鬼滅の刃・外伝 水は流れてまた廻る   作:クリアウォーター

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第玖話

 第玖話 降り注ぐは雨と花火

 

 

 辰綱は墓碑の前で手を合わせていた。

 ここは任務で命を落とした隊士を埋葬する、鬼殺隊所有の墓地。鬼に家族を殺された他、天涯孤独の隊士は、最後はこの場所で弔われることが多い。

 兄弟子、弟弟子、上官、同僚、そして部下。訪れる度、手を合わせる墓の数は増えていく。

 

「お待たせしました」

 

 黙祷を終えて合わせていた手を下ろす辰綱は、傍らに立つ産屋敷に頭を下げ、並んだ墓石の間を共に歩き出した。

 

「わざわざ自分に付き添っていただきありがとうございます」

「いいや、付き添ってもらったのはむしろ私の方だよ。ここへの墓参りは日課のようなものだから」

 

 礼を言う辰綱に、産屋敷はそう返す。

 “下弦の壱”討伐から半年が過ぎた。

 あの任務で十名。辰綱が居合わせていない場所でも犠牲者はおり、それらを合わせて討伐隊の三分の一が殉職した。

 辰綱も鬼は討伐したものの、直後に血鬼術の効果による多量の失血により気絶。一時は命の危機に陥りかけながらも、丸一日経ってから目覚め、大量の食事と呼吸の効果により、その生命力で医者を驚愕させながら数日で全快に至る。

 何にせよ、討伐隊を率いながら多くの隊士を失い、しかも討伐対象の鬼は自身の身内。

 最悪、切腹の命さえも覚悟していたが、『身内から鬼を出したとはいえ、当時鬼殺隊でもない少年に非がないことは明白。その鬼の討伐を他ならぬ本人が果たした』として、産屋敷から下されたのは処罰とは名ばかりの、療養も兼ねた数日の謹慎のみだった。

 

「……安心しろと。大船に乗ったつもりで任せろと。そう言っておきながら、こうして彼らの墓前で手を合わせてやることしかできない。全くもって不甲斐ないことです」

「それでも君は十二鬼月の一体を討伐した。それに戦闘の場を郊外に留められたのは幸いだった。報告を聞くに村や町、集落でその鬼に暴れられていたら、被害規模は倍では利かなかっただろう」

 

 産屋敷はそう言うが、辰綱にはあの鬼との戦いの中で、かなり序盤から勝てると確信があった。自分が動揺して太刀筋を乱さなければ、もっと早くに頚を斬れていれば、犠牲ももっと少なく抑えられたのではないか。そう思うとやり切れない。

 その心情を見抜いているのか、辰綱を見た産屋敷は困ったように眉尻を下げる。

 

「責任を感じるなというのは無理な話か。……でもね辰綱、私は責めるどころか君に感謝しているんだよ。追い続けていた鬼の討伐を終えても尚、鬼殺隊に留まってくれていることに。隊を去ることもできただろう」

「その選択は自分にとって、有って無いようなものです。入隊当初の目的は果たしましたが、鬼殺隊にはその機会を作ってくれた恩がある。今度は俺があなたに返す番。……あなたが存命の内に」

 

 少しだけ迷ってから、辰綱は最後にそう付け加えた。

 産屋敷が歩く度に、足音の他に軽い音が地面を打つ。左足を悪くしたために杖を突いている音だ。

 それだけでなく、元々線の細かった体は更に痩せ細り、肌の血色も青白い病人のそれ。おまけに羽織に隠れた左腕は歩くたびに力なく揺れ、丸縁眼鏡を掛けた左眼の奥では、虹彩が白く濁っている。

 

「もちろん私もそうしたいところだけれど、少し前に医者に余命一年と診断された身でね。墓参りも、あともう何回行けるかな」

「そうですか……いよいよ」

 

 さらりと主の余命がいくばくもないことを打ち明けられて、辰綱は静かに頷いた。

 産屋敷一族は代々短命で、三十年以上生きた者はいないという。

 症状が現れて進行するのは、短期間か長期間か、支障が出るのは体のどこからか。人によるが、歴代の中では先の短い生を悲観し、心まで病んでしまう者もいたそうだ。

 いずれも事前に聞かされていた、柱なら誰もが知っていたことだ。

 

