ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!! 作:ストレンジ.
スター団あく組の打倒、そしてウリムーの誕生とゲットという濃密な昼間の時間を過ごしたレモンは、いよいよといった心持ちで、夕陽が沈み夜の薄闇が顔を出し始めた空を短く眺めてから後ろを振り向いた。そこにはレモンのパートナーたち、クワッスにコンパン、アママイコ、ウリムーとミライドンがめいめいにリラックスした態度でモンスターボール外の時間をくつろいでいた。ポケモンたちのそばにはピンクのクロスを敷いた簡素なテーブルと椅子のピクニックセット、その少し横には一人用の小さなテントが設営されており、宝探しが始まって初の、というより人生で初の野宿にレモンは胸をときめかせていた。
しばらく自由にたわむれるポケモンたちを眺めてから、レモンはウリムー以外の手持ちたちをボールに戻してウリムーをテントへ招く。テントの中でウリムーと向き合ったレモンは目尻の下がった細い目を見つめながら微笑み、語りかけるように呟く。
「生まれたばかりだから慎重に育てないとね……いったん戻るのもいいのかなー」
一度アカデミーへ戻り、別れたネモが向かった東門からのルートをたどりながらウリムーを育てることを検討する。
東側にもセルクルタウン同様アカデミーを出て近くにジムのある『ボウルタウン』があり、またスター団『ほのお組』のアジトも近くにあることをレモンはマップアプリで確かめると気持ちを固め、ウリムーに意識を戻す。
「よし、明日は戻って修行だウリムー!」
「むぅ」
「ガケガニと戦ったところとか、いろんなポケモンいたし、ビビっとくる子とも会えるかもなー。で、鍛えたらジムとカチコミだね!」
「むぅ?」
「ま、無理にバトらせたりとかはしないから。ゆっくりでも確実に強くなってこう!」
コミュニケーションをとってからウリムーと並んで横になって眠りに入り、レモンの宝探し2日目は終わっていった。
*
明くる日の朝。レモンが学校へ向けてミライドンを走らせ始めた頃、グレープアカデミーではあるひとりの教員が職員室の扉を気だるげな面持ちとやや緩慢な動きで開け、校長室へと足を向けた。
「失礼する。用事はなんだろうか」
「レホール先生……昨日、予定にない課外授業を急遽行ったそうですね。生徒たちになにか探し物をさせたとか……」
「ふむ、話した者がいたか。まあ
グレープアカデミーで歴史を担当する教師、レホールはクラベルの物言いたげな追及の眼差しの前でも平静さを崩すことなく、事も無げにそう言った。
「……なぜそんなことを。そのような予定外の、しかも生徒を巻き込んだ行動が私に知られれば、あなたにとって面倒な事態になることはわかっておられるはずでしょう……」
「好奇心が睡眠不足の鈍った脳と結託してしまってな。
偽りのない悔恨の念を表明しつつも自信に満ちた、揺るぎのない眼差しを眼鏡越しに自分へと向けるレホールに、クラベルは呆れと、それでもアカデミーの長としての立場を果たすための義務感とを彼女へ注ぐ視線に交え、口を開く。
「あなたの好奇心にはつねづね危ういものを感じてはいますが、それでも自己の探求心を生徒たちを導くためにフィードバックし、豊かな知識を与えることのできるひとりの立派な教師であると、このクラベルは評価していますよ。ですから謝罪は無用ですから、出すぎた行動は控えていただいて慎みと倫理感を持った誠実ある振る舞いをですね……」
とくとくと言い聞かせるクラベルを前にレホールは話を耳に入れながらも、相手に気づかれないようにうっすらと面白いものを見る目で校長を窺っていた。
「校長のおっしゃること、実に然りだ。だが時として押さえきれない既知への欲求が、この身に衝動を宿し、その情のままに成すべきを成せとささやくのだ……ましてや、事を進めるのに役立ちそうなカードを偶然得たときなどは特に」
そう言うと怪しげな微笑でレホールはスマホロトムを出し画面を見せる。そこにはアカデミーの女子生徒と話をしている風の様子の、ブロンドの猛々しいリーゼント頭が目立つ、眼鏡をかけた男性生徒の姿が写っていた。
