ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!! 作:ストレンジ.
朝が来て目覚めたレモンは自分がどこで寝ていたのか一瞬わからなくなる。すぐにパルデアのわが家へ一時帰宅したことを思い出し、着替えて冒険の準備を整えてから部屋を出て階段を降りた。
ママが用意したトーストをポケモンたちと食べながらレモンは今日やることを考えた。昨日戦ったオトシドリのいた山からそれほど離れていないところにカシオペアのスターダスト大作戦のターゲットのひとつ、スター団あくアジトがあった。マフィティフのことも気にはかかるがペパーの言ったとおりヌシを倒すためにも強くなる必要があり、またスター団壊滅もカシオペアから自らの意志で受けたミッションである。その次なるミッションの達成のために朝食を食べ終え、ホシガリスをひとしきり可愛がるとレモンはさっそく宝探しの旅へと出発する。
「それじゃ、ケガに気をつけて引き続き頑張ってらっしゃい!」
「うん、行ってきまーす!」
コサジの小道まで行って一度立ち止まり、ミライドンに跨がってレモンの宝探しの旅2日目が始まる。
「お昼が楽しみだね~ミライドン」
「ギャギャ!」
出立の際、アカデミーに初めて通う日のようにママはお弁当にサンドウィッチを作って持たせてくれた。レモンにとっても、ミライドンにとってもそれは今日という日の楽しみのひとつになった。
「そうそう、スター団にバトりに行く前にネルケと、カシオペアに連絡入れとかなきゃね」
プラトタウンでそれを思い出したレモンは、早すぎる休憩のひといきにアイスを買う前に、スマホロトムを呼び出してまずネルケに連絡する。
「……出ない。用事かな」
数十秒待ってもネルケは連絡に応じず、先にカシオペアへコンタクトをとろうと送信を切ったところ、ネルケの方からレモンへ着信が来た。
「あ、来た。……おはよう、寸前で切っちゃった感じかな」
『おはよう……いや、違うんだ。言い忘れてたが、連絡は通話のみで頼むぜ』
レモンは先程のネルケへの連絡を画面通話形式でかけていた。それがネルケには都合が悪いようだった。
『えーと……そう、リーゼントを完璧にセットするまでは誰にも姿は見せない主義なんでな。画面通話はデンジャーだ。よろしく頼む』
「そうだったの。それはごめんね」
『それはそうとして……やるのか?』
「話が早いね。スター団の、あく組……チーム・セギン? っていうのを倒しにいこうと思うんだ。アタシ今プラトタウンにいるんだけど、ネルケはアカデミーにいるのかな?」
『そうだが……合流は現地でいいだろう。準備ができ次第オレも向かう。先に着くようであればすまないが待っていてくれ。長くはかからない』
「了解。じゃあカシオペアにも連絡入れたらアタシは向かうよ」
『ああ。そうしてくれ』
無事に連絡のとれたネルケと粛々とやりとりをして通話を終えると、続けてレモンはカシオペアに連絡を取るべく、以前に向こうから登録された意味を成さない文字列が並ぶ連絡先をタップし応答を待つ。数回の呼び出し音が鳴ってから聞き慣れた素性を隠すための合成音声による加工された声が聞こえてきた。
『レモンだな。ここへは不要なことで連絡をとるべきではないことはわかっていると思う。用件を聞こう』
前置きから直裁な対応に出るカシオペアの言葉を聞いてレモンは用件をシンプルに伝えた。
「カシオペアが望んでることだよ。これからあく組を倒しにいこうと思ってる。ネルケにも連絡済み」
『ついに始まるか、スターダスト大作戦……。レモン、あなたたちの戦いぶり、見届けさせてもらおう。現場へ着いたら画面通話状態でスマホロトムを出しておいてくれ。作戦の完遂を確認したら、しかるべき報酬を渡すことを約束しよう。あく組……チーム・セギンのボス、ピーニャはスター団の頭脳とも言うべき存在。彼のチームを潰せれば他のチームにも大きな揺さぶりをかけられるだろう』
「よーし、それじゃあく組のアジトまで向かうから、後で改めてよろしく! いったん切るよ」
