エルマルは……終わらねえっ! 作:ONE DICE TWENTY
ニュース・クーから買った新聞を読みながら、海を自転車で走る男が一人。
「アラバスタの運び屋、ね……」
先日サンディ島にあるアラバスタ王国が発表した、王下七武海サー・クロコダイル殺害の犯人。
同国出身であり、その国では町村間での配達員なるものを行っていたレコダという少年が、単身、正面切って七武海クロコダイルを殺害した、という記事。流砂を思わせる薄めの金髪を短く切った、未だ子供にしか見えない容姿の彼。
初手懸賞金9000万ベリーという、海賊でもないのにかなりの高額を付けられた彼の命には、今もアラバスタ王国から海軍へ取り下げの嘆願書が届いているという。
それはまぁ、妥当であるとは言えた。
その後の調べでわかった、サー・クロコダイルの暗躍の数々。七武海加入後に設立した秘密結社バロックワークスによる巧妙な犯罪と国家転覆未遂。さらに違法物質の生成と所持。
国盗りを計画していた巨悪に一人で立ち向かい、その罪を背負って海へ出たという少年に何の危険性があろうかと──嘆願書がこれでもか、と。
「……ヤになるねぇ、ホント」
子供が大人から追いかけまわされること、ではなく。
彼がそれとなく監視していた「ある少女」が、この「運び屋さん」と同時期にサンディ島からいなくなっている。また、サンディ島にほど近い場所にあるジャヤという島でも「それらしい二人組」の目撃情報があって。
仮宿として選ぶには、あまりにも小さすぎる影。
それでも──可能性は、ゼロではない。
だらけきった正義を背負うその男は、自転車のハンドルを少し傾ける。
その場所は。
*
勿論の話、W7には行かない。
行く理由が欠片も無い。アクア・ラグナによる被害はスナワニとかヤハハさんみたいな人的理由による被害じゃないし、それ以外のンマーさん襲撃事件は設計図関連だ。「世界を滅ぼし得る兵器の設計図」なんてものを一個人が所有していることの危険さは、ぶっちゃけ海軍や世界政府よりもわかる。
核の発射スイッチがなんでもないその辺の一般人に渡されているようなものだ。管理したいと思うのは普通だろう。そしてそれを使いたいと思うのも、執政者であると考えれば妥当。どうせスパンダムの手に渡っても暗殺されてただろうし。
だから正直その辺は真面目にどうでもよくて、エニエス・ロビーも真面目にどうでも良くて。
……どうでも良くないのは、スリラーバークなのかな、って。
ただ、あそこにはポーネ・グリフが無い。ニコ・ロビンを連れていく理由がない。
と、そこでひらめきましたレコダ君。今回は冴えていると言って欲しい。
──カームべルト挟むけど、道中にアマゾンリリーあんねん。
俺はともかくニコ・ロビンをそこに置いていくことはできるんじゃね??
