ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!!   作:ストレンジ.

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#16『East West』

 

 夕刻、いつものように数日おきに足繁く通っては自慢のコーンロウを丁寧に整えてもらったヘアサロンからの帰り道、業務を終えて帰途へ向かう最中であろう知った顔を見つけてレモンは声をかけた。

「タイムせんせー!」

「あら、レモンさん。お買い物?」

「いいえ、ヘアサロンで髪を整えてもらってきた帰りです。いよいよ明日から宝探しだから、気合い入れなくちゃってことで!」

「あらあら、そうなの。宝探しはやっぱりジム巡りをするのかしら?」

「やりたいことはいろいろあるけど、もちろんそれも入ってます!」

「ふふふふ……それじゃあフリッジタウンはレモンさんにとってお楽しみね!」

 ほんのりと含みを持たせた口ぶりでタイム先生はにこやかに笑った。フリッジタウンではレモンが愛してやまないラッパー、ライムがジムリーダーを務めているのだ。

「えへへへへへ……そりゃもちろん! トレーナーになった今では、“推し”であり“越えるべき壁”でもありますからね。挑むからには勝ちにいきます! ……まずはポケモンもっと育てなきゃですけど」

「そうねぇ、身内びいきじゃないけど、けっこう強いと思うわよ。まっ、そうでなきゃわたしの後釜は務まらないですもの!」

 大きく口を開いて眩しいほどの笑顔でほがらかに語るタイム先生。ライムは彼女の妹で、フリッジタウンの以前のジムリーダーは先生だった。ラッパーと教師、大きく異なる道を往くふたりだがポケモンバトルではどちらも多大なる力と経験の積み重ねがあった。

「フリッジタウンのあるナッペ山の方へ行くときは防寒具の用意をしっかりね。自分の足で行くにせよライドポケモンに頼るにせよ、無理は禁物よ!」

「ラジャーです!」

「危険なときはポケモンに頼ること、そのためにレモンさんもポケモンに尽くすこと。以上を守って素晴らしい課外授業にしてね」

「はーい」

 明日からの活動のためのアドバイスを胸に、先生と別れレモンは寮へと戻っていき、その日は早めに眠ることにした。

 

   *

 

 夜が明け、アカデミーの生徒たちにとって待ちに待った、特別な朝の訪れを告げる放送が校内に鳴った。

 

『生徒の皆さん、本日から課外授業が始まります。説明をいたしますのでグラウンドに集合してください』

 

 レモンが入学して1ヶ月弱、ついに課外授業……冒険の始まる日がやって来た。新しい春用制服に身を包み、腰にはいっしょに旅するパートナーたちが入ったボールを携え、見た目以上にたくさんのものが入るカバンにはポケモンのための各種道具類にピクニック用品、他の季節用の制服等の着替えなどをこれでもかと詰め込んで背負い、深呼吸して部屋を出ようとしたとき、まさにその出るための扉が唐突に開き、駆け込むようにネモが入ってきた。

「つ い に 来 た ー!」

 拳を握りレモンの目を見ながら大声で言うネモの言葉が指しているのは先程の放送の内容であることは明らかだった。

「おはよー。出迎えしなくても昨夜は早く寝たから大丈夫だよー」

「いやぁ、なんかいても立ってもいられなくてさっ! とりあえず来てみた! じゃ、行こっ!」

 半ば強引に連れていこうとするような勢いのネモのあとについていきレモンはグラウンドへ向かう。

 

 グラウンドにはたくさんの生徒たちが早くも朝礼台の横で待機する教師陣たちの向かいに並んで皆が揃って説明が始まるのを待っていた。ネモとレモンも説明を待つ集団に混ざり、全生徒が揃うのをおとなしく待ち、やがてすべての生徒が集まったらしく校長が朝礼台へと上り、設置されたスタンドに付いたマイクのスイッチを入れると、短いノイズが辺りに響く。

