TSしたら異能組織のボス(身長136cm)   作:環状線EX

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旗が靡く前に

 

 四年たっても、未だ異能は黎明にあるだろう。

 それでも、まだ異能が現れて二年ごろまでは今とは雰囲気が違った気がする。

 

 そのころはまだイグナイトがちょっとした不良グループとして活動していたころだった。

 

「おい、聞いたか?またイグナイトの二人がグループ壊滅させたってよ」

「先週も似たようなこと言ってなかったか?」

「そりゃ二週連続で違う組織がイグナイトに壊滅させられてんだから、仕方ないだろ」

 

 当時イグナイトの名前は大きく轟いていた。

 どこかの実力のある不良がやられれば相手はイグナイトのメンバーだと言い。

 そして。

 

「でも、アレだろ。その二人って、両方とも異能もちじゃねぇだろ」

「ああ。だからこそやべぇんだって」

 

 異能が現れ、個々の力は異能に依存するところも少なくない。

 そんな世界に変わりつつあって、その二人は無能者でありながらも頭角を現していた。

 いや、だからこそと言った方が適切かもしれない。

 異能と言う何人も抗えないほどの力が中にも存在する世界になったことで、身体一つでそれらを圧倒する彼らの異常性が浮き出た。

 

「って、あれじゃないか?」

「ああ」

 

 噂の二人は常に戦いに身を置いていた。

 故に彼らは街を練り歩き、むしろ自発的に探していた。

 金に髪を染めた細身の男、ザンマと、すらりと伸びた長身の男、気賀澤はパトロールでもするかのように目を光らせて歩いていた。

 

「キガ。もっと強いのはいないのか?」

「どうだろうな。今んとこ売られた喧嘩しか買ってないしな」

 

 「カチコミ掛ければいいのに出会えるかもな」と冗談半分に気賀澤は言う。

 

「んなことしねぇよ」

「知ってる」

 

 こんな会話も何度目か。

 いつも強いだの弱いだのと二人は話していた。

 そんな二人にも仲間がいた。

 

 無論それはイグナイトの面々である。

 

「「「お疲れ様です!!!」」」

 

 当時、ザンマと気賀澤の下には多くの物が付いていた。

 彼らが、暴れれば暴れるだけ噂は広がり人が集まった。

 そうして、いつしかチームになっていた。

 

「おつかれ」

「お、大丈夫かその怪我?」

 

 ザンマは適当に促して、気賀澤は目ざとくけが人を見つけて調子を聞く。

 そんな彼らであったが、仰ぐ人物が居た。

 

「リーダー。来てたんだ」

「お、ネイちゃん」

 

 リーダーと呼ばれネイと名前を言われれば、その人物は体を翻した。

 工場跡であるアジトには似合わない綺麗すぎる顔。

 一人の少女が彼らの仰ぐグループのリーダーだった。

 

「ああ、二人とも……」

 

 綺麗な音色のような声が向けられる。

 つくづくここには似合わない。

 ただ、声だけ聴けば、と言う話ではあった。

 

「って、遅い!」

 

 繰り出されるのは、綺麗な跳び蹴り。

 高所からの攻撃故か、その勢いはすさまじいものだ。

 ザンマはまんまと「グエ」と声を洩らして蹴りを喰らった。

 

「ザンマ。死んでないか?」

 

 気賀澤は伸びるザンマに声をかけた。

 

「す、すげぇ。ザンマさんが一撃」

「つえぇ」

「リーダー最強!」

 

 周囲がそんなざわめきを生む。

 ただ、それをかき消すようにネイは吠えた。

 

「私、時間厳守って言ったよねぇ!!」

 

 ゲシゲシとザンマの身体を蹴る。

 まあまあと気賀澤がなだめようとすれば「アンタも同罪だから!!」と怒鳴られた。

 

「もう……しっかりしてよね。今日は大事な会議なんだから」

 

 ネイはザンマから足をどかすと台の上へと戻った。

 そして大きく口を上げた。

 

「よし、じゃあ、皆でイグナイトの旗のデザインを考えよう」

 

 ネイの高い声はその場に轟く。

 

「「「おお!!」」」

 

 次いで野太い声が空気を震わせた。

 意識を取り戻したのか、頭を掻いて上体だけを起こすザンマはやれやれと呟いた。

 

「何でもいいだろ。こんなん」

「いいじゃないか。士気も上がるし、カッコいいし」

「お前結構ガキっぽいとこあるよな」

 

 どんなデザインにしようかななんてわくわくしている気賀澤を見てザンマはそう言った。

 ただ、ザンマも腕を引っ張られながら協力をした。

 

「皆意見出し合って!あ、ザンマも何かある?」

「ん、ああ。髑髏とか?」

「却下」

 

