ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!!   作:ストレンジ.

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#20『Stone Stork:A Sky Legend』

 

 初めてのジム戦に無事勝利し、カエデの計らいでパートナーのポケモンたちともども『ムクロジ』のケーキ食べ放題の歓待を受けてお腹と英気を満たしたレモンが往来のベンチに腰を深く下ろしてしばらくの間空を見上げて多幸感でぼんやりしていると、着信音とともにスマホロトムが目の前に顔を出し、画面には長い前髪で片目は隠れているものの左目を大きく見開き唇をひきつらせ切迫した様子のペパーが現れた。

『レモン! 大変だっ! ボーッとしてるとこわりぃが、それどころじゃねーんだ!』

「ふぅぇぇ……?」

 ペパーの切羽詰まった声に意識を引き戻されたレモンの視線が自分を捉えたのを確認すると、ペパーはスマホロトムのカメラを内から外側へ切り替える。するとレモンのスマホロトムの画面には、小高い山の上からいくつもの大きな丸い岩石が次々と坂を転がり落ちていく様が映し出された。

「うわぁ……!? なんたるローリング・ストーンズ……え、なに? 現実?」

『ドーナツみてーに現実だぜ!』

「いったいなにが起きてんのさっ!?」

『オレにもわけがわからねえが……次の秘伝スパイスの場所がわかったかもしれねえから探しに来たんだ。そうしたら、ごらんの有り様さ。山の上に行きたいが……これじゃ近づけねぇ!』

「そんなとこいて大丈夫なの!?」

(ふもと)の岩場に隠れてやり過ごしてるんだが、次から次へと切れ目なく転がってきやがる! 山頂にデカい鳥ポケモンが見える……どうやらソイツが落としてるらしい!』

「て、ことは……ヌシポケモン?」

『オレの見立てが間違ってなければな!』

「大変……どこっ!? どこにいるの?」

『西1番エリアにある小山だ! そんなに高い山ではねぇが……こんな状況じゃ険しさ数倍! おちおちピクニックもできやしねぇ……』

「セルクルタウンからそんなに遠くないね。とにかく向かうから、なんとかやり過ごしててよ!」

『すまねぇ!』

 通話を終えるとレモンは迅速に出発の用意を整えペパーの危機を救うべくミライドンを出しライドする。

「ミライドン、『こうそくいどう』だ!」

「アンギャア……」

「出せないのはわかってるけど、できるだけ早くお願いね」

 ミライドンに急いでもらい、レモンは直ちにセルクルタウンを出発して西1番エリアへ向かう。

 

   *

 

 道中の景観に気を向ける時間も余裕もなく、レモンはミライドンを駆り、西1番エリアの件の小山が見えてくると、すっとんきょうな声を上げた。

「なん……じゃありゃあ!?」

 山の上から丸い巨岩が次から次へとゴロゴロと、恐ろしいことに絶え間なく転がり落ちてくる。スマホロトム越しに見るのと現場で実際に見るのとでは見え方も、それを目にしたときの感じ方もまるで違う。レモンは岩に最大限の注意を向けながらもペパーの姿を探した。

「こっちだレモン……!」

 転がってくる岩をやり過ごせる、山の上り坂の入り口脇のスペースで強張(こわば)った顔のペパーがレモンを手招きした。そうして合流したふたりだったが、目の前の状況にどう対応すればいいのか決めあぐねた。

「どうしたもんか……山頂にスパイスがある可能性は高え! ただ状況が状況だからな……」

「うーん、アタシも空飛べるポケモンとかいないし……岩が治まるのを待つしかなくない?」

「いやそれが不思議なことにもう15分くらいずっとゴロゴロちゃんなんだぜ……終わる気がしねぇ」

「……そうなると、答えはひとつだね」

 レモンはミライドンにライドしたままの状態でクワッスを出し、さらにテラスタルオーブを投げテラスタルさせる。

「とっておきの『アクアジェット』で正面突破! ……と行きたいんだけど、どう? いけるかな?」

「……プルッ!」

 クワッスは転がる岩を睨み、それからレモンに頼もしく頷いてみせた。

「よし! じゃあクワッスもライド・オン! ガンガン蹴散らそうぜっ!」

 クワッスをミライドンの頭の上に乗せて、当たり前のように正面から連打される巨岩に挑もうとするレモンにペパーは心配と呆れの混じった声色を出す。

「ガケガニのときもそうだったけどよ……オマエのその度胸はなんなんだ? いきなり崖から飛び降りたり、転がってくる岩に正面から相手しようとしたり……とくせい『かたやぶり』ちゃんか?」