「私はもう自分の天命を受け入れている。ただ、後を継ぐ息子やまだ見ぬ子孫達までもが、そうならないかが心残りだよ」

「鬼の呪いですか……」

「信じ難いかい? 千年近く昔に、我が一族は“鬼の祖”を輩出してしまったがために、生まれてくる子供は早逝する。何人兄弟でも男児は一人を残して。女児も早くに嫁いで姓を変えねば、必ず何らかの病や事故で死んでしまう。これを呪いと言わず何と言おうか……と、先祖が考えるのも無理はない」

「本当に呪いなのか、血筋によるものなのか。真実はどうあれ、あなた達は鬼を倒すのに心血を注がれている。俺もその意志に殉じましょう。倒しましょう──“鬼舞辻(きぶつじ)無惨(むざん)”を」

 

 全ての鬼は元々人間で、人間を鬼に変化させられる唯一の鬼。“鬼の祖”であるその者の名は鬼無舞辻無惨。

 その姿も足取りも不明な存在を見つけ出して滅ぼすことこそが、鬼殺隊の存在理由であり、産屋敷一族の悲願である。

 

「……ありがとう」

 

 産屋敷が微笑む。

 穏やかな表情とは裏腹に、今この時もその身に巣食う病、あるいは“呪い”と闘っているその姿を見て、辰綱は一層決意を固めるのだった。

 

「……ときに、辰綱もそろそろ身を固めてみてはどうかな。目的が一つ果たされたことだし、いい機会だろう?」

「おーぅ……久々に持ち出しましたね、その手の話」

「家族、子供。受け継いでくれる者がいるというのはいいものだよ。またいくつか縁談を見繕おうか? それとも、もう誰かいい人がいたりするのかな」

「いやしませんが……まぁ、追々そこは自分で決めます。故に仲介をしていただかなくて結構。いつぞやのように、どこぞの良家のお嬢との縁談話を持ち出されても困ります」

 

 他愛ない話をしながら、墓地を後にする辰綱と産屋敷の背中を冷たい風が撫でる。秋は終わりが近付き、冬もすぐそこ。

 辰綱と産屋敷、これが二人の話す最後の時となった。

 

 

 

 この日は雨だった。冬に入る前の追い込みとばかりに、ほぼ止むことなく降り続けて、もう五日目になる。月は厚い雲に覆われ、ここしばらく顔を出していない。

 雨になれば外を歩く人間は少なくなるものだが、仕事や買い出し、用事があればずっと家に籠っているわけにもいかない。

 そんな雨の日は気配が紛れやすく、背後から接近しても気付かれ難いので鬼にとっては都合がいい。

 故に笠と蓑を身に着け、山を歩いていた辰綱は、正面に仁王立ちしている若い男の姿をした鬼に少し驚いた。

 

「帯刀に……明かりもなく平然と夜道を歩く……鬼狩りだな?」

 

 顔を上げて訊ねてきた鬼は奇妙な身なりで、着物や袴ではなく、海の向こうの大陸で見られる、袖口のゆったりとした道着姿をしていた。

 

「ここ最近、この山に入った人間が何人も消えると聞いた。その原因が、まさか通り道の真ん中に突っ立っているとは思わなんだが」

「人間相手にこそこそと立ち回る必要などない。それは弱者の行動だ。私が目指すは、至高の領域に到達した強者になること。そこへ至るにはただ人間を喰うだけではなく、強者との闘争、そしてその血肉を得ることで──」

「あーあー、そこまで聞いちゃいない。もういい」

 

 ──さも一本気の通ったようでいて、要は人間を餌としか見ていない典型的な鬼だな。

 嘲りや蔑みがない分、余計にいけ好かない無自覚な傲慢さを持つ鬼の話を遮り、辰綱は日輪刀に手を掛けた。

 対する鬼も腰を落とし、姿勢を半身にして構える。

 降りしきる雨の中、前触れなく辰綱が抜き放った一刀を、鬼は身を低くして躱した。そして素早く翻り、拳を突き出す。

 鬼の拳は辰綱の動きに一拍遅れる、羽織っている蓑に当たった。

 

 パァン! 

