そこが、楽園ではないとしても   作:テクニカル古則おじさん

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いつの間にか評価値1000越えだそうで。
応援ありがとうございます。これからもマイペースに頑張ります。


何でもない日常

 二次試験に備えて補習授業部の四人は過去問を使った勉強会を行っている。

 

「試験対策の勉強もせずに、こんなところで遊んで居ても良いのだろうか……?」

 

 ということもなく、先生の許可を得て合宿所から少し離れた位置にあるショッピングモールまで遊びに来ていた。

 女子高生らしい遊びに疎いどころか、銃器等のミリタリー知識に偏った思考のアズサでも、流石に遊んでいる暇はないのでは? と困惑している。

 

「たまには息抜きも必要ですし、大丈夫ですよ」

「そうよ。そもそも勉強なんてしなくても、少なくとも私は余裕なんだから!」

「私の約五倍の点数を取ったコハルちゃんがそういうなら間違いないですね」

「二点と比べないでよ……というか、二点ならもうちょっと危機感持ちなさいよ!」

 

 三人が大丈夫だと言うのなら、そういうモノなのだろう。と納得しておく。

 尤も、ヒフミ以外は全員合格点に届いておらず、不合格組でもアズサは、とある事情で学習内容が試験に間に合っておらず、勉強が出来ないわけではないため焦る必要はない。

 

「しかし……遊んでこいと言われても。具体的には何をするんだ?」

「それは……買い物したり、クレーンゲームで遊んだり……お茶したりとか……ですかね?」

「あとは、レンタルビデオショップの暖簾の掛かったコーナーに皆で行ったり、マッサージ器具の使用感を──」

「ハナコのは絶対に違う! エッチなのは駄目! 死刑!」

 

 漠然とした普通の女子高生の遊び方を挙げるヒフミの横で、恐らく並行世界か何かの遊びを教え込もうとするハナコの口をコハルが手で抑えた。

 言わせるかというコハルに対して、ハナコは今の何がどうエッチなことを連想したのか? と微笑む。

 結局、どっちにしてもアズサは理解が及ばず頭にハテナマークを浮かべて首を傾げる。

 

「どれも、想像つかないな……」

「じゃあ全部やりましょう! 今日はアズサちゃんにも楽しんでほしいですし!」

 

 勉強を教える以上に張り切っている気がするヒフミに手を引かれる。

 アズサの身体能力なら軽く振り払えるが、何故だかあまり悪い気がせず、そのままエスカレーターに乗るまでヒフミに委ねた。

 

「これは……何というか凄いな……」

 

 ゲームセンターという物にとんと縁がなかったアズサにとってそこから放たれる未体験の光は、ただ彼女を圧倒した。

 

「ここの物は特別広いですから! ほら、アズサちゃん! あそこにペロロ様のクレーンゲームがありますよ!」

「何……!? スカルマンもあるのか……!? ヒフミ行くぞ!」

「あっ、待ってくださいアズサちゃん! そんなに強く引っ張らないで……!」

 

 ヒフミが指差したモモフレンズのぬいぐるみが詰まったクレーンゲームを見た途端に今度はアズサがヒフミの手を掴んで引っ張っていく。

 勉強会のモチベーション向上のためにヒフミが布教したモモフレンズに唯一ハマったアズサからすれば、初めて知った可愛いが詰まった夢のような箱にも見えた。

 

「……なんというか、アレよね」

「微笑ましくて良いじゃないですか。二人を見失う前に私達も行きましょうか」

 

 そんな二人の微笑ましい光景に、付き合わされるのかと思うと、少しだけ勘弁してほしいと思うコハルだった。

 

「むぅ、上手くいかないものだな」

 

 数回クレジットを入れても、アームがぬいぐるみが掴んで持ち上げただけで落としてしまって、景品が獲得出来ず、アズサにしては珍しくコロコロと表情が変わる。

 

「コツはあるにはありますが……初めてなら難しいかもしれませんね。アズサちゃんならあっちの方が得意かもしれませんよ?」

 

 まだ遊びの範疇で済む金額の内にハナコがガンシューティングゲームの方に誘導する。

 正義実現委員会に対して、単騎で籠城戦を行えるほどのアズサになら向いているゲームである筈だと判断した結果だった。

 

「なるほど。この銃を使ってゾンビを撃つのか」

「……ねぇ、何か嫌な予感がするのは私だけ?」

「ゲームですし、流石にそんなこと……」

 

 ハナコの言う通り自分向きだと思ったアズサは筐体にコインを入れる。

 生徒が銃を携行しているのが常のキヴォトスとはいえ、妙に様になった構えにコハルがヒフミに不安を伝える。

 

「……ちっ、弾切れか……」

 

 流石の実力でテンポよくゲーム内でゾンビを倒していくも、弾切れを起こし、リロードを行おうとするも、ゲームのコントローラー用の銃に普通の物と同じ機構など付いている訳がない。

 

「弾倉が無い!? なら──」

 