カシオペアとの連絡を簡潔に終えるとレモンは『あまいやつめたいや』でソーダアイスを買って手早くその味を楽しむと、ふたたびミライドンを駆ってチーム・セギンのアジトまで一直線に向かった。
*
レモンがマップに登録されたチーム・セギンのアジトの場所へたどり着くと、そこには確かにバリケードが張り巡らされていて、出入口らしきゲートには見張りらしきスター団の男女が立っている。
「着いたよ」
出入口から離れてはいるものの既に見張りのスター団からの視線を感じながらレモンは指示通りカシオペアを画面通話で呼び出し、スマホロトムを自分のそばに漂わせ待機させた。
『よし……準備は万端だな?』
「イエス! 技の見直しなんかは昨夜のうちにやったからね。あとは……やるだけ!」
『ならばいい。そのまま正面から向かうんだ。見張りが何らかの反応を示すはずだ。バトルになるなら倒してアジトに突入だ』
「もう気づかれてそうだから無理だしいいんだけど、こっそり潜入とかじゃないんだね?」
『……スター団はチームはどうであれ基本的には正攻法がいちばんだ。下手に潜入などすれば話がこじれる可能性もある。それにレモン、さっきあなたの名前でスター団の各アジトに宣戦布告をしておいた』
「え」
『スター団には掟がある。ボスは、売られたケンカは必ず買わなければならない。そして……買ったケンカで負ければボスを引退しなければならない。宣戦布告でこちらがケンカを売った以上、向こうは必ずそれを受ける。あとは……レモンが勝つか、ピーニャが勝つか、だ』
そこまでの会話の途中で背後の方から走行音が聞こえたのをレモンが気づき振り返ると、モトトカゲで疾駆しこちらへ近づいてくるリーゼントの学生が見えた。
「待たせたな。どんな感じだ?」
『ネルケ、か』
カシオペアはここまでレモンに話したことをネルケにももう一度自ら語って聞かせた。
「なるほど。ボスを倒せばそいつはボスをやめなきゃならないんだな」
『ああ。ボスがいなくなれば統率を失ったチームほぼ自然消滅状態になるだろう。他のチームに合流しようとする団員もいるかもしれないが、チームの解散を言い渡されれば大半は受け入れると思われる。復学してアカデミーに戻ってくるものもいるだろう。スター団でなくった以上手荒なことをしたりはしないだろうが……そこからは生徒会やアカデミーの教師陣の仕事だろう。わたしとしては、それ以降揉め事を起こさないようであれば大ごとにしてほしくはないところだが』
「ほう、そうなのか?」
『前にも言ったがわたしはスター団の解散を望んではいるが恨んでなどはいない……団をやめた彼らが平穏な学園生活を望むのなら、そう配慮して欲しいと願っている』
「ふむ……不登校という問題がある以上、波風が一切立たないなどということはありませんが、あとはわた……
『どうだろうな……』
「なに?」
『すべての教師が信用に足る存在とは限らないかもしれないだろう』
「……どういう意味だ?」
『……特に意味などない。そう言ってみただけだ』
ネルケとカシオペアのそのやりとりに一瞬刺々しい空気が流れたが、ネルケは追及したりせず話を戻した。
「……ま、なにはともあれボスを倒せば事態は丸く収まるってことだな」
『ああ。だが問題もある。アジトの中は広く、団員たちがうようよいる。当然、侵入者を追い返そうとバトルを仕掛けてくるだろう。それを耐え抜くだけの戦力がいる』
「そこは心配ご無用! そのためのアタシ! とネルケ!」
注意深くこちらを窺う見張りのことも忘れてレモンは大声で自信ありげにカシオペアへ意気込みを見せる。
『いや、心配とは違うが懸念はある。スター団流ポケモンバトル……通称『団ラッシュ』! 下っぱたちは1VS1ではなく物量にものを言わせて迫ってくるだろう。レモンとネルケはそれぞれ最大3匹のポケモンを同時に展開し、迎え撃つんだ、下っぱたちが音を上げるまで……。下っぱたちではどうにもならなくなれば、いよいよボス自らが戦うというわけだ』
「3匹のポケモンを同時に戦わせる……か。全体の様子を常に把握する集中力が求められるな……」