「嫌よ」
「嫌とな」
「ええ、あなたから離れたくないもの」
「とても熱烈なラブコールのように聞こえなくも無いが、その実眉間に押し付けられた銃口が幻視できる良い言葉だ」
いやでもいいよアマゾンリリー。国外の、とはいえ女の子には優しいし。多分。
しかもあそこ治外法権というか滅多なことじゃ海軍こないし。
「あなたがそのスリラーバークというところへ行って、帰ってくる保障がない」
「それはそう。だけど脅しがあるわけで」
「海賊女帝が絶対王政を敷いている島なのだから、隠れ蓑としてはあまりにも不便。むしろ男が連れて来た女として、ただそれだけで殺されるかもしれない」
……やりそう。
女の子に優しいっていうか……そうだな、違うな、あそこ。
男女問わず島外の人間には厳しそう。でも頑張れば覇気習えるかもよあそこ。近くにルスカイナ島もあるし。まぁインペルダウンも近いんだけど。
「どう考えてもスリラーバークの方が危険だと思うんだけどなぁ」
「でも、行くのでしょう?」
「俺はそもそもそれが目的で海に出てるし」
麦わらの一味が来なかったら、あそこで囚われている影は一生そのまま。
何よりブルックが……ワンチャン、永遠に独り。
「この海に、安全な場所なんてある? 空島以外で」
「空島以外だとないなぁ」
あそこが、というかヤハハさんのいなくなったスカイピアがマジモンの楽園だから。
そうか。
安全を求めるなら、エンジェル島に残るよな。
「んじゃ行くかぁ、スリラーバーク」
「ええ。そして、あなたがいつ、自覚をするのかも見てみたいから」
「……っせーやーい」
自覚なんて。
……へん、だ。
そうして到着するは、魔の三角地帯。
それはもう天気の悪いそこを砂岩ウォークで歩いていく。天気悪いつったってゴロゴロ程じゃないし。
ああそれと、一応できるかどうかだけやっておくか。
「……あら、晴れて来た……と思ったら、すぐに雨」
「ここはそういう海域。もうすぐで霧も濃くなる。けどまぁ雲の上に出りゃこっちのモンだし、この辺は磁気を吸い取られるモンも無い」
「そうね。ずっとずっと後方を示したまま、動かない」
ロングリングロングランド……ではなく、W7かな。
空島で二か月過ごした場合のログがどうなるかは未知数なので気にしない気にしない。
「スリラーバークにも、エンジェル島のような人たちが?」
「いや、基本は海賊だな。基本はっつーかほぼ」
「それを助けに行くの?」
「助けに……うーん。どうだろうな。海賊やってる以上は大体が覚悟の上だろうし、どんだけ悲惨な境遇だからって大した同情はできないから……」
……。
んー。
そういえば、どうでも良くないはどうでも良くないけど……そこまで命かける必要あるか、スリラーバークって。
……ブルックに挨拶だけして帰る?
「あら……何かが」
「唄だな。ビンクスの酒」
「へえ……少し前の歌なのに、よく知っているものね」
「ガキだからなー。大人のやることに興味津々なんだ」
考えてるそばから見つけたので、降り立つ。
「え?」
……毛根って頭皮から生えてるモンであって骨からじゃ……。
いや。なんかSBSで……まぁいいや。
「よぉ、幽霊」
「おや……まぁ、びっくりした。ヨホホホ……ええと、綺麗なお嬢さんと……そのお子さんでしょうか?」
「ああうん、そんなところ。な、母ちゃん」
「頸椎を折っても?」
「おっとそれはマズい。んじゃー、初めまして、ルンバー海賊団の生き残り。俺は運び屋のレコダ。こっちは母ちゃんでも姉ちゃんでもなければ身内でもないどっちかというと俺の故郷を滅ぼすトリガー握ってる同行者」
「ヨホホホ……複雑なご家庭なんですね。あ、私、ブルックと申します。……え、ルンバー海賊団をし、知っていらっしゃる!?」
「五十年くらい前の海賊団だろ? そりゃ知ってるよ」
「な……にが"そりゃ"なのかはわかりませんけど……そうですか……ルンバー海賊団を知っている方、しかも生身の方に会えるとは……ヨホホホ……人間、長生きしてみるものですねぇ。あ、私死んでるんですけど!!」
どうやって発声……いやそれは確か魂の叫び、なんだっけ?