 ネイにきっぱり言われて鼻を鳴らす。

 どうせ断るなら聞かなきゃいいモノを。

 ワイワイと周りが盛り上がる中、中央に置かれた画材と紙を視界に抑えた。

 

「ネイ。これ」

「ん?ザンマ、どうしたのって……書いてくれたの?」

 

 画用紙を半分に折って中身を見せずにザンマは突きつける。

 ネイはそれを受け取って開いた。

 

「え?子供の絵?てか、何でクレヨン?」

 

 ネイの感想は酷いモノだった。

 ザンマが気恥ずかしくなるくらいには。

 

「いいよ、じゃあ……」

「いや、良いと思うよ」

 

 ただ、発した言葉は画材から来た印象だけだった。

 次いで、肯定的な言葉が続きだした手をひっこめた。

 

「お、なになに?ザンマも描いたん?」

「マジすか。ザンマさんが?いいじゃないっすか!」

 

 拙い絵だった。

 それこそ幼稚園児が書いたようなその絵を彼らは褒めてくれた。

 

「凄いいいよ。赤い葉っぱと割り箸で作ったくじ引きの絵」

 

 ネイはそう言った。

 

「ぷっ、くく。それは炎とマッチだよ。な、ザンマ」

「……」

 

 その通りだが、少し傷ついた。

 

「あ!確かに。でも、なら一緒だね。ほら、私とキガが描いた絵も炎とマッチなんだよ」

 

 「三人して一緒の絵だ」とネイは笑った。

 つられていつの間にかザンマの笑みも漏れていた。

 

「え!姐さんたちも、炎とマッチっすか?」

「うん。そうだけど」

「実は俺たちもで」

「こっちもそうです!」

「マジか。皆同じじゃねぇか!」

 

 気賀澤が大きく笑うと今度はアジト全体が笑いに包まれた。

 

 

 

 

 ◆

 

 後日、グループ旗の作成に皆で取り掛かった。

 大抵こういうのは本職に任せるらしいが、ネイが自分たちで作りたいと言い出したのだ。

 そうしてイグナイト総出で作業する傍らで、ザンマは壁のそばにうずくまっていた。

 苦しんでいるわけではない。

 

 ただ、頭には「臓器」がよぎる。

 言葉が文字が映像が匂いが。

 生臭い感覚に気分を害す。

 常に襲われるわけではない。

 ただ、ふとした瞬間にザンマをこの感覚が襲う。

 

 異能を得たあの日から。

 

 皆には未だ打ち明けていない。

 自分の異能はおぞましく、それでいて人から故意に奪うものであるから。

 

「ザンマ、大丈夫か」

 

 気賀澤の不意の声に意識が浮上する。

 

「なにが」

「何かわからんから、聞いた。いつもなら、アジトの屋根昇って昼寝してネイに怒られているお前が、こんな壁際でうずくまってたら不思議に思うさ」

 

 「どうだか」とザンマは返す。

 そんな気にすることでもないだろうと言う意だった。

 

「いや、俺だけじゃないぞ。他の皆もだ」

 

 顔を上げれば、皆がこちらを見ていた。

 本当に心配していたとでも言うのか。

 いや、ここにいるのはこういう奴だったと思い出す。

 ザンマと気賀澤の力に惹かれてきても、最終的にネイに付きたいと思って入って来た人物たちだ。

 彼女に似るのは当然か。

 

「ちょっと二人ともサボらない!!」

「やべ」

「まずいな。見つかった」

 

 ネイの言葉に二人は立ち上がる。

 ただ、三人とも、いやこの場にいる全員が笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 ◆

 

「今日はネイが遅刻かよ」

「珍しいな。まあ、よかったんじゃないか、ザンマ今日も少し遅れてそわそわしながら入って来たろ?」

「るせぇ」

 

 その日は完成した旗をお披露目するとネイが息巻いて居た日。

 皆で作ったのだから、誰一人完成系を見たことがないモノなどいなかったが、それでも皆でアジトに掲げたいとネイが言ったのだ。

 それなのに彼女が来なかった。

 

「学校が長引いてるとか?」

「それだったら連絡くるだろ。ネイはそう言う奴だ」

「まあ、そうか」

 

 その日はそんな風に楽観視していた。

 

「誰か!誰か!リーダーが!」

 

 皆がその日はアジトに集まっていた。

 ネイが待ち遠しくしていたのを皆が知っていたからだ。

 だから、最低限ネイを向かいに行く二人だけがその場を外していた。

 異能組織でもない彼らではあったが仮にもリーダーである彼女に護衛と言う形で人員をつけていた。

 

 そんな一人が、大慌てでアジトへと走って来た。

 必死の形相。大抵の事ではないのは皆が察した。

 

