ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!! 作:ストレンジ.
モトトカゲと共に突如現れたネルケと名乗る、サングラスをかけ頭には立派なブロンドのリーゼント、顎に白い髭を生やしたグレープアカデミーの生徒と、ワナイダーの群れの間でレモンは落ち着きなく両者に注意を払いながらも困惑していた。
「そのワナイダーたちは大量発生で現れたポケモンだ。授業で習ったろう? ある短い期間、突然特定のポケモンが特定の区域にどこからともなく大量に現れ、そして去っていく現象……。あのワナイダーたちはその産物さ……。たまたまタマンチュラの生息地と被っているから巣と勘違いするのも無理はありませんがね」
「……はあ」
不自然に敬語が混じった喋りにレモンの謎の生徒、ネルケへの警戒が若干強まるが、当のネルケは気にする風もなく、ワナイダーへと目を向け続けた。
「ミライドンに乗らないのか?」
「えっ?」
「接近される前の今ならライドポケモンで問題なく逃げ切れるだろう」
ネルケに当然のようにそう言われて始めてレモンはその方法に気づいた。しかし同時にまだ糸を集めきっていないことも思い出す。
「ジムテストの『タマンチュラのいと』集めが終わってないから……いやでもこの状況で続けるのも危ないか。時間はあるしいったん離れて別の場所で続けるか……」
「なるほど、あのワナイダーに用があるわけか。なら分散させてやろう」
悩むレモンを目の端に捉えつつもワナイダーに視線を注ぎ続けているネルケがこともなげに言った。
「いきなさい」
言葉に合わない気だるげな動作でネルケは懐からモンスターボールをひとつ取り出し、立ち止まってこちらの様子を窺い続けているワナイダーの群れへと見せつけるように掲げ、それを投げた。
「グウゥゥ……」
中から現れたのは、ミライドンと入り江の洞穴で対峙した記憶のあるレモンにとっては少し苦い印象のあるポケモン、デルビルだった。
「私……オレが群れの注意を逸らす。その間に散り散りになったワナイダーから糸を集めればいい。糸集め自体を手伝うわけじゃないし、問題ないだろう?」
「一応危ないし、時間もまだ余裕だし、いったん切り上げるよ」
「アンタに用がある。済むものが済まなきゃ、おちおち話もできない。まずはジムテストを完了させて報告することだ」
そう言うとネルケはレモンの返事を聞かずにデルビルに命令しワナイダーの群れを追い立て始める。デルビルは『ひのこ』でワナイダーたちを散らしながら仕掛けられた罠も焼き払っていく。それを目にしたワナイダーは弱点を突かれつつも怒りを表すように果敢にデルビルに跳びついていくが、小さな体で軽快に動き回りことごとくかわしていく。
デルビルに翻弄されてこちらへの警戒が手薄になったと見たレモンは隙を窺いながら手近なワナイダーへとクワッスに指示を出し『つばさでうつ』による各個撃破を試みる。
クワッスの鋭い一撃による介入が始まると、多くのワナイダーはデルビルとクワッスのどちらに狙いを定めるべきか決めあぐね、群れの動きが緩慢になるものの、何匹かの抜け目のない個体は寄り集まり二組のチームを組み分かれてそれぞれ定めた標的へ集中することで攻め筋を見出だし、徐々にデルビルとクワッスの勢いを殺いでいく。
「『タマンチュラのいと』はどうだ!?」
「……オッケー! バッチリじゅうぶん!」
「では退き時……だな。デルビル!」
「オォウッ!」
攻撃をさばきながら、少数精鋭のワナイダーたちからも糸を取り、目的の量を少し越えて糸集めを終えたレモンの声を聞いてからネルケは制服のハーフパンツのポケットから黒いボールを取り出しデルビルに向けて構える。それはテラスタルオーブだった。
「『ひのこ』を撒き散らせっ! ……ああ、火事にならない程度にお願いしますね」