 

 鉄砲を撃ったかのような、よく通った破裂音が響く。

 およそ拳打らしからぬ音、それに蓑越しに伝わった感触を受け、辰綱は大きく飛びのいた。

 蓑を見ると、鬼の拳が当たった部分に穴が開き、穴の縁は蓑の繊維がずたずたに裂けている。

 ──ただ殴って突き破っただけならこうはならない。攻撃の衝撃を内部に伝えて炸裂させたってところか。

 

 おそらくは拳に限った話ではなく、繰り出す攻撃全てに同等の効果があると見るべきだろう。人体に当たろうものなら、接触箇所が弾け飛ぶのは容易に想像がつく。

 

「大陸の拳法流派を、血鬼術に搦めているのか。妙な技を使いやがる、当たれば終わりか」

「ほう、見抜いたようだな。そう、我が一撃は如何なる物質をも粉砕する。肉も、木も、岩も──鋼でさえもな」

「そうか。そりゃあ大したもんだ」

 

 自慢げにそう豪語する鬼に頷きながら、辰綱は刀を鞘に収めた。

 辰綱のその行動に、鬼は怪訝な表情になる。

 

「……何の真似だ」

「何って、刀を壊されたらたまったもんじゃないから収めたんだろうが」

「一合で己の負けを認めるとは潔いことだが、早計が過ぎる。強者と見たが、見込み違いだったか」

「早計はお前だ、武道家気取り」

 

 嘆息する鬼を、辰綱は鼻で笑った。

 

「誰が負けを認めたって? 鬼狩りってのはな、ただ刀振るだけが能じゃないんだよ」

 

 辰綱も半身に構えて手招きをすると、鬼は顔をしかめた。明らかに機嫌を損ねたようだ。

 

「剣士が徒手空拳で挑むか。その驕り、高くつくぞ」

 

 言うが早いか、立腹の鬼は辰綱との距離を詰めてきた。

 顔面を狙った突きを、辰綱はあっさりと避けてみせる。

 続いて足が。肘が。膝が。鬼は矢継ぎ早に連撃を繰り出していった。

 軌道の先にあった木や岩が、鬼の一撃で弾け飛ぶも、辰綱はことごとく避けていく。しかも最初の一撃以外は、蓑にも笠にも掠りもしない。

 

「躱すしか能がないのか! 消耗を狙っているなら無駄なこと。このまま夜明けまで動き続けていようが、鬼の私は動きに精彩を欠くことはない。人間の貴様の方が先に体力が尽きるのは自明の理!」

「なら捉えてみろ。自慢の一撃も、当たらないなら無意味もいいところだな」

 

 苛立たしげに喚く鬼に、辰綱は碌に取り合わずに煽っていく。

 辰綱のこの態度に、鬼はこめかみに青筋が浮かべると、飛びのいて辰綱と距離を取った。

 続いて片脚を頭の高さまで上げ、一気に踏み下ろす。一瞬ながら、地面が(たわ)むほどに大きく揺れると同時に鬼が動いた。

 

(はつ)!!」

 

 裂帛の気合と共に放たれた鬼の突きは、渾身の威力が込められていることが明らかだった。その上、揺れる地面に足を取られてすぐには動けない。

 防御不可能な拳が迫る状況下で辰綱の選択した行動は──。

 

「なっ……!?」

 

 声を上げたのは鬼の方だった。

 辰綱は突き手を両手で受け止めていた。掴んでいるのは鬼の手首と肘関節。

 辰綱が唯一懸念していたのは、発動した血鬼術の効果範囲が全身で、どこを触れても対象の内部に浸透する衝撃が発生するかもしれないことだった。ここまでの戦闘で反撃をしなかったのは、それを確認するためだ。

 これまで粉砕された木や岩の破片が鬼に当たっても何も起きなかった。これで直に拳へ触れようものなら、やはりこちらの手が肉片になるのだろうが、そこ以外なら触れても問題はないと辰綱は踏んだのだ。

 

「せぇい!」

 

 人間に渾身の一撃を止められたのがよほど受け入れ難かったのか、目を剥く鬼を辰綱はそのまま一本背負いの要領で、すぐそばの岩に頭から叩き付けた。術を使ったのか、元から頑丈なのか、砕けたのは鬼の頭ではなく岩の方だったが、体勢を崩せればそれで充分。

