ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!! 作:ストレンジ.
ボウルタウンに到着したレモンはさっそくジムへと向かおうとする。花と芸術の町とだけあって道中では様々な作品が置かれ、各所に点在する花壇には溢れるほどの花が咲き誇る。本能的に美を感じ取れる花という存在と、そもそも美とはなにかという思考を呼び起こさせる彫刻作品群のふたつが織りなす町を朝の太陽が鮮やかに彩っている。
「『投げやりのキマワリ』……かぁ」
レモンは少しだけ足を止め道の途中に建っているたいようポケモン、キマワリを模した彫刻作品を眺めた。目を閉じ、起きぬけに朝の日射しを眠たげに浴びている姿のようにレモンには見えた。前方の左右に花壇が設けられた三方に伸びる階段を上った先にも同じような形のキマワリの姿が見える。階段を上れば巨大な建物があり、その上には風車が見える。右手を見ればジム……の手前にプールを備えた広場があるなど、目を引く施設がたくさんある。のんびりと見て回りたい気持ちをこらえつつ、レモンは足に力を込めてジム目指して歩く。
入り口の自動ドアを通りボウルジムへと入ると、レモンの目がアカデミーでよく見る人物の姿を捉えた。美術の授業を担当している教師、ハッサクだった。受付で職員となにやら話をしていたらしきハッサクも自動ドアが開いたタイミングでそちらを見てレモンに気がつき少しだけハッとしたような反応を見せてから数歩近づきレモンに話しかけた。
「レモンくんじゃないですか。ボウルジムに挑戦ですか?」
「おはようございます。そうですよー、先生はなんでここに?」
「小生は本日は午前の授業はありませんから、今後の授業の打ち合わせに……詳細を話してしまってはネタバレというやつですから細かいことは言いませんが、そういった用事でここにいるのですよ」
「授業の打ち合わせ……ボウルタウンで課外授業でもするんですか?」
「ふふふ、ボウルタウンに関係はありますが、違います。答えが知りたければ授業を受けてください、ということで、小生はコルさんとお話があるのでこれで。レモンくんもコルさんに用があるでしょうが、まずはジムテストを頑張ってくださいですよ」
コルさんというのはボウルジムリーダーのコルサのことだろう。レモンは挨拶を終えて離れていくハッサクの後ろ姿を見やりつつ、ジムテストを受けに来たであろうこちらを意識して笑顔で迎え入れる準備を整えた職員の元まで歩いて受付の前に立ち、所用を告げる。
「それではレモンさん、さっそくジムテストをお受けになりますか?」
「イエス! お願いします!」
「よろしい! ではボウルタウンの象徴的存在でもある『投げやりのキマワリ』のモデル、キマワリにまつわるジムテストをレモンさんには挑戦してもらいます。その名も『キマワリ集め』!」
白い歯を見せて受付職員がそう告げる。町中にあるらしき『投げやりのキマワリ』をすべて探し出してその数を答えるような内容だろうか、レモンは胸をうずうずさせながら受付の説明を待つ。
「ジムテストの詳細は、ここを出てすぐ右にあるキマワリ広場にいるお姉さんに聞いてね! それじゃあ頑張ってください!」
どうやらテストを受ける現地で説明を聞くものらしく、受付のお姉さんは激励の言葉をレモンにかけてジムチャレンジの登録が完了したことを示した。
さっそくボウルジムを出たレモンは言葉のとおり右を向くと、囲いのある広場が目に入りそこへ行く。広場の入り口の両端には町に入ってすぐに見かけたものよりも大きなサイズの『投げやりのキマワリ』が飾られており、すぐ近くにはジムテストの係員らしき女性が立っていた。
「ジムテストってここでいいんですか?」
「はいはい、挑戦者の方ね! ちょっと待ってね……はい、確認取れました! レモンさんね」
