ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!!   作:ストレンジ.

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#15『Sweet Tooth Act Two』

 

 洞穴(ほらあな)を出ると夜は先ほどよりも深まり、薄空に瞬く星たちはいっそう光を増し、レモンの焦りを駆り立てた。

「ミライドン、出て来て」

 レモンはペパーのアドバイスに従い、ライドポケモンとして助力を請おうとミライドンをボールから呼び出した。

「アギャッス!」

「アカデミーまで乗せてもらっても……いい?」

「アギャ……アアァー!」

 ミライドンがひと鳴きすると、首と下腹部に浮き輪のようなドーナツ形の大きな膨らみができた。

「わーおっ! それ、タイヤってこと?」

「ギャス」

 そのとおり、とばかりにミライドンが鳴いてレモンに背中に乗るよう促した。背に股がり、両肩からそれぞれ伸びている突起のような部分を握るとミライドンが走り出し、風を切り景色が流れていく。

「おぉーっ……すごいぞミライドン」

 ライドポケモンに初めて乗ったレモンは少しびくびくしながらミライドンの肩の突起をぎゅっと握りハンドルのように扱い、たどたどしい運転でアカデミーへと急いだ。

 

   *

 

 東門が見える頃には扱いが難しくないこともあってレモンはあっという間にミライドンの操縦と走行に慣れ、全身に当たる温かな夜風に心地よさを感じながら門限にしっかり間に合っているのを確認して胸を撫で下ろした。

 門前でミライドンから降り、ボールに戻すとそこからは徒歩でレモンは寮の自分の部屋へ向かった。ヌシポケモンとのバトルで体力を消耗した後のアカデミー前の地獄の階段に四苦八苦しながらも、門限の40分ほど前にはアカデミーのエントランスに足を踏み入れることができた。

 部屋へ戻って大きく息を吸って吐いて気持ちを落ち着かせると、レモンはペパーにスマホロトムで連絡を入れた。

「ペパー、部屋に戻ってきたよ。そっちはどんな感じ?」

『問題ないぜ。あと20分もありゃこっちも着く!』

「じゃあギリギリセーフな感じかな? なにはともあれお疲れさま」

『ああ、そういやオマエ、オレのリュックに買い物袋入れたままだったろ。明日、ひとつ目のスパイスゲットの祝賀パーティーやるぞ! そんとき返すから、いいな?』

「おー! いいよいいよ!」

『んじゃ、明日の昼前に物見塔集合な! 寝坊しないでくれよ』

「イエッサー!」

 

   *

 

 翌日昼、約束どおりレモンはミライドンに乗って物見塔へ向かい、昨日と同じようにピクニックの準備を整えたペパーと合流した。

「おう、昨日はご苦労さん! 忘れないうちに買い物袋返しとくぜ。んで……さっそく、お待ちかねの、これだ!」

 ペパーはそう言ってレモンに彼女の買い物袋を返してからテーブルの上のバスケットを少し自慢げに開けて中のものを見せた。そこには、見た目よりも匂いに惹きつけられるほど、得も言えぬ(かぐわ)しい香りの漂う大きなサンドウィッチがふたつ、並んで入っていた。

「あまスパイスを使った特製サンドウィッチだ! スパイスはこれで使い切っちまったから、味わって食べてくれ!」

「ん~~……っ、このアマカジにも負けないくらいスイートな香り、お腹が減ってくるねぇ……」

「ギャア! アギャギャ!」

「おわっと!」

 スパイスの香りに惹きつけられたのか、はたまた『サンドウィッチ』の言葉に反応したのか、ボールにしまったばかりのミライドンがひとりでに出てきて、レモンの手のサンドウィッチを見てたまらなさそうに鳴いた。

「出やがったな! ソイツはやれねえ、もうオレとレモンの分だけだ! ……遺憾ながらポケモンフーズを用意してやる。食うならこっちだ、ほら」

 ぶっきらぼうな風にペパーがリュックからミライドンの分の食事を取り出し用意するものの、昨日と同様ミライドンはポケモンフーズには見向きもせず、サンドウィッチに視線を注ぎ続ける。

