そこが、楽園ではないとしても   作:テクニカル古則おじさん

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お久しぶりです。
定期的に書きたいなぁでちょっとずつ書いていた物の集積体になります。


エデン・ストレンジャー
暗夜行路


(さて、探すって言ってもどこに居るかもわからないんだよねぇ)

 

 トリニティから出たミカはバイクを走らせてはいるものの、手掛かりなど何一つ無く、気がつけば周りは味気の無い砂だらけの廃墟の山だった。

 

(アビドス……の自治区か。アルマは行こうとしたけど砂まみれだし治安悪くて止められたとか言ってたっけ)

 

 他の自治区は良くてもゲヘナとアビドスは許可が貰えなかったと、残念そうに語っていたアルマの姿を思い出す。

 

『砂まみれのところに行ったら羽も洋服も汚れるし、何もないのになんでアルマは行きたがるの?』

『何もないってことは、新しい何かが存在する可能性しかないってことなんだよ……誰も見たことがない楽園だってね』

『また言ってる……』

 

 あの頃のミカには理解できない言葉だった。

 今のミカであれば、なんだかんだ言いつつも最終的には呆れながらも彼の背中を押してしまうのだろう。

 綺麗事を実現できるのであれば、その方が良いに決まっている。

 しかし、そうはならなかったのも現実である。

 

 だから、きっとまた後悔する。

 

(にしても、ヒフミちゃんのお友達もよくここで生活できてるなぁ……インフラはところどころ通ってるみたいだけど)

 

 野宿するにしてもテントの中まで砂だらけになってしまいそうな場所は避けるくらいの贅沢は許されてほしいと祈るばかりだった。

 一日だけなら滞在しようかと考えている最中に、バイクのエンジンが明らかに正常ではない音が鳴る。

 

「げっ……!」

 

 この手の知識に明るい方ではないミカでさえ何かを察すると同時にエンストを起こしたバイクがピタりと止まってしまった。

 

「最悪……どうしよ」

 

 こんな場所で立ち往生する訳にもいかないが、宛もなくバイクを手押しするのも現実的ではない。

 

「えーと、こんなとこで何を? 確か、聖園ミカ……さんだよな?」

 

 ミカが途方に暮れていると、小型のディーゼルトラックが彼女の目の前に止まり、一人の男子が降りてきた。

 

「え、あぁ、うん。そうだけど……貴方は?」

「アビドス二年生、コウヤ。事情は……まぁ、どうでも良いか。バイク動かないなら後ろに乗せて」

「いいの……?」

「困ってないなら置いてくけど……」

 

 ミカとバイクを一瞥したコウヤと名乗った少年はぶっきらぼうな態度でトラックの運転席に戻った。

 

「じゃ、お言葉に甘えるね」

 

 ミカがそのままバイクを持ち上げて荷台に置いたことに、コウヤは目をぎょっとさせる。

 

(確か、ティーパーティーの人だよな。追放になったってニュースで見たけど、なんでこんなとこに居るんだ?)

 

 ある事情でアビドスも先の調印式にまつわる騒動に関わっていて、その後の処理として、ミカがティーパーティーを追い出されたことはニュースで見たが、どうしてアビドスの自治区の近くで立ち往生していたかがわからない。

 

 ミカがバイクを素手のまま持ち上げて荷台に乗せ、隣に座ったのを横目に見ながらコウヤはアクセルを踏む。

 

「詳しくは聞きませんよ。聞いたって俺にはちょっとだけ手助けするくらいしかできないんで」

「ふーん。優しいんだね」

 

 ミカが何か喋る前にコウヤは面倒ごとには巻き込まれたくないが見捨てる事もしたくはないということを遠回しに示す。

 心底嫌そうな表情で、それでも手を差し出してくれたコウヤにミカはそう告げた。

 

 しばらくトラックを走らせると、一軒の家の前に止まる。どうやらここがコウヤの住居らしい。

 ミカはトラックから降りてコウヤに家の中に通される。

 

「道具とか持ってくるから、しばらく中で待っててほしい。洗濯機とかシャワーとか勝手に使って貰って大丈夫なんで」

「いやいやいや!」

 

 バイクのメンテナンスをしようと、工具箱を持ったコウヤをミカが制止する。

 

「そこまでしてもらっちゃ悪いよ。というか、バイクのメンテナンスも自分でしないとだし!」

 

 あんなところで立ち往生していれば髪の毛に砂が付いたりとしてるだろうし、トリニティからアビドスまでのバイクで来たなら長旅だっただろう。

 コウヤのそういう気遣いは玄関にあるオンナ物の日用品が置いてあることから察したミカにやんわりと断られる。

 

「いや、でもな……」

「ホントに気にしないで、ね?」

「そうじゃなくて、こういう事しか俺にはないんで」 「じゃあ手伝うから! 私もこれからこういうことあったら自分で直せないとダメだから!」

 

 コウヤのどこか自分に対して諦めたような表情に負けてはいけない気がしてミカはガレージに向かう彼に付いていく。

 隣に居るミカのせいでやりづらそうにしながらも、コウヤは作業を進める。

 

「こんな使い方してたら、バイクの方が先にお釈迦になる……」

「い、いやー、私もこういうの初めてでさぁ」

 

 ミカの身体が丈夫でも無理をさせ続ければこの先、移動する度にこうなっては旅もままならない。

 ぶっきらぼうながらもコウヤがミカに故障箇所と部品の交換の仕方を教える。

 

「なるほどねぇ。ありがとう! 次からは自分でやってみるよ」

 

 初対面の自分にわざわざメンテナンスの仕方まで教えてくれたコウヤにミカは素直に感謝を告げる。

 

「次はどこに?」

「あと一日くらいはここで過ごしてから決めようかな。探してる人が居るんだよね」

 

 ミカがバイクに跨がって試しにエンジンを掛けると、無事に稼働音が響く。

 

「……こんな所に?」

「こんな所だからだよ。何もないなら、誰も見つけられてない何かがきっとあるんだよ」

 

 アルマの受け売りだった。

 けれど今なら、少しくらいはその意味がわかる気がしていた。

 

「……それは──」

「居た」

 

 伏し目気味だったコウヤがミカの言葉に何かを見出しかけた時、彼の背後に一人の少女が立っていた。

 

「ん! 浮気!」

「へ?」

 

 ぷんぷんとでも音を出してそうな怒り方をしながらシロコはコウヤにヘッドロックを掛けた。

 決して、落ちるほどの力は籠っていないのだが、後頭部に当たる感触が色んな意味でよろしくなく、コウヤは必死にタップアウトをする。

 

「あー……なんかごめんね? 私、市街地の方をもう少し見たらまた別のとこ行くからさ」

 

 どうやら悪いことをしてしまったようだ。

 そこら辺の諸々はミカが説明するより二人の燃料として消化してもらった方がいいだろうと判断してバイクに跨がる。

 

「バイク! バイク直してただけだから!」

「ん! ん!」

 

 既に二人の世界に入ってしまったらしい。

 この置いていかれる感覚は久しいが、求めている光景ではない。

 でも、少しだけあの頃を思い出せて良かったとも思う。

 

「聞いてるかわかんないけど、二人ともお幸せにね」

 

 バイクのエンジン音を景気良く鳴らしながらミカはその場を去る。

 あまり邪魔しても悪いという気持ちもあるが、今は人を探しているのだから一ヶ所に留まっていても仕方がない。

 

(……やっぱりシャワーくらい借りれば良かったかも)

 

 砂まみれになった髪が靡いて、今になって後悔する。

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