ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!!   作:ストレンジ.

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#11『Search the Stardust(at a later date)』

 

 明くる日の放課後、屋上にあるアカデミーのグラウンドのバトルコートでポケモンバトルをするレモンの姿があった。相手のトレーナーはパートナーであるウミディグダを上回る素早さでコート内を動き回るレモンのアマカジに自身のポケモンともども翻弄されてしまい、まともに指示を出せない状態にあった。

「『マジカルリーフ』!」

「ぴゅぴゅぴゅ~うっ!」

 その隙を逃さず命令を受けたアマカジが紙吹雪のような小さなエネルギー弾を散り散りに飛ばした。このエネルギー弾は相手を追跡する能力があり、もはやウミディグダには万にひとつも避ける術はなかった。

「も、戻れ~! ……お、お疲れさまでスター!」

 レモンと相対していたトレーナーはバトルが終わると素早くウミディグダをボールに戻し、去り際に自らが所属するグループの別れの挨拶を律儀に言い残して一目散にグラウンドを離れていった。

「お疲れさまでスター!」

 レモンも同様の挨拶を小さくなっていく背中に向けて大声で言い放つ。もっとも彼女はスター団に所属してはいないが。

 

「みずタイプのディグダ……もう少しちゃんと見たかったなー。アマカジもお疲れさまでスター!」

「ぴゅう♪」

 バトルコートの外野でざわつくギャラリーたちをよそにアマカジに(ねぎら)いの言葉をかけ、ゴージャスボールに戻すレモンに、観戦者のひとりだったネモがコート内へと入り近づいていく。

「バトルはお見事だったけど、すっかりスター団に目つけられちゃったね」

「今日2回目だからね~、ちょっと疲れちゃった。そのおかげでみんな強くなれてもいるけど!」

「う~、レモンはわたしが実らせるのに……! スター団のせいでわたしがバトルできない! レモン、次絡まれたらすぐ呼んで! 今度はわたしが相手するから!」

「ネモが相手になったら逃げちゃうんじゃない?」

「そしたらそのままわたしとレモンでバトルできるねっ!」

「な、なるほど……」

 気を配りつつも自身とのバトルへの欲求を隠そうともしないネモの勢いに押されながらレモンは彼女とともにそれぞれの寮へと戻っていくのだった。

 

   *

 

 部屋へ戻ってベッドに腰かけたタイミングで、レモンの懐からスマホロトムが飛び出した。

『こんばんは、レモン。わたしを覚えているか?』

 スピーカーから聞こえてきたのは、数日前にも耳にした抑揚の控えめな加工された声色。

「……カシオペア」

『そうだ。連日、スター団に勝負を挑まれているようだな』

「見てたの?」

『……遠くからな。したっぱ相手とはいえ負けなしじゃないか……とはいえ、所詮はやはり、したっぱなのだ』

 カシオペアの含みを持ったその言い方は、加工された音声であることも手伝って冷たい響きを感じさせる。

『わたしが求めるのはスター団を支える柱たるものたちの敗北……レモン、返事を聴きたい。“スターダスト大作戦”への参加についての、だ』

 加工音声越しに凄みを利かせるカシオペアの言葉にひるむでもなくレモンはほんの少しだけ間を空けてから返事をした。

「やるよ。バトルはイヤじゃないけど絡まれるのは疲れるし、それに、他にスター団の被害にあってる子もいるんだろうし。ポケモンバトルで解散させられるっていうなら、望むとこ!」

『……ありがとう。その言葉が聞けて嬉しい。これで君も同志だ』

「ただし! こうやってスマホだけでのやりとりはイヤ! 会ってお話したい!」

『……わたし、とか?』

「もちろんそう!」

 レモンの言葉にスマホロトムの向こうのカシオペアはしばらくのあいだ沈黙する。10秒ほど経ってから、少し及び腰な調子の声が返ってきた。

『わたしの存在がスター団に知られては作戦が台無しになる。いかなる形でもわたしとの接触は不可能だ……。しかし……それでは不満に思うあなたの気持ちもわかる。ここはひとつ、わたしの部下……腹心に会ってみるというのは、どうだ?』

「腹心、ねえ……」

『作戦に必要な物資を調達する補給班のリーダーだ。会って彼女のことを信用できたなら……作戦に付き合ってほしい。そしてすべてが終わりスター団が崩壊したそのときに……わたしも姿を明かそう』

「その部下の子は女の子なんだ? ……じゃあ、まずはその子に会ってみるところからだね。会う予定はいつ?」

『そちらの都合でかまわない。……望むなら今からでも可能だ』

「え、そんな急に!? 大丈夫なの?」

『彼女は……今、いるのだ。わたしのところに。話の内容は把握しているから問題はない』

「じゃあもう今、会おう。場所は?」

『では……エントランスに来てくれ。この時間ならまだ人も多い。そのほうがかえって目立たずにすむだろう』

「ふーん、そういうものなんだ? いいよ、じゃあ今から行く」

『了解した。すぐに彼女を向かわせる。作戦についても彼女から説明させよう』

 とんとん拍子で話が進んだ補給班のリーダーとの接触を果たすべく、レモンはベッドから腰を上げエントランスへ向かった。

 