「もうサンドにしか目がないみたい……半分こ、しよっか」

「おい、甘すぎるぜレモン! 止めはしねーけど、それで全部だかんな!」

「うん、大丈夫だよ、平気!」

 そう言ってレモンは自分のサンドウィッチを半分に分けて片方をミライドンに差し出す。それを見てペパーは眉を曲げてばつの悪そうな顔をした。

「はあ、これじゃオレが悪者ちゃんみたいじゃんか……待てよレモン、それ、もう半分にしな。で、オレのやつをちょっと分けて……これで公平だろ。レモンに感謝しやがれ!」

 ミライドンに渡そうとした半分のレモンのサンドウィッチをさらに半分に分け、ペパーは自身の分からも1/3ほどに分けて、それをミライドンにいかにも仕方なさそうに差し出した。多少の差はあれど全員のサンドウィッチの量をある程度揃えて後腐れがないようにペパーが計らうと、ミライドンはさっそくサンドウィッチにかぶりついた。

「いい食べっぷり。じゃあアタシも……いただきま~す」

 がっつくミライドンを眺めつつレモンも自分のサンドウィッチを口へと運び、じっくり噛んでよく味わった。甘い。甘いは甘いが、その甘さはくどくなく、スパイスばかりが印象に残るようなこともなく、パンや具材の肉、野菜類(『あまスパイス』と聞いてフルーツサンドを想像していたレモンはペパーの具材のチョイスにも驚いた)と調和していながら、同時に際立った甘みも確かにあり、他と調和しつつも強く、かつ悪目立ちしないあまスパイスの優雅な味わいをペパー、ミライドンともどもうっとりと堪能した。

「ギャア!」

「満足したかな?」

「アギャ……ギャーア!」

「ったく、いつも以上にうるせーな。どんだけねだっても、もうないからな」

「アギャギャ!」

 スパイス入りのサンドウィッチがよほど美味しかったのか、ミライドンはさかんに鳴いて喜びを表しているようだった。

「さて、今度はポケモンたちだな、出てこい。レモンも、出しな」

「はーい」

 ペパーに言われるままボールを投げてポケモンたちを外に出し、ピクニックは賑やかさを増す。

「今日のメシはオレにぜんぶ任せな! いろんなポケモンフーズ、ブレンドしたりしてアレンジしてみたんだ! 全員に刺さるかはわかんねーけど、自信作だぜ」

 言いながらポケモン用の小皿に食事を盛りつけ差し出し、食べ始めるポケモンたちを見守っていると、食べる仕草から好評なことが見てとれてペパーは安堵の微笑を浮かべた。

「おー、大丈夫だな。ちょっとばかりドキドキちゃんだったぜ。まだ人間のメシの方が簡単だな」

「ポケモンのごはんも手作りか~、それもいいかも」

「アレンジだから手作りってほどのもんではないぞ」

「でもみんな喜んでる! ホシガリスはさすがの食べっぷりだね」

「頬袋になにも入ってないとがっつくからな。蓄えといた木の実と組み合わせて自前で味変したりするっぽいし。グルメなやつだよコイツは」

 どんどん膨らんでいくホシガリスの頬袋を眺めながらふたりはポケモンたちが食事を終えるのをのんびりと待った。

 

「他のスパイスについては、なにかわかってるの?」

「いーや、まだだ……。でもスパイスが実在するのはハッキリしたし、思ったより早く見つけられた。根気強く探せば残りだって見つけられるはずだ……! 効果もあるようだし、燃えてきたぜ!」

 スパイス探しへの意気を新たにするペパー。そんな彼には目もくれず、食事に満足したアマカジがぴょこぴょこと跳ねながらレモンのもとへ戻ってくる。目の前まで来たところで、ひときわ大きくジャンプしてレモンの胸へ飛び込み、腕のなかでひとごこち着く。

「おいしかった?」

「ぴゅうっ!」

「あはは、おいしかったってさ」

「そいつはなによりだ。ヌシを撃破したポケモンに喜んでもらえたならよかったぜ!」

 レモンの腕のなかで小さく左右に全身をゆらゆら動かす笑顔のアマカジに向けてペパーは親指を立てた。

「こうして見てると、この甘えんぼちゃんがあのデッッッッかいガケガニを倒したってのが驚きだぜ」

「捕まえたばかりのときは攻撃技いっこも覚えてなかったからねぇ……。でも、それはシェルダーもでしょ。あんなちっちゃくても、ガケガニと相撃ちになってアマカジが攻撃する隙をつくってくれたんだから!」

 レモンがそう言ってペパーとともにシェルダーを見ると、ちょうど目が合い、それが合図のようにシェルダーは舌を一本足のようにして地面に身体を立てると、バネブーのようにぴょんぴょん跳ねながらふたりに近づいていった。

