「しかしどうするか」
外に出たはいいものの何をすればいいのかは思いつかない。
元来俺はインドア派であるために外出経験はすくない。
外食だってこの前の中華が筆頭に来るくらいだ。運動に結び付く何かがすぐにポンと出ることはない。
しかし、運動と言ってもダイエットとかトレーニングではない。
身体を動かすと言う意味合いが強いだろう。
何もジムに行くわけでもなし……
と、そんな時不意にアナが口を開いた。
「サクセン、キマッテナイ?」
作戦とはカッコいい言い方をするものだ。
それとも英語を直尺するとそんな感じになるのだろうか?
そんなことを思いつつアナの日本語の上達の速さに驚愕する。
昨日の時点であれば「サクセン、キマル、シテナイ?」とかそんな感じだっただろう。
それなのにもう文法は完璧に見えた。
後はイントネーションだけだろう。
つくづく異常なほどの学習スピードだ。
寝れば学んだことすべてが定着でもするのだろうか。
とは言っても、一日中日本語の勉強を頑張っているのは知っている。
この現状は才能としか言いようがないが、それでも努力の賜物だろう。
見習いたいものだと思いながら返答を返す。
「やり方は沢山あるんだけどね。それこそ数えきれないくらい」
運動なんて生物のごくごく原始的な行動だ。
歩くだけでもそれに当てはまるだけに選択肢はいくつもあった。
その返答にアナは驚いたように見せて、「ワタシガワカルノハ、セイゼイ、サントオリ」と言った。
精々なんて言葉を使える天才でも、やはり子供運動の仕方はそう知らないのだろう。
「まあ、取りあえず歩こうか。取りあえずアナの観光がてらってことで」
そう言って俺はアナを連れて歩き出した。
まあ、京都ってわけでもないからわかりやすい観光名所があるわけではないけれど。
それでも外国の街並みと言うのはそれだけで新鮮に映るものだろうと信じておく。
「ああ、そうだ。こっちにいいとこあるんだよね」
不意にあることを思い出して俺はそんな言葉を発した。
俺は元来インドア派とは言ったものの、全く何も知らないわけでもない。
と言うのも、最近えげつない通学路で迷子になるなんて言う実績を解除した俺ではあるが、そんな例外的なことを除いても迷子になる回数が多い。
そんな時、変なところに迷い込んで珍しいモノを見つけたりするのだ。
だから例えば。
「珍しいでしょ。こんなところ」
入り組んでいてそうそう見つけることの出来ないここ。
なんだか、自分だけが知っている秘密の場所みたいでいいのだ。
それに海外では自動販売機はあまりないと聞くし、アナが喜ぶかなと思ったのだ。
「この辺りでもそうは見ないと思うんだよね」
そして普通の自動販売機だけではなく、お菓子が売っている機械を見てそう言った。
◆
笹嶺は御野間リオを探る過程で、雇った男たちを謎の集団に処理された。
恐らくどこかの異能組織のものであり、その正体が六大組織の一角異能倶楽部であるだろうと言う推測を立てた。
そして異能倶楽部の資料から分析をしていた。
とは言え、御野間リオのことも忘れていない。
本来の目的は「無異」に迫るためであり、その情報源として御野間リオが存在する。
それを調査する過程で異能倶楽部の影が見えたが、本来の目的を忘れる気はなかった。
しかし、異能倶楽部関連の何かが関わっているのであればそれは大きな手柄になるとも感じていた。
それに御野間リオ自身がただの一般人ではない可能性もある。
無害そうな見た目をしているが、最悪、異能組織のメンバーである場合だってゼロではないだろう。
そして監視を継続していた時不意に御野間リオが自宅から出て来た。
部屋の中までは監視できないが、行動を起こしたとあってはそれを追うべきだと彼は考えた。
その先で御野間リオは
少々広いそこにはいくつかの自動販売機が連なっていて、薄暗い光が照らすそこは現実とは違う別世界にも見えた。
そんなところへ彼女は迷いなく入って口を開いた。
「珍しいでしょ。こんなところ」
確かに珍しい。
人目につかない場所に自動販売機とはと彼は思う。
「この辺りでもそうは見ないと思うんだよね」
彼女は続けた。
それは独り言なのか返答はない。
彼女と一緒に行動を共にする金髪の少女もだんまりだ。
「ほら、ここの
その時、不意に笹嶺の頭には「監視」の二文字が浮かんだ。
しかし、自分がその手のことに敏感になっているだけで関係ないと判断する。
それに実際彼女は自動販売機の「アイズ」と言う商品をなぞっていた。
ただのエナジードリンクだ。
特徴的な目をモチーフにした缶であり、そのガラがあまり見ない種類であったことを言っているのだろう。
「俺たちには届かない」
御野間リオはそう言う。