「ポケモントレーナーなら度胸で勝負っしょ! カントーっ子の血が騒ぐぜ! ペパーはあとからついてきてっ!」

「あ、おいっ! ……カントーのヤツらはみんなそんな感じなのか……?」

 レモンの後ろで呟くとペパーはそうする他ないといった様子でレモンを見守るのだった。

 

 岩の転がってくるタイミングをしばらく見計らい、今だ、というところでレモンはミライドンを操縦して山道に躍り出る。躊躇せず前進を促し、岩壁や山道の凹凸、地面から突き出す岩、さらには岩同士の衝突で不規則な軌跡で次から次へと転がってくる岩を懸命に避けながら坂を上っていく。

「目の前! 『アクアジェット』!」

「クワァッ!」

 回避困難なものはテラスタル状態のクワッスの『アクアジェット』で破壊し、強引に上っていく。レモンは連続して転がり落ちてくる巨岩への対処に集中しながらも、頂上から岩を落とす白い大きな鳥ポケモンの姿を視界に捉えていた。

「おわっ……!?」

 レモンが上り坂の中腹に差し掛かったとき、突如として今度は丸太が転がり落ちてきた。岩を使い果たしたのか作戦変更なのかはヌシのみぞ知るところだが、乱雑に落とされ転がり落ちるものやそれらより遅いスピードで滑り落ちてくるもの、岩よりも緩急の差が激しい障害物の雪崩を、高さが低くなったぶんミライドンのジャンプも交えて順調にかわしてラストスパートにかかっていく。

 上り坂の終点にたどり着き、いよいよヌシの姿もはっきりと目に映る距離にまでレモンが迫ると、悪あがきのように長方形の人工物を腹部から長く伸びた皮のような部位の上に乗せ、その部位の終端を(くちばし)で咥えて袋で包みこむように物体を運ぶと、レモンの真上で口を開けて真っ逆さまにそれを落とした。

「のわぁっ、と! ……こんなものまで! どこから拾ってきたんだろ!?」

 落下した物体を見ると、それはジュースの自動販売機だった。ヌシの鳥ポケモンはそれからまたすぐに山の頂点でなにかを見繕う動作をし、先ほどと同じように袋に乗せたものを、今度はレモンから少し離れた地点で口を大きく開けてこれ見よがしに笑うような表情で落としてみせた。

「……っ、ちょおおおぉぉぉぉぉぉ!?」

 落下していく物体の正体に気づくと、レモンはミライドンを全速力で前進させ、それでも間に合わないと判断し前方へゴージャスボールを投げた。

「アママイコ! それキャッチしてぇっ!」

「まままっ!?」

 上空を見上げ、垂直にジャンプしたアママイコが両手で抱きつくように抱えた、ヌシが落としたもの、それは『タマゴ』だった。ヌシは空中でタマゴをキャッチしたまま着地するまでまともに動けないアママイコに目を向けると、嘴を突き出し襲いかかった。

「させるかぁ!」

 無防備なアママイコに迫るヌシにレモンはクワッスを『アクアジェット』で突撃させた。テラスタル状態で強化されていることもあり、ヌシは空中で大きくよろけ、アママイコへの攻撃は失敗に終わる。アママイコはそのまま無事に着地し、タマゴを抱えたまま小走りでレモンの元に戻っていく。

「よし! クワッスもアママイコもサンクス!」

 アママイコからタマゴを受け取りボールに戻すと、引き続きクワッスがヌシポケモンを前に全身を輝かせて対峙の構えをとる。レモンはミライドンから降りてボールに引っ込めると、ひとまずリュックサックにタマゴをなんとか詰め込みヌシポケモンをスマホロトムの図鑑アプリでチェックする。

「オトシドリ……胸の袋で大きな音のするものを落として喜ぶ……危な! タマゴまで落とすなんて、ヌシじゃなくてもちょっと懲らしめる必要あるんじゃない……?」

「プルッ!」

 臨戦態勢のふたりを見て胸の乱れた羽毛を翼で払い落として整えながら、いい遊び相手を見つけでもしたようにオトシドリがニタリ、と目を歪ませる。巨体を羽ばたかせ、その場からゆっくり上昇すると、次の瞬間アママイコを襲おうとしたときのように嘴を尖らせて急降下してくる。

「よけて!」

 指示を出しつつ自分もオトシドリの急襲を避けながら、レモンは即座にクワッスにオトシドリから目を離さないよう指で示しつつ反撃に出る。

「『アクアカッター』!」

 オトシドリの背目がけて、加圧されて鋭い刃と化した水流をクワッスが発射する。オトシドリは急上昇でこれをかわそうとするが間に合わず、背面にダメージを受け動きに乱れが生じる。

