そこが、楽園ではないとしても   作:テクニカル古則おじさん

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地獄から遡って

(あーあ、結局、こうなっちゃったかー。ここで死んでやるくらいの気持ちだったのにね)

 

 ミカは地下牢獄の固いベッドの上で特にやることもなく、ただ物思いにふけていた。

 クーデターに失敗して、アリウスの一部を手引きした彼女だけ投獄されたが、他のパテル分派の生徒もそれなりの制裁を受けていた。

 事情聴取も嘘偽りなく伝えた。とはいえ、元々はエデン条約を受け入れたくない。程度の指針で始めてそれからあれだけのことをして許されるとも思ってはいなかったとはいえ、あまりにも何もない牢獄は暇だった。

 

「というか……つまんないなぁ。ねぇ、看守さんお話相手になってよ」

「お静かに、不必要に口を開けば貴女の立場が危うくなります故……」

 

 看守を任されていた生徒はミカの記憶が正しければフィリウス派の生徒だったはずである。

 ミカが覚えていたのも、ナギサがお付きとして、何回か指名していた生徒だったから、というだけで彼女に特別何か思うことはなく、話し相手が欲しいだけだった。

 

「ふーん、私の立場を気にしてくれるんだ。ま、今更立場も何もないと思うけどね。ティーパーティーの解任と財産没収は、もう決まってるようなもんでしょ」

「……だとしてもです」

 

 看守はパテル分派にも、サンクトゥス分派にも友人が居る。どちらの友も今回の件に関しては無関係で、安心こそしたが、二人もそれなりにショックを受けていた。

 無理もない。片や代表(ミカ)がクーデターの首謀者、片や代表(セイア)がその被害者。

 それを見て、何ができるかと強いて言うならば気不味い雰囲気を取り持つくらいで、他には何もない。

 

「ナギちゃんも忙しくて面会にも来ないし、暇なんだよねー。あー、いや、だから看守さんが毎日同じ時間にどっか行くんだ。私がどうしてるか伝えて、どう処罰するか決めてる。違う?」

「ご想像にお任せします」

 

 ミカの推理が当たっているかどうかはさておくとして、看守に自分が何をしているかを答える義務もない。

 そっけなく受け答えをする彼女に飽きたミカは大の字で横になる。

 

「つまんなーい……ちょっとお昼寝するから誰か来たら起こしてね。おやすみ」

「……」

 

 初めてミカを見る。というわけではないが本当に自由な人だと、無言で看守は呆れながら暇潰し用に持ち込んだ本を開いて、そちらに意識を傾ける。

 

 

 ●

 

 

 眠りに入ったミカは何か異質な空気を感じて瞳を開けるとそこはティーパーティーのカフェテラスだった。

 しかし、テーブル含めた全てが燃えている。それだけではない。

 空は血のような赤に染まり、カフェテラスの床や壁には血や弾痕がくっきりと残っている。

 ティーパーティーの各派閥の生徒やそれ以外のトリニティ生やゲヘナ生の死体が辺り一面に転がっている様は、まるで地獄のようだった。

 

「なに、これ……」

「ミカ」

 

 ミカがこの地獄に戦慄していると、いつの間にかテーブルの対面にヒトが座っていた。

 その少年は着ていた制服はトリニティの制服ではあるものの、胸の辺りにティーパーティーの証を付けていて、染められた黒い制服と合わせた黒いマントを羽織った星の無い夜のような黒い装いとは逆に焦げ茶色の髪が色を忘れたように真っ白になってしまって、優しさを含んだ澄んだ瞳は濁りきっていた。

 それなのに、羽だけは白いままで、それが不気味だった。

 

「アルマ……?」

「……それはもう、死んだ人間の名前だ。仮にそうだとしても君の知る人と私は違う……私はもしも(if)の存在だから」

 

 ミカと同い年くらいまで成長したのか、体格や顔つきは異なっているものの、彼そのもので、アルマなのに、アルマじゃない。

 そんなことだけが直感で理解できた。

 

「ただの夢……じゃないよね?」

「……夢だよ。信じれなくなったのに、抱え続けて、ボロボロになって……血と硝煙で汚されたそんな成れの果てだよ」

「夢でもアルマのそんな顔、私は見たくなかった……」

 

 今にも泣きそうなのに、泣けなくて、それでも必死になって歩いてきた道は血みどろで、誰の支えもなくて、血反吐を吐き続けた結果がこのアルマであるなら、ミカは許せなかった。

 

「……私はミカに謝らないといけない。

 君の努力を無駄にしてしまったこと、八つ当たりしたこと、君の心を蔑ろにしたこと、優しさにつけこんだこと……一生謝っても足りないと思う」

 

 本来であれば、拒絶するべきなのだろう。だけど、このアルマを拒絶したら、彼には何が残るのだろうか。

 ミカが知っているアルマであるなら、こうなる前に彼を抱き締める婚約者が居るはず。なのに、こうなってしまったもしもがどんなもしもなのかは考えたくもなかった。

 

「許す、許さないじゃなくて、まずは私に話してよ! じゃなきゃ何もわかんないよ……私は好きだった人をこんなにしたやつのことなんて絶対に許さないから、アルマだけは味方してあげるから……話してよ」

 

 ミカは座っていた席から立って、対面のアルマの元まで行って彼の頭を抱き締める。

 正直、もしもの存在だということも、飲み込み切れていないが、辛そうな彼を見ているのが一番嫌だった。

 それを少しでも癒せるのなら、なんだってしたっていい。ナギサほど上手くはできないかもしれないけれど。

 

「……ごめん。そろそろ限──から……最後に一つだけ」

 

 地獄が崩壊していく、剥がれ落ちた壁の先は真っ黒で何もない。

 ミカも口を開こうとしても、何かに強制されたように言葉を発せられなくなった。

 アルマの言葉も途切れ途切れでノイズ混じりだが、最後に何かを伝えようとしていた。

 

「もし、私に出会ったらミカに終わらせてほしい」

 

 そんな介錯は何かから解放されたような表情で頼まれても御免だと思った途端意識が切り替わったように牢獄で目が覚める。

 

「──! アル、マ……!? アレ、私どんな夢見て……アレ?」

 

 飛び起きて何かに向けて手を伸ばした理由はもう、思い出せなかった。

 何かを頼まれた気がして、そんなこと誰も望んでないと思ったことがあったのに、何も思い出せなくて、胸が締め付けられる。

 

(何だったんだろう……嬉しいことと悲しいことが同時に起きたような気がするのに、思い出せないなんて……もっと悲しいだけじゃん……)




毎回ミカだけこんな目にあってて申し訳ないなと思う反面、まぁ、曇ってる方が輝いてるよと思わんではない。
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