喉を使っていないから喉が要らないみたいな。……一回ブルックにはカラーズトラップ受けて欲しいんだよな。どうなるか見たい。
「それで、そちらの麗しきお嬢さんは」
目深に帽子を被るニコ・ロビン。
「訳アリで」
「成程、訳アリ。……そんなお二方が、こんな場所に何用でしょうか。言っては何ですが、ここ、何もないですよ。ヨホホホ!」
「いや最初はゲッコー・モリア殺しを考えて来たんだけど、空走ってる途中でそこまでの熱量俺にあったっけ……? ってなって、丁度ビンクスの酒が聞こえて来たから降りて来た」
「目的が物騒! ありがたいけど! そして何がどう丁度なのかわからない! ありがたいですけど!!」
ツッコミ属性か。
アラバスタ以来だから、久しぶりのような、そうでもないような。
……ああいや、ダイアル屋のおばちゃんはツッコミ属性だっけ。
「ということは……モリアへの殺意は」
「かなり薄れ気味」
「ヨホホホ……まぁ、それが一番でしょう。相手は腐っても王下七武海。特別な理由がないのであれば、その若さで命を散らすこともないです」
「言うてアイツただの超人系だから不意打ち狙撃とかすれば殺せそうではあるんだよな」
「発想が物騒!?」
いや今までの相手が自然系だったからさ。
スリラーバーク全体に槍の雨でも降らせりゃ透明人間だろうがマッドドクターだろうが肥満キシシマンだろうが幽霊少女だろうがやれそう。
なの、だが。
すげー今更なこと言うけどさ。
スナスナの実とかゴロゴロの実……再生成された可能性あるくね?
スケスケは未来でシリュウが食うくらいなら他の奴に渡った方が良い気もする……けど、カゲカゲ……も別にスリラーバークの特性が無ければそこまで脅威ではない……?
ホロホロはエグそう。あれ範囲といい対処といい、覇気使えなくても新世界でやってけるポテンシャルあるのエグいよな。
……考えれば考えるほどスリラーバークに行く理由が消えていく。
「一応、形だけ」
スリラーバークに向けて、能力を使う。
降らせるのは塩。塩害においてよくある塩分を含む雨。
……影が立ち昇る様子はない。まぁそうか、ゾンビは別に自ら塩を食いたいとは思わないだろうし。
「今のは……」
「まー、俺達はやる気ないからアレだけど。ゾンビの弱点は塩だから。なんか機会あったら試してみてな」
「はぁ。ヨホホホ、もう行かれるのですか?」
「名残惜しいか?」
「名残惜しいかと問われたらハイ。ですが、引き留めるものがあるかと問われたら、イイエですね」
「あらら、もう行っちゃうの? おれとしては、兄ちゃんがどういう性質か見極めたかったんだけど」
──ブルックとニコ・ロビンを引き寄せつつ、
「"
「おっとと……雷の能力者か。しかし、ご挨拶が過ぎるんじゃないの? ちょっとは」
「うるせー、覇気もままならねーうちに海軍大将なんかとやりあえるかっての!」
砂岩ウォークで一気に空へ。ブルック……は、雲の上に出せないので、あとでどっかで降ろすとして。
「……青キジ」
「ヨホホホ! なんですあの危なそうなヒト! というかアナタも!」
「あー、ブルックすまん! 今からあっちに向かって砂岩降らせるから、適当に飛び乗って適当にどっか着地してくれ! 俺達は逃げる! 縁が会ったらまた会おう!」
「唐突! でもまぁ、四の五の言ってられなそうですねえ。……海軍大将って言いました? ヨホホホ」
別れの言葉は以上だ。
ブルックを放り投げると同時、伸びて来たパルチザンを避けつつ雷を落とす。
ヤハハさんの雷とは比べ物にならない程普通の雷だけど、まぁ熱のある攻撃だ。加えて凍らないのがとても良い。
「聞く耳持ってくれてもいいんじゃない? おれは話をしに来ただけなんだ」
「馬鹿野郎、こっちはオハラの悪魔とアラバスタの殺人犯だぞ! 王下七武海殺してんだ、その罪問いに来たに決まってんだろ海軍大将!」