   *

 

 エントランスに着いたところでレモンはエントランスのどこでカシオペアの腹心とコンタクトをとるのか聞いていなかったことに気づく。2階、3階と続く図書館を兼ねたグレープアカデミーのエントランスはとても広く、ましてや顔も知らない初対面の相手との待ち合わせには少し手間のかかる場所だった。そう思ったレモンだったが、その悩みはすぐに消えた。

「どうも……レモンさん……」

 相手の補給班のリーダーがレモンの姿を見つけて向こうから声をかけてきたのだ。しかもその顔は初対面ではなく見覚えのあるものだった。

「あれっ、スター団に絡まれてた……」

「うん……あ、ボタン、ね。うちの名前……」

 自信なさげに喋るボタンと名乗る女の子は、入学初日にスター団に絡まれていたところを助けたイーブイのバッグを背負った女の子だった。彼女はあのときと同様の格好でイーブイバッグも変わらず背負っていた。

「カシオペアの部下だったんだ?」

「ぇ、うん、まあ……あのときはありがとう。スター団に……バレずにすんだ」

「よくわかんないんだけどボタンはポケモンバトルできないの? あ、戦ったら正体バレてたとか?」

「え、あ……それもあるけど、うちポケモンバトルは苦手……補給班だし」

「なるほど……まあ、キミもチームの一員っていうなら大丈夫かな。一応スター団の被害者なわけだし!」

「……そう、だね」

 歯切れの悪い調子で話すボタンを特段気にすることもなくレモンは本題に入った。

 

「それで、スターダスト大作戦はどういった感じで進めていくの? カシオペアはキミから話を聞いてって言ってたけど」

「あぁ、うん、作戦内容だね……えっと、スター団には5つの『組』があって、アジトもパルデアのいろんなとこにそれぞれ別々に構えてるんよ……。レモンさんは、それぞれの組を仕切るリーダー……5人のボスを倒すのがミッション。組にはそれぞれ名前があって、その名前がそのままチームの専門にしてるポケモンのタイプってこと。“ほのお組”ならほのおタイプ使いのチーム、っていう風にね。アジトの場所とボスの顔写真、マップアプリに登録しとく。……ボスの顔は少し前のものだから、今は違うカッコをしてる可能性もあるかもしれないから、気をつけて」

 そこまで一気に説明するとボタンはスマホを出して、レモンのスマホに各スター団の情報をマップアプリ上で確認できるようデータを送った。

「一応連絡手段用にうちの番号も教えとく。使うかわからないけど念のため……」

 ボタンの連絡先の登録も済ませると、レモンはさっそくスター団の各種情報をチェックした。彼女の言葉のとおりスター団の各アジトはパルデア地方のあちらこちらに構えられており、それぞれの場所へ向かうだけでも大変そうだった。

「……スター団っていうのはミュージカルでもやってるの? それともなんかのコスプレ?」

 マップアプリに登録されたスター団のアジトの位置とともに載せられた、各リーダーの顔写真を見てレモンは不思議そうにボタンに言った。レモンの反応が指すようにスター団のリーダーたちの姿は、バストアップ写真で全身が見えないにしてもいずれも華美な衣装姿で、中には片目以外顔が隠れてしまっている者や顔全体にメイクを施していて素顔がまったくわからない者もいた。

「まあ……団のリーダーだから、特別な衣装でボスっぽさを出してるんよ。その方がカッコもつくだろうし……強そうだし……」

「なるほどぉ……確かにこのメロコって人とかビワって人とか怖くて強そう……あ、でもこのピーニャって人は素顔だし服も派手ではないね。こっちのオルティガって子なんてアタシより年下なんじゃないかな? そんな子までスター団にいるのかぁ……しかもリーダー……」

 あれこれ一人言のようにブツブツ言うレモンの横で、彼女のスマホに映るスター団の各リーダーの顔写真を、ボタンもどこか不安そうに目を少し細めて覗いていた。

「うーん、アジトもあちこち散らばってて、行くだけでも大変そう……」

「……そういえば、カシオペアが言ってた。『スターダスト大作戦は宝探しの開始とともに始める』……って。宝探し中なら学生がパルデアのいろんなとこ旅してても不自然じゃないから怪しまれないし、作戦を進めながらポケモンも強くすれば勝てる可能性も上がるし……って」

「宝探しかぁ……ということは、アタシは宝探しでスパイス探しながらスター団も倒すと……ジム巡りもしたいんだけどな~……」

 ペパーの秘伝スパイスの件のときにも話題に上がった『宝探し』がここにも出てくる。レモンの宝探しはこの時点ですでに多忙をきわめる旅になりそうだった。

「……? 宝探し……なにかやりたいことあるなら、必ずしも作戦を最優先にする必要はないと思う……レモンさんは協力者だからそっちの都合に合わせるし……ジム巡り、したいって言ったけど、ジムリーダー全員に勝つのが難しいようにスター団のボス全員に勝つのも大変だろうし、じっくりポケモンたち育てるのも大切だと思う……」