それは彼女の背が低いせいでボタンに手が届かないからだろう。
決して監視の目が届かないと言った意図ではないはずだ。
そんなことを考えるのは自分が異能対策治安維持組織の異能特査であるからか。
そんな思考に没入する前に、彼女が一瞬こちらに顔を向けようとして身を隠す。
現在笹嶺がいるのは、路地を作る雑居ビルの中だ。
人はいないために中に入って、窓から様子を覗いていた。
しかし、バレることを危惧して壁を背にして隠れた。
彼女から視界を外すことになるがみすみす姿を現すへまはしない。
だが、次の言葉で笹嶺は体をはねさせる。
「出てこないの~?」
バレているのか。
いや、そんなことがあるわけがない。
しかし、そうでないとすればどんな状況でそんな言葉を発するだろうか。
自動販売機の不具合でボタンを押したのに商品が出てこなかったとは言わないだろう。
「おーい」と声を続けられてどうするべきか思案する。
彼女がどんな立場か正確に測ることはできないが、こちらに気付いたことを考えれば何らかの異能組織のメンバーである可能性がある。
であれば、みすみす姿を現すわけには行かない。
とすると排除だろうか。
しかし、次の発言で思考が一瞬停止した。
「一緒だよ」
一緒。
それが何を意識したものか。
笹嶺の頭には一つの可能性が浮かぶ。
こちらの気配を感じ取る存在で笹嶺と共通点があるとすれば……
いや、まだ判断を下すのは早計だ。
しっかり見極めさせてもらう。
そう笹嶺はすでに視線を逸らした少女を見た。
◆
自動販売機で飲み物を購入した俺とアナは人目のつく通りに戻っていた。
流石に、この近くの路地に穴場スポットを見つけていない。
少し離れれば無いこともないが、この日の当たらない暗がりに態々いる必要もないだろう。
「次はどこ行こうか」
あたりを見渡しながらそういう。
珍しい場所なら知っているが、お店なんかを知っているわけではない。
カフェでも目指して歩くなんてことは出来ない。
俺が知っている場所は精々小学生程度の年齢ならサプライズ的に見せて通じるかどうかだ。
秘密基地みたいでカッコいいでしょと案内するくらいしかできないのだ。
アナは大人びてるし女子だから、小学生男子のような観点は持ってないだろうし。
微妙な顔をされるのが落ちだろう。
ただ、幸いにして本来の目的は運動。
別に景色を見るだけでいいのだ。
と言う事で、取りあえず近くの公園を目指すことにした。
「俺も久しぶりに体を動かそうかな」
公園に付けばそんな声を俺は漏らした。
近くの公園と言っても独り暮らしを始めて態々行ったことはないから初めてではあるけれど、唯一まともに公園を使っていた小学生の頃を思い出してそう言った。
昔は親に連れられて公園に行っていた。
それ以来と言う事も踏まえれば実に十年弱ぶりと言ったところだろうか。
小学生と言っても小1くらいだろうし。
「リオモ、ウゴクノカ」
俺の言葉に反応してか、アナはそう訊いてくる。
聡い彼女であってもまだ子供一緒に遊びたい気持ちがあるのだろうか。
「うん」
「ドッチカライク?」
「ブランコの方からかな」
「サクセン?」
「そうそう作戦」
同じもので遊びたいのかそれとも、海外には日本の遊具のようなものがないのか。
どっちなのかは分からないけれど、俺がブランコからと言えばアナはそちらに視線を映した。
なんだか、ブランコの背後にある路地に目を向けていたようにも見えたが気のせいだろう。
「あ、でも、先に行ってて」
手に持った俺とアナ二人分のペットボトルのお茶の存在を思い出してそういう。
流石にこれを持ったままでは、危ないだろう。
そう思って、先に隅の方に置いて来ることにした。
しかし、アナは何か不安そうに言う。
「ヒトリデカ?」
「あーうん。あっ。心配だってことだよね」
正直すぐにそちらに行くのだから大丈夫だと言いたいところではあるが、海外の治安は悪いと聞くし日本ほど安全ではないのだろう。
それに異能の出現で治安の悪化が起こっているのも事実だ。
そんなことを思って、安心させようと口を開いた。
「大丈夫。危険があったら異能でピカッとやるよ。目くらましくらいにはなるだろうしそのうちに逃げよう」
そう言えば取りあえず頷いたアナは背を向けた。
そして隅の方へペットボトルを置いた後、アナが公園の敷地内にいないことに気付いた。
◆
アナはリオの言葉に従って公園を出て、「ブランコの方角にある路地」へ足を進めた。
リオは動くと言って、アナに先に行くようにと指示を出した。
その言葉の裏の意図は分からないが、素直に従った。
そして、彼が指示した先にいたのは一人の男だった。
「よぉ、見つけたぜ。「無異」」
金髪猫背の男は、少女であるはずのアナに向かってそう言った。