ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!!   作:ストレンジ.

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一日遅れの定期更新(剣盾)


#25『Kick……S!』

 

 レモンとコンパンの前にそびえる巨大車両の、ステージ様に改造されたルーフの上に立つピーニャがサイドスローで地面へとタイマーボールを投げる。はものポケモンの名のとおり両手と頭部、腹部に鋭い刃状の部位をもつコマタナが姿を現した。

「未知の標的、『むしのさざめき』!」

 初めて相対するコマタナに様子を見るのではなく素早く先手をとってレモンはコンパンに攻撃を指示した。『むしのさざめき』の直撃をコマタナは受けるが致命的ダメージにはならなかったようで、刃状の両手をすり合わせて不敵な姿勢を見せる。

「うっそ余裕げ!?」

 当てが外れたようにレモンが驚きを口にする。あくタイプにむし技で弱点をついたつもりだったが、はがねタイプとの複合であるコマタナにはむしタイプの技は耐性によって相殺され大きなダメージにはならないことを知らないためだった。

「勉強不足だね! 学校に戻って補習でも受けなよ!」

 挑発の言葉を口にしながらピーニャが指示を出すとコマタナが両腕を広げてコンパンに接近する。

「『つばめがえし』!」

 コマタナがコンパンへ腕の刃の側面を翼に見立てて激しく打ちつける。やられこそしなかったが弱点を突かれ大ダメージを負ったのは否めない。それでもレモンはコンパンを果敢に戦わせる。

「『アシッドボム』!」

 コマタナへの反撃にレモンが指示した技は、しかしまともに直撃を受けたにも関わらずダメージを負ったような反応が一切見受けられず、なぜ、と頭の中で自問自答したところでレモンは気づくのだった。

「はがねタイプかっ!」

「やっぱり勉強不足だねっ!」

 コマタナのタイプを把握していないことを再度揶揄しながらピーニャは手を振りかざし、コマタナは二度目の『つばめがえし』をコンパンにくらわせた。

「んんんっ!」

 自らの知識不足が招いた命令ミスに、忸怩たる思いが叫びとなって表れたレモンだったが、しかしコンパンはときどき全身を細かく震わせながらも再起不能に陥ることだけは耐え、コマタナを見据え続けていた。

「やれるの!? コンパン」

「フリィ……フリャ!」

「よし……いこう」

 レモンは決断し、コンパンを交代することなく依然としてコマタナとの戦闘を継続することにした。

「やせ我慢はよくないと思うけどな……それだけコンパンが君を信頼してるってことか。でも、だからといって容赦はしないよ! ついてこれなきゃ正直、あくの餌食(えじき)! 畳みかけるよコマタナ『つじぎり』!」

 ピーニャの命令を受けるとコマタナは刃様の両腕を“×”の字に構えながら駆け、接近したところで右腕を払いのけるような動作でもってコンパンに横一文字に斬りつける。スピーディーかつ鋭いその技はコンパンに決定的なダメージを与えたが、

「おねがい『むしのさざめき』!」

 祈るようなレモンのその指示にコンパンは応え、半ば倒れながらもこれを放ち、二度目のさざめきを受けてコマタナも疲れを見せ始める。

「休んでコンパン、キミのおかげでタイプは把握できた……あとは一気にいく!」

 コンパンをボールに戻しながら、せっかちげにもう片方の手で既に持っていたボールを投げて次のポケモンのアママイコを出す。

「あく・はがねに『ローキック』は、よう効っく! ……このパンチラインはいまひとつだな……。アママイコ、やっちゃって!」

 アママイコにとっても弱点になる『つばめがえし』を警戒して、レモンは即座に指示を出した。しなやかでパワフルな脚力による踏み込みからアママイコはコマタナの目の前まで一気に距離を詰め『ローキック』を食らわせ、先の『むしのさざめき』のダメージもあってコマタナは膝をつき、アママイコの前に倒れ伏した。