ちぐはぐな言葉遣いと調子とともに、エネルギーを解き放ったオーブをデルビルへと投げる。デルビルの頭上に、ろうそくの燃える燭台を模した結晶状のエネルギーが輝き、全身に力がみなぎった。
「オォォォォ……ン!」
勇ましく空に吠えてから一度頭を下げ、もう一度上げながら横にも首を振って『ひのこ』をワナイダーはびこる一帯へと雪のように降らせた。
「退却だ、ミライドンに乗って!」
ネルケに言われてレモンは器用に左手に持ったボールでクワッスを戻しつつ、右手に持ったボールからミライドンを出し勢いよく背中に乗った。
「デルビル、来い!」
「アン!」
ネルケも素早くモトトカゲにライドしレモンと共にその場を後にしながら、全力疾走でそれを追うデルビルがモンスターボールの機能の範囲内まで接近したのを見届けてデルビルをボールに戻す。ワナイダーの群れはふたりを懸命に追っている者もいたが、大半は散り散りにその場を去っていっており、追っ手もライドポケモンのスピードにはまるでついてこれず、どんどん距離を離されて追跡を断念したのかすぐに姿は見えなくなった。
*
大量発生したワナイダーの襲撃から逃げ切りセルクルタウンに戻ったレモンは、同行するネルケに外で待ってもらいふたたびジムへ入ると、ジムテスト達成の報告を『タマンチュラのいと』を広げながら受付の女性へと伝えた。
「うん……確かに揃ってるわね。おめでとう、ジムテスト、クリアよ! なかなか早かったわね。さっそくジムリーダーに挑戦するのかしら?」
「えーと……2時間後くらいとかで大丈夫です?」
「了解、そう伝えとくわ。ジムリーダーもあなたも、誰にもお昼休憩は必要だものね」
そう言われてレモンは今がちょうど昼時なことに気づく。ネルケと話をするために時間を空けたかっただけだがちょうど都合がよかった。意識したとたん、レモンは空腹を感じ始めた。
「お待たせ。それじゃあ……」
ジムを出てネルケと合流したレモンは、ふたつの用事を果たせる施設を発見し、ネルケをそこへと促した。
『まいど・さんど』の店内に腰を落ち着け、レモンはさっそくアボカドサンドで昼食をとりながらネルケの自分への用事について尋ねた。
「アタシに用ってなんですか?」
「おっと、おカタい態度はとりっこなしだ。同じグレープアカデミーの生徒同士、ロックにいこうぜ? “タメ”ってやつだ」
「はあ……じゃあネルケ、用事ってなんなの?」
ネルケの提案にすぐ順応したレモンは一瞬だけたじろぎつつも、改めて彼の望みを汲み取った態度で質問を繰り返した。
「率直に言おう。アンタが参加した『スターダスト大作戦』にオレも参加したい」
そう言ってメガネ越しに威厳を感じさせる目をレモンに向けたまま、ネルケはマーマレードサンドをひと口かじる。
「え……知ってるの!?」
驚いた調子でレモンが言うと、粗相をたしなめるような口調でネルケが返す。
「アンタが電話で作戦のことを誰かと話しているのを偶然聞いちまったのさ。盗み聞きしたのは悪いが、あんまり大声で話すのは感心しないぜ。最近はどこから個人情報が漏れるかわからないからな。プライバシーなやり取りにはじゅうぶん気をつけなければいけませんよ。学校周辺の治安維持にもしっかり注意を払っていますが、だからといって悪事を働く者がいないとは限らないのですから……」
「あのー……ネルケ?」
「なんでしょう?」
「途中から敬語なんだけど、やっぱりその方がいいの? アタシも、年上の人と敬語を使う人には敬語で話しなさいってママとパパに教えられたから、こっちだけタメは喋りづらいんだけど……」
「なんと! 素晴らしい親御さんですね」
「いや、だから……」
「ああ、そうだな……気にするな、たまに出ちまうのさ。オレもまだまだですね……違う、まだまだだなぜ……」
「……? む~?」
不安定な口調で話すネルケの様子を、レモンは大いに訝しんだ。食べかけのアボカドサンドを一度皿の上に置き、なにかを考えながらじっとネルケの目を見る。