 辰綱は再び刀を抜き放つ。

 

「水の呼吸 弐ノ型“水車”」

 

 円環の剣閃が鬼の頚に轍を刻んだ。

 

「ま、まだだ……! こんなところで……私はもっと強く……」

 

 雨に打たれる頚を断たれた鬼が、自身の敗北を受け入れられない様子で崩れ始めていく。

 後はもう、鬼が完全に消滅するのを見届ければ任務は完了。一件落着──のはずだった。

 

「──ッ!?」

 

 凄まじい勢いで何かが、こちらに接近してくる。

 それに辰綱が気付き、接近してきたものが何かを確認もせずに、振り向きざまに刀で受け流したのはほぼ同時だった。行動を終えた今になって、ようやく全身の肌が総毛立つ。

 振り返るとそこにいるのは、後ろ姿の鬼だった。

 辰綱と交差した鬼もまた振り返る。

 短い頭髪は目を引く、毒々しい桃色。簡素な道着袴を薄緑の帯で留め、袖もなく丈も短い羽織の下は素肌。鬼によく見られる血の気の失せた土気色の肌に、幾何学的な線状の紋様が全身に走っているその体は、一切の無駄なく鍛え上げられている。

 そして、何より辰綱が注目したのは、文字の刻まれた両の眼。左眼には“上弦”、右眼には“参”の文字。

 ──“上弦の参”……!! 

 思いがけない上弦の鬼との遭遇。辰綱はこれほどまでに圧迫感を発する鬼に遭うのは初めてだった。

 辰綱と目を合わせていた上弦の鬼は、自らの右腕に目をやった。刀で受け流した故に、ごっそりと肉を削ぎ落としていた前腕部の肉がすでに再生している。尋常でない再生速度だ。

 

「いい腕だな。見事な刀捌きだ」

 

 上弦の鬼の第一声は、皮肉が一切含まれていない称賛だった。しかもうっすらと微笑んでさえいる。

 

「俺は“猗窩座(あかざ)”。お前も名乗れ、鬼狩り。柱だろう? その腕前ならまず間違いあるまい」

「ああ、あ、猗窩座殿……」

 

 弱々しい声が、辰綱に話しかけてくる上弦の鬼に割って入った。

 すでに頭の半分が塵と化している、辰綱が頚を斬った鬼だ。鬼は群れずに行動するはずなのに名前を知っているあたり、どうも知り合いらしい。

 

「わ、私はまだ死ねない……死にたく……ない……どうか……どっ──」

 

 猗窩座なる鬼は、それまでの穏やかな表情から一転して無表情に。そのまま軽やかに跳躍し、懇願する鬼の頭を容赦なく踏み潰した。

 肉が四散した鬼の頭はそれぞれが塵になり、完全に消え失せる。

 

「今の……意味あったか?」

「俺とお前の話の邪魔だった。それ以上の理由がいるのか?」

「俺は話してなかったろ」

「今はこうして話している。それで鬼狩り、名は?」

「鬼に名乗る名はねえよ」

 

 猗窩座からの問いを辰綱は一蹴し、これまで身に着けたままだった笠と蓑を捨てる。雨に濡れることを厭うどころではない、わずかにでも動きに支障をきたせば、それが死に繋がる。眼前にいる鬼はそういう相手だった。

 

「では鬼狩り、質問を変えよう。お前、鬼になる気はないか?」

「あ?」

「お前は強者と呼んで差し支えない。だが、これ以上強くはなれない。何故だか分かるか?」

 

 突拍子もない提案をした猗窩座は、辰綱からの返答を待たずに続ける。

 

「今この時が、お前の肉体の全盛期だからだ。技術はまだ磨けたとしても、肝心要の肉体はこの先緩やかに衰えていくだけ。たった十年か二十年過ぎただけで、お前は今より数段劣る存在に成り下がる」

「そりゃ人間だからな。いつまでの若いままとはいかない」

「そう、人間だからだ。だが鬼は違う。老いず、死なず、何百年も生きて鍛錬し続けられる、強くなり続けられる。そして、いつかは至高の領域に辿り着ける」

「至高の領域……さっきの鬼もそんなこと言ってやがったな」

「あれもかつては俺の誘いに頷いた人間だった。蓋を開ければ下弦にさえ選ばれなかったが……まぁ、負けた奴のことなどどうでもいい。弱者など無価値だ」

 