「戻ってコマタナ! ……知識はまだまだでもポケモンはきちんと育ててるようだね。よっ、……と!」

 

 手持ちを戻し、巨大車両を飛び降り地面に足を着けると、ピーニャはヘッドホンをかけ直す仕草をしながら車を見上げ狡猾そうな笑みを浮かべた。

「敷かれたレールなんて走らない、とっておきの悪の華! キミの出番だぜ、セギン・スターモービル!」

「ブロロロロロロッ!!」

 突如としてピーニャの横の巨大車両から、エンジン音とは別の、声のような異音が高鳴りを上げた。その唸りを前にレモンは、無機質な巨体から感じるものとは別の、生命をもつ者としての存在感を車両から感じとった。

「まさか……そいつもポケモン、なの?」

「そうさ! スターモービルはみんなで作り上げた改造車に、動力としてブロロンとブロロロームたちを搭載した、いわば改造ライドポケモン!」

「なんですって!? 確かにブロロロームに似てるとは思いましたが……ライドポケモンの改造はれっきとした校則違反ですよ……だぜ!」

「不登校集団に校則違反を説かれてもね……」

「ポケモンがかわいそう!」

「ウチはあく組でも悪の組織じゃないよ! 無理矢理になんてやらせないさ。ちゃんとしたパートナーシップあってこそのポケモントレーナーだろう?」

「ならばよし!」

「いいのかよ!?」

 大きくうなずくレモンに、漏れ出たクラベルのすがたを取り繕いながらネルケがネルケらしいツッコミを入れると、お返しとばかりにレモンはにっこり笑う。

「とっておきはこっちにだってあるもんね!」

 そう言って意気揚々と取り出したのはテラスタルオーブ。それを構えてアママイコに向かって大振りで投げ込む。

「超強化『ローキック』をくらえー!」

「まままーま!」

 かくとうテラスタルの輝きをまとったアママイコがムチのようにしなったかのような柔らかくも力強い足運びで颯爽と右足を振り抜き、車のヘッドライト部分にあたる箇所に搭載されているスピーカーを激しく蹴りつけた。

「ブオォォ!」

「テラスタル状態で弱点を突かれるのはマズいな……『きんぞくおん』!」

 アママイコが蹴りをくらわせた箇所以外の、スターモービルの各所に搭載されたスピーカーから不快な高音が鳴り響き、アママイコもレモンもネルケまでも苦悶の顔で自らの左右の耳を両手でかばう。

「っぐあぁ~、豪快に不快!」

「身体中に搭載したスピーカーの数だけ効果が強くなってるんだ……! レモン、スピーカーをじゃんじゃん潰すんだ!」

 渋い声を絞って耳を塞いだレモンにも聞こえるよう大声でネルケがアドバイスをすると、ヘッドホンで両耳をしっかりガードしているピーニャは余裕のある笑みでその作戦を妨げにかかる。

「やられる前に『バークアウト』さ!」

「ヴオオオオオオオンッ!!」

 『きんぞくおん』とは異なる、低音の威圧感甚だしい破裂音が続いてアママイコにのしかかる。

「あく技はかくとうタイプには不向き! ……でも、これは……」

 テラスタルで一時的にかくとうタイプとなったアママイコだが、本来であれば通りの悪いあくタイプの技に、過剰に不快そうな反応を示していた。

「さっきの強烈な『きんぞくおん』で、いまひとつな技も受けるダメージが増してるんだ!」

 ネルケの指摘にレモンは大いに納得し首を数度縦に振る。身をもって体感したあの『きんぞくおん』の余韻がレモンの体に未だ響いていたためだ。

「こらえてアママイコ! スピーカーを壊して!」

「まま……ままーっ!」

 うるさいんだよっ! とばかりに怒りのこもった声を上げて『バークアウト』のダメージをじりじりと受け続けながらもアママイコが渾身の蹴りを放ち、今度はもう一方のヘッドライト部に付いたスピーカーを、なぎ倒すようにスターモービルからキックの威力でもぎり落とした。