「『それでは、これから課外授業の説明を行います……課題のテーマは『宝探し』!』」

 これまでにペパーやカシオペアから耳にしていた『宝探し』のワードが校長の口からマイク越しに聞こえてきたことに、レモンは胸が高鳴る。

 

「『皆さんには、このパルデア中を旅して自分だけの“宝物”を探していただきます。“宝物”に決められた形はありません……パルデアの各ジムリーダーたちに挑みジムバッジを集める、まだ見ぬポケモンたちを捕まえて図鑑の完成を目指す、名所旧跡を巡る、ポケモンたちを観察し、習性を探る……他にも様々な目標、目的があることでしょう。そしてそれらを達成することが必ずしも“宝物”だとは限りません。旅の途中で出会ったパルデアの自然、人々、ポケモン……。明確な目標がある方たちも、どうか“過程”を軽んじることなく先々を歩んでいくことを心に留めておいていただきたい。そうして出会ったものたちと、ともに歩き、考え、感じ……自分だけの宝物を見つけて帰ってきてください!』」

 

 熱の入っていく校長の声を聞いて、レモンやネモに限らずまわりの生徒たちにもその高揚が伝わっていき、目を輝かせたりそわそわしたり身に力が入る生徒が散見された。

「『課外授業を通して大きく成長したあなたたちに、ふたたびご挨拶できることを楽しみにしております……よ……』」

 話の途中で、校長はなにかが引っかかったような間を置いて、すぐに続けた。

「『まるで課外授業が終わるまで長いお別れのような物言いになってしまいましたが、アカデミーにはもちろんいつでも戻ってきて大丈夫ですからね! 各授業も引き続き大いに受けて学びを得てください。課外授業中もアカデミーを活動の場の中心にする方もいるでしょう。重ね重ねになりますが、“宝物”に決まった形はないのですから』」

 少し慌てた調子で続きを話す校長だったがすぐに落ち着きを取り戻し、普段の柔和な声色で生徒たちに語る。

「『それから、パルデアの豊かな自然は時に牙を剥く過酷な面があることもくれぐれも忘れないように。そらとぶタクシーや仲間のポケモンたち……それらでも手に負えないことはすぐにレスキュー隊を呼ぶこと! それとパルデアの大穴への立ち入りは危険なので禁止ですからね!』」

 語気を強め、注意すべきことへも言及する校長の言葉をレモンはしっかり聞きつつも、脳内を次々よぎっていく漠然とした旅路のイメージに好奇心の炎は燃え上がるばかりだった。

 

「『……それでは、宝探し開始! 気をつけて、いってらっしゃい!』」

 

 すべての説明を終えて満を持した様子でクラベル校長が締めの挨拶をすると、生徒たちの間から歓喜の声が上がる。それぞれの目標を胸に、それぞれの冒険を始めるときがついに訪れた。レモンはネモと並んで早足で他の生徒同様グラウンドの出口を目指した。

 

   *

 

 地獄の階段を足早に降りたところで、我先にと横を通り過ぎテーブルシティ外へと旅立っていく生徒たちを横目に立ち止まり、レモンはネモと向かい合っていた。

「ついに始まったね」

「ネモはやっぱりジムに行くの?」

「そうだね、って言ってもポケモンだって強く育てなきゃだから、いろんなトレーナーとバトルして経験を積むのも大切だよね! レモンとも冒険中に再会することがあったらバトル、しようね!」

「もち! アタシもジム巡りはするつもりだから、会える機会はあるだろうね」

「そうこなくちゃ! そうだ、マップアプリにジムの場所、登録しとくね」

 示し合わせたようにそれぞれの懐から出てきたスマホロトムが向かい合い、データのやりとりがなされる。

「どういった順番でジムに行くかはその人の自由だけど、基本的にテーブルシティから遠いところほどジムの難易度は高く、野生のポケモンも強くなっていくから注意してね」

「なるほどー……ということは、やっぱりライムさんは強いんだね」

 登録されたパルデア中のジムの情報にざっと目を通してレモンは嬉しそうに言った。

「レモンのことだからわかってるとは思うけど、ライムさんのフリッジジムは初心者トレーナーが最初に行くジムではないよ。行くって言うなら止めはしないけど……ジム巡りのセオリーとしては、やっぱり最初はセルクルタウンかボウルタウンだね」

