エルマルは……終わらねえっ!   作:ONE DICE TWENTY

7 / 24
第7話 天敵! 伝説の海賊とそうでもない二人

 実を言えば、小規模なヒューマンショップはこの諸島にいくつもある。一番デカいのが1番GRにあるドフィ経営のヒューマンショップってだけだ。

 そして──まー、いるわいるわの奴隷方々。

 

「……坊主、新入りか? ……可哀想になぁ。俺のガキくらいの年齢なのに……捕まっちまったか」

「まーね。そういうおっちゃんは? なんかガタイ良いけど、海賊とか?」

「馬鹿言え。俺は近くの国で兵隊さんやってたんだよ。……つっても戦争なんかない国でな、兵隊も沖合漁業に参加することが良く在って……丁度一人になっちまって、気付けばこうだ」

「そんなとこにまで出張ってくんのか人攫いって」

「ああ。坊主はどこで捕まった?」

「ここ。サンディ島ってわかる?」

「いや……わからねえ。グランドライン内か?」

「前半も前半だからね。アラバスタ王国って言えばわかる?」

「ああ、あそこか」

「そそそ。んでまー、アラバスタ王国からシャボンディパークへ旅行中だったんだけど、親から離れた隙にパァーッって」

「……お互い、運が無かったなぁ」

「ねー」

 

 ガチャ。

 

「そっちの人魚のおねーさんは?」

「よしなよ、おねーさんなんて歳じゃない。ほら、足。わかれてるだろ?」

「ああ、年取ると二股になんだっけ」

「そう。あたしゃもうそろ四十のババアでね。こんなババア攫って何が楽しいんだか」

「へー。めっちゃ若く見えるわ」

「ガキンチョにそんなこと言われてもねぇ」

 

 ガチャ。

 

「そこの俯いている海兵さん──」

「話しかけないで」

「ああうん、なんかごめんな」

 

 ガチャ。

 

「で、いっちゃんでっかいにーちゃんは? もしかして巨人族?」

「んー? おいらはデカいだけで巨人じゃねぇぞぅ」

「そなんだ。海賊?」

「昔はなぁ。でも足洗って、運河で船引く仕事してんだぁ、今。ほら、それこそ伝説の巨人、国引きの真似事だよなぁ。……これからも人だかなんだかを引くんだろうけどさぁ」

「海賊やってた時って何やってたん?」

「なんだぁ、興味あんのかぁ? やめとけやめとけ、坊主みてぇな小さいのはなぁ、憧れるのはわかるけどなぁ、すぐおっちんじまうからなぁ」

「どうせ今から奴隷になるんだし、思い出話聞くくらい良くない?」

「……軽っりぃなぁ最近の若い子は。……まー、おいらの海賊時代は、大したことしてねぇんだよなぁ。丁度生まれの島に海賊船が漂流して、中の船員全員死んでて、コルクボードに張られてた宝の地図があってなぁ。それで……島の連中と一緒に船出してなぁ、地図のもと向かったら、財宝がちゃんとあってなぁ……それで……まぁ、欲が出て、リヴァースマウンテンまでいってなぁ……大破したんだなぁ。ダッハッハ」

「え、じゃあグランドライン入ってないんだ」

「いやいや、壊れた船の破片集めてボロの小舟作ってなぁ? 手漕ぎでウイスキーピークまで行ってなぁ。でもそこが限界でなぁ、仲間も失っちまったしなぁ。だからそのまた近くにある島までおいらだけ泳いでいってなぁ、そこで運河で船引きよ」

「へぇ~」

 

 ガチャ。

 

 運よく、とでも言えば良いか。

 

 現役海賊がいなかった。だから、ありがたく行動できた。

 

「オッケー、全員の手錠と首輪、これで外れたかな?」

「あん? ……え……いつの間に!?」

「おぉ、気付かなかったなぁ」

「へぇ、やるじゃないさ坊主!」

「まーね。さ、逃げて逃げて。裏口に見張りとかいないから」

「……なんでわかるの?」

「今店の前にベリーが降り注いでるから、ここの連中はそれに夢中なの」

 

