポリ塩化ビフィニルを降らせたかった。けどアレが降るさまを俺が想像できなんだ。
加えて毒性が高いから、ワンチャンの毒殺にも賭けて理想的な液体だった……んだけど、うん、やっぱ想像に難がある。
……どっちにしろアレ蓄積しなきゃだから、すぐに消えちゃうラニラニの実とはあんまり相性よくなかったりしなくもなかったり。
今降ってきているものがポリ塩化ビフィニルなのか、新しい絶縁油なのかはわからない。
ただ、電柱そのものはすり抜けられても中の絶縁油はすり抜けられんやろ理論でぶつけまくっている。ヤハハさんのご指摘通り速度を上げる、みたいなことはできないから、物量物量。
何より油も水も固いんだわ。高所から打ち付けられたら、割とフツーに全身骨折するくらい硬い。
その逆のことが今ヤハハさんの身に起きてる感じでね。
「心臓を止める、だと起きちゃうのは知ってるからさ。──頭蓋を砕くまで、止まないよ、この雨は」
天気予報、天気予報。
空島はスカイピア、アッパーヤード。
本日は晴天なり。本日は晴天なり。
ただし、所により──局所的なゲリラ豪柱となるでしょう。
いつかこんな無様な天候じゃなく、ちゃんと油を降らせて見せるからさ。天国で見ててくれ、ヤハハさん。
その後。
アッパーヤードに降りる……とかなく、俺とニコ・ロビンは白々海の超上空を砂岩ウォークで歩いている。
ヤハハさんの死は確認した。あとは神官とシャンディアの戦士たちが戦って……400年の真実そのものは、麦わらの一味が伝えてくれるだろう。
エンジェル島が消えるのは受け入れられなかったけど、シャンディアを勝手に贈り物だと勘違いして起きた400年の戦争なんぞ知らん知らん。シャンディア側が圧倒的被害者だし。ただエンジェル島……つまり元々の空の民に感情移入しちゃうだろう俺は、絶対公平な話ができない。ので、離れた方が良い。
麦わらの一味が来る前に和解したって良い。しなくたっていい。
俺達は目的を果たしたので、次へ行く。それだけだ。
「いいの? エンジェル島に寄らなくて」
「ウェイバーかっ飛ばしてアッパーヤードに不法侵入したのは絶対誰かに見られてる。やだよー、俺。お尋ね者になるのは良いけど、仲良い人達から蔑みや憎しみの目で見られるのは嫌」
「なら、初めから心を許さなければいいのに」
「それじゃあ楽しくない。心休まる時間を作って、心象悪くなりそうだったら引いて、それでも仕方ない目的ができたんだったら逃げる覚悟をする。お尋ね者なんてそんなものだろ」
「……昔の私を見ているみたいで、あまり好きにはなれないわ」
「いいよ、痛い奴だって見ててくれたら。お姉さんだからな、アンタは」
そうか。ニコ・ロビンは、小さい頃は何度か心を許して……んで裏切られた、みたいなことが多々あったんだっけ。
ま、その心を氷解させるのは突き抜けた馬鹿じゃないとムリムリ。俺も馬鹿だけど、ベクトルが違う。
「そういえば、ログは?」
「溜まっているけれど……あなたに必要あるの?」
「俺はないけど、アンタ飲まず食わずで生きてられないだろ」
偉大なる航路は、ログポースがないと割と面倒だ。
海が広い。ただそれだけで、迷う。
ログポースがどこでもいいから一点を指し示し続けてくれているだけで話が全然違うのである。
「この辺りか。一気に青海まで降りるから、気圧差でおかしくならんように」
「一気に降りる必要は?」
「楽しい」
──落ちる。といっても砂岩は降らせたままだ。じゃないと海雲突き抜けられんから。
「ポーネ・グリフは全文読めた?」
「ええ。それと……海賊王の言葉も」
「ほーかほーか。で、どうだいニコ・ロビン」
「何がかしら」
「俺への脅しだよ。もう辞めね? こんだけ協力してさ、まぁどっか適当な権力者の元とかにアンタを送り届けるからさ。それで終わりにしね? 俺が読める事、記憶から消さね?」
「いいえ。あなたはどうにも、あるいは私やオハラの人々よりも"知り過ぎている"ようだから……もう少し繋ぎに使わせてもらうわ」
「まさかとは思うけど」
「ええ、聞いていた。あなたとあの神の会話。数年前にこの地へやってきた神・エネルの過去を、その出身地までもを全て知っていた──あなたのおかしさを」
花紅耳蟻じゃん。ひゅう、大事なことポロポロ喋り過ぎだ。どうせ殺す相手だから、とか……やらかしだな、これ。
ぶち抜いた海雲を通り抜け、積帝雲……を隣に見て。
「お、青海は晴れてんな。ありがたい、これなら距離を見間違えずに済む」
「曇っていたら、どうする気だったの?」
「チキンレースしたいわけじゃないからな。雲で一旦止まって、そっからゆっくり降りたよ」
……よし。
普段通りの高度まで来た。
後は砂岩ウォークしながらブレスダイアルに風溜めて、ゆっくり行こうかね。
「あら、ログポースの示す先には行かないのね」
「用がないからな」
「フフフ、まるでそこに何があるのかわかっているかのよう」
ロングリングロングランド。
デイビーバックファイトには一切興味がないので、スルーで。あと竹馬のおっさんも。
アニオリだとなんかもうちょっとあるんだっけな。どっちかというと原作派だったからアニオリは網羅してないんだわさ。劇場版はわかるけど。
……劇場版。特にウタ関係はどういう扱いになってるんだろうな。というか劇場版こそ世界の終わり系多くない? 麦わらの一味が行かないとか無い……よね?