「よく考えてみろよ。
「──……確かに」
「あれ、案外話通じるじゃないの」
警戒は解かないし、話が通じたわけでもない。
青キジがここにいることには驚いたけど、ニコ・ロビンの動向を常に追っているんだとすれば、ジャヤとかで話を聞いた、で十二分に辿り着いてこられる可能性は考えられた。
俺の名が売れてる、なんて思ってない。そんなの全部ブラフだ。
問題は、今。
落ち着いて話し合いの空気になっている今。
どうやって──どう切り抜けて、逃げるか。
「で、何を話したいんだよ」
「いやァ、アラバスタ出身の少年がなんでその女と一緒にいるのか気になってね」
「俺は此奴の弱みを握ってる。俺は此奴に弱みを握られてる。だから互いを監視し合うために一緒にいる」
「……そいつは。あー。……そりゃ、ソイツをおれ達に引き渡して、解決できることだったりする?」
「しない。むしろ悪化する」
「あー。……クロコダイルの暗殺についちゃ、今アラバスタから嘆願書が出まくっててね。お前さんは英雄だから、犯罪者なんかじゃない、って。だからその内取り下げられると思うんだけど……それでも?」
「それでも」
じゃあ、しょうがねえかぁ、なんて言った青キジは。
背後に──来ることがわかっていたので、フリーフォールを選ぶ。
その後、ブレスダイアルで水平方向に移動。また砂岩ウォークで距離を取る。
「あらら……覇気を使えるわけでもないのに、よく読めたね」
「なんのためにこんな細かい砂降らせてると思ってんだ。氷の軌道くらい読めるっての」
彼はヤハハさんと違って能力で移動しているわけではないけれど、常時彼から漏れている冷気が、周囲の霧と降っている砂を凍らせる。だから場所が分かる。移動しようとしている方向もわかる。
ブルックを逃がしたのに雲の上に出て行かないのはそれが理由だ。霧が立ち込めて来てくれたおかげで、有利……とは言い難いけど、多少、立ち回ることのできる環境になっている。
「雷に、砂に、風。何の能力か教えてくれたりしない?」
「風はダイアルだよ。空島産」
「ああ、空島行ってきたの。凄いね」
「この通り、空を歩けるんでね」
さて──どうしよっかな。
震えてて反応のないニコ・ロビンは頼りにならない……というか仮に正気でも頼りにならないので思考から外すとして……スリラーバークに逃げ込む? ナイナイ。それで何が解決するんだ。っつーかキシシさんは七武海だから一応海軍側。挟み撃ちじゃい。
よーし。
「逃がしてくんない?」
「気の抜けるコト言うじゃないの」
「いや、色々考えたんだけどさ。今んとこアンタに勝てるビジョンがこれでもかってほど見えないんだよね。つーか勝つ意味がないというか」
「そう? ニコ・ロビンは仲間なんだろ?」
「さっきの話聞いてた? 脅し合う仲が仲間だと思う?」
「違うなら……ニコ・ロビンをこっちに渡しなよ。握られてる弱みってのも、要はこっちがバラさなきゃいいって話でしょ」
「いやいや。ニコ・ロビンが処刑されるときに、俺の弱みについて叫んだらどーすんのさ。ゴールド・ロジャーの死に際の言葉が新時代を作ったみたいに、ニコ・ロビンの死に際の言葉が俺の首を刎ね飛ばすんだわ」
「その若さで被害妄想が激しいねえ。もうちっと楽観視して生きられない?」
「ここでアンタがニコ・ロビンを氷結させて完全に割り砕く、ってんなら話は別だけどな。しないだろ、そういうこと」
「そりゃまた、変な信頼貰ってるね。けどおれァ海軍大将だ。オハラの悪魔なんて危険分子、ここで殺しちまった方が良い。おれがそう考えててもなんら不思議じゃないと思うんだけど、どうなのよ」