 天竜人をうんたらかんたらすると、大将とか戦桃丸が出向いてくる。パシフィスタはまだいないとしても、覇気使い+大将を相手にするのはキツい。

 そんな俺は考えました。何をしたら奴隷倉庫からヒューマンショップの連中及び人攫いたちの目を奪えるのか。大事な大事な商品よりわかりやすく価値のあるものはなにか。

 

 ええ、5000兆円です。

 もとい5000兆ベリーです。

 

 俺の能力で降らせるモノは割とすぐに消えちゃうんだけど、貨幣がフワフワジャラジャラ降り注いで来てたら、下で消えているものに気付くのは中々時間がかかる。そんでもって「金が降ってくる」なんて異常気象、グランドラインならあり得なくもなくもなくもない。あるいはシャボンで金を運んでる金持ちなら、自分のシャボンから金が溢れているのかも、と焦って出ていくかもしれない。

 というわけで今、1番GRがヒューマンショップの前に局所的ベリー豪雨が降り注いでいる。

 

「坊主、名前! 教えろ!」

「いいから逃げなよ。その内バレて追手が来るかもだし」

「馬鹿野郎、誰に救われたかわからねえまま故郷へ帰って苦しめってか! 良いから言え!」

「あー。レコダ。アラバスタ王国のレコダ」

「レコダだな。おいらも覚えたどー!」

 

 そこまでの人数がいたわけじゃないけど、とりあえずこれで無辜の民は救い出せたか。

 

 ──じゃあ、壊しますか、ヒューマンショップ。

 

 

 

 *

 

 

 

 突如として降り注いだ、観測し得る限り十億はくだらないベリーの雨。

 その異様な光景に皆が目を奪われ、それを自分たちのものにしようと搔き集め始めた。

 無論、天竜人達には金など必要ない──拾える金など眼中にもないからガン無視だったわけだけど、しかし、けれど、だが。

 

 そうも言ってはいられなくなる事態となる。

 

「……痛テっ!?」

「ん? ……気のせいか?」

「いや……気のせいじゃねえぞ!!」

 

 じゃらじゃら。じゃらじゃら。

 降ってくる金が、段々と、段々と……ヒューマンショップの建物の方へ寄ってきている。

 

 ──雨なんだ、動くのは当たり前だろ?

 

 誰かの声がした気がする。

 そう、当たり前だった。仮にこれが自然現象なら──気流に乗って、それが動くことくらい。

 

 じゃらじゃら。じゃらじゃらと。

 

 次第に、ヒューマンショップの屋根にコインが当たる。一枚一枚は「ただそれだけ」であるコインも、それが何百万枚となれば──ただの金属の雨だ。

 ぐしゃぐしゃと潰されて行くヒューマンショップに、慌てたのは勿論ヒューマンショップ、人間オークションの運営陣だ。

 丁度天竜人の来ているこの日に、何の冗談だ、と。

 

「お、お逃げください! 金が、金が降って──」

「なんだえ、まったく……。下界は本当に騒々しいえ」

「このままだと、金の雨に潰されます!!」

「頭がおかしくなったのかえ? そんなことがあるわけ」

 

 直後、そこにいた天竜人は耳が聞こえなくなった。

 聞こえなくなったように思った。自分の声も出ていないように思う。

 

 ──それくらいの、大轟音。

 建物を貪り食うかのように、金が、金が、金が。

 

 今、焦って、彼に逃走を促した男も──金に溺れた。潰された。

 今、彼の目の前に、コインが一枚、落ちた。

 

 今──。

 

 

 

 *

 

 

 

 ──海軍本部。

 その、英雄、モンキー・D・ガープの執務室。やる気のほとんどない執務を惰性でやる彼の元に入った部下からの珍妙な報告。そのあまりにも"あまりにも"な話に、齧っていた煎餅を取り落としかけた。取り落とすことなく食べたが。

 