 至極興味がなさそうにそう言ってから、猗窩座は辰綱に向けて両手を広げる。

 

「鬼になる。これは誰もがその権利を得られるわけではない。武の道を歩む者にとって、これ以上ない幸運だぞ」

人間(おれ)の幸運を(おまえ)が決めるなよ」

 

 辰綱はこれ以上話す気もなく、刀の切っ先を猗窩座へと向けた。

 

「誰が鬼になんぞなるか。日なたに出ただけで、焼けて塵になる欠陥生物になるなんて論外、願い下げだ」

 

 上弦の鬼が何故こんな所にいるのか。鬼舞辻の直轄とされる存在なら、鬼舞辻の何らかの情報を掴めるのではないか。

 問い正そうとする考えは、辰綱の頭からすぐに消えた。主の不利になるようなことを話すとは思えないし、何より目の前の鬼は危険すぎる。こうして対峙しているだけで、十二分に伝わるほどに。

 

「……そうか、なら仕方ない。──術式展開 ”破壊殺(はかいさつ)羅針(らしん)”」

 

 構えを取る猗窩座の下、地面に雪の結晶のような方陣が浮かび上がり、すぐに消える。

 何が変わったのかは分からないが、すでに相手が臨戦態勢なのは間違いない。

 

「鬼にならないのなら殺すまで」

 

 足下の地面を爆発させたような踏み込みで猗窩座が迫る。

 間合いに入ってきた猗窩座を、辰綱もまた迎え撃つ。

 瞬きの内に行われる、刀と拳が何度もぶつかり合いに火花が散り、雨は霧散する。

 ──速い! 先の鬼なんて目じゃない攻撃速度。一手でも間違えたら致命傷になる。

 こちらは刀一本。向こうは腕二本だけでなく、蹴りも交えてくる。刀と打ち合える強度の四肢を持っているのだから、当然向こうの方が手数に勝る。

 

「玖ノ型“水流飛沫”」

 

 猗窩座の突きを捌いた辰綱は、高速の歩法で攪乱を始めた。

 絶えず動きながらあらゆる方向から近付き、一撃を与えていく。

 これらも猗窩座は的確に防ぐが、反撃される前に辰綱は間合いの外に逃れていった。

 

「“破壊殺・空式(くうしき)”」

 

 すると、猗窩座が何もない虚空に向け、連続で突きを繰り出した。

 こちらに届く距離ではないが、それでも辰綱は危険を感じ取る。

 

「陸ノ型“ねじれ渦”!」

 

 技を出した直後、先ほどまでの打ち合いと同じ衝撃が辰綱を襲う。

 ──直接触れない拳圧がこの威力かよ……! 

 加えて恐ろしいのは、突きを出してから、離れているこちらに届くまでの差が皆無に等しい。距離を取っていては、自分の方が圧倒的に不利だと悟り、辰綱は接近戦を再開する。

 ただし、真正面から受けるつもりはない。

 

「参ノ型“流流舞い”」

 

 “水流飛沫”ほどの速度ではないが、流れるような足運びで、辰綱は多方向から猗窩座に斬撃を入れていく。

 そして、背後を取って一撃を入れようとしたその時、猗窩座は地面に両手を着け、下段から跳ね上げるような蹴りを放ってきた。

 

「“破壊殺・脚式(きゃくしき) 冠先割(かむろさきわり)”」

「捌ノ型“滝壺”!」

 

 型を切り替えた辰綱は唐竹割を蹴りに打ち込み、猗窩座の右足を足裏から膝まで、真っ二つに叩き割った。そのまま地面にまで達した刀は、盛大に泥を跳ね上げる。

 

「肆ノ型──」

「“破壊殺”──」

 

 視界が晴れ切っていない内から、辰綱は追撃に動く。案の定、その先にはすでに右足が再生している猗窩座が待ち構えていた。

 

「“打ち潮・大時化(おおしけ)”!!」

「“乱式(らんしき)”!!」

 

 山の麓に住む人々が、光りもしていないのに落雷が次々降り注いでいるのかと勘違いするほどの衝撃と轟音。両者の打ち合いが山中に響き渡った。

 

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