ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!! 作:ストレンジ.
ハッサクを始めとした観戦者たちに見守られながらコルサはねっこポケモンのチュリネ、レモンは仲間になったばかりのヤミカラスをそれぞれ先陣として登場させた。
「バトルという合作……共に完成まで導いていくぞ! チュリネ、『あまえる』!」
コルサの指示に従ったチュリネが有無を言わさぬ勢いでヤミカラスに接近し、親しげに身体を押しつける。バトル中とはわかっていてもこの技の前に大抵のポケモンは困惑し、攻撃性を抑制されてしまう。それはヤミカラスも例外ではない。
「ヤミカラス、ためらわず『つばさでうつ』!」
「ク……ァーッ!」
動きにわずかな淀みを生じつつもヤミカラスは目の前のチュリネに向かって翼を払い、打ちつけた。コルサの数歩前の所までチュリネはコート奥へ吹っ飛んでいったものの、身体を起こして戦闘を続ける姿勢を見せた。『あまえる』が効を奏したか、弱点は突かれたものの再起不能に陥るのは免れたようだ。
「創作とは見果てぬ境地へ至るための律動の粘り強い持続! 『メガドレイン』を見舞え!」
ヤミカラスを油断なく睨みながらチュリネが意識を集中するとヤミカラスの身体が薄緑色の光に包まれ、その光は小さな束となってチュリネの元へ向かっていく。
ダメージも去ることながら、その体力を奪われていく感覚に不気味な心地を覚えながらもヤミカラスは二の手の指示を受けて『ナイトヘッド』を放ち、さらに再び『つばさでうつ』ために、直後に右側に膨らむような軌道でチュリネに飛びかからんと低空を駆ける。
ヤミカラスの仕掛けたふたつの技、どちらも避けるのは困難という状況のなか、翼の一撃を貰うよりは『ナイトヘッド』を受けるが安しと判断したコルサは、チュリネをヤミカラスの動きだけに集中させて回避を促す。鋭い動きをすんでのところで避けたチュリネに半ば覚悟していたとおりに『ナイトヘッド』がヒットし、チュリネへのダメージが蓄積するが、反撃に転じ繰り出された二度目の『メガドレイン』がその傷を和らげながらヤミカラスを蝕んでいく。
「傷み、癒す……鮮烈な表現で、ときに心を裂き、ときに感銘を与えるこの
挑むように言葉を投げかけ、コルサはレモンとヤミカラスの次の動きを楽しそうに待つ。
「中途半端な攻撃がダメなら動きを止める! ヤミカラス、しっかり『あやしいひかり』!」
「むっ……『ねをはる』のだ、チュリネ!」
命令を聞いたヤミカラスが放った『あやしいひかり』が命中する前にコルサは実に素早い判断でチュリネに『ねをはる』を命じ、果たしてそれは不可思議な光がチュリネに影響を及ぼす前に繰り出すことに成功した。地面から離れた動きが一切できなくなる代わりに持続的な回復を可能にする技だ。
「臆するなチュリネ、『メガドレイン』!」
「ぴゅいぃ!?」
『あやしいひかり』の影響を受けながらも主人の命令を実行に移し、ふらつきながらチュリネはみたび『メガドレイン』をヤミカラスに仕掛ける。
「突っ込めー!」
「クアアアーッ!」
ふらつきによる少しの間を突いてレモンはヤミカラスに突撃を敢行させる。ヤミカラスは『メガドレイン』を食らいながらチュリネに果敢に接近し、もう一度『つばさでうつ』を放ち、直撃させた。直後ヤミカラスは体力を吸われ力尽き地面に落下する。一方のチュリネも地を滑るように吹っ飛ばされた後はピクリとも動かず倒れたままだ。
「相……討ち……?」
「フン……それはどうだろうか!?」
自らの優位に疑いの余地を持たないコルサの胸を張った姿勢にレモンがチュリネをさらに凝視すると、チュリネがゆっくりと起き上がってふらふらになりながらも戦闘継続の意思を見せた。
「体力が尽きかけたが『ねをはる』が活きたな……さあ、合作を続けるぞ!」
初戦の敗北を理解したレモンは、しかしうろたえることなくヤミカラスを戻して次なるパートナーの控えるボールを投げる。現れたのはヤミカラスと同じく決め手となる『つばさでうつ』を持っているもののタイプ相性の悪いクワッスだ。
レモンはクワッスを出すと直ちに命令を与え『アクアジェット』でダメージを与えていく。それはまさに相性の悪い、チュリネ相手にはいまひとつの威力になってしまう技ではあったが、レモンの目的はチュリネへの迅速な接近にあった。
「っばさでうつっ!」
「プル!」
性急な口ぶりによる指示にもクワッスは応え、チュリネの胴目がけて必殺の一撃を入れた。『あやしいひかり』による混乱状態もあり、チュリネはなす術なく地を転げ、今度こそ戦闘不能に陥ったようだった。
「芸術はときにスピードが命!
