そこが、楽園ではないとしても 作:テクニカル古則おじさん
それと重なって諸々あっていつもより更新遅くなりました。
「今になって、ようやく彼の言っていたことが理解できた」
「悪い魔女、か……そうだろうな。彼女の目指すところがそこなら、悪い魔女というのが的確だろう」
「無理難題を押し付けてくれたものだ。私は視ることしかできないというのに……」
「先生。バトンリレーのようですまないが、貴方に託そう」
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(意外と頑張るなぁ)
合宿所にアリウスの兵力を送り込み、そこを防衛している補習授業部との戦闘の様子をミカは後方で観察する。
補習授業部がナギサを匿っていることにして、ティーパーティーのホストを襲撃して、ホストになったミカがトリニティとアリウスを併合した戦力をゲヘナとの戦争に使う。というのが表向きの理由。パテル分派もアリウスにもそう伝えていて、見事に騙されてくれている。
「さて、そろそろ行こうかな」
補習授業部はアズサが念のためと仕掛けていた大量トラップや彼女が得意としているゲリラ戦術を駆使して、アリウス分校の戦争をするための教育を受けた生徒達を撃退した。
その頃合いを見計らって第二陣と共に補習授業部が待ち構えている体育館へ向かう。
「久しぶりだね。先生……ここまでこの子達が戦えたのは先生の力もあったなら納得。正直計算外だったよ」
「……それがどんな計算だったかはともかく、どうしてこんなことを?」
第二陣と共に現れたミカを見ても先生はあまり動揺している様子はなかった。
補習授業部の方は多少疲労しているようだったが、この後、三次試験を受けなければいけないことを考えると、彼女達からしたらこの状況はかなり不味い。
「悪いけど、調べさせてもらったよ。基督アルマについて」
先生は調査したとある生徒の名前を出す。それで時間を稼げば、この事態を察知した正義実現委員会が駆けつけてくれるかもしれない。
大した情報は出てこなかったが、エデン条約におけるトリニティの事情に無関係とは思えなかった。
「ふーん、調べたんだ。どうせ大した情報出てこなかったでしょ? どうせなら私が教えてあげよっか」
自分とナギサ以外の口からあまり出してほしくないセンシティブな話題のせいでミカは眉をひそめる。
ここまで来たのなら時間を稼がれようが、どうしようが関係もない。武力のイニシアチブを持っているのはこちら側なのだから。
「トリニティとゲヘナの和解なんて今更だと思わない? 昔っからいがみ合い続けていたのに、急にエデン条約が推し進められて、締結まで後一歩。トリニティの歴史上、親ゲヘナ派とかも居たけど、そういう活動をした生徒は全く居ないんだよね」
良くも悪くも、自分達の学園生活を謳歌するだけなら他の学園の自治区に出る必要はなく、そんなことを声高に宣言するような生徒は居ない。
やったとしても活動家の真似事程度になるのが関の山である。
「前置きが長くなっちゃったね。その昔、本気でトリニティとゲヘナの和解を目指していたのが、ナギちゃんの婚約者だった基督アルマ。私も親戚だったからあの馬鹿みたいな理想論は飽きる程聞かされてたよ」
ワガママにほどほどに付き合ってくれて、でも、度を越えた時はしっかりダメだと言ってくれて、年不相応に落ち着いているのに、何となくほっとけない雰囲気のある彼。
その時は理解できなかったが、今この感情を表現するのであれば、愛だった。
「それである日、友達が出来るかもってゲヘナの自治区にまで遊びに行ったんだけど……そこでゲヘナに殺されちゃったんだよね。多分、路地裏かどっか人目につかない場所でリンチにあって……。
愛が敵を友人に変えられる唯一の力であるなら、その愛が満ち足りた場所こそが七つの古則の『楽園』を証明できる。だったっけ。
それでトリニティとゲヘナの間で長年積もった憎悪を晴らすことで、楽園を証明しようとしていたんだと思う」
「そ、それって、そんなのって……」
ヒフミはミカの語る基督アルマの言葉に覚えがあった。
忘れもしない。あの時のペロロ展で出会った優しいお兄さんが基督アルマであるなら、ナギサが自分のことを気に掛けてくれたことにも合点が行く。
それ以上に、何時か会えると思っていた彼がもうこの世に居ないというショックの方が大きかった。
「もしかしたら、ヒフミちゃんも何処かで会ったことあるかもね。気になったら何処にでも行っちゃう人だったし……彼についてはこんなとこかな」
「ミカ……君は諦めたくなかったんじゃないのか?」
「……何の話かな?」
先生はミカの口から語られることから、以前彼女と矯正局に行ったことを思い出す。
アルマの事を語るミカは、最後に彼のことを忘れないように、誰かに知っていてほしかったような表情をしていた。
ただ敵討ちをするだけなら、ミカの立場なら直接正規の手順を踏む理由はない。まだ踏み留まらせることができるのであれば、それに越したことはない。
「矯正局に行ったのは、最後にもう一度楽園を信じてみようとしたからなんじゃないか?」
「……先生、私はね。そう思えたなら、多分ずっと昔にお姫様になれてたんだと思う。だけど、それは私なんかじゃないんだよ」
もう戻れないところまで来てしまった。もう二度と戻らない優しい日々は喪ってしまっている。
「説得を試みてるなら、無駄だよ。私は今日、ここで負けに来たんだから」
「それはどういう──」
ミカの真の目的はアリウスと、ティーパーティー内部でもゲヘナに強い敵対心を持つパテル分派を頭である自分ごと武力制圧させることだった。
自分が楽園に相応しくないことなど、昔から理解している。
彼の命を奪った相手は可能であれば殺してやりたかったけれど、ナギサの様子を見ていると、急ぐ必要があった。
「どうもこうもないよ。私は護るために壊す。もうこの後に誰にも壊させない。私なりのやり方で楽園は私が護る」
その二人の理想を瀆すゲヘナとアリウス。
彼のことを想っているのに理解してあげられなくて、理解を示すナギサに嫉妬するお姫様になれなかった自分。
彼から愛されていて、彼のことを愛していて、彼が居なくなっても、理想に溺れることができるナギサ。
全てが嫌いだった。憎んでいた。それは昔からずっと変わらない。
ミカが攻撃開始の合図と共に体育館の壁が爆発する。
爆煙が止むと、黒い修道服を来た集団がミカ達を補習授業部と挟む形で館内に侵入する。
「シスターフッド……!?」
「周りの見張りは何をしていたんだ!」
先程のミカの負けに来たという発言で動揺して浮き足立っていたパテル分派とアリウスの生徒の数がシスターフッドによってみるみる数を減らしていく。
その様子にミカは期待以上の戦力を持ってきたことに喜んでいた。
これで残党も残さずに腐った芽を全て摘める。
「ティーパーティーの聖園ミカさん。他のティーパーティーへの傷害教唆及び傷害未遂で、貴女の身柄を確保します」
シスターフッドの先頭に立っていたサクラコがパテル分派とアリウスを制圧して、ミカの前に姿を現す。
ハナコに頼まれたこともあるが、ここに来る前に別の人物から頼まれたことを思うと、こうなった以上は一度怪我をさせてでも、止めるしかない。と、サクラコの眉間に皺が寄る。
「やってみせてよ。じゃないと困るんだから」
ミカも抵抗するという意思を見せつけるために、愛用しているサブマシンガン、Quis ut Deusを構えると、周囲に明かりがなく、夜の闇で包まれているのに星のように輝きを放っていた。