ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!!   作:ストレンジ.

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#12『Teach Time(luv ya!)』

 

 午後のバトル学の授業を終えると、足早にグラウンドを去りそのまま医務室へと向かう3人の姿があった。

「失礼します……ミモザ先生、すまない!」

 ひとりはグレープアカデミーで『バトル学』の授業を受け持つ女教師、キハダ。入室早々に管理者である学校保健師のミモザに謝辞の言葉を発してから後ろに控えるふたりの生徒を室内へ促した。

「失礼します」

「失礼しまーす」

 ひとりはネモ、もうひとりはレモン。ふたりは腕や膝に切り傷を数ヶ所、どれも浅いものだが負っていた。

「はいはいはいはい……アンタたち、ポケモントレーナーもいいけど、もう少しお嬢さんなこと自覚しなさい?」

 傷の具合を見て、慌ただしくも手際よく消毒薬や傷薬を用意してふたりに処置をしながら気だるげに諭すミモザに、レモンは申し訳なさそうにはにかんだ。

「バトルしてるときだと熱中して意外に気づかないんですよねぇ……」

「ダメだよレモン! バトル中でも回りの状況を冷静に見てなきゃ! 安全確認は大事! これはバトル自体にも活きてくることだよ!」

「ちょいちょ~い、生徒会長さんもおんなじような状態だからね?」

 横に並んでいっしょに治療を受けながらレモンに注意するネモを見て、少しの困惑が混じった呆れ顔でミモザ先生が尋ねた。

「わかっていても引かずにその場に留まることが重要なときもあってですね……!」

「ふぅん……まあポケモンバトルが一筋縄じゃうまくいくもんじゃないことはあたしも知ってるけどさ~、授業でそんなガチンコやっちゃってんの?」

 責めるでもなくミモザ先生がキハダ先生の瞳を見ると、現場に居合わせたバトル学教師は目を閉じ腕を組んで唸った。

「う~~~ん……彼女らの一進一退のせめぎ合いに水を差すのは、それもまたバトルを教える教師としてはいかがなものだろうかと思い……」

「止めずにしっかり近くで見守って自分もケガした、と」

「面目ない……しかし! ほんといいバトルだったんだ! みんなのお手本ということでふたりにバトルをしてもらったが、あれはお手本とするには正直高度すぎるくらいだった! 『ひのこ』を『はねる』で避けてしまうアマカジに、その避けられて地面でくすぶる『ひのこ』を罠のように用い行動範囲を狭めて次の攻撃をしっかり当てていくホゲータ……」

「はい力抜いて~」

 先ほど自分の見た光景を拳を握って熱く語るキハダ先生の腕に慣れた手つきで絆創膏を貼ったミモザ先生も、彼女たちが危険と隣り合わせで戦ったことを注意こそすれ責めることはなかった。

「先生の話聞いてたらスゴかったのは伝わってきたわ~。まっ、片やチャンピオン生徒会長、片や入学早々スター団倒した噂の転入生だもんねぇ」

「しかもポケモンバトルはパルデアに来てからだというのだから驚きだ……しかしレモンはまだ手持ちが少ない! そこが不安なところだな。バトルもいいが、新しい仲間との出会いも大切だぞ! タイプに幅を持たせることがバトルの基本的な……」

「キハダ先生、医務室(ここ)で補習は止めてくれますか~? ……もうすぐ宝探しだし、新しいポケモンを見つけるのもいいんじゃない」

「うーん、やっぱりそこかぁ……」

 顎に手を当てて悩ましげに考える。レモンにとってもそれは自分の中の課題のようなものとして日頃から頭の片隅にあったことだった。

「レモンの今の手持ちは、クワッスが『みず』、コンパンが『むし』と『どく』、アマカジが『くさ』……わかってると思うけど幅を広げるならこのタイプ以外の子を捕まえたいとこだね。レモン、ポケモンのタイプ全部言えるようになった?」