「なっ……んですか、これは? この生徒たちがなにか?」
「クク……取り繕わなくともいい。いっしょにいた女生徒の目は欺けても、この半端に古びたヘアースタイルの主が目の前のご老人であることは大半のアカデミー関係者には一目瞭然。正直なところ事情はまったく見えてこないが、変装をしているということは身元がバレては不都合が生じるというわけだ」
「これを撮るために予定にない課外授業を行ったのですか!?」
「とんでもない。先ほど言ったろう、偶然だ、とね。しかしワタシにとってはまたとない手助けとなり得る発見だ……」
ネルケの姿を看破され狼狽するクラベルに、レホールは努めて冷静に彼の目を見て事務報告でもするように淡々と簡潔に述べた。
「単刀直入に言う。この姿を
「あなたの……宝探し、ですって?」
クラベルはマメパトが『タネマシンガン』を食らったような顔でレホールの言葉の意図を汲みかね、大いに訝しんだ。
「ここ数ヶ月に渡って調べていたことが実を結びそうでね……資料に当たるだけでなく実地調査をする必要が出てきた段階に差しかかったのだ。仕事をないがしろにしようというわけでもない。授業や会議のないときなど、業務中の空き時間にパルデアを散策することを黙認してもらえればそれで良いのだ」
「いったいなにを調べるつもりなのですか」
「ククク……空振りに終わるとも限らないのでね。今は伏せさせてもらおう。だが好ましい進展があれば教えるにやぶさかではない……どうだ、簡単なことだろう? 授業を放棄することは断じてしないし、万が一あれば厳重な処罰を甘んじて受ける覚悟もできている」
仕事中の空き時間の融通を提案するレホールの目の輝きに警戒を覚えつつも、クラベル校長はネルケとしての自身の目的の遂行のためにも余計な波風を立てたくなかった、その思いを短いため息に乗せてから彼女への返答の言葉を紡いだ。
「……ひとまずは容認しましょう。どうか、この選択を私に後悔させない振る舞いをなさるよう……」
「もちろんだ。感謝する。なに、悪いことではない。むしろワタシの宝探しが実を結べば古来の偉大な側面がパルデア史に刻まれるのだ。アカデミーにとっても大いなる知見の発見となるだろう」
「すべてを信用する気にはなれませんが、くれぐれも常識の範疇で頼みますよ……!」
「ククク、当然だ。ご老人の方こそ、タイム女史にバレては困るだろう? お互い内密かつ穏便に事を進めていこうではないか」
明らかにならない思惑に包まれ核心の見えないレホールの言動に、恐れと警戒の色を隠さないながらもクラベルは彼女に隙間時間の行動の自由を与える旨を約束した。それは好奇心を満たすために法規や倫理を
*
そんな校長の心中を知ってか知らずか、いずれにせよレホールは数十分後にはいつもよりやや清々しい気分で担当の歴史の授業を生徒たちに行っていた。
「貴様たちのなかにはまだ宝探しの目的が定まってない者もいることだろう。だが目的などというものはあちこち躍起になって探してもすぐに見つかるようなものでもない。見つからないなら、見つからないなりの時間を過ごすことが肝要だ。とかく昨今は最短で効率よく学びを得るだとかタイムパフォーマンスを重視したライフスタイルがどうだと
授業が終わり、教室を後にして廊下を並んで歩く2名の女子生徒が顔を上気させて話し合っている。
「今日のレホ様、なんだかアツかったわね」
「嬉しいことがあったのかしら。睡眠不足でダルそうな目つきはいつもどおりなのに、身体全体で私たち生徒に訴えかけるような圧を強烈に感じたわ」
「わかる~。あの焦点が定まってないと見せかけて射抜くような鋭い目つきに……囚われちゃう!」
「昨日の臨時の課外授業でも周りを鋭く見てなにかを探していた姿を間近で見れたし、今週はレホ様成分がたっぷり摂取できてるわね~!」
「ね~! レホ様がいつも元気でありますように。睡眠をしっかりとって、でもあのちょっぴり乱暴な目つきはそのままでありますように!」
「レホ様がいつも幸せでありますように……」
女子生徒たちは恋する乙女のような表情で前方斜めの天井を見上げながら両手を合わせて祈りを捧げた。
レホール先生をいい感じに暴れさせたい(願望)