ずっと、白い部屋だけが世界のすべてだった。
与えられたものを食べて。言われるがままにたべて。
わたしは、そこでは■■だった。
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ろ-20■■-■■■■ ■■■■礼拝対象破壊作戦に関する経緯報告書
20■■年■月■日に決行されたろ-20■■-■■■■ ■■■■礼拝対象破壊作戦について、下記の通り報告致します。
記
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「オイ、〝姫〟。おーい」
うるさい。この声はきっと〝犬〟だ。いつだってうるさいから、わたしはそんなに好きじゃない。
「……ナア〝首輪〟。やっぱりコイツ姫って感じじゃねぇよ。名前負けしてねぇか?」
そんなの知らない。だって、その呼び方はあの熊みたいなのが勝手に決めたものだから。
「僕らの名前はボスが決めてるだろう? ボスが姫って感じたならそうなんじゃないかな」
……この声は〝首輪〟だ。〝首輪〟のこともそんなに好きじゃない。わたしの同族で、綿毛みたいな奴で、それで――きもちわるい。〝首輪〟はきもちわるい。
「俺のは〝狐〟のヤローが決めたけどな」
ぐるぐる唸りそうな〝犬〟の声の中で起き上がる。部屋の時計を見れば、時刻は夕方。
「や、おはよう」
〝首輪〟がにこにこしながら挨拶してきた。応える気にもなれなくて、ついと窓の外を見る。太陽が沈んでいく。
何がおはよう、だ。もう夜になるのに。
――あ。
「……東の地に獣在り」
ふと、視えたものを言葉にする。拠点のこの廃ビルより東の方。わたしたちの同族が荒らしていった場所。
「あ?」
「そろそろ、〝狐〟が来るわ」
怪訝な目をしてこっちを見る〝犬〟。
だって視えたんだもの。わたしが視たからには本当よ。
外階段につながるドアの向こうからカン、カンと鉄を叩く足音がする。
「丙隊――残飯処理班のみなさん、仕事ですよ」
ほら、言ったでしょう。
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■■県山中のカルト宗教■■■■(以下甲とする)の本拠地周辺で失踪が相次ぎ、警察機関と合同でい-20■■-■■■■ ■■■■強制捜索作戦を実行。
甲の本拠地内部にて破壊対象(以下乙とする)を発見した。
強制捜索作戦はろ-20■■-■■■■ ■■■■礼拝対象破壊作戦に即時変更。
甲は小規模集団自殺コミュニティから始まり、乙を信仰対象「鬼神様」として祀るカルト宗教へと変化。
教義に則り定期的に信者を捧げ、乙に捕食させていた。
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〝狐〟の運転でいつも通り「仕事場」についた。
喰い残しを平らげる仕事だけど、今回の喰い残し。わたしが食べるには、随分と粗末。
――こちらになります、鬼神様。どうぞ、この者を救い、糧としてください。
昔はよかった。部屋にいるだけで調理されたご馳走が出てきたから。
「はあ……こんなもの、食べられたものじゃないわ。せめて血抜きして貰わないと……」
「またそれかよ。そんなに言うなら、料理人でも見繕ってこいよ」
〝犬〟が言った言葉に思わず振り返る。
料理人。その手があったわね。
料理と言えば、〝首輪〟は何か知っているかしら。いつも人間のフリをして、人間と同じような食事をしているけれど。
「ねえ〝首輪〟。あなた、いつも人間の食事をしているけど、作っている料理人はいるの? それとも買っているの?」
「え? ああ、うん、あれは僕が自分で作ってるんだ」
「作って……」
なあんだ、意外と近くにいるものね。
「なら〝首輪〟、あなたがこれを料理してちょうだい? あんな風に作れるならそれくらいできるわよね?」
土の付いていない人間の腕を差し出したら、〝首輪〟の顔色が悪くなった。
「ごめん。人肉は無理」
「……そう」
使えないのね。なら面倒だけど、他を探すしかないわね。
とりあえずこの腕は食材にできるように保存しないと。〝狐〟ならどうとでもできそうね。
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乙は信仰による存在階層の押し上げにより、神通力として千里眼を発現。一部政財界の要人も乙の神通力を借りるため、甲の本拠地周辺の人間を拉致し、それが連続失踪事件として露見。本拠地強制捜索に踏み切った。
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それからわたしは毎月貰う金銭を使って飲食店を巡ることになった。
喫茶店、ファミレス、レストラン。
いろんな店をリストアップして、ひとつひとつバツをつけていく。
意外と人間っていいものを食べているのね。いいものを食べているからこそ、人間は美味しいのかしら。
大量のバツと引き換えに、好みの味は見つかったけれど、あの「腕(〝狐〟に頼んで状態を留めているの)」を料理してほしいと差し出したとたん、青い顔して断られたり、逃げられたりしたわ。そのせいで〝狐〟に注意されるし。
なかなか難しいわね。いつまでも「腕」を留めておけるとは思えないし。
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破壊については、乙の存在階層が上位であるため実行不可とし、残存遺骸処理課丙隊預かりとする。
以上
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「はいこれ」
「……なあに? これ」
料理人探しがうまくいかなくて、午前中いつもの拠点の中で飲食店のリストにバツをつけていると、〝首輪〟が何かを差し出して来た。
タッパー、といったかしら、この箱。
「鶏の唐揚げ。人肉は無理だけど」
「唐揚げ……」
「今朝揚げたんだ」
「ふうん」
タッパーの蓋を開けて、箸を受け取り一つ食べてみることにした。
「口に合うといいけど」
サク、と音を立てる狐色の衣。噛めばじゅわりと溢れる肉汁。シンプルな塩胡椒の味付け。
……これはこれで。
「……中々やるじゃない」
「それはよかった」
そのまま残りの唐揚げも食べたけど、〝首輪〟ってこんなこともできるのね。意外だわ。
一応ご馳走様、と言ってタッパーと箸を返した。これならもう飲食店を巡る必要は――
「……やっぱり、料理人は欲しいわね」
〝首輪〟に頼るのはイヤだし、結局人肉ではないし。
仕方なく、わたしは「腕」をデザートとしてそのまま齧ることにした。