「ストオオオク!」

 オトシドリはそのまま荒れた羽ばたきで強引に上昇すると、山肌を砕き『いわおとし』を放つ。が、レモンもクワッスもこれを見て回避ではなく、敢然と反撃への動作に入る。

「『いわおとし』なんてお構いなし! 『アクアジェット』で蹴散らしちゃえ!」

「プルウゥゥゥゥゥ……!」

 落下してくる岩石を巻き込み破壊しながら水流の塊となったクワッスが驚愕の反応の間すら与えずにオトシドリの顔面にクリーンヒットする。

「グギャ……オォク……!」

 これにはかなりこたえたらしく、オトシドリは地に降下し、すぐ背後の岩を砕いて翼で払うように撒き散らしながらもそのまま岩壁の方を向いたまま痛みをこらえている様子だった。

「翼で撒くなら『つばさでうつ』! 払い落としてクワッス!」

 重力の法則から見れば不自然な挙動でこちらへ飛んでくる小ぶりの岩石をクワッスに翼で払い落とさせ、大きな隙を見せているオトシドリに追撃をかけようと更なる指示を出そうとしたとき、レモンは周囲の異変に気づいた。

「岩が……浮かんでる?」

 そう口にした瞬間、まさにその空中で静止していた岩が意思を持っているようにクワッスへと飛んでいき、思いがけない一撃を受けてしまう。

「クワッス!」

 危機と警戒を促すレモンの声をクワッスが受けるのとほぼ同時に、いつの間にかふたりの周囲を囲うように浮かんでいる岩の群れがひとつ、またひとつと獣のようにクワッスに襲いかかる。

「だ、大丈夫! そんなに速くはないよ!」

「プ……ルゥ!」

 岩の奇襲に手痛い一発を受けつつも大きさ、速度、どちらも冷静になればクワッスが十分に対処可能なことを見てとったレモンは慌てず翼で岩を打ち落とすよう命令を出す。しかし襲い来る岩は避けても防いでも次から次へと新手が向かい、クワッスだけでは捌ききれない手数が叩き込まれていく。

「コジオぉ! 『うちおとす』!」

 背後からペパーの声が聞こえると、クワッスを襲おうとする岩に、岩というにはやや奇妙といえるような、古いTVゲームで見かけるドットで描写されたような、岩とおぼしき茶色の塊がオトシドリの撒いた岩と衝突し相殺された。

「『ステルスロック』にはご用心だぜ、レモン!」

 振り返ると、岩の止んだ坂を全速力で上ってきたペパーが、レモンにとっては見慣れぬポケモンを引き連れて駆けつけた。

「あれが大空のヌシか! 背中向けたままなにしてんだ?」

「クワッスの『アクアジェット』が急所に入ってうずくまってるのはいいんだけど、ぷかぷか岩が邪魔してくるんだよ」

「ぷかぷか岩じゃなくて『ステルスロック』な。なるほど、ダメージはくらっても罠でこっちの攻撃のチャンスを潰そうとしてくるのか。さすがはヌシってところ……お?」

 ペパーが間の抜けた声を発するのと同時に痛みをこらえていたオトシドリがついにレモンたちへと身体を向き直す。するとその嘴には緑色に光る植物のようなものを咥えているのがふたりには見え、同時にそれがなんなのかを察して声を上げた。

「「あーっ、スパイス!」」

 ふたりの驚く顔を見て嬉しそうな目つきをすると、オトシドリは嘴を開きスパイスを一気に飲み込んだ。

「ストオォォォクッ!!」

 大きな声で鳴くと、オーラを身にまとい、スパイスの力を得たオトシドリは悠然と羽ばたき、再び空へと上昇した。先ほどよりも数の多い『ステルスロック』を撒きながら……。

「ちっ! コイツもガケガニのときみてーにスパイス食って強くなりやがったか! ちくしょう! まだ残ってんだろうな!?」

 こちらを見下ろすオトシドリにいちゃもんをつけながら、隣のコジオともどもペパーも戦闘へと気力をたぎらせる。

「岩落とすあぶねえヤツには、しょっぱい敗北召し上がれ、だ! いくぜレモン!」

「おおーっ!」

 『ステルスロック』が周囲を漂う危険な状況ながらも、ペパーとコジオを加えてレモンは再度オトシドリへと立ち向かっていく。

 

 

 

(つづく)




いよいよストックが尽きて週一更新が危うくなってきました。
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