ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!!   作:ストレンジ.

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Presure / Treasure
#17『Insect Quest』


 

 パルデア地方を巡る冒険を西への道から始めたレモンがまず最初に選んだ目標は、課外授業に取り組みだしたばかりのトレーナーにとって最もオーソドックスなルートといえる、テーブルシティからほど近い場所にあるセルクルタウンのジムリーダー、カエデに勝利することだった。

 天気は快晴。急変することもままあるパルデアの天候ゆえに旅に雨具は欠かせないものだが今のところレインコートを着る必要も心配もなく、穏やかな陽光のなかをセルクルタウン目指して歩いていくレモン一行だった。

「この辺の野生ポケモンは人慣れしてるね、ぜんぜん逃げないや。むしろ近づいてくる子までいるよ、ほら」

 レモンはクワッスにそう言いながら、こちらに近づいてくるメリープやハネッコの群れを指差した。いずれのポケモンたちも、怯える様子もなければ攻撃しようとする気配もなく、レモンたちのそばまで寄ってそこで立ち止まり、じっとクワッスやコンパンたちを見つめるばかりだ。慎重に出方を探りつつも、その弛緩した空気と愛くるしいメリープとハネッコの姿につい顔は微笑を浮かべてしまうのだった。

 そこへ今度はオレンジ色の顔からつぶらな瞳をのぞかせて空から3匹のヤヤコマが寄ってきた。ヤヤコマたちは翼を小刻みに羽ばたかせレモンたちの頭上で滞空しながら様子を窺い、やがて3匹すべてがアママイコ目がけて降下してきた。

「キョキョキョッ!」

 甘い香りに誘われるようにヤヤコマはアママイコの頭を一斉につつき始めた。

「ままま~♪」

 ぎょっと顔をこわばらせたレモンだったが、当のアママイコは楽しそうにこれに応じ、頭のヘタを振り回しヤヤコマたちとじゃれあっているようだった。

「大丈夫なの……?」

「まま?」

 心配そうに自分を見るレモンを不思議そうに見返しながらふたつの長いヘタをダイナミックに振り回し続けるアママイコに、ヤヤコマたちも思いがけない事態に出くわしたように焦りを見せながらアママイコのヘタを必死につつこうとするが、その存外乱暴な動きに翻弄され始め、そのうち1匹の横っ面にヘタが直撃した。ヘタの一撃を受けた1匹が慌てて飛び去っていくと他の2匹もそれを追ってアママイコから逃げていく。一連の小さな騒動が終わる頃にはハネッコとメリープたちも姿を消しており、まだ遊び足りなさそうなアママイコをなだめながらレモンはふたたびパートナーたちと歩き出す。

 

 道中、空から新たなヤヤコマやムックルの群れがアママイコやコンパンに近寄ってくるが、そのたびレモンは指示を出し撃退していった。しかしアママイコの香りがそうさせるのか、あまりにも野生ポケモンに目をつけられてしまうためレモンは一度連れ歩きを止め、すべてのポケモンをボールに戻した。今のところ道が険しくないこともあって自分の足でパルデアを旅したいレモンはミライドンにライドすることもせず、ひとりで引き続きセルクルタウンを目指す。

 セルクルタウンのジムリーダー、『お菓子の虫』の二つ名を持つカエデの専門はその名のとおり、むしタイプ。レモンの現在の手持ちならひこうタイプ技の『つばさでうつ』を覚えているクワッスが有利に戦える。そう思ったところでレモンに新たな仲間をゲットする考えが浮かぶが、例によって『ビビッと』くる感覚をパートナーに求めるレモンは、感覚に忠実に、来るべきときが来るまでマイペースに様々なポケモンと出会いつつも、3匹とミライドンから仲間が増えることはなく、道の左右にたくさんの若木が並ぶオリーブ畑と周辺に住むポケモンたちを眺めながらセルクルタウンにたどり着くのだった。

 

   *

 