「な、なんだぜ……?」
「ネルケって、もしかして……」
レモンの視線を受け止めながらネルケは内心動揺した。自分の“変装”がバレたかもしれない、と。
グレープアカデミーの生徒、ネルケを名乗るこの人物、実はその正体は誰あろうあのクラベル校長であった。本人はその変装に自信とこだわりを持っているつもりだが、リーゼントのカツラに染めた眉毛、アカデミーの制服に身を包み普段と異なる容姿をしているとはいえ髭はそのまま、化粧をしているわけでもなく、かけているサングラスのレンズの色も薄く、人相は隠せていないし肌からある程度高齢の人物であることも察せてしまう……など、少なくとも生徒含めアカデミー関係者の目を欺くための変装としては不適当だと言わざるを得ないクオリティのものであった。
「ネルケってもしかして……“アカデミーデビュー”?」
「えっ……?」
聞き慣れない言葉を耳にして、ネルケは先ほどとは違う意味で困惑してしまった。
「いやあ、根はマジメなんだけど、本当はそういうやんちゃな格好とか喋り方に憧れてて、アカデミーに入ったタイミングでイメチェンしてみました……ってやつかなって。だから敬語の方が話しやすいのにタメで話したがるのかな~……って」
レモンは奇妙というよりは珍妙なネルケの口調の理由を自分なりに推察し、説明してみせた。それを聞いたネルケは自分のこの変装がバレているわけではないことを確認することができてホッと安心するのだった。つまりレモンはネルケがクラベルであることにまったく気づいていないのだ。
「それは違……いや、違わなくはない、か。憧れがあったのは……事実」
ネルケは遠くを見る目をしながら甘くほろ苦いマーマレードサンドをふたたび口に運んだ。
「別にバカにするような意味はないからね!? というかそうならむしろ応援するっていうか、いいね! っていうか。なりたい自分になろうとするのは素敵だもんね。アタシだってそうだし!」
喋っていて、自分もまた憧れているものに近づくために見た目や口調に、ある種の意識的なチューニングを施してきたことをレモンは思い出す。もっともそれがすでに自己像として定着しているのと、“変装”という意図などは初めからないというのはネルケと異なる点だが。
「まあオレもそんなもんだと思ってくれ。喋りもそのうち定着するだろうさ……。それより話を戻させてくれ。『スターダスト大作戦』のな」
「ああ、うん。……って言ってもアタシも誘われて参加しただけだから、困っちゃうな」
「リーダーがいるんだろう? 簡単な話だ。そいつに話を通してほしい。他に作戦に参加したがっているやつがいると……」
「アタシもリーダーの連絡先は知らないんだけど、近しい部下っていう子なら連絡つくと思うから、その子に話してみるよ」
「よろしく頼む」
ふたりはサンドウィッチを食べ終えると、レモンはスマホロトムでボタンへ連絡を、ネルケはそわそわと店内を見回しながら話し合いの結果を待った。
『……もしもし?』
「おーはー! レモンだよー!」
なにかを探るようなボタンの声にあっけらかんとしたレモンの挨拶が返る。
『な……なに、なんの用? なんか用?』
突然の連絡に若干声を引きつらせながらボタンが応対し、レモンは連絡するに至った経緯を簡潔に説明した。
「━━ってわけで、アタシが勝手に決めるわけにはいかないでしょ? そっちから、ボスに連絡して訊いてもらえない?」
現状ではネルケの『スターダスト大作戦』への参加が決まっていない以上、先の彼自身の言葉もあってレモンはボタンとカシオペアの名前を伏せて尋ねた。
『盗み聞きされてたとかマジか……』
「ゴメン! アタシの声が大きかったから……」
『いや……気にしないで。物理的な盗聴を予測できてなかったカシオペアにも非がある……と思う。でも……怪しいね、その、ネルケって……』