「リーダーが異能組織のやつらにちょっかい掛けられて、正樹が庇ったらボコボコにされて!とにかく、ザンマさん、気賀澤さん!早く来てください」

 

 息も絶え絶え、話しも整理できていない。

 だが、ザンマと気賀澤はすぐに聞き出した場所へと向かった。

 そこは、ネイの学校からしばらくしたアジトに向かう際に通る路地だった。

 

 彼らが駆け付けた時に見たのは、暗がりに倒れ込む見慣れた男だった。

 護衛の一人だ。

 体中酷い傷で顔面は原型をとどめていない。

 もう死んでいた。

 

「やめ、やめて。痛い。ごめんな、さい。やめ、て、くださぃ」

 

 そして、路地の奥からは聞きなれた少女の声が漏れ出ていた。

 足を踏み込んだその先では、地獄のような光景があった。

 目を見開くネイの視線は気賀澤を見ていた。

 

 ザンマたちは我を忘れて、そこにいた男二人を殴り殺した。

 

 気賀澤は当時、ネイと付き合っていた。

 二人はみじんも表には見せないけれど、イグナイトの面々は知っていた。

 気賀澤はネイを抱きしめなければいけなかったから、ザンマが代わりにたくさん殴った。

 死んでも、それでも殴った。

 

 その日、アジトには戻らずネイを気賀澤は家へ送った。

 ザンマも仲間の身体を担いで数歩後ろをついて行った。

 その十数分には会話がなかった。

 

 

 

 翌日、ネイが自殺したのを聞いた。

 

 

 

 気賀澤は荒れた。

 ザンマをいつも止めてくれる彼を今日はザンマが止めた。

 そして、同時に昨日の男たちがどこの異能組織に所属してるか分かった。

 彼らの脅し文句から、異能組織であることは分かっていたが特定するのに時間が掛かった。

 

 頭に血が上って、二人は男たちの荷物を調べそこなったが他のメンバーが後で回収しに行ったのだそうだ。

 そして、特定へつながった。

 自然、怒りの矛先はその組織へと向いた。

 

「潰そう」

 

 誰が言ったか。

 でも、それは総意だった。

 皆が、ネイに非道を働いた者たちを許してはいなかった。

 殺しても足りない。

 冗長した彼らの根幹にある組織を潰さなければならない。

 

 すぐに決行した。

 止まらなかった。

 収まらなかった。

 もしかしたら、その日のうちに奴らの事務所へと殴り込みに行ってたかもしれない。

 

 そこで。

 

「ガキどもが」

 

 炎の龍にすべてを焼き尽くされた。

 これだけ怒りが湧いているのに、これだけ相手が憎いのに。

 敵わなかった。

 名をはせているはずだった。

 二人でも、他のグループを壊滅させてきた。

 それが、総勢50を超える数で殴りこんだのに。

 

 死に。重傷を負い。精神を病み。

 戦いとも言えぬ一方的な殺戮の後に、幾人か去り。

 残ったのはザンマを含めて八人だった。

 

 その中には、密かにネイを想い、それでも気賀澤を見て引き下がった者。

 ザンマと気賀澤目当てでイグナイトにはいり、初めはネイを舐めていて痛い目にあった者。

 普段ネイになついて、妹のように後ろとついて行っていたのに、今回の戦いのためにバッサリと髪を切って顔つきの変わった者。

 

 何より、恋人の死に怒りを洩らす気賀澤がいた。

 

 それだけしかその場に残らなかった。

 それよりはるかに多い戦力があったのに敵わなかった。

 

「力がほしい」

 

 ザンマは呟く。

 そしてその後で自嘲した。

 

「力ならあったじゃないか」

 

 使わなかっただけだ。

 使えなかっただけだ。

 この場の皆と一緒に居たくて、使わなかった。

 

 その結果、多くを失った。

 

「皆に俺の異能を話そうと思う」

 

 殴られる覚悟はあった。

 あるならもっと早く使うべきだった。

 

 気賀澤は胸倉をつかみ上げるも無言のまま離した。

 

「それがあれば、どうなる?」

 

 気賀澤は聞いた。

 彼の方が頭の回転が良い。

 だからこそ、彼に答えを求められたことはなかった。

 

 ああ、おかしい。

 

 ここ数日でずっとおかしくなっている。

 

「誰よりも強い力が得られる。桐坂なんてそれに至る道中で殺せるくらいの」

 

 一番強くなれる。

 

「もう何にも奪われないだけの力を得ることが出来る」

 

 奪い、奪えば、だれにも取られない。

 ザンマの異能はそう言うものだ。

 

「だから、俺は桐坂の組織に入る。そして奪い、殺す」

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