「馬鹿言えよ。親友だのなんだのの私情で危険分子逃がすような奴の言葉を信じろって、そりゃ無理がある。あの時海軍やめてニコ・ロビンの保護者にでもなってりゃ真実味のある言葉だったかもしれんが、彼女が苦しむ様を十七年間眺め続けて何もしねーってんだからタチ悪い。生きたい意思のない奴を逃がして何が楽しいんだか」
周囲。
冷気が……尋常ではない程になってきている。付近のゴーストシップは凍り付き、霧も砂も凍っていく。
「随分とォ……物知りじゃないの」
「そりゃまー、聞いたからな」
「誰に」
「ハグワール・D・サウロ元中将」
「……笑える冗談と笑えねえ冗談ってモンがある」
「じゃあアンタ、さっき見なかったのか? 死して、骨だけになって──尚も生きてる奴」
──潮時だ。
カバンからポイポイポイと三つ投げるは、──フラッシュダイアル。凄まじい閃光が周囲に満ちて、さらに大気中の氷へと乱反射し、どんよりとしたフロリアントライアングルの中ではまず見ることのない光量が周囲を照らす。
逃げべ逃げべ。
「もう追いやしねェから、ちょいと聞いてくれ」
「……剃ってマジ速くてズルいわ」
「六式まで知ってんのか。あぁ、いや、いい。……サウロの件は冗談だと流しておく。……おれは心配で言ってんだよ。その女は」
「関わる組織を悉く壊滅させてきた、って? 大丈夫大丈夫。俺組織じゃねーし。あと、クロコダイル殺してバロックワークス壊滅させたの俺だし」
「……そうかい」
そうだよ。
さっき言った煽りが全部見当違いなのも理解してる。
この人はこの人でトラウマがあって、加えてニコ・ロビンやその周囲を慮ってるのも知ってる。
が、この人の心を氷解させるのもまた麦わらの一味しか無理だっただろうし、ニコ・ロビンを俺が連れまわしてる今、その機会は永遠に失われた事だろうと思う。
多分割を食ってる度で言えば最上位に位置するかもしれない。
だから、言わせてもらおう。
「安心しなよ。──全然、俺の方が──危険だから。"兇状旅"」
質量・体積ともに劣るが──何、
ぐわんっ! と暗雲が道を開け、数個にばらけた小隕石が降り注ぐ。
灼熱の岩弾。それは果たして天候なのかと疑問を抱く人も多いだろう。だが言わせてもらおう。
ラニラニの実は!
天候を操る悪魔の実じゃないと!! ドン!!!
「……マジ?」
「アデュー、海軍大将青キジ。もう会わないことを願ってる」
そしてさらばフロリアントライアングル。そしてさらばキシシさん。
ドクター・ホグバックの被害者だけはちょっと思う所あるけど、すまん! 青キジと戦いながら解放は無理ゲー過ぎる!
頼んだ、麦わらの一味!!
余裕ぶっこいてたけど実際命からがらである。
初手アイスエイジとかされてたらやばかったかもしれん。あと足音無さすぎマンだからアーイスタァイームされてたら終わってた。
……で、ニコ・ロビンさんは。
「もういないぞー、あの氷結人間」
「……」
「そんなに怖いかね」
怖いけどね。
俺もめっちゃ怖かったよ。覇気無しで戦う相手じゃねーのよ。そもそも自然系自体が。
「……あなたも、私は死んだ方が良い、って。思う?」
「世界政府は自殺を禁じてない」
この世界、自殺が法律に反しないんだ。
死にたきゃ勝手に死ねの世界だから。
「けど……死んだ方が良い、なら。世界政府も、海軍も、あるいはいるかいないかもわからない神様も、真っ先に死んでるんじゃね? そっちの方が良いってんならさ」
「そういう意味ではないことくらい、わかっているでしょう」
「まぁね。じゃあ聞くけど、ポーネ・グリフが読めて、古代兵器の位置やその設計図の在り処もぜーんぶ知ってる俺は死んだ方が良いと思う?」
「……それが本当なら、重罪ね」
「罪があるかどうかじゃなくてさ。死んだ方が良いかどうかって話だろ、今は」
ちなみに超日和見主義な日本人的感性で言うと、死んだ方が良いと思う。