『それに臨機応変さもだ。それぞれのポケモンに指示を出すよりも、時としてはポケモン自身に判断を任せ、各自の意思で行動してもらう必要もあるだろう。こういった、普段とは違う特殊なルールの下で戦わねばならない……よろしく頼む』
「3匹か~、今のところのアタシの手持ち全投入だね」
「オレも同じだ。ところでテラスタルオーブは使えるのか?」
『問題ないはずだ。不登校集団ゆえにスター団でテラスタルオーブを使える者はおそらくいない。テラスタルできることはこちらにとって大きな強みだ』
「そっか、テラスタルオーブを使うには扱うための授業受けなきゃなんだっけ」
『そうだが……忘れたのか?』
レモンの口ぶりに対し怪訝な様子を合成音声に乗せカシオペアが尋ねると、レモンは事も無げに返した。
「アタシはネモ……生徒会長が手続きしてくれたから授業がどんななのか知らないんだ」
「生徒会の一部の役職の学生が持つ推薦制度のひとつ、だな。レモン、あんたが
「イエッサー。それじゃ……行こっか?」
ゲートに向かってレモンが指を差すと、遠目からでもわかるほど明らかに見張りが動揺した態度を見せる。
『頼むぞ……カチコミ開始だ!』
レモンとネルケはあく組アジトのゲートへとまっすぐ前を向いて歩いていく。見張り役のスター団のふたり組のうちのひとりが、ついに来てしまったかとでも言いたげな薄ら笑い気味の困り顔を見せて、自分たちの目の前まで近づいてきたふたりに意を決して話しかけた。
「えーと……もしかしてだけど、スター団にケンカ売ったっていう、レモンさん?」
「イェア! レモン a.k.a『レモネード・トルネード』だよ! こっちは相棒のネルケ!」
「うわぁ、なんだろうと思ったら相棒までいるのかよ……」
もうひとりの方の見張りが小声で言ったのをネルケは聞き逃さなかった。
「頭同士の対決を邪魔するつもりはないが……あんたたち下っぱの相手ならオレが買うぜ?」
「……ま、そりゃご勝手に。アタシらはアジトのみんなに敵が来たこと伝えるんで、準備できたら入ってくれば?」
小声の主が不遜な態度でネルケに言い放つ。
「ここで追い返そうってハラじゃないのか」
「アンタら強そうだし、総動員で襲った方が勝てる確率も上がるしね。せいぜい頑張って」
見張りの役のひとりは淡白にそう言うと、ゲートをくぐりアジトの中へとあっさりと引っ込んでいった。
「……あの子、最近入ったんだけど態度悪いんだよね……。まあそんなわけでさ、ボクも戻るから、その気があるならここの呼び鈴鳴らして入ってきなよ。じゃ」
もうひとりも律儀に断りを入れてからゲートの中へと引き下がっていった。
「まずここでバトルかな、と思ったらあっさり行っちゃったね……」
「相手の方が数が多いんだ。団ラッシュに持ち込んだ方が手っ取り早く勝てるって考えなんだろうさ……そうはいかないがな。レモン、呼び鈴を押すんだ。始めようぜ」
「よっしゃ! あく組退治といこうか!」
レモンが張り切って呼び鈴を押すと、ゴングのけたたましい音が辺りに2度響いた。ネルケがゲートを開け、ふたりがその中へ入っていくと、果たして既に準備万端といった具合で、アジトの中は臨戦態勢をとっている下っぱたちでいっぱいだった。
「『……あ~、みんな! スター団に宣戦布告をしてきたタイプ:ワイルドが我々のアジトにカチこんできました! スター団の恐ろしさを見せて、おとなしく帰ってもらいましょう!』」
中へ入ったとたん、ゲートやアジトの各所に取り付けられていたスピーカーから、下っぱたちへと校内放送のように連絡が入り、直後に激しいビートの音楽が大音量で流れ出す。
『セギンのボス、ピーニャはスター団のBGM担当でもある。下っぱたちを高揚させ、その勢いでこちらの戦意を削ごうというつもりだろうが……この程度のことで怯えるような器ではないだろう?』
確認するまでもないといった調子でカシオペアが尋ねると、レモンもネルケも不敵に微笑んでボールを手に取る。
「ノリのいい音楽は大歓迎! こっちだって勢いづいちゃうよ!」
「ロックンロールの時間、といったところだな……腕がなるぜ!」
至るところでモンスターボールを振りかざす下っぱたちを前に、スターダスト大作戦の狼煙がついに上がったのだった。