「シャボンディ諸島の"職業安定所"が、金の海に沈んだ、か……」

「はっ。周囲にいた目撃者たちの証言によれば、突如として"職業安定所"付近にベリーが降り注ぎ始め、それが"職業安定所"の上に移動し、"職業安定所"を跡形もなく破壊し尽くし──降っていたベリー紙幣、貨幣ともに消失した、と」

「ぶわっはっはっは……なんじゃそれは。被害者は?」

「"職業安定所"に参加していた大勢の権力者、及び経営者たち。ただ、幸いに、といいますか、その経営者を傘にすることで、参加していたプルミング聖だけは全身の打撲程度で済んでおり……」

「諸共死んでくれたらよかったんじゃが」

「ガープ中将!?」

「ぶわっはっはっは、冗談じゃ。……しかし、それを海軍に報告されてもな。グランドラインの気象が()()()()()()であることなど、誰もが承知しておろうに」

 

 春島、夏島、秋島、冬島。

 そうして銘打たれた島々で在れば、気象の予測はしやすい部類に入る。

 だが、そもとして偉大なる航路内の気象は不安定であり、磁気を持たないが故に件のシャボンディ諸島もそこそこ天気の変わりやすい地である。

 

 だから、金が降ることも──。

 

「センゴクには?」

「天竜人から直々に」

「ぶわっはっはっは、まぁそうじゃろな。……で、センゴクはなんと?」

「天候に怒られても海軍としては何もできないが、謝るだけ謝ってくる、と」

「珍しいぞ、ワシとセンゴクの意見が合致するなど」

「……そう、ですね」

 

 無論、わかっている。

 センゴクも、ガープも、彼の前にいる部下も。

 

 金が降ることへの異常性、ではなく。

 その金が、"職業安定所"だけを消し潰し、過ぎ去った、という話の……あまりにもな「人為的加減」に。

 

 まるで通り雨のような、その所業に。

 

 が。

 疑わしきは罰せよな海軍とて、疑わしい人物が誰なのかさえわからない状況では何もできない。どれほど天竜人から叱責を食らおうと、責任の一切を感じない。

 

 だって相手は天気なのだし。

 

「ま、気を揉むようなことではないわい。その事件が頻発するようなら海軍も調査に動くが……今のところそういう報告は入って来てないんじゃろ?」

「はい。その一件だけで」

「なら、ただの異常気象で終わりじゃな」

 

 また煎餅を齧り始めるガープ。

 ただ──彼の目は、少しだけ。

 

 

 

 *

 

 

 

 ってなわけですよ。

 

「ヒューマンショップを潰して来たか。存外剛毅な男だが、人攫いがいる限り人身売買は終わらんぞ?」

「貧富の差がある限り窃盗って概念は消えないよ」

「成程、己の正義を突き通したい、というわけではないのか」

 

 そりゃね。

 人攫い全部殺して回るマンになるんだったら、それこそ三年……っつーか十年くらいかかるんじゃね? まずシャボンディ諸島にいる人攫いを全部殺して、なる可能性のある奴全部殺して、んで他の島々の人攫いにも手を伸ばして。

 ムリムリ。

 

「それで、何故戻って来たのかを聞いても?」

「いや俺もねー、無視して行こうと思ったんだよ。このまま帰らずマリージョアまで行っちゃってもいいんじゃね? って。でもさ、仮にこのままレッドラインまで走って行ったとするだろ? そしたらアンタが、"おおい忘れ物だぞ!" とか言ってニコ・ロビンを投げつけて来そうな予感がしてさ」

「驚いたな。見聞色の覇気が使えるのか?」

「いや覇気はどれも使えない。これはただの人読み」

「読まれる程の仲を築いた覚えは無いが……」

 

 ほら来る気満々だった。

 

「しかし、金持ち相手に金で釣って金で殺すか。皮肉を好むのかね、君は」

「いや、ワンチャンテゾーロあたりに罪を擦り付けられないかなって思ってベリーしか使わなかったんだけど、黄金じゃないからまぁ無理だよね」

「テゾーロ……グラン・テゾーロのギルド・テゾーロか」

 

 ああ、いるにはいるんだ。やっぱ。

 