「えーと……全部で18タイプなのはわかってるんだよ。『ほのお』、『でんき』、『はがね』……」

 ミモザ先生からの処置が終わって、すっかりネモとレモンはポケモン談義に夢中になっていく。

「こらこら、アンタらまだ授業あるんじゃないの? お話は放課後にしなさいよ」

「わたしも次の用意をしなければ……ミモザ先生、ありがとう! では!」

「ミモザ先生、ありがとね!」

「はいはい。熱中するのはいいけど、ケガしないようにねー」

 颯爽と医務室から出ていくキハダ先生を見送ってから、ネモとレモンも各々次に取った授業のための準備をするためにふたり揃って教室へ戻っていく。

「まったく、お転婆3人衆ね……。あたしももうちょい熱くなってみようかな~……」

 用具を片付けながら、閉じられた扉にどこか羨ましそうな視線と笑みをほのかに向けてミモザはつぶやいた。

 

   *

 

 本日分のすべての授業を終え、SHRも終えて放課後になるとレモンは寮に戻り大きな買い物袋を手に持ちすぐまた部屋を出て街へ買い出しに出かけた。

 恒例の長い長い地獄の階段を降りていると、少し前のほうに自分同様階段を降りていく見知った姿を見つけて、階段を降りきってからレモンは声をかけた。

「ペパー!」

「ん……おお」

 名前を呼ばれたペパーは立ち止まり後ろを振り返ってレモンの顔を見つけると軽く手を上げた。

「ペパーも買い出し?」

「いいや、今日はこのまま秘伝スパイスとヌシポケモンの調査だ。どうもスパイスのひとつはテーブルシティからそう遠くないところにあるかもしれねえんだ」

「へぇ~……それってアタシもついてったほうがいいの?」

「いや、そんなことないさ。オマエにやってほしいのはヌシポケモンを倒すことだからな。調査に関してはオレに任せてくれ……ついていきたいってならかまわないけどな。でも今は買い出しに来たんだろ?」

 そう言ってペパーはレモンの持っている空の買い物袋を指差す。ピッピとプリンがプリントされた淡いピンク色の、ママからのお下がりの買い物袋だった。

「うん。またお料理教室頼もうと思ってたけど……じゃあ今日はダメなんだね」

「う~ん……いや、待て……外で作るか?」

「どういうこと?」

「ピクニックさ。それなら調査と料理、どっちもその場でできる。調理器具はある程度持ち歩いてるから心配ないぜ」

 そう言ってペパーは背負っている大きなリュックにチラリと視線を送る。

「そういうのもよさそうだね! じゃあ、いいかな?」

「おう。ちょっとばかし調査も手伝ってもらうぜ」

「オーケーオーケー、じゃあ買い物済まそうレッツゴー」

 秘伝スパイスの調査の傍ら、野外で料理を教わることになったレモンはペパーと連れ立って食材の調達に向かった。

 

   *

 

 スーパーマーケットにてペパーに指定された食材を探し精算を終えて店外に出ると見覚えのある大きな背中がレモンの目に映った。

「サワロ先生だ」

「ああホントだ」

 ペパーが相槌を打ったタイミングで声が聞こえたのか先生がこちらを振り向きレモンと目が合った。ふたりに気づいた家庭科教師、サワロ先生は近づき、丁寧に挨拶をした。

「やあ。レモンさんにペパー青年も夕食の買い物かね」

 ガッシリとした逞しい両腕にそれぞれ買い物袋をぶら下げながら落ち着きのある低い声でサワロ先生が言った。

「ちょっと今からピクニックに行ってくるので、その準備です!」

「ほう、野生のポケモンに気をつけて楽しんできたまえ。門限はきちんと守るように」

「はーい!」

 元気よく返事するレモンに先生は優しく微笑んだ。

「むむっ、レモンさん……良いものをお持ちだな」

 先生はレモンの提げた買い物袋のピッピとプリンのデザインに目をやり微笑む。筋骨隆々の引き締まった肉体に太い眉や鋭い目つきなど強面(こわもて)で厳格な印象を与えがちな彼だが、腰に巻いたエプロンにこちらもプリンのアップリケがあしらわれているなど、可愛いものに目がない穏やかな人物であり、そのダンディーな見た目とのギャップが生徒からは人気だったりする。