係員のお姉さんがスマホロトムを取り出してなにかを確認するとレモンの名を呼び、テストの説明を始める。
「ここボウルタウンは芸術の町……作品のモチーフとなる自然や、自然を育む太陽に感謝しており、どちらの要素も持っているキマワリを集めて、もてなす風習があるの」
係員のお姉さんがそう言いながら広場に集まっているたくさんのキマワリたちをレモンに紹介する。キマワリたちは広場をうろうろしたりその場に座っていたり、レモンをじっと見たりと、一様にのんびりとしている。
「レモンさんには、これから広場にいるキマワリたちに町中に散らばってもらって、みんなを捕まえてもらうわ! キマワリたちを10匹、集めることができたらここへ戻ってきてね。制限時間内に連れてくることができたらテスト合格よ。わかったかしら?」
「OKです! いつでもどうぞ!」
「じゃあさっそく始めてもらおうかしら……それじゃあみんなー、散らばってー!」
「キマキィ?」
「キーマーキー!」
お姉さんの呼びかけに従って広場のキマワリたちは次から次へと外へ出てボウルタウン中へ走って散らばっていった。1分ほど待ってからお姉さんがレモンを見て開始の合図をする。
「それじゃあキマワリ集め開始! いってらっしゃい!」
「ラジャー!」
元気に受け応えてレモンは小走りで広場を後にしてキマワリを探しに出掛ける。
*
張り切って駆け出したレモンはしかし、広場からほとんど離れていない町の往来で佇んだり、のんきに座り込んでいるキマワリの姿をさっそく数匹見つけた。
レモンは後ろからこっそり近づいていくがキマワリは慌てて逃げるようすもなく、目の前まで来たところで優しく抱え上げる。
「キーマー」
「うーん、1匹目はあっさりだあ……じゃあついてきてくれる?」
「キマー!」
抵抗する様子もなくレモンに従い、最初のキマワリはレモンの後ろを従順についていく。すぐ近くにいたもう1匹にも話しかけると、こちらのキマワリも笑顔で応えて同様に後ろをついてくるようになった。
「んー、素直についてきてくれるなぁ……これだったらすぐに10匹集まると思うんだけど、ジムテストだしそんことない……よなぁ」
従順な2匹のキマワリに疑問を持ちつつもレモンは町を走る。風車のある大きな建物の前でまたしても2匹のキマワリを見つけ、やはり1匹はアイコンタクトでついてくるようになり、もう1匹目にもついてくるよう目線で促そうと目を合わせた途端、そのキマワリは背中を見せて一目散に逃げ出した。今までにない行動にレモンはなにが起きたかわからなくなり呆然としてしまう。
「……っあ、そりゃ逃げるのもいるよねテストだもんねー! 待てー!」
我に返り慌てて逃げたキマワリを追いかけるも、レモンとはかなりの距離があるうえ逃げ足も速く、どんどん離されていく。
追走劇の途中で他のキマワリが視界に入ってくる。レモンは追いかけるのを止め、新たなキマワリを捕まえようと近づいていく。逃げられる恐れを考えてこっそり近寄ろうとしたものの、すでに気づかれているようだったので『こうそくいどう』で追いかける心の準備をしながら堂々とキマワリに歩み寄っていく。
「キ……キマーッ!」
数歩前まで近づいたところでキマワリが吠え、こちらを警戒する構えをとった。
「うぉっと!?」
レモンはキマワリから放たれた『はっぱカッター』をすんでのところで咄嗟にしゃがんで避けた。逃げる個体もいれば戦う個体もいるようだ。
「ヤミカラス!」
「クァーッ!」
その気ならばとダークボールを投げてヤミカラスを出して応戦する。『つばさでうつ』を命じキマワリにヒットさせると、少し怯んだ後そろそろとレモンの後ろに控えるキマワリたちに合流した。
「うぉっ、態度変えるの早いねキミ……」