勿論それは客観的な話。だから、テレビとかで、そいつの生い立ちとか心情とかに一切感情移入しない状態で、「政府が隠している話を勝手に読み漁って、とんでもなくあぶねー兵器の話とか載ってる本を研究しまくってる奴らがいる。そいつら曰く兵器のことが研究したいんじゃなくて歴史のことが知りたいだけとか言ってるけど、それを知るには兵器の作り方まで知っちゃう」なんて聞いた日にゃ、なんてアブネー集団なんだ、って思う。
思うし、やめてくれーって思う。歴史のこととかどうでもいいから、兵器の可能性の示唆自体しないでくれーって。
それでいて、その集団の生き残りはちゃんと悪者になってて、ちゃんと古代兵器を悪用しようとしてたマフィアに情報提供しようとしてて……ってなったら。
なんでそんな奴ほったらかしにしてんだ、早く捕まえろよ、ってなる。
「どーだろね。まぁアンタだけじゃない、とは思うよ」
「……それは、どういう意味?」
「だから、死んだ方が良い奴。モーガニア……海賊の中でも冒険じゃなくて略奪ばっかやってる連中は死んだ方が良いと思うし、私欲のために圧政を敷いてる権力者は死んだ方が良いと思うし、海軍って立場を利用して甘い汁吸ってる奴は死んだ方が良いと思うし。アンタの死んだ方が良いって理由と、それらがどんだけ違うか、って話でさ」
エースにしてもルフィにしてもそうだろう。
生まれて来たことが悪な奴がいるとして、じゃあなんで生まれた後に悪になった奴野放しにしてんねんって。
手に負えないから七武海。手が付けられないから四皇。
だから、比較的殺しやすい奴に、特に子供に対して「死んだ方が良い」って烙印押してるだけでしょ。子供はそれだけで「そうなのかも……」ってなるからな。思春期思春期。
「シャボンディ諸島にある職業安定所とかも死んだ方が良い連中代表格だろ。それを買う連中も。だから、アンタが死んだ方が良いかどうかは知らねーけど、アンタだけじゃないから先に死ぬのはアホらしい。俺なら死んだ方が良い連中全部殺してから自分が死ぬね」
「……」
「だってヤじゃん? 自分の死後、自分より死んだ方が良い奴がアホ面晒して幸福や悦に浸ってんの見るの。俺ガンガン呪うしガンガン祟るぜ? ジャンプだけど」
それでも「死んだ方が良い」を真に受けて死にたいと思うのなら、勝手にどーぞ。
止めやしないよ。自分の命なんだ、好きに使いな。
「……慰めては、くれないのね」
「そんな仲じゃねーじゃん俺達。慰めて欲しいなら……
「いいえ。……結構よ」
「そうかい」
残念ながら、俺は軽すぎて誰かの心を溶かすとかできない。
それに、潮時だな、とも思っているから。
「次行く場所、シャボンディ諸島なんだよね」
「そう」
「そこにさ、海賊王の副船長がいんだよ」
「まさか……冥王、シルバーズ・レイリー?」
「そう。俺はアンタをそこに預けようと思ってる」
「……厄介払い、かしら」
「有り体に言えばそう。有り体に言わないと、……んー、そうだな。戦力不足」
「同じでしょう」
初めはエルマルを出汁に脅して来たニコ・ロビンだけど、そんなことするわけがないかなー、って。
バスターコールの恐ろしさは彼女が一番知ってる。言葉でどれほど偽悪的に振舞っても、その一線は超えないんじゃないか、って。
……越えられて、アラバスタにバスターコール発動されたら、全速力で駆けつけて軍艦全部沈めるよ。大将三人全員厄介だけど、まぁ、やるさな。
それより、俺がこれから取ろうとしている手法……マリージョアの上を突っ走っていって
魚人島はね。もう仕方ないの。どの道まだ現時点では薬物も出てないはずだし、麦わらの一味がどんなルートを辿ったとしても魚人島には必ず行きつくはずだし。
そこで……三年間冥王の元でどーにかなったニコ・ロビンを引き入れりゃ、あとはトントンなんじゃね? って。
