異能倶楽部ボス、ルカが自分を敢えて逃したことは分かっていた。
ザンマが彼女を打倒しようと思えば戦力の総動員が必須だ。
故に、戦いの後には残党など残らない。
それを狙ってこちらを一度逃した。
「だが、そりゃ欲張りすぎってもんだぜ」
欲張りすぎて落ちていく人間はザンマは何度も見て来た。
いくら異能倶楽部の頂点に居ようとも同じだ。
そもそも力があるからと言って、ボスが現場に常に出ている時点で破綻していると言ってもいい。
わかりやすい弱点を晒すような相手だ。
「ルカ。あんたはここで沈める」
「熱くなりすぎんなよ。ザンマ」
ザンマの意気込み、それに対して返す声があった。
よろよろとラフな服装の男が歩いて来る。
体つきは細身に見えるザンマと比べれば、しっかりしているように見て取れる。
しかし、それでもひょろりとした印象を残すのは手橋が長い故だろう。
そんな男を見てザンマは口を開く。
「わかってるよ。キガ」
「わかってんならいいさ」
ザンマの言葉にキガははねた頭の毛をいじりながらそう返す。
その一方ザンマは「それより」と言葉を続けた。
「悪いな。態々、来てもらって」
「ん?ああいいよ。不肖、気賀澤ダイラ。旧友の頼みとあれば一肌脱ぐさ」
キガの言葉にザンマは笑う。
ここ数日で誰にも見せないその笑みはそれだけザンマとの親交が深いことを表すようだ。
そしてザンマは一息つくように息を吐いて、顔を上げる。
そうすれば視界には数人の顔ぶれが映った。
「お前らも、集まってくれてありがとう。今日俺たちで六大組織の一角、異能倶楽部のボス、ルカと討ち、その力を我がものとする」
ザンマがそう宣言した。
◆
財布を探して外に出た俺は昨日歩いた場所をなぞる様に歩いていた。
しかし、すぐには見つかることなく苦戦を強いられていた。
治安の言い日本と言うことを加味しての行動ではあるために最悪誰かに盗まれている可能性を考える必要もあるかもしれないけど。
「うーん」
唸りながらいろんなところを探してみる。
塀の上とか、変な置物の裏とか、ごみ箱の中とか、自販機の下とか、変な置物の裏とか、ベンチの上とか、変な置物の裏とか、変な置物の裏とか…………変な置物多くない?
妙に手が込んだ置物を見る。
なんだか禍々しい見た目のそれを持ち上げる。
なんかどこかの宗教とかにありそうなんて感想を抱いて壊さないうちにもとに戻す。
そもそも人のものを勝手に動かすのは良くない。
だけど、こんな置物おいてあれば気付くと思うから最近置かれたのだろうか?
ただ、昨日ここを通っているのだから夜から朝の短い時間な気もするけど、謎は深まるばかりだ。
「って、違う」
財布を探しに来ていたのだった。
余計なことに気を取られてはいけない。
しかし、そう簡単に見つからない。
結局昨日の経路を追うように西洋風の男と金髪の男がいた路地まで来てしまった。
出がけにツムギちゃんに「手はいる?」と聞かれたとき頼っとけばよかったと思って来た。
迷惑をかけたくないから断ったものの、見つけられるか不安になって来た。
◆
ザンマが集められる戦力。
それはすでにツムギ、大録の両名は把握していた。
それは六大組織故の傘下組織の管理能力の結果から来るものである。
完全な透明化が出来てるわけではない。
しかし、陽炎騒動が起きて数日だ。
どこかに潜んでいるとも限らない残党と言う不安要素を残したままにしてるわけがなかった。
故に六大組織に関連する参加含め、そこにザンマに賛同する人間が居ようとも今の段階で動くことは出来なかった。
だからこそ、ザンマの協力者を募る方法として挙げられる手段は少ない。
六大組織から完全に独立した異能組織、そして一般人だ。
六大組織から独立した異能組織に関しては、何らかの契約を結べば構成員を貸してもらうことはできるだろう。
ただ、現在異能が絡む裏社会においては少々の事情が変わりつつある。
昨今の裏工作をする際の人材は外注の場合が多い。
それは、海外であったりということが多いのだが、四年前の異能の出現から傾向が変わりつつあった。
異能と言うのは、個々人によって効果が大きく左右される。
故に、人員の実力の均一化が図りづらい。
もっと言えば、有能な異能を持つ者ほど使い捨てが難しい。
今までは、機械的に技術と経験を積ませた人材の育成をして、代わりの聞く人材を運用してきた。
それに対して、異能は些か協力過ぎであり、固有的であった。
こういった事情から人材の輸出は容易に力の均衡を崩してしまう危険性を孕んでいた。
異能と言う力が協力過ぎて一人に対する価値が上がり過ぎたのだ。
そして現在異能者の外部への派遣は少なく、それの関わらない実働部隊以外を他の組織から集めることは金があっても難しかった。
ただ、そうするとザンマが異能組織から戦力を集めらる数は限られている。
そうなると次の手段が、一般人からの戦力を募ることとなる。
ここで言う一般人は異能組織に属していないものであり、直近の例で言えば異能対策治安維持組織の笹嶺が行っていたものも該当するだろう。
そこそこ強力な異能を持つ者であっても、異能組織に属していないことは不思議なことではない。
その力を振るい悪逆の限りを尽くしていようとも、大っぴらに犯罪組織であると表明している異能組織に入ろうと考えるほうが稀であろう。
故に募ろうと思えば、出来なくもない。
そう、出来なくもない、だ。
そもそも、異能一強と言っても、経験を積んだだけ技術や判断力が上がることが自然。
それに対して異能組織に居なければ経験する修羅場も大したものではない。
そう言った面で言えば、強力な人材は期待できなかった。
だから、一番有力なのは先日崩壊したばかりの陽炎の残党を味方につけることだろう。
彼らであればルカへの恨みがあるだろうし、六大組織のマークも及んでいない。
ただ、実情幹部を除いた状態の人員では、こちらの戦力の足元にも及ばないだろう。
だが、ここで現れるのは第三の手である。
それはつまり、ザンマがすでに用意していた戦力。
ザンマの行動は状況を伺っての思いつきのようであったが、そもそも彼は桐坂と言う男の組織に二年近く所属していた。
それが異能の条件を満たすためであったとすれば、当然、戦力をその間に整えていることは不思議なことではない。
むしろそうでない方が不自然だ。
ただ、詰めが甘かった。
奴が仲間を募ったのは二年より前であり、その当時の情報が残っていた。
故に、こちらには筒抜けだったと言えるわけだ。
「ザンマの戦力は当時、「イグナイト」の名前で活動していた異能グループ」
ツムギは相手の戦力を見据えてそう言った。