「さすがサワロ先生、わかってますね! これ、ママのお下がりなんです」

「ほう、ママさんの……とてもキレイに使われているようで、レモンさん親子の絆を感じるよ」

「ありがとうございます!」

「……あー、じゃあそろそろ行こうぜ。じゃあなサワロ先生」

 ふたりの会話の落としどころを見計らってペパーが移動を促す。

「ああ、さようなら。ワガハイの授業を熱心に受けてくれるのは嬉しいが、ペパー青年は他の教科の授業もきちんと受けるように」

「……うーす」

 去り際にサワロ先生にそう言われて、ペパーは苦い返事をした。

 

「授業受けてないの?」

 テーブルシティの東門へ向かいながら先の先生とペパーの会話についてレモンは触れた。

「このとおり秘伝スパイス探しで忙しいからな。宝探しが始まるまでに具体的な手がかりを掴んでおきてーんだ」

 口を大きく開いてあっけらかんと言い放ったペパーにレモンは素朴な疑問を口にした。

「ネモがあんまり学校来てないって言ってたけど……留年とか大丈夫なの?」

「……ぬ」

 気まずそうにペパーが一瞬うめくとレモンはそれで彼の状況を察した。

「ちょっとちょっと、授業受けなきゃダメじゃんペパー先輩。ダブったらペパー同級生になっちゃうよ」

「こんなときだけ先輩呼びちゃんか? タメで話してるくせに……」

「でもホントに授業は受けなよ……そんなに秘伝スパイスが大事なの?」

「当たり前よ! そりゃ勉強も大切だけどな……オレはこいつにすべてを賭けてんだ。なにがなんでもスパイス見つけて、プレッシャーかけちまうかもだが、ヌシポケモンがいるってんなら倒して手に入れる! そのためのオマエだぜ!」

 強い口調でそう言ってペパーはレモンに親指を立てた。

「そうか……つまりペパーが留年を回避できるかどうかもアタシ次第……!?」

「いや、そうは言ってないぞ?」

「でもスパイス手に入ったら授業受ける時間作れるもんね? つまり早く見つけるほど留年の心配もなくなるってことじゃん!」

「まあ間違ってはないし、早く手に入れられるならそれに越したことはねえけど……」

「とにかくまずは調査だよね、案内よろしく!」

「なんかオマエの方がリーダーちゃんになってないか……? 待て待て! ほら、買い物袋オレのリュックに入れとけ!」

 意気揚々と歩幅を大きくするレモンに期待と少しの困惑を交えてペパーはせかせかと彼女の隣に並び、持ち物を預り行き先へと導いていく。

 

   *

 

 そうしてふたりは東門を出て道なりに歩き野生ポケモンを避けつ倒しつして途中ポケモンセンターへ立ち寄り、南3番エリア中心部の入口へと着いた。

「よーし、ここらへんがスパイスがあるらしいエリアだ。ここからは別々に行動して、なんか怪しいものを見つけたら連絡を取り合う、そんな感じでいきたいと思う! どうだ?」

「怪しいものって……どういうもの?」

 レモンは辺りを見回しながらペパーに尋ねた。南3番エリアは谷と崖で起伏の激しい一帯で、多数の野生ポケモンの姿もそこかしこに見える。怪しいものと言われてもパルデアをあまり知らないレモンにとっては、なにが怪しいかの判断もつかない。

「んー、それがわかれば苦労はしないんだよな……。まあさっきも言ったとおり調査はオレの仕事だから、レモンは直感でヘンだと思ったものを見つけたらオレに教えてくれればいいぜ。見てのとおり崖だらけ谷だらけの場所だから気をつけてな!」

「とりあえずわかったー。アタシあの辺りで探してればいいかな? 迷わなそうだし」

 そう言ってレモンは南3番エリアの物見塔を指さした。

「おお。道案内の看板もいっぱいあるから迷いはしないと思うけどそうしてくれ。じゃあ、しばらく探したら一度あそこに集合してメシにするか」

「ラジャー!」

「じゃあ……調査開始だ!」

 ペパーの合図でふたりはそれぞれ分かれて、レモンは物見塔周辺、ペパーは海側へと秘伝スパイス捜索に向かっていった。辺りはすでに夕景となりつつあり、岩壁群の濃い黄土色と西へと傾いていく陽の光で一帯はオレンジ色に染められていた。

 

 

 

(つづく)




レモンの見た目については2話の後書きに載ってます(把握してほしいという書き手のささやかなエゴ)。
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