ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!! 作:ストレンジ.
ボスであるピーニャの敗北によって周囲の下っぱたちに大きな動揺が広がるなか、当のピーニャはいたって冷静に、レモンに近づき言葉を交わす。
「やれることは、じゅうぶんやったよねえ……自分で作った掟だし、潔く団を去るよ」
「団を去る」という言葉に敏感に反応した周りの下っぱたちによる更なるざわめきが場を騒々しくさせるなか、ピーニャは懐からなにかを取り出すとレモンにそれを差し出した。
「ボスの証のダンバッジ。持ってればボクを倒した証明になるっしょ? ……貰ってくれる?」
「いいけど……それって大切なものなんじゃないの?」
差し出されたバッジを前にレモンはそれがピーニャ、スター団のボスにとって証以上の物であるような気がして、わずかにためらいを見せる。
「大切だけど……だからこそ、ね。けじめだよ。掟はきちんと守りたい」
そう言って力のない笑顔を向けるピーニャにレモンは一抹の悔いのようなものを胸に感じたが、それに浸る間もなくネルケがふたりの間に入ってくる。
「どうしてそんなにスター団にこだわる?」
「おっと、気合いの入った髪型の相棒くん……ネルケ a.k.a “ハレーション・カーネーション”、だっけ」
「ああ、好きな方で呼んでくれ。……ボスをはじめ、それにつき従ってる他のスター団……あんたたちは、もう1年以上は登校拒否を続けていると聞く。アカデミーからの勧告は知っているはずだ。このままだとあんたたち全員、近い将来退学処分になる……ストレートに聞こう、なぜアカデミーに行かないんだ?」
「そうだね……ひとつ、ボクらはツレを待ってる……帰ってくるかは、わかんないけど……。ふたつ、登校すれば退学処分は避けられるかもだけど、スター団の解散は確実……ツレが戻るまで、団は解散させられない」
半壊したスターモービルから傷ついたブロロンとブロロロームをボールに戻しながらピーニャは淡々と述べた。
「ツレ……何者なんだ、そいつもスター団のボスか?」
「団の創設者さ。ボクらは『マジボス』って呼んでる」
「スター団の創設者……! そいつは今、どこにいるんだ?」
「それがわかれば苦労しないよ。っていうか、だから団を解散するわけにはいかないんだ。もう1年半は連絡つかないけど、団が存続していればいつか戻ってくるかもしれない……ボクらがアカデミーに行くとしたら、それはマジボスが戻ってきて、みんなが揃ったら、さ。でも先生たちは団やめろってうっさいし、キミらみたいなのまで出てくるし……キミたちは先生の差し金かい?」
「違うよ! 差し金ではあるけど……誰のかは言えない! ……誰なのか知らないんだけど」
「? ……まあ、なんにせよボクのパーティーはジ・エンド。だからといって、今言ったように学校へは行かないよ。他の組のボスたちの誰かが、キミたちを返り討ちにすることを願いながら曲作りにでも励もうかな……あ、みんなは戻りたければアカデミーに戻ってもいいんだからね!」
そう言ってピーニャは周囲の、相変わらず途方にくれたままの下っぱたちににこやかにそう言い渡した。
「納得いかない人たちは他の組にでも行ってもらうとして……。復学してくれるといいなぁ。待っていてもマジボスが戻ってくるかはわからないし、それもボクらボス側のわがままみたいなものだし……」
「……不躾かもしれないが、マジボスさんとやらは、退学と天秤にかけてでも待つほどの……大切なツレなのか?」
「当たり前! アカデミー的に言うと……宝? みたいな」
「宝……スター団という不良グループの“場所”を作った存在……だからか?」
「それだよそれそれ! おおむね合ってはいるけど、その“不良”っていうのが違……今は違わないかもしれないけど、そもそもスター団っていうのは…………」
「……どうした、その続きは?」
「いや……敗北者は多くを語らず去るのみ……かな。この話はスター団の沽券に関わることでもあるからね。知りたければ他のボスから聞くことだね。話してくれるかはわからないけどさ」