 プラトタウンほどではないものの、セルクルタウンも小規模な街のようで、周辺の広大なオリーブ畑を除けば街の象徴的な施設といえるのは、カエデと戦うための手続きをする受付があるジムのビルと、そのカエデがパティシエールとして働くセルクルタウンタウンいちばんの名物、パティスリー『ムクロジ』くらいのものであった。

 ポケモンセンターでポケモンたちを休めてから、さっそくレモンはジムリーダー戦の手続きをとるためセルクルジムへと足を向けた。

 

 入り口の自動ドアを通りジム内に入ると真正面に受付があり、案内人と(おぼ)しき女性が立っているのが見えた。レモンは受付右手の休憩スペースでアカデミーの男子生徒とひと休みしているコロボーシに少し気をとられつつ受付の女性に話しかける。

「こんにちは! ジムリーダー戦やりたくて来たんですけど」

「グレープアカデミーの生徒さんね! 今日から課外授業開始とは聞いてたけど、さっそく続々と来たわね~!」

 気さくに受け答える受付の女性によると、隣のコロボーシのトレーナーもそうであろう、他の生徒たちもすでに何人かここを訪れているようだった。

「それでは挑戦者の名前を確認……レモンさん、ね! ジムチャレンジの流れについて、説明は必要かしら?」

「お願いします!」

 レモンの元気な返事を聞くと女性は説明を始めた。

「パルデアのジムでは、ジムリーダーと戦うためにまず『ジムテスト』を受けて合格する必要があります。ジムテストにはいくつかランクがあって、チャレンジャーの持ってるジムバッジの数に応じたランクのテストを受けてもらって、クリアできたらジムリーダーに挑む権利が得られるの。ジムリーダーはチャレンジャーがクリアしたジムテストのランクに合わせた強さのポケモンを起用するから、実力差が極端に違うなんてことはないから安心してね!」

 それを聞いたレモンは意外そうな顔で女性に尋ねた。

「えーっ! ジム戦って本気でバトルするものじゃないの!?」

「本気は本気よ。違うのはポケモンの能力だけ。トレーナー同士のポケモンバトルは相手あってのものでしょ? なるべく互角の状況にして、相手の全力を引き出すのもジムリーダーの務めってことよ!」

「あれ、でもテーブルシティから遠いジムの方が強いって聞いたような……」

「ああー、確かにそれも合ってるわね。チャレンジャーの所持バッジ数を参照するのはどこのジムでもいっしょだけど、同じバッジの数でも、セルクルタウン(この街)とずーっと北にあるナッペ山のジムとでは、ナッペ山ジムの方がジムテストの難易度もジムリーダーの強さも高くなるの。なぜかというと」

「あ、野生ポケモンも遠い場所の方が強いから?」

「正解! 野生のポケモンは基本的に相手に合わせて力を加減なんてしないものね。より強い野生ポケモンや、より険しい環境を乗り越えてジムに来たんだから、バッジがなくてもある程度の強さはあるはずだ、と。ジム周辺の環境を考慮してジムチャレンジの最低ラインも引き上げられるわけ。パルデアのほとんどの場所へは『そらとぶタクシー』で行けるけど、強いトレーナーになるなら自分自身とポケモンたちで旅するための知識や技術や度胸も必要ってこと!」

 人差し指を立てて威勢よくレモンにそう言い聞かせてから、受付の女性は改まった態度でレモンの目を見て問う。

「それでレモンさん! 現時点で持ってるジムバッジの数は、いくつかしら?」

「む~……ゼロ! ドーナツの0! 新米トレーナーなので!」

「元気なお返事けっこう! ではレモンさんに挑戦してもらうジムテストは……『いとだまポケモン、タマンチュラのいと集め』!」

 レモンの溌剌さに負けない朗らかな笑顔で女性がジムテストの内容を発表すると、さっそくレモンが質問をした。

「はい! すでに持ってる『タマンチュラのいと』はNGですか?」

「いいえ、出しても構わないけど、テストの答えを書き写しただけじゃ知識は身につかないわよね?」

「ですよねー!」

 女性の言わんとすることを理解し、かつすでに所持している『タマンチュラのいと』を最初から利用するつもりのなかったレモンは知りたいことの確認が取れたことに納得したようにうなずいた。