 続けて怒りに身を任せて本能的に身体を素早く動かしたアママイコはスターモービルの右側面に回り込み、大きくせり出した3ウェイ式の大型スピーカーの横に取り付けられた、ジェットエンジンのような形をしたふたつの巨大スピーカーを、跳び跳ねて思いきり蹴りつける。

「ブロロロン……ッ!」

 明らかに痛みを訴えるブロロロームの叫び声に一転、アママイコはそれを聞いて歓喜しながらレモンを喜ばせようともう一度同じ場所に容赦なく蹴りを放った。ジェットエンジン型スピーカーがはっきりと凹み、隣の3ウェイスピーカーからもノイズが時おり漏れ出てくる。スピーカーの機能不全と大ダメージをスターモービルにもたらしたアママイコは得意気に胸を張ってレモンの方へ向き直った。

「スピーカー壊してとは言ったけど、そんなにガシガシ蹴り飛ばしちゃうのはすごいなあ……」

「なんと凶暴なアママイコなんでしょう……」

 アママイコの思いの外の暴れぶりにレモンはぽかんと口を開け、ネルケも素の反応と圧巻の声を漏らした。その激しい戦いぶりに、ピーニャも焦りを見せながらスターモービルに反撃の指示をする。

「ひるませるんだっ! 『きんぞくおん』!」

「……まっ!」

 初擊と同じように『きんぞくおん』に不快を示したアママイコではあったが、破損・不調状態と化したスピーカーも数個あり、その効果は先程までと比べて明らかに落ちていた。ひるむことなくスターモービルのルーフに跳び乗ったアママイコは、円形ステージの側面に設置されたスピーカーを『ローキック』で破壊しにかかる。

「ブロロォォ~ン! ブロォォ~ン!」

 何度も弱点を突かれ、もはや泣き声のように鳴くブロロロームからアママイコを離れさせようとピーニャは懸命に打開策を指示する。

「振り落とせっ! 『ダークアクセル』!」

 ピーニャが指示した聞きなれない技にレモンの緊張が高まる。次の瞬間にはスターモービルが巨体を小刻みに揺らしながらエンジンを吹かせ、騒々しい音とともに周囲を暴れるように走り出した。それによって生じる大きく、不規則な揺れでもってアママイコをスターモービルから落とそうと画策するピーニャだったが、アママイコはバランスをとりながら耐える。

「ブロロローム、もっとトバして……あっ!」

 アママイコを振り落とすべくスピードを上げるよう進言しようとしたピーニャはあることに気づき愕然とする。

「『ローキック』……!」

 アママイコの執拗な『ローキック』の効果によって単純なダメージだけでなく、スターモービルの素早さにまで影響を及ぼしていることを察したのだ。すでにスターモービルは本来の力を発揮して『ダークアクセル』を行うほどの体力と性能を有していなかった。

 やがてスターモービルの走りに勢いがなくなり始めると、途端にアママイコは攻勢に転じ、踏みつけるように『ローキック』を足下に放ち、ブロロロームの悶絶の声が響く。

「まいっ!」

 動きを止めたスターモービルの前方へ飛び降り着地すると、アママイコはスターモービルの正面に鎮座するブロロロームに狙いをつけ、勝ち誇ったように短く笑ってからとどめの『ローキック』を打ち込んだ。

「ぶ……おぉ~……」

 衝撃音の後に、か細いブロロロームの嘆息が聞こえ、スターモービルはその活動を完全に停止した。アママイコが蹴りをくらわせたスピーカーの数個からは細い煙も立ち上っており、その光景から、ピーニャの切り札の敗北はその場の誰から見ても明白なものだった。

 

「まあ、こんなものかな……」

 

 敗北を認めたピーニャは無念げな表情を浮かべつつもどこか納得もしているような、悔いと満足とが入り交じった、爽やかな悲哀を含んだ言葉を口にして、肩を落とした。

 

 

 

(つづく)

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