「そそ。つったってまぁ下手人が俺だと断定はできないでしょ。逃がした奴隷の皆さんが口割ったら終わりだけど」

「そんなことをしそうな者達だったのか?」

「いやぁ、悪意ではしなさそうだったけど、善意ではしそう。故郷に帰って俺の名を伝聞して、周りまわって突き止められる、みたいな。まーその頃にゃもう俺はシャボンディ諸島から離れてるだろうけど」

 

 悪意は恐怖で縛れても、善意は中々縛れんからなぁ。ドレスローザとかでさえその「暗黙の了解」を子供に喋っちゃうくらいだし。

 だから名前言いたくなかったんだけど、あんなに詰め寄られて、あんなにイイ顔されたら、まぁ。

 

「そうだ、冥王シルバーズ・レイリー。あとシャクヤクさんも」

「なんだ?」

「どうしたの?」

「女ヶ島に紹介状とか書いてくんない? ニコ・ロビンをアマゾンリリーに置いて行こうと思ってさ。俺は入れないけど、二人は顔利くでしょ?」

「……」

「……」

「何その顔」

 

 生暖かい目……とは違うけど。

 いやーな顔だ。

 

 ぴと、と。 

 俺の首に、腕が……というか手が張り付く。

 

「何のつもりだ、ニコ・ロビン」

「決めたの。私は、あなたから離れたら……あなたの秘密を惜しげもなくばら撒くわ。バスターコールの被害者が、バスターコールを笠に着る」

「へえ、これ以上の被害者を出そうってか」

「ええ、そうなれば晴れて私達は同じ境遇を背負う仲になれるわ。素敵でしょう?」

「あまりにも素敵すぎてアンタを運んでる最中に手を滑らせそうだよ」

 

 俺がいなくなってた数時間の間に、この二人と何かを話したのかね。

 青キジに会って以来翳ってた声が元に戻ってら。

 

「命を握られている状態だから嘘偽りなく言うけどさ、マジで危険なんだよ、この先。覇気も使えなければ仲間もいない。超人系だけの二人旅。正直言ってかなり無理がある」

「あら、もしかして心配してくれているの?」

「してる。オハラの意志は、こんなところで絶やされるべきじゃない。けど、俺じゃ守り切れない」

 

 俺の能力は、どう頑張っても守護には向いていない。超攻撃的な能力だ。

 加えてこの性格。計画性の無さ。馬鹿さ加減。

 せめてもう一人、ブレインとなれるような奴か、あるいは完全に戦闘に割り切った戦闘員がいれば話は違うけど、俺もニコ・ロビンもどっちかというと補助特化だ。サポート二人で乗り切れる海じゃない。

 

「覇気、というのが使えれば……その不安は解消される?」

「されるけど、無理。アンタがどうかはともかく、俺は絶対に習得できない」

「ほう? なぜそう思うのかね?」

「覇気っつーのは意志の力だ。硬い意志。揺るぎない意志。腹に括った一本の槍。そういうのが無いと覇気は発現しない。んで、俺にそんなものはない。だから俺は覇気を習得できない。覚悟が足りないんだ、色々と」

 

 長鼻君よりも、わたあめ大好きよりも、そして現時点のニコ・ロビンよりも。

 

 圧倒的に、何もかもが足りない。

 

「ふふふ、おかしなコ。覇気の概念を知りながら、如何に自分が習得できないかをここまで力説できるなんて。前代未聞じゃない?」

「そうだな。だが、私にはそうは見えない」

「何、」

 

 を、と問う前に蹴りが来たので、避ける。

 だいぶ遅かったけど、というか遅くしてくれてたけど、覇王色纏って来てたから反応が遅れた。

 

「……ほう。本当に私の動きを読んでいるらしい」

「いやだから、今のは人読みだよ」

「つまり君は、私の攻撃の全てを避け切れる──私という個人を知っているから避けることなど容易、と言いたいわけか」

「あー。気分を害したんなら謝るよ。冥王シルバーズ・レイリー。今でもその実力が健在なのは知ってるけど」

「たとえ私のクセを知っていたとしても。そうだな、当時よくやりあっていたガープやその部下たちでも、私の蹴りを()()()()()()()などという所業は中々できるものではないぞ」