冷静にチュリネを控え、コルサが次に出してきたポケモンはセルクルタウン周辺でもよく見かけたオリーブポケモンのミニーブだった。
「クワッス、『ふるいたてる』!」
新手との戦闘が始まるとレモンはクワッスの『じしんかじょう』の特性をさらに高めるべく動き、短期決戦を狙いにいく。
「傑作への芽を育てよ! 『やどりぎのタネ』!」
これを受けてコルサは攻撃を仕掛けられる前にミニーブにタネを撒かせ、チュリネ同様相手の体力を自分に還元させるドレイン戦法の準備にかかった。
「『アクアカッター』!」
体力を奪われ弱る前にミニーブを倒すべく、まずクワッスは『アクアカッター』を放った。
「撃ち落とせっ、『エナジーボール』!」
「ミン!」
小さく丸い身体を屹立させミニーブが念を込めると、球体状の草のエネルギーが目の前に現れまっすぐ飛んでいき『アクアカッター』と激突する。威力を増してはいるものの、相性の悪い技と衝突した『アクアカッター』は『エナジーボール』もろとも消え去りミニーブに届くことはなかった。
しかしレモンは『アクアカッター』の後、すぐクワッスに『アクアジェット』でミニーブに近づくよう指示を出していた。相殺されたふたつの技の
「そこから『つばさでうつ』!」
「耐えるのだミニーブ、『ちからをすいとる』!」
翼の直撃を受けながらミニーブは懸命に身体を震わせ攻撃力の高まったクワッスの力を吸収し体力に換えた。
「フハハハハ! 他者の力を糧にっ! あらゆるものを力に作品を生み出す、これぞ
吸い取ったクワッスの力で大ダメージをすぐさま回復させて、ミニーブは技を出して隙の生じたクワッスに向けて『エナジーボール』を発射した。
「よけ……」
「クエーッ!」
回避を呼びかけようとしたがレモンの声は間に合わず、『エナジーボール』が目の前に迫ったところで、クワッスは咄嗟の判断で『アクアジェット』で立ち向かった。が、やはり相性の影響を受けて力負けしてしまい、衝撃でレモンの前まで吹き飛ばされてしまう。
「……お疲れさま、クワッス」
これ以上クワッスを戦わせるのは無理と判断し、モンスターボールに戻す。レモンは気を取り直してフレンドボールを握り、次の仲間を呼び出す。
「ほう、目の青いコンパンか、美しいな」
「そのうえ強いよっ! 『アシッドボム』!」
登場早々コンパンから撃たれた『アシッドボム』が正確にミニーブに炸裂する。草に抜群な毒の技、そして相手の特殊攻撃への耐性を著しく低下させる『アシッドボム』は次の一手への布石として強力に働く。
「ここに来てなかなか厄介なのが出てきたな……」
口に手を当てながら分析するような素振りでコンパンを見つめるコルサの言うとおり、くさタイプのポケモンにとってコンパンのむし・どくタイプというのは天敵ともいえる不利な相性だった。攻められればむし・どく、どちらの技でも弱点を突かれ、守りは両タイプともくさに耐性をもっており威力を激減させられてしまう。バトルは相性がすべてではないにしても、やはり弱点を突かれることは避けたいが、そういうわけにもいかないことは専門とするタイプで挑戦者と渡り合ってきたジムリーダーにとっては自明の理だ。
「袋小路に陥ることでできる表現もあるだろう……!」
コルサはそう言いはしたものの苦い笑みを浮かべていることからミニーブが事態を打開するのは困難であることはハッサクはもちろん、他の観客たちにも理解できた。