「うんうん、まともに挑戦できる状態になる前から行くのはライムさんにもポケモンたちにも失礼だからね。準備はぬかりなく……ネモのアドバイスどおりセオリーでパルデアをローリン! 旅していこうかな」

「それがいいよ。わたしも手持ち一新で無茶はさせられないから近くから巡っていくつもり! でも前回とは少しだけ順番を変えてみよっかな?」

「そっか、ネモはジム制覇経験者だもんね。やっぱりそれって課外授業でやったの?」

「うん、前回のでね。チャンピオンになって、それからなんだかんだで生徒会長までやらせてもらえることになって……怒濤の日々だったなー」

 嬉々とした面持ちでふたりを追い越していく生徒たちの後ろ姿を見ながらネモは腕組みをした。

「ジム制覇するトレーナー、今回は何人出るかな……」

「前回はどうだったの?」

「きっちり把握してるわけじゃないけど、10人もいなかったと思うよ」

 

「なそ

 にん」

 

 レモンは真顔を通り越して仏頂面になってネモを見つめながら声を震わせた。

「少ないの!?」

「バッジを全部集めるって、かなり大変なんだよ。ジムごとに専門タイプがあるからって弱点さえつけば余裕なんてことはないし。そこだけでも大変なのに、チャンピオンランクなんてそこからさらに四天王……そしてポケモンリーグのトップ……オモダカさんっていう人なんだけど、その人に勝ってやっとなれるっていう、もう途方もない道のりなんだよ。だからこそ、やりがいもあるけどね!」

「はぇ~……そんな難関に、一からポケモン育て直してまた挑戦するなんてさ……」

 レモンの頭の中でネモのイメージが膨らみ拡張されていくような感覚があった。

「あれ、もしかして……ネモって、アタシのイメージよりもずっと、相当スゴいトレーナーなのでは……?」

「いやぁ~……本人に向かって言われても返答に困っちゃうけどさ……。でも難関中の難関なのは事実だし、うん……わたし、スゴいトレーナーなんです!」

 こそばゆそうな顔をしながらも自信満々にネモはレモンにそう言い放った。

「自分で言うのもなんだけど、前回の宝探しで唯一のチャンピオンランク達成者なのです!」

「ああ、そうだな」

「え、ぉ……ビックリしたー」

 横から入ってきた声に振り返ると他生徒同様、階段を降りてきたペパーがいた。

「おう、レモン。ジム巡りもかまわねえが、スパイスちょろまかすのも忘れんなよ。場所がわかったら連絡入れるから、ヨロシクちゃんだぜ!」

「ラジャー!」

 それだけ交わしてレモンが右手で敬礼するとペパーはふたりを追い越し、彼は彼の冒険へと向かった。

「なんかずいぶんと仲良くなったみたいだね!?」

「ちょっとお互いに手伝いをする流れになってね。ジムを巡りつついろいろやってこうって感じ」

「へー……それって、ペパーもレモンを実らせようとしてる……?」

「まあポケモンバトルの手伝いだからそうとも言える……のかな?」

「あー! アマカジがアママイコに進化したのってペパーの手伝いでなったってこと!?」

「えぇ、そうだよ? よくわかったね……」

 ネモの謎の的確な指摘に若干うろたえてレモンが答えた。

「わたしがレモンをいちばんうまく実らせられるのに……! レモン、困ったことや必要なものがあったらいつでも言ってね!」

 ペパーと張り合うように助力を申し出るネモの勢いに、当のレモンはたじたじだったが、あることを思い出してさっそくネモに尋ねた。

「そういえば、かくとうタイプのわざマシン、持ってる?」

「はいはい! かくとう技ね……」

 頼られたことが嬉しいようで、ネモはすぐさま自分のバッグを漁ってレモンの所望するわざマシンを見繕っていく。

「誰に覚えさせるつもりなの?」

「アママイコなんだけど、テラスタルのタイプがかくとうなんだ。けどアマカジの頃からかくとう技なんて覚えないから、ここはマシンの出番なのかな~って。覚えられるのってあるかな?」