 

 ……。

 

「そうね。それに、彼女から聞いたけど……降り注ぐ雷を避ける、なんてこともしていたらしいじゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて所業、普通のコにはできないと思うけど」

 

 ……。

 

「何が言いたいのかわかんないな。褒め殺したいだけ?」

「君の言葉は、自身のソレは見聞色ではない、見聞色の覇気など取得していないと()()()()()()()()にしか聞こえない」

「言い張ってどうすんのさ」

「彼女を置いていく理由にできる。いや──私達に彼女を守らせる理由にできる、と言った方が正しいか」

 

 ──……これだから大人は。

 ヤだヤだ。もっと少年時代を忘れずにいようぜってのに。

 

「そして、何より。君は先ほど、強い意志が無いと言ったが……私にはそうは見えない」

「OK、降参だ年長者。確かに俺は見聞色の覇気に近いことができる。が、残念ながら見聞色の覇気に目覚めているわけじゃない」

「近いことができる?」

「わかるんだよ。本当になんとなくだけど、大気中でモノが動いたら、それを感じられる。でけぇ覇気が動いたら、それを感知できる。……俺はね、ラニラニの実っつー悪魔の実を食べた天候人間だ。だけど──ラニラニの実の真価はその程度じゃない」

「ラニラニの実。確か、十数年前のシッケアール王国にその能力者がいたな」

「ああそうなんだ。んでも、こいつの能力は天候を操ることがメインじゃないんだ。コイツは──」

 

 ドン! と。

 周囲の空気が、重くなる。まるで覇王色に当てられているかのように。

 

「天を操る。天候も、天空も、その一部である大気も。……ロギアじゃないのだけがマジで残念だけど」

 

 ただし別に自在に操れるわけじゃないのはわかってる。既に色々試してるんだ。

 できるのは「降るわけがないものを降らせること」「降るけどランクダウンさせたものを降らせること」そしてパッシブ能力として「大気の状態を感知すること」に長ける。

 ゴム人間が意識外から撃たれても平気なように。

 バラバラ人間が意識外から切られても平気なように。

 

 これは自論だけど、超人系の中にも能動型(アクティブ)受動型(パッシブ)がいるように思う。上記二人はパッシブで、ニコ・ロビンとかフォクシーなんかはアクティブ。俺はパッシブ寄りのアクティブ。

 

 ただ分類が超人系ってだけで、細分化したら色々いるんだと思う。動物系自然系にも色々いるようにな。

 

「大気の動きを判別できる、か。成程、それは強いな」

「それでレイさんの動きも読めたのね」

「ああ、そうなんだ。でも新世界じゃそんだけじゃどーしようもない奴らが」

「それで、今の話の何割が嘘かね?」

 

 ……。

 ──戦略的撤退!!

 

 

 

 できるはずもなく。

 

「はぁ、本当についてくんの? 危ないよマジで」

「ついて行かざるを得ないでしょう。なんたってもうレッドラインは目の前なのだから」

 

 そう。

 言い逃れとかできそうにない俺が自分の出せる最高速度でぼったくりBARから逃げ出したら、後ろから「おおい忘れ物だぞ!」とニコ・ロビンが投げつけられて来た。

 ようやく見せた俺への笑みがそれで、そのまま冥王はぼったくりBARの中へ。

 仕方がないのでお手紙書いた。もとい、ニコ・ロビンをまたお姫様抱っこして今ナウ現在砂岩ウォークでレッドラインを越えている真っ最中、と。

 

 新世界までニコ・ロビンを連れて行っちゃうと、流石に麦わらの一味との合流は難しくなる。

 麦わらの一味じゃないとニコ・ロビンは救えない。世界政府への喧嘩も売れない。俺じゃあ無理無理。

 

 だからまー、諦めるしかない。

 ニコ・ロビンにはもうこの先ずっと「生きたい!」って思えない人生を背負ってもらうしかない。

 

「んじゃまー、行くかぁ、新世界」

「ええ」

 

 自殺志願者、とは言ったけど。

 あれも大嘘だ。超マージン取る。高度も距離も、マリージョアから大きく離れて、ほとんど空島の高度でゆるりと砂岩ウォーク。外敵もいなければ守る者もいない、どこまでも広がる白い海。超後方にウェザリアが見えなくもないけど、行くことはないのでヨシ!