「話し方は怪しいけど、それ以外はそうでもないよ。ワナイダーからアタシを助けてくれたし」
『ふぅん……恩を売って取り入ろうって風にも考えられると思うけどね……ま、いいや、とにかくカシオペアに相談してみる。後で連絡がいくと思う』
「ありがと。ボタンは今どこにいるの?」
『え……ああ、アカデミーにいるよ。宝探しっていっても、うちは基本学校にいるから……レモンは?』
「セルクルタウンにいるよ。ジムテストに受かったから、もう少ししたらカエデさんと戦うつもり!」
『へー、そうなん……。その……がんばって』
「ありがと! じゃあ、ボスに連絡よろしく! ……とりあえず連絡はしたから、あとで返事が来るはずだよ」
「ありがとう。いい返事をもらえるといいんだがな」
「そもそもなんでネルケは作戦に参加したいわけ?」
「あー……そう、宝探しだ! それがオレの宝探しなのさ!」
「へぇ~? それってどういう……、おぉ、早いや」
ボタンとの通話を終え、ネルケへ『スターダスト大作戦』参加を希望する理由を尋ねようとしていると、宙に浮いたままのレモンのスマホロトムに、滅茶苦茶な文字や番号や記号の連なる連絡先から着信があった。その画面にうっすらと恐怖を感じつつも着信先が心当たりのある見知らぬ相手であることに確信を持ってレモンは通話に出た。
「ハロー、カシオペア?」
『……誰もいない所とは言わないが、もう少し人気のないところで話せないか?』
レモンの確信の通り、相手はカシオペアを示す合成音声であった。通話を始めるなりカシオペアはふたりに場所を移すことを要請した。
「画面通話になってるのか? オレの姿が見えてるのか?」
「たぶん……でもこのとおり、あっちは正体は明かせないらしいんだよねー。とりま出よっか」
カシオペアの要望に応えてふたりは『まいど・さんど』を後にし、人の少ない適当な場所へ移動する。
『ネルケ……といったな。あなたはなぜ『スターダスト大作戦』へ参加したいのだ? 目的はなんだ?』
場所を変えて会話の場が整えられるとさっそくカシオペアはネルケに対して疑問を口にした。
「以前からスター団に興味があってな。団に入りたいってわけじゃないぜ。メンバーのことや結成のきっかけ、どんなことをしてきたのか……いわば歴史だな。そこでオレは今回の宝探し、スター団について調査することにしたのさ。そして偶然、アンタらの話を聞いた。組のボスを倒し、団を解散させる……。ボスたちに会えれば、団について詳しく話を聞けるかもしれない……渡りにラプラスってやつさ」
おそらく自分を見ているであろうレモンのスマホロトムの画面を見つめてネルケはそう明かした。
『……なるほど、な』
それだけ返すとカシオペアはしばらく沈黙した。
「オレの主目的はあくまでスター団の実態調査だが、解散を望んでもいる。バトルになればもちろん手は抜かない。自分で言うのもなんだが、いい仕事するぜ?」
そう言いながらネルケはさりげない調子でレモンに視線を移した。
「そうだね。アタシがワナイダーの群れから逃げるのを手伝ってくれたし、テラスタルオーブも使えるんだよ」
『ポケモンをテラスタルさせられるのか……それは大きいな。スター団のボスたちは不登校ゆえにテラスタルオーブも、それを扱う資格も持ってない……。テラスタルオーブ持ちがふたりは心強い』
そう言ってからカシオペアはまた沈黙する。スマホロトムの向こうで考え込むカシオペアの気配をふたりは感じた。
『ひとつ聞きたい。ネルケ……あなたはスター団の実態を調べてどうするつもりだ?』
「どうするか……だと?」
今度はネルケが言葉のあとに沈黙した。しかしその沈黙にカシオペアも、レモンも言葉を返さない。疑問調ではあったが最後の『だと?』は、相手の質問の真意を図りかね訊ね返すような尻上がりに高い調子ではなく、あらかじめそう訊ねられることを考慮の範囲内に入れてあったことを思わせる平坦で落ち着いたニュアンスだった。