「セルクルタウン名物のオリーブ……の収穫祭の出し物の『オリーブころがし』で転がす巨大なオリーブを模したボールは、よく跳ねて転がるようにたくさんの『タマンチュラのいと』を使って作られるの。そのためのいと集めをレモンさんにはしていただきます。『タマンチュラのいと』を……20個! 今から2時間以内に集めて持ってきてください! ここに帰って来て成果を確認するまでで2時間だから気をつけてね」

「ラジャー! あ、今持ってる『いと』預かっといてもらえます?」

 レモンはバッグに入っている手持ちの『タマンチュラのいと』を取り出し女性に渡した。

「うん、正々堂々とした姿勢は素晴らしいわ! それじゃあ、いってらっしゃい!」

 本日二度目の「いってらっしゃい」の言葉を受け、レモンは早くもセルクルタウンから一度離れ、ここから近いタマンチュラの生息地を図鑑で調べつつ移動を始める。

 

   *

 

 セルクルタウンを南下し適当な草原になんとなくで目星をつけると、レモンはそこからタマンチュラを探すことに集中しだした。ここへ来るまでの道中ですでに3匹のタマンチュラから糸を集めていたが、腰を据えて探しだし始めてからは6つ、7つ……12、13……。姿を現したタマンチュラの身体に巻きついた糸玉にクワッスの『つばさでうつ』を当てることで抜群のダメージを与えつつ剥ぎ取った糸を回収するという効率のいい作戦も功を奏し、糸は順調に規定数の20個分が集まりつつあった。弾力のある糸玉の防御力ゆえに倒しきることのできないタマンチュラもいたが、倒すことが目的ではない以上、反撃してくる個体以外は見逃し戦闘を終えることで時間にもまだ余裕はある。

 

 一度小休止を挟もうとレモンはクワッスを伴い適当な大きさの木陰に入ろうとする。そのとき、まさにその木の茂みからからなにかが跳び上がり、こちらへ襲いかかってきた。

 一瞬の判断でクワッスの翼を引いてレモンが左へ横っ飛びに回避すると、たくさんの脚を生やした、凶暴そうに白目を剥いたむしポケモンと思わしき生物が、攻撃が不発に終わったことに腹を立てているように鳴きながらレモンとクワッスを見据えていた。

「わ~お……なんと凶悪な目つき……」

「シャッ、シャッ……!」

 風切り音のような鳴き声でこちらの様子を窺う相手に注意しながらレモンはスマホロトムを呼び出してデータをチェックした。

「トラップポケモンのワナイダー、ね。……えっ、タマンチュラが進化したポケモンなの!?」

 警戒しながら画面を確認していたレモンだったが、思いもしなかったデータを目にして注意が逸れてしまう。

「シッ!」

 その隙を突いてワナイダーは再びクワッスに跳びかかる。下半身の4本の脚を2本に束ねてクワッスの胴を蹴り飛ばし、その反動を利用してそのまま飛び退き距離をとって反撃を防ぐ。

「あのまんまる可愛いタマンチュラが進化するとこうなるのか……」

 攻撃を受けたことよりも新しく得た情報に複雑な気持ちを抱いているレモンだったが、ワナイダーの腹部を見てここにいる目的を思い出す。

「お腹に糸が巻きついてる……ってことは、こいつからも糸は集められるっ! 進化形でもむしはむし! ひこう技で返り討ち!」

 気を取り直して戦闘に入ると指示を待つクワッスにレモンはすかさず声をかける。

「クワッス、『アクアジェット』で接近だぁっ!」

「プルッ!」

 水のエネルギーをまとって弾丸のようにワナイダーにぶち当たっていったクワッスの姿を確認すると、レモンは即座に次の指示を出す。

「そのまま『つばさでうつ』!」

「クァー!」

 『アクアジェット』から流れるように『つばさでうつ』で連擊を加えようとするクワッスだが、それにひるむことなく、ワナイダーが動き出した。上半身の4本の腕から糸を出し、あやとりのように手繰り網を作ると、攻撃してくるクワッスの目の前へと突き出す。

