TSしたら異能組織のボス(身長136cm)   作:環状線EX

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由来

 

 待ち合わせ場所として適当に決めた人気のない場所。

 そこで狼煙代わりとして挙げた俺の異能を放ってから少し、ただ俺の異能を見て気になっただけの関係のない人が来たら困るなんて思っていた俺は「組織の人以外が来たら困るな」なんて口に出していたのだが、思わぬ方向から人が現れた。

 空がピカッと光って、爆発音みたいなものが聞こえて来たと思ったら、空から人が落ちていた。

 正直意味が分からずにいたが、どうやら死んでいない様なのでホッと息を吐いた。

 

 これもしかして異能の戦闘でってことはないよね。

 最近物騒とは言え、そんな映画みたいなことはないかと自分に言い聞かせる。

 異能倶楽部が誰かのいたずらでさらされただけあって、今その冗談は笑えない。

 とにかく、この人をどうにかしないとと思って、俺は運ぶことにした。

 正直救急車を呼びたいところだけど、どうにも電波が悪い。

 それに、人が多すぎて救急車が来れるのかと言う疑問もあるし。

 

 まあ、とにかく幸い近くに病院があるようだし、救急車を呼ぶより早いだろう。

 一瞬、病院を救急車で来てもらってから見つけてもらわないと対処できないとかなんとか考えたけど、どっちみち電話もうまくできないのだからとにかく移動させようと考えた。

 

 一つ許してほしいのは、今の俺は体が小さい上に、力がないので引きずるような形になってしまうと言う事。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 二つの人影が歩いていた。

 脂肪を蓄えた男と、胸に脂肪を蓄えた女だった。

 男の方はヨスト・グレーデナー、陽炎のボスであり、女の方は幹部の一人だった。

 ヨストが先行して三歩後ろを女が歩く。

 

 足を向ける先は異能倶楽部ではなく本当の目的の地。

 異能倶楽部を囮としたことで人の目が離れたところでの行動だった。

 そして細い道を抜けると光が見えた。

 ヨストは呟く。

 

「久しぶりだな。ローレライ」

 

 そう、ローレライが所有するアジトの一つに彼は居た。

 そして出迎えるようにしてヨストと女に向かい合うようにして影が現れた。

 それは何を隠そうローレライの主である霧消、そして仕えるよう傍に立つレイメイだった。

 

「ヨスト・グレーデナー……」

「ああ、霧消。会いたかった。そして返してもらいに来たぞ」

 

「だが、その前に」と、視線を移した。

 

「なぜ貴様がいる?シロサヤ」

 

 シロサヤ──ツムギの顔を見たヨストはそう言った。

 

 

 

 

 ◆

 

 ヘルマンの脳裏に焼き付いて離れない光景。

 それは、ルカとの交戦中に意識を手放している最中まで悪夢の様に彼を苛んでいた。

 

 ヘルマンには三人の家族がいた。

 母と父と姉。

 家族の時間が何よりも大好きで、父はヘルマンの憧れだった。

 ヘルマン自身、父親が語りたがらなかったせいもあって父親が何の仕事をしているのかは知らなかった。

 だけど、各地を飛び回り、奔走する姿にヘルマンは惹かれていた。

 大きくなったら、父親のようになる。そう毎日、母と姉に話していた。

 

 そんなある日、父は日本に行こうと言い出した。

 どうやら日本に仕事を見つけたらしい。

 ヘルマンは友達と離れる辛さはあったが、父親についていきたい一心で日本についていくことを決意した。

 母も姉も首を縦に振って、一家ともども日本で生活することになった。

 

 始めは不安なこともたくさんあった。

 姉は母の血を継いで東洋系の顔立ちで、更に美人だったからすぐに日本の生活にも溶け込めたが、ヘルマンは父親の血を多く受け継いだのか西洋人と言った顔つきだった。

 でも、実際のところ、周りの子供たちは好奇心で聞いて来ることはあっても、容姿に対してマイナスなことを言ったりはしてこなかった。

 逆に、女の子にはモテモテですぐに人気者の地位を得た。

 

 そうしてヘルマンの生活が充実してきたところで、父親の仕事も軌道に乗ったようで日本に来てからはやつれて来た父の顔が良くなっていった。

 相変わらず何をしているのかは教えてくれないけど、きっと誇らしい仕事をしているのだろう。

 そんなことを思っていた。

 充実していた。

 向こうに住んで居た時よりも、はるかに金の入りは良くて家族に笑顔は絶えなかった。

 母と姉の笑顔も増えて、父はとても嬉しそうにしていた。

 

 そんな幸せの絶頂のさなか、母が死んだ。

 ヘルマンと姉は一晩中泣いていたが、何より父親が一番悲しみ、ふさぎ込んでしまうほどだった。

 そのころから父は代わった。

 優し気な表情をヘルマンに見せなくなった。

 その代わり、姉に構うようになった。

 どこかで母と重ねているのだろう。

 