「アカデミーの人間が知っておくべきことでもあれば、それを公表するかもしれない。だが知ったことをそれ以外の形でどうこうしようという気はない。とにかくまず知りたい。スター団が作られ、存在する理由を……自分で見て、聞いて、確認したい。やんちゃなヤツらという点では、オレとキャラも被ってることだしな……フッ」
最後に不敵に息を吐くとネルケはカシオペアの言葉を待った。
『……いいだろう。ボスを倒そうというのなら、目指しているものは同じと言える。今はニャースの手も借りたい……あなたも同志として迎えよう』
「決まりだな。感謝するぜ……レモンもな」
安心したようにリーゼントをひと撫でしてからネルケはスマホロトムへ続けて言葉をかけた。
「カシオペアさん、だっけか。オレもひとつ聞きたいことがある……アンタ、スター団のなんなのさ?」
「え?」
ネルケの一言にレモンが小さく反応する。
「団を潰したくて、経緯はどうあれレモンを通してそれを実行しているくらいだ、恨みであれなんであれ、それなりの事情があるんだろう? 言えなければ答えなくても構わないが」
『……恨みなどはない』
カシオペアはそう言って何度目かの沈黙をする。その無言の間には、それ以上の詮索を拒むような空気があった。
「そうか。ちなみにオレもスター団に恨みがあるわけじゃない。オレにとって知るべきことがあるんだ……おそらく、な……」
「アタシも、うざ絡みはされたけど恨んではないよ。それはそれとして倒すけど!」
レモンはそう言うと、画面の向こうの気配が少し動いたような気がした。
『……わたし……カシオペアは、スター団の……元、関係者……とだけ言っておこう』
電波障害にあったように加工された音声が途切れ途切れにそう流れた。
「えーっ、そうだったの!?」
『……そうだ』
「……詳しくは聞かないでおくぜ。なんにせよ話はまとまったな。『スターダスト大作戦』の実行部隊の隊長はレモン、でいいんだな?」
いったんの落着を見ると、ネルケはそれまでの話を切り上げてカシオペアに尋ねた。
『ああ、そうだ』
「ていうか、アタシひとりだったんだけどね」
「なるほど。レモン、アンタが大将、異議なしだ。連絡先を教える。アジトに向かうときはふたりで、だ。お互い単独行動はなし、いいよな?」
「わかった!」
返事を聞くと、ネルケの懐からスマホロトムが顔を出した。ローズピンクとパープル、それぞれのスマホロトムが向き合い、ふたりは連絡先を交換した。
「さて、これでも忙しい身でな。今日はもうアカデミーに戻らせてもらうぜ。カシオペア、作戦への参加の許可、ありがとよ。レモン、カチこむときは連絡してくれよ!」
「うん……すぐ帰っちゃうの? アタシのジム戦、見てかない?」
「悪いな、時間がないんだ。アカデミーで勝つのを祈っておくぜ。レモンなら大丈夫だろうが、油断はするなよ!」
ネルケは取り出したプレミアボールからモトトカゲを出し、素早くスマートにライドして別れの挨拶にサッと手を上げ、早々に去っていってしまった。
『ではレモン、戦いの際はわたしへの連絡も忘れないように』
カシオペアが言うと、レモンのスマホロトムの画面に表示されている解読不能の文字列が強調するように太字になった。
「これって通じるの? ……まあ今通じてるわけだけど」
『無論だ。その連絡先は他のスマホロトムに登録したりはできないし、できてもレモンの連絡先からしか通じないよう特殊なプロテクトがかかっている。可能性は薄いだろうがスマホロトムの紛失にはじゅうぶん注意してくれ』
「ラジャー! アタシももう少しでバトルなんで切るね、じゃっ!」
『ああ……がんばって』
「サンクス!」
通話を終えてひとりに戻ると、ふとレモンには遠くのオリーブ畑に並ぶオリーブの苗木たちに風がそよぐのがかすかに見えた。意識がジム戦に向けて切り替わり、身体をほぐしながらレモンは決戦の時間の来るのを待った。