そこが、楽園ではないとしても 作:テクニカル古則おじさん
二時間クオリティだから許さなくても良いけど、石は投げないでほしい。
「ごめんなさい……結局のところ私にはどうすることも出来ませんでした……」
ミカが起こしたクーデターから約一週間後。
丸一日気絶していたナギサは事態の把握や事後処理に追われて感情の整理が付かないまま、ようやく自由な時間が出来て、トリニティの地下牢獄に投獄されたミカに会いに行く勇気が持てず、彼の眠る墓地までやってきていた。
「……また少し汚れてきてしまいましたね」
事後処理の最中にパテル分派が墓石にペンキを塗りたくり、ナギサの供えたぬいぐるみを利用しようとしたことは聞いていた。
ぬいぐるみが片方だけ残ったのは時間が押していて、結局回収できなかったどさくさで、片方だけ紛失してしまったらしい。
「……ごめんなさい。一人にしてしまいましたね……代わりはきっと……居ないのでしょうね」
二つ一緒に供えられたのに、片割れが居なくなってしまって、代わりも用意できるものではないぬいぐるみを見て、つい、自分を重ねてしまう。
代わりが存在するのなら、楽園なんて目指していないというのに。
「ナギサ様、お久しぶりです」
「──」
この場で声を掛けられることはもう無いと思っていたナギサの耳に彼女を呼ぶ声が入る。
その声の主の顔は、自分のやったことを考えればもう二度とは会っていけないとすら思っているのに、こうしてナギサの元を訪れた。
「ヒフミさん……」
振り向くことが怖い。
彼女がどんな表情をしているのか、どんな感情で後ろに居るのか、それがわからなくて全身が硬直してしまう。
「……私、今日はお礼を言いに来たんです。昔、優しくしてくれたお兄さんに、いつか会いたいと思って……そしたらここにナギサ様が居たんです」
ヒフミがナギサの隣に座って両手を合わせて祈り始める。
あの日、他の人からしたら大事件が起きた訳ではなく、ただただ自分のドジで泣きを見ただけなのだが、そんな自分にモモフレンズのグッズを譲ってくれた彼には感謝してもし足りない。
ナギサも彼が早朝から早起きして行くと息巻いていたイベントに行った後なのにも関わらず手ぶらで帰ってきて、そんな話をしていたことをよく覚えている。
「お兄さんに会えなかったことは私も寂しいです。だから、ナギサ様からお聞きしたいんです。あの人がどんな人だったのか……どんな生き方をした人だったのか、教えていただけませんか?」
「……私のことを許してくれるのですか?」
目線だけ隣に居るヒフミの方に動かしても、顔を見ることは出来なかった。
「あはは……結局補習授業部の皆に問題があったことは、間違いないですし……だからって怒る。というのも、私らしくないと思ったんです。愛はきっと誰でも友達になれる素敵なパワーだって、思ってた私だからアズサちゃんともお友達になれましたし、ナギサ様がそうあってほしいと言ってくれたのなら、いつも通りの私でいようと、そう思います」
「──」
愛した人の言葉だった。
だけど、ヒフミがヒフミなりに考えた上での言葉でもあった。
愛は、敵を友に変えられる。不思議な力だから。例え喧嘩をしても、その相手が怒っている理由がわからなくても、諦めずにいれば、きっと分かり合える。
それはそれとして、ハナコがナギサに言った事はいつか謝らせないといけないとヒフミは思うが、それはまた別の話。
「ヒフミさん……ありがとうございます」
「そんな、恐れ多いです」
自分が彼の代わりになれる。だなんて思い上がったことは考えていないが、らしくあることで彼を思わせるのであれば、ヒフミとしては憧れの存在に近づけたような気がして、ちょっとだけ嬉しくもあった。
険しい表情だったナギサの表情がポーカーフェイスの笑みではなく、生の感情から来る微笑みになり、ようやくヒフミの顔が見れるようになった。
「あ、そうだ……私、この辺りでペロロ博士のぬいぐるみを拾ったんです。今日も持ってきていて……ずっと持ち主を探してたんですけど、やっぱり見つからなくて」
「それは……私がお供えした物です」
ヒフミがリュックサックから取り出したペロロ博士のぬいぐるみを見て、何となくだが何処にでも一人で行ってしまう彼を思い出す。
人を心配させて、ケロっとした顔をして戻ってきて、よくミカに怒られていた。
「えっ、そうだったんですか!? そしたら私結構罰当たりなことを……」
「ふふっ……大丈夫ですよ。きっとあの人も怒ったりしませんし、私もヒフミさんなら良かったです。今回の件のお詫び……というには足りないかもしれませんが、差し上げます」
彼の場合誰であっても怒りはしない気もするが、ヒフミになら大切に保管してくれていたことも想像に難くなかった。
ペロロのぬいぐるみが一人遺されたわけではないことは、羨ましいが、いつでも会えるとわかったのなら、その方が良い。
「えぇ!? 良いんですか!? これって……」
「元はと言えば私がお供えした物ですし、欲しいと言われたら彼も渡してしまうかと……そういう人でした」
「よくよく考えたら、あの時もそうでしたね……ありがたくいただきます」
本当に貰っても良いのかとも思ったが、用意したナギサがこういう時に頑なであることも考えて、ありがたくもらっておくことにした。
(ああ……これが楽園に繋がる道であるのなら……やはり私は楽園を諦められない。今はまだ……私には敵を友にすることは出来ないかもしれないけれど、誰よりも私が……彼をもう二度と裏切らないためにも……)
エデン条約の結果がどうなるか、まだわからない。
ミカともまだ本当の意味での仲直りも出来ていない。エデン条約を連邦生徒会から提示された時に比べたら、マイナスのスタートかもしれない、だけど、諦めるにはまだ足りていなかった。
ナギサ様誕生日おめでとう。