「オイオイオイ……核心的なことがわかると思ったのに……」
ネルケはリーゼントを下から優しく撫で上げながら頭を下げた。スター団について調べている彼にとって有益と言える情報はそれ以上ピーニャから引き出すことはできなさそうだった。
「とにかく、“レモネード・トルネード”! ダンバッジを受け取りなよ! せいぜい次のボスに取り返されないようガンバることだね」
「うん……」
歯切れの悪そうな面持ちでレモンはピーニャから差し出されたあく組のダンバッジを受け取り、丁寧に小箱にしまう。
「ってーわけで……あく組、解散! ボクが仕切れるのはここまで!」
下っぱたちに視線を配りながら、最後にピーニャは大きく叫び宣言した。
*
三々五々に散っていったスター団たち同様、今回の作戦を終えたレモンとネルケもアジトを後にし、最寄りのポケモンセンターでポケモンたちを回復させながら腰を落ち着かせて、スマホロトム越しのカシオペアも交えてスター団について話し合っていた。
「スター団のすべてを知れたわけではないが……作戦としてはひとまず成功だな。まさか改造ポケモンが出てくるとは思いもしなかったが……。やはり組のボスだけあって一筋縄ではいかないだけの力は持っているようだ。バトルへの備えを怠るわけにはいかないな。まあレモンはジム巡りもやっているからオレが言うまでもないと思うが……どうした?」
話している最中、なにか腑に落ちない顔をしているレモンが目に入りネルケは言葉を継ぐのを止め、思わずじっと視線を注いだ。
「なんか……イメージとぜんぜん違ったなぁ、スター団……って。もっとさ、「アカデミーを潰してやるぜぇ!」的なワイルド集団かと思ってたんだけど……それにしては妙に聞き分けいいみたいだし……」
「カギはスター団を作ったという『マジボス』……だな。ボスたちには恩義であれ尊敬であれ、マジボスと強い絆があるというのがピーニャの言動から見受けられた……が、結局なところわかったのはそれくらいだな……。スター団の結成理由や、退学処分の勧告を受けてもなおマジボスの帰還を待つ、その絆の、理由というか意味というか……それがわからん」
「まずそもそもさ、悪いやつじゃなかったよね。“DJ悪事”なんて名乗ってたけど、アカデミーにちょっかい出すようなタイプには見えなかったな……」
「アカデミーへの登校を拒否しているわけだからな……カシオペアさんよ、あんた、スター団の元関係者なんだよな」
少しだけ鋭い目をして、ネルケがレモンのスマホロトムへと目線を移す。
「スター団の内情について……知ってること、あるんじゃないか?」
「『…………』」
しばしの沈黙。その無言の間に、レモンもネルケもカシオペアの気配をスマホロトムからありありと感じた。
「『……知っていないとは言えないが……言えることは、ない。やはりスター団のボスたちから直接聞き出すことが懸命だろう』」
「それは、『知っているが言えない』……と受け取っていいよな? ……いろいろ、きな臭いことになってきたな」
「『……少なくとも、わたしは、君たちの味方だ……』」
「……そうか。まあ、そうだな。オレはともかく、レモンにスター団潰しをさせといて、実は敵でしたというのも妙な話だし、どのみちスターダスト大作戦は果たされる。油断は禁物だがレモンは強いし、スター団について知りたいという自分の目的のために、必要とあればオレもボスと戦う気概は持っているつもりだ……いずれは、すべてがわかるだろうさ」
「『ああ……そうなることを祈っている』」
カシオペアがそう言ったところでレモンは手当ての終わったポケモンたちの入ったボールを受け取り、場の空気が拡散していく。
「じゃあオレはこの辺でおさらばさせてもらうぜ。レモン、次のカチコミのときもまた連絡ヨロシクな」
そう言うとネルケは返事も待たずにボールからモトトカゲを出し、颯爽とライドし去っていってしまった。
「『ではレモン、こちらも連絡を終える……前に、約束どおり報酬を渡そう。ひとつはこれだ』」
カシオペアのその言葉とは別に、レモンのスマホから短いデジタル音が鳴る。