「火拳!!」
「避けるけども」
立ち昇る火の柱を避ける。
いや気付いていたけども。
攻撃してくるとは思わないじゃん。
「ん? なんだ……もしかして人か!?」
「そーだよー。食えそうな珍しい鳥じゃねーよー!」
「あぁすまねぇ! 勘違いした!」
そんなこったろーと思ったよ。
少しずつ高度を下げていき──その船に降り立つ。
ピース・オブ・スパディル号。
「よぉ、アンタらあれだろ、スペード海賊団だろ」
「お? おれ達を知ってんのか!」
「ちょっと聞いたことがある程度だけどな。ピースメインの海賊は珍しいから、記憶に残ってた」
目深に帽子を被るニコ・ロビンに代わり、まだまだ若々しい少年……エースとお話をする。
「飛んでる鳥落として食おうとするあたり、腹減ってんのか? ちっとなら食料分けてやれるけど」
「良いのか!? いやァ助かるよ。ウチの船、コックがまだいなくてさ。食料の管理もあんましできてねーんだ」
「そりゃやべーな。早いとこコックは雇った方が良いぞ。食事は人生を豊かにする」
背後から、「あなたは食べないくせに」という視線を貰うけど無視無視。
ペルさんからの交換条件でご飯を食べるようになってから、まぁ、確かに、毎日違う味を楽しむのっていいな、とは思ったんだ。最近はまたあんまり食べてなかったけど。
「しかし、やっぱりすげーなグランドライン! 空歩いて旅する奴らがいるとは思わなかった!」
「海賊や賞金稼ぎじゃないからなー、行きたい場所に直で行くならコレが一番早い」
「そりゃそうだがよ、できるできないの話だろ」
「……さてはお前天才だな?」
「おう、今のやり取りでブレインが誰なのかわかったよ」
空島の食料にはなるけれど、それなりの量の保存食を渡す。
俺は食わなくていいからな。ニコ・ロビンの分さえ確保すればそれでいい。
「こんなにいいのか!」
「俺達はもーちょいで目的地の島に着くから、そこで補充するさ。……が」
「が?」
「ちょっとでいいから代金くれると嬉しい。今とある国でのみ使える金は持ってんだけど、ベリーがほとんど無くてさ」
「ああそりゃ勿論! 食料を買うんだ、相応の金を払うさ」
そうなのだ。
今、手持ちはエクストルばっかりだから、ベリーが全然ないのだ。
ここで出会えて良かったァ。
「そうだ、自己紹介がまだだったな。おれはポートガス・D・エースってんだ。お前らは?」
「レコダ。姓とかないよ。出身地じゃ運び屋のレコダって呼ばれてた」
「へえ。それで姉ちゃん運んでんのか」
「ああ。んでこっちのは……まぁ訳ありのお嬢様でね。まさに運んでる最中だから、名前は教えらんない。すまんな」
「成程。そういう商売もあるのか」
ニコ・ロビンの名は。
ま、広めない方が良いだろう。俺はアラバスタでしか名前売れてないだろうから大丈夫。
「っと、そろそろ行かないと。指定の時間過ぎちまう。んじゃーな、ポートガス」
「エースでいいよ! 食料ありがとう!」
「おう。一日で食べきるなよー」
船体に当たる寸前で消える砂岩を降り注がせて、また空高くへと昇っていく。
ぶんぶんと手を振る無邪気な少年に手を振り返し──空へと戻った。
「運び屋、ね」
「嘘は言ってない」
さて、次の島は、と。