 レッツゴー新世界!

 

 

 

 新世界……行こうと思ったさ。なぁ。俺も。なぁ。

 

「……なんて、不思議な場所」

「元は地上の島だから、空の環境がこうさせた、ってワケじゃないんだけど……同意見」

 

 俺の砂岩ウォークはその性質上、嵐やサイクロンに弱い。俺が嵐やサイクロンの進行ルートを変える、みたいなことができりゃいいんだけど、まだそこには至ってない。小雨ぐらいしかまだ降らせられないからな。

 んでフロリアントライアングルでチラ見せしたように、暗雲に一瞬晴れ間を見せることはできる……が、それもすぐに閉じる。天候人間とか言って、絶望的に天気を変えることには向いてないんだコレが。前任者が凄かっただけです。

 で。

 レッドラインにぶつかった風がナントカカントカしたんだろう。俺もニコ・ロビンも航海士じゃないのでその辺一切わかんないんだけど、急激なサイクロンが出来上がって。雲の上だからって風の影響を受けないわけじゃない。というがガンガン受けるので、進行は小休止。レッドラインに降りるわけにもいかないのでカームベルト内にある小島に身を寄せようとしたら、コレである。

 

 浮かび、群を為す巨岩。否、島々。

 亜熱帯を思わせる木々と、所々に見える巨大な野生動物の姿。

 

 ……そうか、まだS.I.Qが実用化されてないから、大人しいんだな。

 

「ここのことも知っているのね」

「ああ。ここはメルヴィユ。元は秘境とまで呼ばれていた場所だが、十七年くらい前かな、インペルダウンを脱獄した金獅子のシキがこの島を浮かせて……って、なんだその顔」

「いえ。隠さなくなったのね、と思っただけ」

「スカイピアでは仕方が無かったんだよ。神・エネルは見聞色の覇気の達人。その部下の神官もな。覇気についての概要は?」

「あの二人から聞いたわ」

「そりゃ重畳。で、その達人は、あのバカ広いスカイピア全域の声が聞けた。思考内容を読むまでには至らんみたいだったが、こっちがどこに攻撃するかくらいは読める……そんな相手だった。だからあんまし真実を言えなかった」

「なら、それをしてくる相手がいないのなら、あなたはその"物知り"を隠さなくていいということ?」

「隠さなくていい、というか、必要ならば開示する、くらいかな。明け透けに全部話す程俺は他人を信用してないよ。アンタも同じだろ?」

「……ええ、そうね」

 

 まぁ、レッドライン近くのあのサイクロンがどっかいくまではここに腰を据えるかね。

 ここも……麦わらの一味が来なけりゃ解放されない場所だ。ただ村に行くのはどうかなー。映像電伝虫がなー。

 

 

 久しぶりに「歩く」という行為をしながら、四季折々どころじゃない場所を行く。

 美しい空。美しい緑。美しい水。

 植物も動物も独自の進化を遂げ、それぞれが伸び伸びと生きていて……のどかだ。

 

 中央の島の奴がいなければ、さらに。

 

「綺麗な場所」

「永住するか、じゃあ」

「すぐに置いて行こうとする。それに、いるんでしょ? インペルダウンから脱獄した凶悪な海賊が」

「二十年間海軍に捕まらずにあらゆる組織を壊滅させてきた凶悪犯もここにいるけど」

「王下七武海や空島の王を殺害し、シャボンディ諸島に集まっていた権力者の多数の命を奪ったあなたは凶悪犯じゃないの?」

「いやいや、五十歩百歩でしょ」

 