「そう言ってもらえると助かるよ。すべての道はポケモンに通ず! ってやつだね~」

「うん? あ……レモンさんは、どんなポケモン連れてるの?」

「レモンでいいよ。アタシはね……この子たち!」

 そう言ってレモンは3つのモンスターボールを場所柄、控えめに放り投げた。ふたりの間にクワッス、コンパン、アマカジが現れる。

「わ、かわいい……! コンパン、色違いだ……!」

「イエ~ス! パパが入学祝いに送ってくれたんだ!」

「へ~……クワッスも強そう、アマカジはさっきウミディグダ倒してたよね」

「ボタンも見てたの? 捕まえたばかりのときは攻撃技ぜんぜん覚えてなかったけど、最近はスター団に絡まれちゃうこともあって技が増えてきたんだ! ボタンは、やっぱりイーブイが好きなの?」

 ボタンの背中のイーブイバッグに軽く視線を合わせてレモンが言うと、レモンのパートナーたちに微笑を浮かべてたボタンの顔が(ほころ)んだ。

「うん……イーブイだけじゃなく、ブイブイみんなすき。寮ではボールから出してるから、部屋から出るときはみんなで見送ってくれて、戻ったときは出迎えてくれるんよ。はあ~、思い出しても可愛すぎ……」

 

「ギャス!」

 

「え……?」

「へ?」

 

 イーブイとその進化形たちについて悦に入りながら語るボタンとそれを聞くレモン、そして彼女のポケモンたちの前に、ミライドンがその大きな体を現した。ボタンにとって、そしてミライドンをボールから出した覚えのないレモンにとってもそれは唐突な驚きだった。

「え、な、なに、このポケモンは……? え、ちょっ、待っ……」

「アギャ!」

 困惑の極みにいるボタンの顔にミライドンは自分の顔を近づけると、おもむろにボタンの頬に鼻先をこすり付けた。

「ぎゃっ! ……なな、なんなん? ねぇレモン……なんなん?」

「わからないけど……ボタンに懐いてる?」

「な、なんで……会ったばっかなのに……そこまで悪い気はしないけど……どうにかして……!」

 突如現れてボタンに顔をこすり付けるミライドンに回りの生徒たちもなにごとかと一斉にレモンたちに視線が注がれていた。

「あー、ミライドン! さっきボタンにポケモン紹介したときに出さなかったのが不服だったのかな? でもあんまり大きいポケモンは室内で出すと危ないからさ……また今度、広いところでボタンとは遊ぼうね? だから今は……」

「ギャア……?」

「戻って!」

 小首をかしげて自分を見つめるミライドンの目の前にレモンは素早くモンスターボールを突きつけ戻し、続いてクワッスら他の手持ちたちも戻していく。ミライドンが戻っていったことで、その後が気にならないわけではないものの、レモンらに視線を向けていた大半の生徒たちも各々の学校生活へと戻っていった。

 しかしそこへひとり、レモンとボタンに近づいてくる人影があった。

「おふたりとも、公共の場では騒ぐのはやめましょうね。レモンさん、そのポケモンはもっと広いところで出しましょう」

「は~い……」

「校長にまで見られちゃってたね……」

 手短に注意してすぐに(きびす)を返していった校長の背中を見つめながらボタンがレモンにだけ聞こえる声でつぶやいた。

「ご、ごめん、目立っちゃって……カシオペアに怒られちゃうかな?」

「あー、いや……大丈夫だよ。黙っとく」

「かたじけない……」

「じゃあ……伝えることは全部言ったから、戻る……宝探しが始まったらカシオペアから連絡が来ると思う。その指示に従って、スター団を倒して」

「りょーかい! お疲れさまでスター!」

 

「ちょっと!」

 

 突如大声を出したボタンにレモンは面くらい、近くにいた生徒たちも、ふたたびふたりの様子をまばらに窺い始めた。ボタンの上げた声にはなにかを責めるような、刺す調子があった。

「……ごめん、なんでもない。戻る」

「うん……気を悪くさせたようならごめんね? なんか気に入っちゃって、あの挨拶……」

 気安く発したスター団の挨拶だったが、考えてみれば自分が介入したとはいえボタンはスター団に無理やり勧誘されていた被害者だったことを思い出し、そんな組織の挨拶なんて聞きたくもないかもしれないとレモンは思いあたり、軽率だったと胸をドキリとさせた。

「……いや………………いいんじゃない」

 長い間を置いてボタンはそうとだけ言って、そそくさとエントランスを去っていった。少し後味の悪い別れになってしまったことへの後悔が疲れを思い出させ、レモンもゆっくりとした足取りで自分の部屋へと戻っていった。

 

 

 

(つづく)

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