そこが、楽園ではないとしても   作:テクニカル古則おじさん

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引っ越しやらなんやらで更新遅くなりました。
この後すぐアビドスの更新分読んできます。


傷を負ってでも

「……私は合宿所で寝ていたはず」

 

 アズサが目を覚ますと、補習授業部の皆が居る合宿所の大部屋ではなく、大きな木が一本だけ生えている草原だった。

 木を背もたれにしていたアズサは思わず立ち上がって周囲を見渡す。

 楽園というモノがあるのであれば、この場所のような景色が似合うのだろう。しかし、満ち足りているが故に何もない。

 

「起きた? はじめましてだね。白洲アズサ」

 

 木の反対側から聞こえる声をアズサは初めて聞いた筈なのに、名前を知られている不気味さに警戒心を抱きながら懐に忍ばせている拳銃を反対側に居た少年に向ける。

 

「……お前は誰だ?」

「私は……君にわかりやすくいえば、桐藤ナギサの婚約者だった者かな」

 

 ナギサの婚約者。その肩書きが本当であるなら、アズサからしたら敵ではないことは確かだった。

 味方でない可能性もあるため、警戒は解かずに銃を下ろした。

 

「……何故、私のことを知っている?」

「君があの夜、暗殺する予定だったティーパーティーの一人、セイアが教えてくれたんだ。今の彼女は眠りについてるけど、だから私にその事を伝えられた。

 私の神秘と、彼女の神秘は似ているからね。それくらいのことはできるんだ。それくらいしか説明できない」

 

 セイアが彼と接触した直後、ミカの手引きによって、アズサは彼女の暗殺の任務で動いていた。

 事実としてそうで、セイアの神秘が予知夢であることを踏まえれば、それに近しいものであって、それで知った。ということにしておいた。

 今この場において、重要なことは死人が神秘を用いて語りかけている。ということなのだから。

 

「死んでる筈だって言いたそうだね」

「実際そうだろう?」

「あはは……まぁ、そうなんだけどね」

 

 アズサの考えていることを感じ取ったのか、困ったように笑う。

 それまで彼が纏っていた超然とした雰囲気が一気に知っているようなものに変わってアズサは少しだけ困惑する。

 

「少しだけ、君と話がしてみたくなったんだ。私は残念ながらアリウスと接触する機会なんてなかったから」

 

 アリウスとトリニティの確執は彼も幼い頃に大人達に教えられた。それを鵜呑みにはしなかった。目にしてもいないものを信じるのは浅はかだと思ったから、アリウスとの対話をしたいというのは昔からのやりたいことの一つでもある。

 ゲヘナとのいがみ合いではなく、本物の殺意を抱かれていても不思議ではない。だから、その憎しみは受け止めて、その先にあるものが本当に虚無なのか。確かめてみたかった。

 

「私はアリウスの一人に過ぎない。リーダーは他にも居て……姫と呼ばれている生徒の方が対話のテーブルにつくなら、彼女の方が適任だ」

 

 裏工作やゲリラ戦に得意というだけでトリニティに送り込まれた自分より、アリウスの生徒で特別な待遇を受けている生徒の方が立場的にも、そうだとアズサは思っている。

 

「でも、私が話してみたかったのは君だよ。ヒフミちゃんと友達になって……何よりミカが選んだ子だもの」

 

 楽園の存在について、一番疑っていたミカが裏の意図があったとしても、和解の象徴として扱おうとしてくれたアズサを信じたかった。その上で補習授業部と絆を紡いでくれたことは、嬉しいことだった。

 

「聖園ミカの最終目標はゲヘナの殲滅だ。私を、アリウスを引き入れたのは、その戦力を利用してゲヘナと戦争を起こすためでしかない」

「じゃあ、君は戦争がしたい?」

「……それは、違う」

 

 全ては虚しいものである。そう教えられて、そこで共に育った仲間が居る。

 教えはあくまで教えで。聞いただけのもの。今自分に色んなことを教えてくれる友達と居る方が自分らしくあれる気がする。そんな場所を守りたい。例え自分がどうなろうともそう思える場所に、補習授業部はなってくれた。

 だから、全てが虚しくても、立ち上がらない理由にはならない。

 

「だけど、アリウスを裏切りたいわけじゃない。大切なものに順位なんてつけたくない。だけど、補習授業部の皆がこのまま退学になってほしいわけじゃない」

「……優しいというのは、誰も傷つけないことじゃない。自分も相手も、傷つくことを恐れずに誰かを救おうとすることだと、私は思いたい。ミカは、ナギサのために悪い魔女になろうとしている。君も友達のために自分自身が傷ついてでも、守ろうとしている」

 

 ミカの性格はそれなりに理解している。彼女の憎悪が本物で、考えが全てわかるわけじゃないけれど、その最後に何をしようとしているのか。既に神秘で予見していたのか。

 それを変えてほしくて今を生きているアズサに託そうとしている。

 彼女の迷ってはいるものの、曇ってはいない表情は、捻れて歪んだ結末に負けないと信じている。

 

「でもね、アズサちゃん。人は結構単純なんだよ。君がそう思うように、君が守りたい人達も、君のことを守りたいはずだよ」

「……彼女達は巻き込まれただけだ。アリウスやエデン条約には関係ない」

 

 自身のせいで巻き込まれた三人に、自分という重荷を背負わせたくない。

 

「大丈夫だよ。青春の物語は君達の味方だから──」

 

 とうに諦めて終わってしまった自分が誰かのハッピーエンドを願うなどと都合の良いことだと、理解している。

 だから、そんな都合の良いハッピーエンドを彼女達に勝ち取ってほしいと祈る。

 

 次の瞬間、視界がホワイトアウトする。アズサが再び目を醒ます頃には三次試験前日の朝だった。

 何か変な夢を見た気がするが、それ以上のことが思い出せず。身体を起こして窓を開けて日の光を浴びると、スッキリとした気分になる。

 

(……計画実行日は今日……私は──)




ここすきをちょくちょく確認してみると。ナギサ様の幼児退行が人気らしい。
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