「『LP(リーグペイ)をいくらかチャージしておいた。今後の活動に役立ててくれ』」
「うえっ、マジで!? ありがとう! 助かる!」
「『それにもうひとつ、こっちは補給班に届けさせよう。そのままそこで待ってもらえるだろうか?』」
「えっ、いいよ。今日はカチコミ以外の予定も決めてなかったし」
「『助かる……では、わたしはこれで。今日はありがとう、次からもよろしく頼む』」
「あっ、……という間に切れちゃった」
ネルケ同様、カシオペアも別れを告げるとすぐに通話が終了しスマホロトムがレモンの懐へと戻っていく。
「うわぁ~お、5000LPも貰っちゃったよ……」
カシオペアからの報酬を確認して、スター団という存在にもやもやしたものを感じつつも、その額にひとり驚くレモンだった。
*
それからしばらくも待たないうちに道の向こうから、見知った姿がレモンへと徐々に近づいて来るのが見え、20mほどまで近づくとそこから小走りになってこちらへ向かってくる人物に対して、迎え入れるようにレモンは手を上げた。
「どーも……」
「ボタンじゃん。そっか、ボタン補給班だって言ってたもんね」
「うん。で、これが……カシオペアからの追加の報酬」
ボタンがイーブイバックを背中から下ろし、中を開けて報酬を取り出す。それは容器やパックに収められた、なにかのキバや毛や液体などだった。
「いろんなポケモンの落とし物セット……。わざマシン作りに役立てて……ってカシオペアが」
「おーっ、サンクス! 集めるの大変だからありがたいや」
礼を言って、各素材の入れられた容器類を丁寧に収納しようと自らのカバンをレモンが開けると、中からいきなり丸い物体が飛び出し、レモンの額と激突した。
「いでぁっ!?」
「え!? な、なに? ……え?」
突然の痛みに驚くレモンと、まったくの予想外の出来事にやはり驚くボタンが一瞬お互いの顔を見合わせてから下を向くと、そこにはレモンがオトシドリとの戦いで拾ったポケモンのタマゴが落ちていた。それは小刻みに震えるように揺れていて、やがてその揺れはどんどん大きくなっていっていく。
「え、タマゴ……」
「こ、これって……だよね?」
見慣れないタマゴ自体にそもそもの疑問を感じるようにポケモンのタマゴを認識していくボタンに、レモンはなにか同意を求めるようにボタンの顔を見て呟いた。
そしてタマゴは揺れだけでなく強い光までも発し始め、ふたりは反射的に目をつむる。瞼越しの視界から感じる光がゆるやかに弱くなっていったのを感覚的に確認してレモンが目を開けると……
「む……むぅ~、むぅ~」
ふたりを見上げながら控えめに鳴く、いのぶたポケモンのウリムーの姿があった。
「ウリムー! ……だっ!」
「レモン……タマゴ、持ってたの?」
「まるーい! かわいーい!」
しゃがみ込んでウリムーをじっと見つめながら、そっと頭を撫でようとするとウリムーはぴょこんとジャンプしてレモンの膝の上に乗ってきた。
「懐いてるね」
「よかったー! そしてもふもふだー!」
ウリムーを腕に抱いて立ち上がりレモンは満面の笑みで頭を撫でた。
「てかウリムーなんて珍しい。パルデアには生息してないよ、確か」
「そうなんだ? うーん、あのオトシドリ、どっからタマゴ持ってきたんだろ」
疑問を短く口にしながらもレモンは実家に戻った際に渡されたサファリボールを取り出してウリムーの顔の前に近づけた。
「さて……ウリムー、どうでしょ、ひとつこの“レモネード・トルネード”の仲間になって、パルデア地方を冒険する気はないでしょーかっ?」
「むぅ?」
レモンの言葉をわかっているのかいないのか、ウリムーは眼前のサファリボールに顔を寄せて、
「お……?」
「これは……いくんか?」
口を半開きにして様子を窺うレモンとボタンに見守られるなか、ボールのスイッチをそっと鼻で押した。サファリボールが口を開け、ウリムーはその中へと吸い込まれていった。
「ウリムー、ゲットだぜっ!!」
「おめでと……」
数秒後、サファリボールを空へと掲げ歓喜するレモンと、呟くような声でそれを祝福するボタンの姿があった。