 そして、そんな中、世界に異能が現れた。

 しかし、ヘルマンには関係のない事だった。

 母が死んでからは、同じ日常が続いている。

 

 ある日、家に人が来た。

 女の人だ。

 東洋人ではあるが日本人ではない。

 片言の日本語が特徴的だった。

 そして、何処か写真で見た若い時の母に似ていた。

 名前を聞いても、偽名しか教えてくれなかった。

 父も偽名で呼んでいたので、ヘルマンが知ることはなかった。

 

 そして、家に女が増えた。

 時間が経つにつれて新しく人が来て、今までいた人は突然消えた。

 その時のヘルマンは、そう言えば偽名の女はいつまでたっても家に出入りしているなとそんなことを思った。

 

 次々、来ては居なくなる女たち。

 それには一定の基準があった。

 それはそのすべてが東洋人であると言う事。

 だが、ヘルマンからすれば、範囲が広すぎると思った。

 日本で学校にも通うヘルマンからすれば、日本人的な顔と言うものと、他のアジア人的な顔と言うのはなんとなくであるが分かった。

 父親は、アジア人は皆同じように見えるのか、片っ端から連れてきているようにしか見えなかった。

 

 そして、暫く、ヘルマンにも異能が発現した。

 とても強力な異能だった。

 父がそれを聞きつけてヘルマンのところに来た。

 そして「よくやった」と言った。

 母が死んで初めて父はその顔を自分に向けた。

 きっと、この異能ならもう一度自分を見てくれるのではないかと思った。

 

 そして思わぬ形で父の仕事を知ることとなる。

 元々父は裏の世界で仕事をしていたらしい。

 日本で成功して家にたくさんのお金を入れていたようだった。

 異能が現れてからは、異能組織と言うものを組織しているらしい。

 異能一つで既存の力関係は崩壊しており、覇権を取るには強力な異能が必要だという。

 ヘルマンは二つ返事で協力を申し出た。

 

 母が死ぬ前のヘルマンであれば父親の仕事を知るだけで、拒否感を抱いていただろう。

 だが、今のヘルマンには父親に認めてもらいと言う感情が渦巻いていた。

 異能であれば、きっとまた褒めてくれるだろうと。

 ただ、ヘルマンの役割はなかなか来なかった。

 強力な異能であるために、切り札として使おうと父はしていたからだ。

 

 そして、女が良くいなくなる理由もわかった。

 異能組織内にも彼女たちの仕事はあり、その際死んだ者は帰ってこないのだ。

 そうなると偽名女は強いのかもしれない。

 

 月日が経つと、父の組織は六大組織と言うものになった。

 晴れて覇権を握る組織の一角になった。

 姉もその中で、組織の一員として活動を開始したが、どうやらあまり肯定的ではないようだった。

 

 そんな中、二度目の不幸が起こった。

 父が嵌められたのだ。

 いつの間にか、組織内の多くに手を回して裏切る算段をつけていたようだ。

 首謀者は偽名の女──霧消。

 そして彼女の腕の中には、父が愛したはずであった姉、レイメイが居た。

 だが、父は強くヘルマンの力もある。

 そう簡単に行くはずがなかった。

 しかし、霧消は他の六大組織を味方につけていた。

 

 本来、組織内のいざこざだ。

 他の六大組織が介入するはずがなかった。

 だが、父は恨まれていたのだろう。

 国外からの異能者の密入国の手助けに始まり、日本にマイナスなことをやり過ぎた。

 流石の他の組織も見過ごせなくなり、今回の事態に手を出したのだろう。

 

 そうして異能組織ローレライは奪われた。

 

 父は何とか数人の信頼できるものと逃走に成功するも、ストレスからか暴飲暴食の限りを尽くした。

 ブクブクと太り、なくした地位を補うように趣味の悪い成金じみた高級品を身につけるようになった。

 だが、それでも諦めることはなかった。

 いつの日か、娘を取り戻して霧消を叩き潰すために何でもやった。

 

 元六大組織のボスと言うだけあって、ツテはあった。

 そしてナリヒサ製薬の裏組織に所属する研究者とも知り合い、戦力の増強を画策した。

 その甲斐あって、新しく作った彼の異能を冠した組織である「陽炎」は尋常ではないくらいに急速に成長していった。

 

 そして、六大組織に、いや、かつて自身の故郷の伝承に由来して名付けたローレライと言う組織に対して挑発を行った。

 敢えて刺客を送った。

 惜しみなく脅威として認識させるために。

 霧消は気付くはずだ。

 父の異能に関した「陽炎」と言う名前を聞いて。

 まだ、生きていると。

 レイメイを取り返すと言う意味を込めて。

 

 だから、電波ジャックによって敢えて「陽炎」だと名乗った。

 異能倶楽部ではなく、霧消に向けての警告だった。

 そこに理屈的な話は一切含まれていなかった。

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