そこが、楽園ではないとしても 作:テクニカル古則おじさん
セイアが襲撃を受けたという情報を得て、すぐにナギサとミカはテラスで対面して、今後の方針を話し合うこととなった。
「順番で言えば、フィリウス派が次のホストだからナギちゃんがホスト代行になるわけだけど……」
先日、エデン条約について少し揉めたせいで、まだ気不味い雰囲気があるがミカは特に気にしている素振りを見せずに、普通に考えれば怪しいのはセイアが保留にしたエデン条約を推し進めたいナギサが裏で手引きしたと疑うのは第三者からすれば当然のように行き着く答えであった。
「私が指示したとでも?」
「違うよ。これからはしばらくは二人でやっていくんだから、仲良くやっていこうってだけだよ……この前はごめんね」
「……どういう風の吹き回しですか?」
ついこの間はエデン条約に関して猛反対していたミカの態度が急変したとなれば、ナギサが怪しむのも無理はない。
良くも悪くもその場のノリで発言が変わることがあるにしても、心の奥底に根付いている憎しみがそう簡単に消えるわけがない。
「ちょっと頭冷やして考えただけだよ。それに仲直りしないとあの人に怒られちゃうだろうしね」
困ったような笑顔のミカ。親戚だからなのか、少し似ている部分があるのか、それを見たナギサは何となく彼の顔がフラッシュバックする。
「……そこまで言うのなら分かりました。私も少し言い過ぎました」
「うんうん。これで仲直りだね」
楽園を目指すのであれば、ここでミカを許せなければ、彼を殺したゲヘナを許せる訳がない。
それをミカが織り込み済みなのかは分からなかったが、ナギサからしたらズルいやり方である。
それから、久しぶりに平和な茶会を開いて今後のことを話し合ってお開きとなった。
「……ぅぉ」
その後、ナギサは自身のセーフハウスにある洗面台で独りで踞っていた。
ミカの前ではかなり無理をして平静を保っていたため、その反動が抑えられずに居た。
(気持ち悪い。ミカさんもセイアさんが本当は入院なんてしてないことは知っているはず……それなのに)
セイアは表向きは入院した。という話になっているが、実際のところはそうではなく、彼女が
セイアがエデン条約に肯定的かはともかく、このタイミングでホストが襲撃を受けたというのは、エデン条約をご破算に持っていこうという意志を誰が持っているということになる。
(……まだ、エデン条約は一部のトリニティの生徒とゲヘナの生徒……連邦生徒会にしか伝わっていない。なら、このタイミングでセイアさんに殺意を持って実行出来る存在は……おそらく……)
トリニティの中に裏切り者が居るということ。
勿論、ナギサ本人はセイアを亡き者にして無理矢理ホストの権限を得ようという腹積もりはない。
次の標的は自分かもしれないそう思うと、先程和解したはずのミカですら信じられない。
(ゲヘナに戦争を仕掛ければ良いとまで言っていたミカさんも何を考えているか分からない。彼女がセイアさんを殺すように指示したのかもしれない)
シスターフッド、正義実現委員会、救護騎士団。
どこにどんな思惑の生徒が居るか分からない。誰が自分を狙っているか内心怯えているほどに疑心暗鬼に陥っていた。
「助けてよ……皆、怖いよ……ねぇ、アルマ……助けて──」
ストレスで軽度の幼児退行を起こしながら、ナギサは亡き婚約者に助けを求めながら意識を失った。
約一時間後、意識を取り戻したナギサは酷く重たい身体を何とか起こして、落ち着くために茶葉を取りに向かった。
(ヒフミさん。彼女だけは信じていたいですが……)
阿慈谷ヒフミ。
ナギサが個人的に贔屓にしてきる二年の生徒が居る。
何処にでも居る平凡な人間を自称しているが、誰にでも優しく、献身的で、モモフレンズのペロロがお気に入りの少女。
そんな彼女にナギサは彼の面影を重ねていて、色んな理由を付けてティーパーティーのテラスに呼び出すことがある。
代替行為がしたい訳ではないが、何かの縁は感じざるを得ないヒフミのことも、少しだけ疑い始めている自分が嫌になる。
(ブラックマーケットへの出入り、怪しい集団を率いているという疑惑。最早、ヒフミさんですら怪しく……)
裏切り者の候補を絞る中で、最近のヒフミのよろしくない噂のせいで彼女すら疑い始めている。
黒と断定出来るほど冷酷にもなれず、それを否定してほしいという願望もナギサの奥底にあって、どうにかなってしまいそうだった。
「あぁ、簡単な話でしたね……」
裏切り者を一方的に断罪することもなく、とはいえ甘過ぎない。そんな愛のあるやり方を思い付いたナギサはすぐさま行動を起こした。
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「こ、これはっ!? 昔開催されたペロロ様展で限定販売された300種以上の中からランダムで排出されるペロロ様ぬいぐるみの中でも、特に珍しいペロロ博士!? オークションで凄まじい高値が付くものがどうしてこんなところに!?」
一方、ヒフミは少し近道をするために墓地の近くを通っていると、道端に超激レアペロロぬいぐるみが落ちていたせいで、ペロロ好きの精神が刺激されて誰も居ないのに説明口調で、目の前にあるモノの希少性に興奮していた。
「……いや、どうしてこんなものがここに?」
ペロロ好きなら涎が出るレベル。というかヒフミも少し出そうになっているが、何とか抑えているレベルの代物が人通りの少ない場所に落ちているという状況を不思議に思う。
「誰かが落としてしまったのなら……困ってますよね。ペロロ様展なんて一日しか開催されてない伝説のイベントの限定品ですし……」
正直、そのイベントでとある思い出がなければこのまま持ち去ってしまいそうなほどで、誰かが困っていると言いつつ、持ち主と交渉出来ないかと考えている程である。
「そういえば、あのお兄さん。今どこで何してるんでしょう? また会えたならお礼がしたいのですが……」
ヒフミは当然のようにペロロ展に行っていたのだが、自身のドジや不運が重なり、物販に間に合わず項垂れていた。
そんな彼女を哀れに思ったのか、それとも親切だったのか、とある男の子がショッパーごと物販の商品を譲ってくれたことがあった。
何かお礼をしようとしたのだが『私はね、愛に生きる人で居たいんだ。愛は、敵を友人に変えられる唯一の力だからね』と言われ、ヒフミがキョトンとしている間に何処かに行ってしまい、その後、会えずじまいになっている。
「あのお兄さんも、この状況ならとりあえず持ち主の人を探すと思います! ので、一度お持ち帰りします……貰うわけじゃありませんので! 違いますからね!」
誰に言い聞かせているかと言われれば、自分に言い聞かせながら、ペロロ博士をペロロのリュックサックに入れて保護しながらヒフミは帰路についた。
友達になろうとしたゲヘナ生徒(参考程度)
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ヒナ
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イブキ
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モブ