そこが、楽園ではないとしても   作:テクニカル古則おじさん

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お久しぶりです。
色々忙しすぎて執筆に時間が取れてなくて更新できず申し訳ありません。
時間に関しては言い訳でしかありませんが。


天から地に、地から無に

(……ここにも居ないか。あの推定アルマ何処行ったのさ)

 

 ナギサ達が回収されたのを見送ったミカは、雨に濡れることを構わずに何処かに消えた自身を推定アルマを探していた。

 古聖堂の付近を探し回っても彼の姿はなく、少し前に起きた大きな爆発があった場所に向かう途中で見覚えのある顔を見掛ける。

 

(はぁ……流石に放っておくには、知ってる顔過ぎるじゃんね)

 

 満身創痍で瓦礫を背もたれにして座り込んでいるアズサを見つけてしまった。

 それの様子から何かがあったことは間違いなく、少しでも情報が欲しいという理由もあるが、何となく放っておくことができなかった。

 

「お隣、失礼するね」

「……脱獄、したのか」

 

 一声掛けてから座ったミカの方を見ずにアズサが呟く。

 アズサが喋らなければ、それはそれでいい。自分の思ってることをそのまま吐き出すだけの行為に返事はいらない。

 

「これでもう、ティーパーティーどころかトリニティにも戻れなくなっちゃった。ま、トリニティの大人達は嫌いだったし、これであーだこーだ言われなくなるって思うとせいせいするかな……アズサちゃんは?」

「……サオリを殺そうとした」

 

 一人でアリウススクワッドに強襲を仕掛けてリーダーであるサオリを仕留めて事態を強引に終結させようとしたものの、それも未遂に終わってしまい、命からがらで逃げてきた後だった。

 

「……だから、私はヒフミとはもう会えない。皆と学校に通って知らないことを知って、そうやって生きていたかったのに……サオリを殺すこともできなかった」

 

 そんな願った未来が手が届く場所にあった筈なのに、それを捨ててまで起こした行動が殺人で、手を抜けば殺られていたとはいえ、人を殺すという動作に躊躇いが無かった自分にアズサの自己嫌悪が積もっていく。

 

「じゃあ、生きて戻りなよ」

「は……?」

「私もさ。大切にしてたことが滅茶苦茶になって嫌なことも多かったけどさ。

 大切な人には生きていてほしいし、笑っててほしいものだよ。どんなに仲違いしててもね……まぁ、大体私のせいだから、どの口がって気もするけどね……じゃ、会えたらまたどこかでね」

「──サが……」

 

 ゲヘナが憎いことも、アリウス共々道連れにクーデターを起こそうとしたのも、大人達に嫌気が差したことも。

 全部、彼とナギサとの悪くはないと思える思い出があったからこその感情で、もしもアズサに『今後』が赦されるのであれば、ミカが彼女に言えることはそれだけだった。

 言いたいことだけ言って、推定アルマ探しに戻ろうと腰を上げると、何か言いたげなアズサに気付く。

 

「桐藤ナギサは……クーデターの際に貴女を助けてほしいと言っていた……だから……」

「私もってこと? それは無いかなぁ。さっきも言ったけど私は退学だろうし、やらなきゃいけないこともあるからさ」

 

 昔からナギサと喧嘩をした時は最後には仲直りをしていたが、ことここに至ってはもう彼女と会うこともないだろう。だから、仲直りすることもない。

 アズサは戻れたとしても、自分に『今後』がないことは理解していた。

 

 

 ●

 

 

「……そっか、そりゃそうだ。あの子が居るんだから、ここには居ないはずだし、私がここに居られるのは君が居ないからだ」

 

 ミカが探していたが推定アルマが訪れたのは、この世界の自分自身の墓地だった。

 

「変なことを言うけど、初めましてだ。名前は……どうしたもんか」

 

 基督アルマを名乗るには大切な物も大切だったはずの思い出も捨ててしまっている。

 それをこの世界では捨てられなかったからこそ、今この場に彼が居て『彼』が居ないことの理由でもある。

 だから、『彼』の名前を借りるわけにもいかない。

 

「……フォールン。それでいいか」

 

 翼を持ったヒト型の異形をフォールンと呼んでいたと、母から教えられたことと、自分がホストになった頃にとある一般生徒の間でこっそりそう呼ばれたことを思い出した。

 

「自分の墓参りなんて、ナンセンスなことをしているとは思ってる。だけど、やっぱり、この世界のナギサはあの子じゃないって思ったから来てみたんだけど、ここにも居ないのは当たり前の話か」

 

 一人で死人と通じてる訳でもないのに、会話をしている様に独り言が止まらない。

 死んでいる筈の別の自分の墓を見て、安心と同時に怒りが湧いてくる。

 

「そうでなければ、ナギサを未来に生きさせることができなかった。なんて言わせない。もし、そうなら……私の生命の意味はなんだったんだろうね……」

 

 何のために、血を見てきたのか。

 何のために、誰かを見捨ててきたのか。

 何のために、あの子と死別してしまったのか。

 誰かを赦す前に自分自身すら赦せそうにない。

 

「……随分長いこと、走り続けてきた。ゴールは無くて、血を吐き続けてきて……もう、ロールケーキの味も思い出せない」

 

 彼が同じ『基督アルマ』であるのなら、それがどれだけのことか理解して貰えると思っての言葉だったが、返事があるわけもなく、フォールンには彼が居るであろう場所に接続する神秘は使えない。

 

「そろそろ行くよ。悪いね、私のことばかりで……もう、ここには来れないから、あの子との記憶に触れられるここに来ておきたかったんだ」

 

 あの子のことを思い出すと、動かなくなった表情筋が少しだけ緩む気がした。

 最期まで尽くしてくれたあちらのミカには悪いとは思うけれど、彼女はあの子にはなれない。

 もし、もう少し早くにロールケーキの再現に成功していればあるいは。

 

「キスで眠り姫が瞳を開けてくれれば良かったのに」

 

 そう言い残して、フォールンは墓地から離れていった。




諸々の都合で短めでしたが、来年もゆっくり更新はしたいと思っています。
それでは、良いお年を。
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