「プルゥ!?」

 弾力のある丈夫な糸に絡めとられたクワッスの『つばさでうつ』は失敗し、まとわりつく糸によって思うように動けずわずかな隙が生じる。

「シャッ!」

 反撃の好機を逃すことなくそこへワナイダーが『カウンター』を食らわせ、クワッスは吹っ飛ばされてしまう。

「なんとテクニカルな……! クワッス?」

「プル!」

 まだいける、というように鳴いてクワッスは素早く立ち上がりワナイダーに向き直った。

 『アクアジェット』から『つばさでうつ』の連擊を阻止され、『スレッドトラップ』からの『カウンター』による手痛い連擊をワナイダーから返されたレモンだったが、戦闘への意欲を失うことはなく、テラスタルオーブを手に取り構えた。

「ワナイダー……動きは器用だけど、早さはまだまだだね! クワッス、テラスタルな『アクアジェット』で仕留めちゃって!」

 テラスタルオーブを投げながら指示を出すが早いがクワッスはあっという間に先ほどよりも激しい水エネルギーを全身からほとばしらせ、ものすごいスピードでワナイダーに飛んでいき、腹部に強烈な『アクアジェット』をお見舞いし、今度は反撃の隙を与えずにワナイダーを倒すことに成功した。

「ふぅっ! おいでクワッス、回復っす!」

「クワー!」

 駆け寄ってきたクワッスにレモンはキズぐすりを施してから、まとわりついていた糸の残りを回収した。完全に糸から解放されるとクワッスは翼を器用に用いて身だしなみを整え始める。

「よし、今度こそちょっと休憩……」

 と言いかけたところで、レモンは耳に分厚い風切り音を捉えた。音のした方向に素早く首を向けると、2匹、3匹、4匹……次々とどこからか集まってきたワナイダーたちがじりじりとふたりに近づいて来ている光景が目に入った。

「Oh アルセウス……」*1

 にじり寄ってくる大量のワナイダーを前にレモンから驚愕を表す呟きが漏れた。

 ワナイダーの群れはじわじわとレモンたちとの距離を詰めながら辺りに『ねばねばネット』や『まきびし』、『どくびし』を撒き散らしてフィールド上に罠を張り巡らせる。

「うぇぁ……なんかいろいろ撒いてる! どうしようクワッス……」

「プル……クァ!?」

 思いがけないワナイダーの大群との遭遇にうろたえるレモンをよそに、一匹のワナイダーがこちらへ跳びかかってきたのをクワッスは見逃さなかった。『とびかかる』が当たる寸前、クワッスは攻撃の射程内に入ったワナイダーへ自らの意思で『つばさでうつ』を放ち撃退する。

「おー、お見事……」

 呆然とクワッスを褒めたところでレモンは我に返り、クワッスに続いて再び戦闘体勢を整える。

「ひょっとしてここはワナイダーの巣なのかな……タマンチュラから糸を取ってるのを見つけて怒ったのかな……?」

 

「いいや、巣じゃない。『大量発生』ってやつだな」

 

 突然かけられた、若干かすれたダンディーな声にレモンが心底驚きながら背後を振り返ると、ライドポケモンのモトトカゲに跨がった、グレープアカデミーの男子生徒がいつの間にかおり、モトトカゲと共に抜け目なくワナイダーの群れに注意を払っていた。

「やれやれ……見つけたと思ったら、とんだワイルドなシチュエーションだな」

「………………どちら様?」

 呆然とした目で尋ねるレモンに、男子生徒はモトトカゲからゆっくりと降りて静かに歩いて近づいていく。

「オレはネルケ……そう、ネルケだ」

 自分の髪を誇示するように、先端がウェーブしてはね上がったリーゼントに両手を沿わせながら、男子生徒が身のこなし同様静かに自己紹介をした。

 

 

 

(つづく)

*1
※「オーマイガー!」、「ジーザス!」的な




連休入ったから次回は少し早めに更新できたらいいなぁ(希望)
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