 巨大な動物はいる……が、こちらに見向きもしない。

 食っても腹に溜まらんだろうからな。

 

「見えた。あそこが町っつーか村っつーか。メルヴィユ唯一の人間の住む場所だよ」

「……妙な木に囲まれているわ」

「ダフトグリーン。あれが発生させる粒子は特殊でね。人間も動物も関係なくダフトっつー病気にかけちまう。人間にとっちゃ大した臭いじゃねーんだけど、動物たちにとっちゃ最悪レベルみたいでさ。あれのおかげで動物はあそこに近づかねーけど、代わりに人間も病に苛まれてるってわけ」

「へえ……それにしても……男女比率や年齢比率が妙ね」

「若い男女は金獅子のシキが持って行っちまうんだとさ。労働のできなくなった奴が降りてきて島民は細く生きながらえてるけど、まぁ無理があらぁな。海賊は海賊、恐怖政治が成り立つのはその下にいる宰相だのなんだのの手腕あってこそってのを知らねえんだ」

 

 さて。

 

「どうするの?」

「今んとこはどうも。金獅子のシキには勝てそうだけど、だからといってポーネ・グリフもないあの場所に用があるかって言うと……まぁ、特には」

「無辜の民なら誰でも助ける、のではなくて?」

「そんな正義の味方に見える? 俺」

「いいえ、でも」

 

 ニコ・ロビンが無言で指を差す。

 遠い遠いそこ。だけど見えなくもない距離に……少女と老婆がいた。老婆の方は身体が悪いのだろう、ガクガクと足を震わせている。

 

 ……見せんじゃないよ。

 

「I.Qってのはこういう花だ」

「あら、絵、得意なのね」

「まぁな。で、金獅子のシキは此奴を独占してる。が、相手は植物。割と刈り漏らしがある」

「それで?」

「俺に付いてくるって決めたんだ。俺のやり方に合わせてもらう」

「だから、それで?」

「アンタ、得意だろ。いろんな場所に目なり腕なり咲かせて、摘み取ってくるの。俺ァアラバスタじゃ運び屋やっててね。ちょいと、籠いっぱいのI.Qの花と──」

 

 "劣神の裁き(クライン・トール)"。

 

「不吉を届けに行ってもいいんじゃねーかってさ。にわか雨にもご注意って感じで」

「ええ、そう言うと思ったわ」

「……ちぇ。そのわかってました、みたいな顔やめろよ。恥ずかしくなるだろ」

 

 では久方ぶりの別行動となるが、行こうか。

 

 よーし。

 

 

 

「"亜氷時代(スターディアル・エイジ)"」

 

 寒冷が降る。

 フフーフ、砂漠出身を舐めるなよ。クソ暑いのもクソ寒いのも慣れっこだ。

 

 とはいえ青キジ程の出力はない。ただただ、この島一帯に雪や雹を降らせているだけ。それもゆーきやこんこレベル。

 それでもジハハさんお抱えの気象予報チームは大慌てだろう。

 前兆の無い気象は、それを予測できないということ自体が自身の死に繋がりかねない。

 

「"劣神の裁き(クライン・トール)"」

 

 さらに王宮へ雷を落とす。ヤハハさんに遠く及ばない雷は、けれど局所的に、たった一人を狙って。

 

「"兇状旅"」

「──ァァり得ねえぇだろうがァ! 流石に!!」

 

 降る、小隕石の流星群に、出て来た。

 流石に出て来た。

 そして、周囲にあった島を動かし、小隕石を防ぐジハハさん。

 

「……小僧。さっきからの異常気象は、お前の仕業か」

「そりゃね。初めまして、金獅子のシキ。ロジャーや白ひげ、ロックスの時代を生きた伝説の海賊」

「おうおう、それが分かってて喧嘩売って来てたのか。で、ガキ。お前は?」

「アラバスタ王国出身、レコダ。海賊でもなければ賞金稼ぎでもない、ただの殺人犯」

「……ジハハハ。で、その殺人犯が、何の用だ。遊びに来ただけか?」

「よくわかったね。見聞色の覇気って奴?」

「ジハハハハハ! ──そんなに死にてえなら殺してやる。獅子威し!」

 