「攻めも守るもイバラの道……だがそれは創作とて同じこと! 全霊をもって前進するのみ! ミニーブよ、敵をよく見据え、集中せよ!」
「ミィ……」
自分にとって不利な相手であることは当のミニーブにもわかっており、次に放つ技が最後になる可能性も踏まえてコンパンへ向けて『エナジーボール』を放とうとする。レモンはそれを受けて真っ向から勝負を挑もうとコンパンに正面から最も強力な技を出すよう指示する。
「『エナジーボール』!」
「『むしのさざめき』っ!」
ふたつの技がそれぞれ狙いを定めた相手にぶつかりその威力を正面から受ける。が、やはり耐性を持つコンパンへのダメージは大したことなく、逆に弱点、それも『アシッドボム』によって耐久力を下げられた上で『むしのさざめき』を受けたミニーブは完全に目を回しぐったりしており、勝敗は誰の目にもか明らかだった。
「予定調和の敗北劇……だが負わせた微傷は次なる勝利への残響となる。ミニーブ、ご苦労であった!」
動かないままのミニーブをそそくさとボールに戻して、コルサは次の手持ちが控えたボールを握る手に力を込める。
「さあ、お前の出番だ。ボウルジムの
大見得を切ってコルサが出したエースと思われるポケモンはウソッキー。一見すると樹木に似た見た目の、くさタイプを思わせこそするがそれは弱点の水から身を守るためで、正体はいわタイプという擬態能力を持った、まねポケモンである。
「ウソッキー! くさじゃないじゃん! ……って、あっ!」
くさタイプを専門とするジムに突如現れたいわタイプのウソッキーに面食らったレモンだが、こういうことはセルクルジムのカエデとのバトルでもあったことが脳裏を過り、ウソッキーにカエデ戦のときと同じことが起こることに思い至る。
「ウソッキーの正体見たり!」
「レモンくん! ネタバレはダメですよ!」
ハッサクがたしなめるように口出ししレモンを遮るがコルサは驚きもせず、むしろ笑ってハッサクを制した。
「フハハハ! 構わんぞハッさん! しかし頭に描いたウソッキーの“正体”を、キサマはこの場に提示することができるかっ!?」
手に持ったムチをコルサが振るい、それに合わせてウソッキーが動き出した。
「早さならこっちのが上! 『むしのさざめき』!」
「フー……リャーァァァァ!」
動きを見てからでも先制を取れるほどの素早さの差を活かしてウソッキーに確実にダメージを与える。いわタイプに対して脆いむしタイプのコンパンで長期戦になるのはまずい、レモンはとにかく相手より素早く攻めることに集中する。
「素早く、力強い……が、ウソッキーの一撃はもっと重いぞ! 『いわおとし』!」
「ゥウ……ソーッ!!」
コンパンの攻撃をもろに受けながらも一切動きを止めることなくウソッキーは繰り出した岩をハンマーで振り下ろすようにコンパンに叩きつけた。その一分の間の無さはレモンの次の動きの命令を出すタイミングをわずかに上回った。
「フリュ……」
「っ! 抜群な上に威力もダンチ……!」
岩に潰されたコンパンは一撃で戦闘不能に陥り、たまらずレモンはボールに引っ込めた。
「アタシもとっておき見せてやるっ! よい子、わるい子、アママイコ!」
「まぁいっ!」
ゴージャスボールから飛び出しバトルコートに姿を現したアママイコを見てコルサは嬉しそうに微笑した。
「ほう、そちらがくさポケモンを出すか! このままではこちらが不利だな……面白い、舞台は整ったというわけだな」
ムチをしまい、今度はテラスタルオーブを手に取ったコルサは、満を持してといった調子でウソッキーに狙いをつけオーブを構えた。
