そこが、楽園ではないとしても   作:テクニカル古則おじさん

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元ネタの動画のコメント欄紹介されてたやったーと思ったんですけど、同じ題材の作品があるのでどっちかわからぬ。


もう二度と重ならない羽

「ごきげんよう。今日も読書ですか?」

 

 アルマとナギサが中等部に上がった頃のこと。

 その日のアルマは住んでいる屋敷の庭にある大きな一本の木の下で読書をしながらナギサを待っていた。

 

「おはよう。ティーセットならテーブルの方に用意してるから、そっちに行く?」

「いえ……今日はこちらでお話しましょう」

 

 本にしおりを挟んで立ち上がろうとするアルマの横にナギサが彼の手を掴んで二人の羽が重なり合う距離に座った。

 彼のお気に入りの読書スポットであるこの木の下で、同じ時を過ごすというのも悪くはない。

 

「こんなにお天気の日に読書なんて、かなりの贅沢ですね」

 

 日が出ているのに日差しが暑いということもなく、程よく気持ちの良い風が吹いていて、気を抜いたら心地よく眠ってしまいそうな天気なのに、出掛けることもなく、木陰で何にも縛られることもなく、二人寄り添っているだけというのは、ナギサにとってはこれ以上にない贅沢だった。

 

「雨も好きだなぁ」

「雨が、ですか?」

「うん。雨音を聴いて、モモフレンズに囲まれながら室内で読書に耽るのも、幸せかもしれない」

 

 特別インドアでもアウトドアでもないが、ナギサと出会う前から好きなモモフレンズも愛している。

 愛している存在に囲まれて、心地の良い音に耳を入れて、誰にも邪魔されず読書に没頭出来る時間は世界で一番幸せの時間かもしれないと想像すると、アルマの頬が緩む。

 

「……私と居るよりもですか?」

「あはは……どっちかな」

「そこはハッキリ私と言ってください!」

 

 自分と居るよりも幸せそうな表情を見せたアルマに、ナギサは嫉妬が隠せない。

 思わず、彼の持っていた本を奪い取って胸元に抱える。

 

「今日はしばらく読書はお預けですからね」

「あはは……私のお姫様がご機嫌斜めだ……」

 

 頬を掻いたアルマが困ったように笑う。

 モモフレンズのことになると、つい物事の尺度が狂ってしまうのは、良くないところだと自覚しているが、好きなモノは好きなのだ。仕方がない。

 ダメ元でナギサから本を取り返そうと手を伸ばしてみるも、片手で弾かれてしまい、ぷいと顔を逆の方へと向けられてしまった。

 

「……ナギサ、私はどうしたら良いかな?」

 

 婚約者と共に居るのに、ナギサよりもモモフレンズを愛しているような言い方をした自分が悪い。素直にどうしたら許されるのか。彼女に聞いてみる。

 

「どうせ分かっているのでしょう?」

「ナギサの口から聞いてみたくてね……いや、そういうことじゃないね。ごめん」

 

 今ナギサが怒っている理由を考えれば、簡単なことなのだが、ただそれを実行するだけでは味気ない。

 重なるナギサの羽の先が少し震える。もし、アルマに嫌に思われたら、そんな怯えが伝わってくる。

 そんなことなら、しなければ良いのにとも思うが。そんな所が愛おしくも思う。

 

「私はね、幸せに優劣も限界もないと思ってるよ。だから、私にとっては晴れでも雨でも、ナギサが居てくれるなら最上の幸せだよ」

「分かれば良いんです。分かれば……好きに読書でもしていてください」

 

 満足したのか。もしくは想像以上の言葉をぶつけられて恥ずかしくなったのか。ナギサは奪った本を今度は押し付けて、紅くなった顔を重なっていない外側の羽で隠した。

 

「あと少しだし、そうさせてもらうね」

 

 これ以上つつくと口を聞いて貰えなさそうな予感がしたアルマはしおりを挟んだページを開いて、読書を再開する。

 ページの上の物語に没頭すること数分。ナギサは真剣な表情で本を読み進めるアルマに見惚れる。

 

(……私が隣に居るというのに、そこまで真剣な表情になれる本の内容も気になりますが──)

 

 何を感じているのかも気になる。

 感情の動きが心臓や他の内臓に影響を及ぼすと聞いたことがある。

 アルマの横顔を見ていると、心臓の鼓動が早くなる。彼の心臓も同じ早さで鼓動を刻んでいるとしたら、あるいは。

 そう考えたナギサは彼の心臓の鼓動を感じるために、自分の心臓を近付ける。

 

「ナギサ……?」

 

 ナギサの息遣いが近付いてきたと思い、意識を本から離して横を向くと、頬にちゅっという音が聞こえて、何が起きたのか理解するのに数秒掛かった。

 

「ご、ごめん! そんなに近いと思わなくて!」

 

 事故で頬にキスさせてしまったのかと思い、仰け反ってナギサの方に身体を向ける。

 二人揃って顔を真っ赤にする。日差しは強く照っていないのに、二人の体温と心臓の鼓動はシンクロしていた。

 

「い、いえ……その、思ったより真剣だったので、つい私も……」

 

 ナギサが顔の色を変えずに、満足気な笑顔をしながら両手の人差し指をツンツンと突き合わせているのを見て、今のキスが事故ではなく、彼女が確信犯であることをアルマは察した。

 

「こ、こっ、こういうのは、だっ駄目だからね!?」

 

 年不相応に達観したところはあっても、まだ中等部の男子のアルマにとっては大変いけないことをした気分になってしまい、しどろもどろになりながら叫ぶ。

 

「私達はいずれ夫婦になるのだから、これくらいは問題ありません……」

「それはまだ早いというか、ちゃんと夫婦になってからというか……そういうのではなくて、大人になってから、ね?」

 

 ナギサのことを大切にしたいと思うからこそ、そういうことは自分が彼女に相応しい紳士になってから。と思っていたのに、彼女の悪戯に翻弄されていた。

 

「……ふふふっ」

 

 やはり、晴れの日に木漏れ日で二人でこうしていること以上に幸せなどないと。これから続くであろう未来にある(未来にはもう存在しない)幸せに浸ったナギサにはアルマの声は届いていなかった。




重苦しい話が続くので、砂糖多めの話でもひとつまみ。
今ので砂糖の在庫切れたってよ。
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