TSしたら異能組織のボス(身長136cm)   作:環状線EX

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夜空

 

 日曜の午後七時。

 そんな言葉を聞けば皆が迫りくる月曜に恐怖するそのころ。

 TS黒髪美少女である俺は美少女に担がれて高速で移動していた。

 

 意味が分からないが、昨今異能が世界各地で発現されたころから極一部の話ではあるが運動能力が上がったというデータはある。

 何でも異能を使用する際のエネルギーを運動能力に回してるんだとか。

 俺は発現したてで試したことはないが異能に精通している人たちでは普通だと言う。

 

 だからまあ、超人じみた運動能力に関しては何も言わないが、それでも今の状況に納得できるかと言えばそんなわけもなく。

 じゃあ、何で大人しく担がれているかと言われれば、ビルとビルの間をビュンビュンとアホみたいに移動している女の子の手からどうして抜けられると言うのか。

 暴れて抜け出したとしても落下して死ぬ、と言うかそもそも俺は高いとこが無理なんだ。

 さっきから目を瞑って大人しくしていることしかできていない。

 

 絶叫系で大声出してる奴がいるが怖かったらそんなことできない。(少なくとも俺は)

 精々震えた声で「死ぬ死ぬ死ぬ」と呟くことが精いっぱい。

 大人しく降ろしてもらえるのを期待して待つしかないのだ。

 

 どうしてこうなった、とはこう言うときに使うのだろう。

 

 

 

 

 少し前まで遡り、この少女が俺の前に現れたのは俺がスマホに向かってポーズを決めていた時だった。

 恥ずかしながら現実逃避をしていた俺は、せっかく美少女になったのだから通販で買った服を着て一人ファッションショーをしていた。

 

「うーん。自撮りなんかしたことないしな……」

 

 段ボールから出した服を着て早速ポーズをとった俺は自撮りの難しさに苦戦していた。

 と言うのも、知っての通り俺は陰キャ。自撮りなんてしたことはない。

 友達と撮る機会もないからそう言った発想にならないのだ。

 

 よくあか抜け動画で陰キャの俺が~とか聞くが、陰キャはビフォーの時点で自撮りなんか残しているわけがない。

 あれは嘘だ。多分。

 まあ、それはともかくとして、初めての挑戦に苦戦しながらも顔面の良さもあってか楽しんでしまった。

 そんな俺が彼シャツならぬ彼パーカーでもしようかと袖を通したところでそいつは現れた。

 

「か、可愛い!!」

 

 自宅。室内。地上四階。

 そして、そのベランダに女は現れた。

 

 長い黒髪にオレンジ色の目をした美少女。

 普段の俺ならそんな感想を得たのだろうが今回はそうもいかなかった。

 何故なら女は家のガラスにハァハァと曇るほど顔を近づけて俺の全身をくまなく観察していたからだ。

 流石の俺でもその瞬間やばいと思った。

 不審者だろうが、変質者だろうが、ストーカであろうが、モテない俺は美少女であればなおのこと受け入れる自信はあった。

 もしもそんなことがあれば俺はチャンスを逃すことはないと、そう思っていたのだが。

 俺の覚悟は足りなかったようだ。

 

 俺はそっとカメラ機能を閉じて電話を掛けようと手に持つスマホの画面をタップした。

 チャットアプリが普及し、通話もそれで簡単に出来るようになった現代ではなかなか携帯電話の主役部分であるそれを使うことは少ないが、今日はそいつの本領をいかんなく発揮することになるだろう。

 

 俺は冷静に『110』と打ち込む。

 警察になんて電話したことがないため少し緊張するが緊急事態だ仕方ないとコールボタンを押そうとして──

 

 ──女が俺の手を掴んでいることに気付いた。

 

「落ち着いてよ。リオ君」

「……ッ!?」

 

 その言葉に動揺しスマホを落としてしまう。

 いつの間に?

 外にいたはずじゃ……?

 俺は彼女の後ろに視線を移すと窓が破られている。

 いつの間に音もなくこれを割ったのか?

 だが、そんなことよりもだ。

 何故名前を知っている?

 いや、ストーカーの類なら知っているか?

 でも俺は女体化している。

 この部屋に住む御野間(みのま)リオと同一人物だとは知らないはず。

 

「もしかして、私のこと覚えてない?」

 

 俺が頭を回転させて思考を必死にする中、女はそれを断ち切るようにして話しかけてくる。

 「覚えてない?」だと?

 生憎俺は女の知り合いどころか親しい男友達すらいない。

 それに、どうやってか窓を蹴破って自宅に侵入してくるような美少女が居れば忘れようもないだろう。

 

「ひ、人違いじゃないですか……?」

 

 恐怖からか少し上ずった声で返答する。

 恥ずかしながらすごく怖い。

 今までどちらかと言えばドMだと思っていたが、それを返上しよう。

 無理だ。こぇー。

 今日からドNになるから許してくれないかな。

 

「そうか!成長したから、分からないよね。私だよ、ツムギ。リオ君が引っ越しちゃうまで幼稚園で毎日遊んでた」

「え?ツムギって」

 

 ツムギと聞けば、俺の記憶には一人しか該当しない。

 幼馴染のツムギちゃんだ。

 昔は毎日一緒に遊んでいた。

 

 でも、おかしい。

 ツムギちゃんはこんな人の家の窓をぶち破って入ってくるような子じゃない。

 それに本当に同い年か?

 いや、怪しい。

 その二つのたわわは明らかに中学生のものではない。

 

「ん?どうしたの?やっぱり信じられない?確かに私、幼稚園の時と比べたら成長し過ぎちゃってるからなー。あ!わかった。証拠を見せればいいんだね?リオ君とした約束のこと」

「は?」

 

 意味が分からない。

 ただでさえ高速詠唱されて処理が追い付かないと言うのに、彼女の言っている意味が分からなかった。

 

「じゃあ、摑まっててね」

「え?ちょっ!?そっち窓!落ちる落ちるおちうぅぅううう!!!!」

 

 そうして、現在に至る。

 

 浮遊感に俺は恐怖を覚えていると不意にそれが止まる。

 着地したのか?

 恐怖におびえながらも俺は恐る恐る目を開く。

 

「ここは……?」

 

 そう呟けば視界にはコンクリートの床と、壁の代わりに絶景とも言える夜景が見えた。

 そこはビルの屋上だった。

 つーか高ぇ。こえー。

 割と中心の方にいるけど風が吹くたび怖くなる。

 

「こっちだよ。ついてきて」

 

 そんな声と共にツムギちゃんは俺の手を引く。

 今は従うしかないか。

 そう思い俺は歩き出した。

 つーか、こんな高いところ一人で歩くのは怖い。 

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