俺もそれまで潜伏してて、トントンじゃなかった場合だけ出て行けばいいかなーって。
ダメかね、それじゃ。
「ダメよ」
「マージか」
「ここはBarであって、託児所じゃないもの」
「それはそうだけどこっちのも児童じゃない」
「ホテルでもない」
「返す言葉もない」
シャボンディ諸島13番GR、「シャッキー'S ぼったくりBAR」。
諸島についてすぐ直行し、開口一番「この訳アリお嬢さん預かってくんない?」の答えが冒頭。
……端折り過ぎたか。
「つまり、かくかくしかじかまるまるうまうまなっとうねばねばびよーんびよーんで」
「せめて言葉で話して頂戴」
「多分一目でわかると思うんだけどオハラの悪魔のクセに戦闘能力大したこと無くて新世界に連れてくのに邪魔すぎるからここに置き去りにしたいんだけどちょっと弱み握られてて普通に置き去りにするの怖いから信頼のおけるここに置き去りたい」
「信頼のおける、ね。どこで信頼をおいてくれたのかはわからないけれど、あなたが今沢山の嘘を吐いたのはわかった」
「そりゃ生来のモンだよ。俺は嘘吐きなんだ。鼻の長さは負けるがね」
取り付く島もない、とはこのことだろう。
詳しく話して、とはいいつつも、受け入れてくれる気が一切感じられない。
「アナタはどうなの? ずっと俯いているニコ・ロビンちゃんは」
「……わからないわ。私には……彼の行動を縛るものが、何もないから」
青キジと遭遇してからずっとナイーブなニコ・ロビン。
いやごめんじゃん。あの時青キジに言ったのは彼を怒らせて氷の壁作らせるためであって、本心は六割くらいしか入ってないって。
「アラバスタの稚児、レコダちゃん。そしてオハラの悪魔、ロビンちゃん。不思議な組み合わせだけど……どういう経緯で知り合ったのか、教えてもらっても?」
「ああ、コイツオハラ出身だからポーネ・グリフ読めるだろ? んで、俺アラバスタ出身だけどポーネ・グリフ読めるんだ。それ仲間」
「……!」
「あら……それ、そんな簡単に言っちゃっていいこと?」
「アンタは悪用しないだろうし、俺とニコ・ロビンの関係性表すならこれが一番でさ」
「ふふふ、大胆なのね」
「いやぁ、馬鹿なだけだよ」
──足音。
草履の音だ。
「おぅいシャッキー今帰ったぞ」
「あらレイさん。お帰り。今回は早かったわね」
「……本当に来た。冥王シルバーズ・レイリー」
「ん? なんだシャッキー、客に酒も出さんとは」
「頼まれてないもの。このコたちが頼んできたのは、そっちのお嬢さんを預かってほしい、なんて珍妙な話だけ」
「預かる? ここは託児所ではないぞ」
おんなじこと言うじゃん。
ニコ・ロビン、もう結構綺麗め美人って感じなんだけどな。
まぁこの二人からすりゃガキもガキか。
「マリージョアをね。土足で越えようと思ってんだ」
「……自殺志願者なら、止めはしないが」
「俺だけだよ自殺志願者は。だから、成り行きで連れて来ちゃったコイツを預かってほしいってわけ」
「預かる、ということは……いつか帰ってくるの?」
「いつになるかはわからんし、なんか良い感じの奴らが来たら仲間にしてもらえばいーじゃんとか思ってるけど、まぁ一応?」
「無責任な男だな」
笑いもしねぇや。
冥王はカウンターに座り、シャクヤクの出す酒を呷って……流し目でこちらを見る。
「マリージョアを越えて、新世界に何をしに?」
「ちょっくら無辜の民でも救ってこようかなって」
「救う? 今君の隣で俯いている幼い少女も救えないのにか?」
「おいおい、俺の方がガキだよ。結構」
「そういう話ではない。そして、そういう話ではないことも君はわかっている」
「……まー、無理だからな。俺に人を救うとか、ムリムリ。仲良くなったら守りたいって感情が湧くかもしれんけど、俺の故郷を脅しの道具に使ってくる奴とは仲良くなれんでしょ」