若干面食らいながらも素直に受け入れ、残り6匹のキマワリを捕まえるためのに町中を巡っていく。
やがて闇雲にボウルタウン中をキマワリ求めて走り回っていたレモンの背後にも9匹のキマワリがぞろぞろとついて回るようになり、生け垣で作られた巨大迷路、迷宮アスレチック内で最後の1匹を見つけて手なずけ、大所帯で広場まで戻り係員のお姉さんにテストの完了を報告する。
「おめでとう、合格ね。ジムの方へ連絡しておくから、準備が整ったらジムリーダー戦に挑戦できるわよ。がんばって!」
「ありがとうございましたー!」
元気よく返事をしてお姉さんとキマワリたちと別れ、いよいよ目的のジムリーダーとの戦いを始めるべく再びジムを訪ね、受付の職員に確認をとる。
「ジムテストの合格の通知は受けています。レモンさん、さっそくジムリーダーに挑みますか?」
「お願いします!」
「それではバトルコートに案内しますね」
ジムを出て職員の後をついていく。その背中を見ながら、レモンはキマワリ集めで自分の後ろについてきたキマワリたちが頭に浮かぶ。町の中央の風車がそびえる大きな建物へ誘導され、半円形の階段を上っていくとそこがバトルコートだった。観戦者用の外野の外周には花壇が設置され花が敷き詰められんばかりに咲いている。ここを真上から見ればさぞ
コートに立ち、コルサが来るまでの時間を持て余すところですでにいた観客のひとりがレモンに近寄り話しかけてきた。ハッサク先生であった。
「ジムテストは滞りなく完了したようですね」
「ハッサク先生!」
「いよいよですね。コルさんは大切な友人ですが、アカデミーの教師として生徒であるレモンくんをちょっとばかり
両手を握り快活な笑顔を浮かべたハッサクの応援を受けてレモンが身を引き締め直すように顔を上げ空を見ると、風車が止まっていることに気がつき、しかもその羽の1枚の上に人誰かが立っているのが目に入った。
「あ、あれは!?」
「はい? ……ははは」
風車を指差し驚くレモンの視線の先につられて振り向いたハッサクは既知の趣を感じさせる余裕のある小さな笑いを発し、風車の上の彼を悠然と眺めた。
「気づいたか、挑戦者よ! とおっ!」
レモンが自分に気づいたのを合図に風車の上の主は短いかけ声ひとつに風車からためらいなく大ジャンプをし、コート内に降り立った。
「活力に溢れてるようでなによりですよ、コルさん。しかし気をつけてくださいよ」
「うむ、問題ない。ハッさんとの共同製作の話も滞りなく進んで今日は気分が優れているのでな!」
「仲良し……」
勝手知ったる調子で言葉を交わしたコルサとハッサクを交互に見ながらレモンは事態が進むのを待っていた。
「さて、挑戦者の……レモンだったな! うむ、思春期真っ盛りの青臭くも瑞々しい名だ! ワタシはコルサ、くさポケモン専門の芸術家、無論ボウルジムのジムリーダーでもある。例の宝探しとやらで、このボウルも思春期どもの活気で新たな風が吹き始めた……が、世界にインスピレーションを与えられるほどの器というのはいつの時代もごくわずかにしかいないものだ。キサマはその器足り得るか……」
そこまで言って不敵に、というよりもあまり光のない瞳と目の下にくっきりと彫られたクマのせいで邪悪とも受け取れる危うげな笑みをコルサはレモンに向けた。
「確かめさせてもらう! 成形開始だ!」
バトル開始の合図を叫んだコルサが振り返ってコートの片側の外野に走って向かう。レモンもそれに合わせてもう一方の外野に向かって走りだし、ハッサクもやや慌ててがに股気味の早足で観戦スペースへ駆けていく。
「芸術とは破壊と創造! 養分にならぬよう、あがくことだ!」
コルサがモンスターボールを手に取り構える。レモンもすかさず腰に手を伸ばし、彼女にとってふたつ目のジム戦の幕を上げるべく、ボールを握った。