 直後、周囲の島や海が、動物の形に変形し、俺に襲い掛かってくる……けれど。

 

「"斬り刻む雨(スパークリング・レイン)"」

「ッ、斬波!」

 

 反応が早い。横薙ぎに降り注ぐガラス片を、飛ぶ斬撃で弾いた。上に、その衝撃波で自分も逃れた、か。

 俺は俺で襲い掛かって来た動物モドキたちを落とす。

 

「あ? ……お前、今どうやって」

「"獅子擬き"!」

「な──んだとォ!?」

 

 空から、降る。

 獅子が降る。獅子の形をした、とかじゃなく、マジの獅子が。ライオンが。

 

 ただ、素直に当たってくれるジハハさんじゃない。避ける。避ける。避けられる。

 

「小僧、お前の能力……マネマネの実の上位種か何かか!?」

「アレはアレで最上位種なんじゃないかなぁ。下位互換はいくらでもありそうだけど」

 

 降り注ぐ砂岩と獅子。

 ……やっぱり速度と威力が出ない。ここ、本当にどうにかしないとな。

 

「ジハハハハハ! 面白ェ、お前、おれの仲間にならねえか?」

「無理だね。なんたって競合他社だ」

「あ?」

「アンタ、空から海を統べる男なんだろ? でも俺、天を()り統べる男でさ。俺の方が後発で悪いけど、被るんだわな」

「被ったっていいじゃねぇか! できねぇ部分を補い合って、共にこの海を統べるんだ。魅力的な話だろォ!?」

 

 寛容だねえ、そういうとこ。

 自分の野望のためなら多少のプライドは捨てられる。攻撃してきたことにも目を瞑れる。

 

 だけど──ダメだな。

 

「やっぱり残念。俺ってば動物愛護団体に所属してるんでな。野生動物に非道を働くアンタを許しちゃおけねぇのよ」

「ナルホドナルホド、そりゃぁ無理だ。……じゃあこのライオンはなんだよ!」

「これは消えるからいーの」

「消える? ……おお、本当だ。綺麗さっぱりなくなってやがる」

 

 だからこその獅子擬き。本物じゃねーさ。

 命を作れるような能力じゃあねえ。逆はまた別としてな。

 

「お前、適当言って時間稼いで、何か狙ってやがるな?」

「勿論。ところで金獅子。さっきなんで俺に向かって行った獅子威しが崩れ去ったのか、理解は追いついたか?」

「……いや。てんでさっぱりだ。教えてくれるのか?」

「ああ」

 

 遠くの島。水のみでできた島を──指差す。

 そして、能力を使った。

 

「──なにィ!?」

 

 パチンと弾けて、ザァザァと()()水の塊。

 

「俺はラニラニの実の天候人間。お前が浮かせたモノはさ、全部、ぜぇーんぶ」

 

 周囲。島が。島々が。

 全て全て──降り落ちていく。

 

「降らせられるんだな、コレが」

「"五輪咲き(シンコフルール)"」

「今度はなんだ──腕!?」

 

 腕が生える。否、咲く。

 金獅子のシキの背中から。そしてその腕は──彼の頭部に突き刺さった舵輪に絡みつく。

 

「──待て。それは」

「"プルアウト"!」

「ギャアアアア!?」

 

 そして、引き抜かれた。ブチブチと。嫌な音を立てながら。

 

 まぁ、実は映画見てる時も思ってたことではる。

 ジハハさんの頭に刺さった舵輪。抜くのはあまりにも危険だから放置してる、って話。

 

 超、弱点だよね、って。

 あと……マッハに近い速度で飛んでるペルさんに遠距離狙撃決められるニコ・ロビンなら、ジハハさんがフワフワ浮いていようが関係なくヤれるよね、って。

 

 つまるところ。

 

「天敵だったんだなぁ、俺達は」

 

 "劣神の裁き(クライン・トール)"。

 

 さようなら、金獅子のシキ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。