 咄嗟にリロードすることを諦めたアズサは自分の愛銃を取り出し、銃口を筐体の画面に向け、引金を絞る。

 

「ストーップ!!」

 

 コハルの悲鳴のような制止でなんとか筐体は無事だったが、ゲームの中のアズサは無惨にもゾンビに食い殺されていた。

 

「納得出来ない。あんな銃で戦うのに自前の銃を使えないのはおかしい」

 

 筐体を破壊寸前になってしまったせいで、急いでゲームセンターを離れた補習授業部は、ドリンクだけ注文してからフードコートで席を確保しにいったヒフミとハナコと、注文をするアズサとコハルで別れた。

 

「確か、ドリンクの注文はヒフミ達だったから、私達はフライドポテトの注文だったな」

「そうよ。大人しく並んで順番が来たら──」

 

 買い物くらい普通に出来るだろうとたかをくくったコハルが悠長に説明している間に、拳銃を取り出したアズサが銃口を上に向けて空砲を放った。

 

「フライドポテトのLサイズを要求する!」

「何やってんのよー!? 乱暴なのも駄目! 懲役一ヶ月!」

 

 多少周囲の人間や店のスタッフにぎょっとされたものの、すぐに常識知らずな学生がやったことで、被害も出てないし良いや。というノリが何ともキヴォトスらしかった。

 

「どうにも、女子高生というのは難しいな……」

「あはは……まぁ、アズサちゃんらしいですね……」

 

 無事に注文を終えて、小休止で一つのポテトを四人でシェアし合いながら、注文時のトラブルを聞いたヒフミが苦笑する。

 それから補習授業部は意外とフードコートでの雑談で思いの外時間を使ってしまい。ショッピングの時間が無くなって、合宿所に帰らねばならなかった。

 

 

 ●

 

 

(……今までの任務以上に、苦戦したな。ここまで勝手が違うとは……)

 

 就寝時間を過ぎたというのにアズサは、ある人物から呼び出しをくらって、合宿所近くの墓地に来ていた。

 ここなら誰も来ないだろうというのが、呼び出した者の意図ではあるのだが、墓地というにはあまりにも手入れが行き届いていて、どちらかというと庭園に近い雰囲気を感じた。

 

「久しぶりだね。準備の時以来かな?」

 

 墓石の前で待っていたのはミカだった。

 二人の関係を説明すると長くなるが、端的に言えば、トリニティが今の形になる前に合併から弾き出されたアリウス分校の出身であるアズサと、それをトリニティに引き入れたのがミカということである。

 

「聖園ミカか……あまり私達が接触するのは良くないと思うのだが」

「……たまにはね。どう? トリニティには馴染めてる?」

「……わからない。だけど、悪くはない……と思っているかもしれない」

 

 合宿所の大掃除や、今日一日補習授業部と遊びに行ってみたり、勉強会を通して少しは普通の学生を体験したアズサは自分の心がまだ分からない。

 

「そっか。それと……アリウスの方でこのお墓に何かした?」

「いや、知らない。そもそも死んだ人間の墓に何かしても意味はないだろう」

「まぁ、そうだよね。やる意味も理由もないのかもね」

 

 ミカが呼び出した理由は墓荒らしの犯人の絞り込みのためで、以前に接触した他のアリウスの可能性も考えたが、アズサの話を聞く限りでは、その可能性は潰れた。

 

(トリニティでもアリウスでもない……じゃあ、あの墓荒らしは誰なの……?)

 

 まだ犯人は見つからない。ミカが調べた範囲ではトリニティには彼を知る生徒は居らず、アリウスにはそれをする理由がない。ならば、残るはゲヘナになる。

 ゲヘナこそ、獄中の一人と誰だか知らない彼を拐かした友を騙る人物を除けば、彼を知る生徒は居らず、やる理由も知りたくもない。

 だけど、そう決めつけるにはゲヘナというだけで充分だった。




 桐藤ナギサには、婚約者が居たらしい。
 そんな噂を耳にしたことがある。

「へー、でも居たってことはもう居ないんでしょ?」
「何でかは知らないけど、そうなんだってさ。ナギサ様が誰も知らない場所に通ってるって噂もあるし、もしかして浮──」

 ゴシップ好きな生徒からしたら天上人のようなティーパーティーの一人からそんな話が出てくるのは良い話題の種だった。

「止めときな。それ以上は本当に不味い。部外者が噂するにしてはとんでもない暴言だよ」

 流石にライン越えの発言をしそうになった友人を制止した。その婚約者とやらがどんな人間かなんて興味はない。
 不愉快な噂が広まらない方が優先事項だった。

「でも、どんな人だったんだろう? 白馬に乗った王子様。みたいな?」
「いやー、無いでしょ。白馬はない。クルセイダーとかじゃん? そっちの方が安全だし」
「その方がもっと無くない?」

 そんな噂話をしている一般生徒の近くにたまたまパテル派の生徒が通り掛かったこともある。
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