「君の故郷。アラバスタ王国か」
「よくご存じで」
情報通にも程がある。
俺がお尋ね者になったの二か月ちょい前だぞ。麦わらの一味ほど名前売れてないぞ。
「だが、これから行く新世界。そこにいる者達も、君と仲が良いわけではないのではないか?」
「まーね。だから住んでみて、仲良くなれんかったら放置するよ。そんなもんだろ、縁って」
「同じことだろう。彼女を連れて行って、どこかで仲良くなるかもしれない。そうしたら君は、全力で彼女を守る。違うか?」
「ならんならん。ニコ・ロビンは誰かと仲良くとかムリムリ。二十年間の裏切られ生活で負った傷はそんな簡単にゃ消えないよ」
「……」
少なくとも俺じゃあ無理だ。
ニコ・ロビン側にも心を許す気が無くて、俺側にも歩み寄る気がない。
モンキー・D・ルフィのような。
ポートガス・D・エースのような。
ゴール・D・ロジャーのような。
突き抜けた馬鹿がいなけりゃ、ぜーぇったい無理。
「先ほど……足手纏いだから捨てる、というような旨を言っていたように思うけど。レコダちゃんも、言うほど強くないでしょう?」
「うん。ぶっちゃけ弱い。懸賞金に釣りあわないくらい弱い」
「なのに、仲間を捨てるのね」
「というより、メリット・デメリットの話かな。一緒にいてメリットがない。デメリットしかない。俺もニコ・ロビンも圧倒的に弱い上に結束の無い烏合の衆なんだから、こっからは個別に動いて個別に強くなった方が良い。あるいは、強くならずに雲隠れでも可」
……んー。これ以上は心象悪いな。元からだけど。
「すまんね、無理言った。捨てるのナシにするわ」
「ほう? では、マリージョアに連れていくのかね?」
「いや、ちょいとグランドライン逆走して、空島に置いていく。あそこは平和だからな」
「空島か。懐かしいな」
「俺に最果てへ導く義務はないからね。ニコ・ロビンにはあるんだろうけど、それは俺の運命じゃない」
冥王は、そうか、と。
それだけ呟いて……何も言わなくなった。
「何も頼まずにすんませんね」
「別に構わないわ」
「んじゃ」
「時に、レコダ君」
ぞっとする。
……なんだコレ。……覇王色?
「君は、ヒューマンショップの奴隷たちを救おう、とは……思わないのかね?」
「……」
「それとも──」
「そういえば。忘れてたな、それ」
「ん?」
そうだったそうだった。
それがあったわ。
「すまん、シャッキーさん。長期間の預かりとかじゃなくて、ちょっとニコ・ロビン匿っててほしい」
「……フフ、いいけれど、なぜ?」
「ちょっと奴隷の人たちと話をしてくる。海賊は覚悟あってのものだろうけど、そうじゃない人たちは、まぁ」
そうだったそうだった。
原作でルフィたちが解放したのは、「あの時奴隷にされていた人たち」だ。三年後も彼らはここを訪れるだろう。そして大立ち回りをするのかもしれない。
けど、それまでに奴隷だった人達は……特に何でもなく浪費されるんだよな。
別にこの手が全てを救えるなんて思っちゃいないし、海賊や、その他気の合わない奴まで丸ごと救う、なんて博愛主義は持ってないけどさ。
今苦しんでる人がいて、しかも手の届く距離にいるってんなら、まぁ。
いいじゃん。ちょっとくらい天気が変わったってさ。
*
「ホントに行っちゃうなんて……気分屋が過ぎるわね、彼」
「……」
「まるで、
「あら、レイさんがそこまで言うなんて……もしかして大物なのかしら?」
「それはどうだろうな。ロジャーの奴のような覇気も、ロックスのような悪も、ガープのような善も感じない男だが……果てしなく強い責任感だけで、何かを償おうとしている。私にはそう見えたよ」
「……責任感」
クツクツと、冥王シルバーズ・レイリーは、今日初めての笑いを見せるのだった。