「正体を導けたこと、褒めてやろう! さあウソッキー、仕上げにかかるぞ! 題して『ウソから出た
「ッ……キィィィィィー!!」
コルサの手から放たれたテラスタルオーブの力を得てウソッキーの全身が輝き、頭上に特大サイズのキマワリにも劣らないほどの、ひまわりの花を模したテラスタルジュエルが姿を見せた。レモンの思ったとおりウソッキーはテラスタルによってくさタイプへと変化を遂げた。
「威力が落ちるのが惜しいが……ウソッキーの真価、見せてやろう、『くさわけ』!」
くさタイプと化したウソッキーが繰り出した技は同じくさタイプのアママイコにとって決定打となるほどのものではなかったが『くさわけ』にはポケモンの素早さを上げる効果も備わっており、テラスタルによるタイプ強化効果もあって、くさタイプながら馬鹿にはできないダメージを与えつつウソッキーは徐々に素早い動きを身につけていく。
「流麗な身のこなしからなる『いわおとし』、食らうがいい!」
『くさわけ』で得た素早さを活かし、続けてウソッキーは『いわおとし』でアママイコへ大ダメージを与えにかかる。
「『こうそくスピン』!」
「まままままま……!」
アママイコは降りかかる岩を『こうそくスピン』の回転力を使いながら足で弾き飛ばす。
「なんと!? 相当な力を持つアママイコだな……だが防げても今のは痛かろう!」
弾いて防いだとはいえ足で『いわおとし』を受けた以上ある程度のダメージは否めない。レモンはアママイコが追いつめられる前にウソッキーとの決着を着けるべくこちらもテラスタルオーブを投げた。頭上には天に突き上げた拳を象ったテラスタルジュエルが表れる。
「岩をも砕く拳……じゃなくて足! 『ローキック』だアママイコ!」
「まぃ~っ!」
ウソッキーに向かってかくとうタイプへとテラスタルを果たしたアママイコが急襲をかけようとする。
「かくとうタイプのアママイコッ! 面白い……が、それならば『くさわけ』の餌食だぞ! ウソッキーの足に勝てるか!?」
射程内に入り『ローキック』を仕掛けるアママイコだが、ウソッキーは連続技で重ねて増したスピードで得たフットワークで攻撃をかわし、そのまま『くさわけ』によるカウンターを決めにいく。
「弾けっ! 『こうそくスピン』!」
だが負けじとアママイコも飛び出してきたウソッキーの攻撃を再度スピンして弾く。両者の身体がぶつかり反発し合い、互いに一瞬の隙が生じる。
「『ローキック』!」
「『くさわけ』で押し込め!」
アママイコの足技の餌食になる前に強引に相手をタックルして吹き飛ばそうとしたコルサだったが、一手早く、アママイコの足がウソッキーの長い胴を捉えた。
「ま゛あいっ!」
渾身の力を込めたアママイコの叫びが辺りに響き、強力な『ローキック』によってウソッキーは激しく吹っ飛ばされ、一直線にコルサに向かっていった。
「ム……、はあっ!」
ウソッキーをかわし、衝突を避けるとすかさずコルサはムチを伸ばしてウソッキーの身体に巻きつけ場外へ飛んでいくのを食い止め、そのまま自分へと引き寄せた。
「…………ふむ」
納得したように短く吐息を漏らしたコルサの腕のなかで、ウソッキーは目を閉じだらりと伸びていた。
「完成したようだな……キサマの勝利が」
静かにウソッキーをモンスターボールに戻し、レモンを見てコルサはそう言った。
「……か……、勝っ!」
「決着ぅううぅぅ~~っ!!」
レモンが