「それ、ひょっとしてアマカジのまね?」

「ぴゅうっ! ぴゅうぴゅうっ!」

「シェー!」

 動きに触発されてレモンの腕から飛び出したアマカジも、シェルダーの隣に並んでいっしょに跳ね始めた。

「同じヌシと戦ったよしみ……ってか。すっかり仲良しちゃんみたいだな!」

「勝利で築いた友情のジャンプ! 美しいねぇ~……」

「ぴゅ~!」

「シェー♪」

 

 楽しげに跳ねる2匹を笑顔で見守るレモンとペパーだったが、ふたりの目の前を突然光が覆った。

「まぶしっ……なに、なに!?」

「おい、レモン! 見ろっ!」

 ペパーの声に少しずつ目を開くと、シェルダーの隣のアマカジが光に包まれているのが見えた。

 驚きから舌で跳ねるのをやめ一歩距離をおいて光を凝視するシェルダーの横で、アマカジの形をした光のシルエットは、徐々にその形を変化させていった。突然の出来事にクワッスたちもレモンとペパーに近寄っていき、その光景を見つめていた。

「これはっ……!?」

「ああっ!」

 なにかを確信しそれについて問いかける風のレモンに肯定するようにペパーが短い返事をした。数秒後、光が治まるとそこにいたものは、明らかにアマカジではない姿をしていた。

 

「まま~!」

 

 そのポケモンはアマカジよりも人間に近い音で鳴いてレモンを見た。

「アママイコに……なった」

 ペパーがそっとつぶやき、それを聞いたレモンも恐る恐るといった調子で声をあげた。

「進化……したーっ!!」

 レモンのアマカジはアママイコへと進化を果たしたのだった。姿はアマカジから大きく変化しており、手が生え、身体つきも胴と頭が一体化していたアマカジとは異なり各部位がはっきりと分かれ、頭部のヘタはツインテールのような髪型に近い形でサイズアップした。顔も以前とは違い、大きなピンクの瞳とその上にはまつ毛のような薄皮がついていて、果物に足がついたようなアマカジと比べてアママイコは人間のような顔と身体つきになっていた。

「うわぁ……わぁ~~~っ!!」

 満面の笑みのままレモンの喜びは言葉以前の声としてアママイコに向けられた。アママイコはそんなレモンに駆け寄って抱きつく。

「まま~♪」

「ママではないよ~、レモンだよ~!」

「まま~ん♪」

「う~ん、よしよし……」

「……見てる方がなんか気恥ずかしいぜ」

 アママイコをしっかりと抱きしめ返すレモンを目の端で捉えながら居心地悪そうに困り顔で微笑んでいるペパーの足下では、シェルダーが物言いたげにペパーを見上げていた。

「なんかわかるぜ、言いたいこと。オマエも……進化したいのか?」

「シェッ!」

「……あとでみずのいし、買うかー」

「シェアッ!」

 レモンと抱き合ったままのアママイコを見ながらペパーはそっとつぶやいた。

 

   *

 

 正午を過ぎてしばらくしてピクニックを解散しペパーと別れたレモンは、さっそくとばかりにその場に残って周囲の野生ポケモンを相手にアママイコを中心に手持ちたちのトレーニングに勤しむ。進化して大きく、そして硬くなった頭部のヘタから繰り出される『こうそくスピン』は威力を増し、足も伸びたことでより素早い身のこなしが可能となり、敵を翻弄し一撃を叩き込む動きに磨きがかかる。進化によって広がるポケモンの可能性と、あの小さなアマカジの姿に戻ることはないことへの一抹の寂しさがレモンの胸を高鳴らせ、やがて始まるとされる宝探しの旅への期待と興奮が気持ちをはやらせる。やりたいことは始まる前からたくさんある。ポケモンを育て信頼を深め、スパイスを探し、スター団を倒し、ジムを制覇する。大忙しだ。

 やがて指示を出す側も疲れ、ポケモンセンターに寄ってからテーブルシティへとミライドンに乗って帰るレモン。南3番エリアの野生ポケモンの間ではそれからしばらくアママイコが恐れられ、付近でアマカジを見かけてその甘い香りに誘われてもアママイコの介入を恐れ、襲おうとする野生のポケモンが減ったことでアマカジたちの生育環境の安全に一役買ったことをレモンもアママイコも知らない。

 当の彼女たちは今日もアカデミーの寮の部屋で目を覚まし、笑い、学び、強くなる。たくさんの友と師とポケモンに囲まれ、レモンがすっかりアカデミーでの生活に馴れ親しんだ頃、いよいよ学校内では宝探しの話題が生徒間で持ちきりになり、先生たちも課外授業についての注意事項を口にすることが増え、そのときが近づいてきていた。

 

 

 

(つづく)

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