「へぇ~っ、アママイコは……『ローキック』くらいしか覚えなかった気がするけど……あ、あったあった」

 レモンはアママイコを出すとネモから受け取ったわざマシンを使用して『ローキック』を覚えさせる。

「よし、これでアママイコもいつでもテラスタルデビューできるね!」

「まっ!」

「ふふっ……育て続けたらもっと強いかくとう技、覚えるかもね?」

「ままま~?」

 自分を見つめながら言うネモの顔を、首を軽く傾げながら不思議そうにアママイコは見返した。その内まわりの楽しげにテーブルシティを出ていこうと走っていく学生たちにつられるようにアママイコもツインテール様の長いヘタをぶんぶんと回しながらスキップのような動きで走り出した。

「あっ、待って!」

「アママイコはおてんばだから、しっかり見てないと!」

 アママイコを追いかけるレモンの背中に一言アドバイスしつつネモもついていく。

 

   *

 

 テーブルシティ中央の大きなバトルコートでアママイコに追いつくと、アママイコは嬉しそうにふたりのまわりをぐるぐる回って移動を催促する。

「さて、レモン。最初はどこへ行くつもりかな?」

「セルクルタウンのジムにチャレンジするよ!」

 親指を立ててネモに宣言すると、彼女は大きく微笑んでから改めてレモンを見据えた。

「わたしは東門から行けるボウルタウン! ……だからレモンとは、ここでお別れ! 道中会えたらバトル、約束だからね! これで仲間も増やしなよ!」

 そう言ってネモは様々な種類のモンスターボールをいくつかレモンにプレゼントした。

「ありがと! 次に会ったときはニューカマーのパワーをお楽しみに!」

「うん、期待してるよ! じゃっ!」

 簡潔に旅立ちの挨拶を済ませてネモは東門目指して颯爽と走っていった。その後ろ姿を少し名残惜しげに見送ってから、レモンもアママイコとともに西門への道を歩いていく。

 

 課外授業で旅立つ生徒たちのために開け放たれた西門へと着くと、レモンは他のポケモンたちもボール、そして懐から呼び出した。アママイコも含めてクワッス、コンパン、ミライドン、スマホロトムが一斉にレモンを見る。

「冒険のはじめの一歩! みんなでいくよ!」

 人の出入りが途切れたタイミングで西門入口にレモンたちは横並びになり、レモンの合図で各々が門の外の地面に一歩を踏み出し、スマホロトムは宙を一歩分前へ動いた。

 

「レッツゴー・パルデア!」

「ロトー!」

「プルッ!」

「フリャ!」

「まま~♪」

「ギャス!」

 

 かけ声と鳴き声が入り交じる、騒々しく賑やかな旅のスタートを切った。風に吹かれて上空を舞う野生のハネッコを眺めながら、最初の目的地セルクルタウンへ向けてレモンたちは歩き始めたのだった。

 

 

 

(つづく)




※この時点でのレモンの手持ちポケモン詳細

 クワッス(モンスターボール)♂

 テラスタイプ:みず
 特性:じしんかじょう
 性格:ようき/ちょっぴりみえっぱり
 わざ:『アクアジェット』『アクアカッター』『つばさでうつ』『ふるいたてる』

 コンパン(色違い/フレンドボール)♀

 テラスタイプ:むし
 特性:いろめがね
 性格:おだやか/昼寝をよくする
 わざ:『サイケこうせん』『アシッドボム』『どくのこな』『ちょうおんぱ』

 アママイコ(ゴージャスボール)♀

 テラスタイプ:かくとう
 特性:どんかん
 性格:すなお/暴れることが好き
 わざ:『こうそくスピン』『なかよくする』『マジカルリーフ』『ローキック』
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