ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!!   作:ストレンジ.

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#31『INTERNET YAROU』

 

 コルサに勝利したことによる高揚が体内から突き上げてくるのを感じつつもレモンは突然のハッサクの常軌を逸するような震えた大声に驚き、後ろを振り返った。

「すっ……ばらしい……実に素晴らしいバトルでした、おふたりとも」

 レモンが姿を捉えたときにはハッサクは落ち着きを取り戻したらしく、先ほどの戦いの余韻を噛み締めるように両目を閉じ静かに語った。

「お互い一歩も引かない素早い身のこなしから放たれるテラスタル状態を活かした必殺の一撃……一瞬の隙が生んだ雌雄を決する緊張の瞬間……胸を打つ熱い戦いに、小生は……小生……わあ゛っ……!

 淡々とふたりのバトルへの感銘を口にしていたはずのハッサクの抑揚が唐突に大きく震え、乱れる。

 

「がん゛どう゛じま゛じだお゛っ!! ぉぉぉぉい゛ぃぃぃぉぃぉぃ……!」

 

 そして感情が完全に抑えきれなくなり、ハッサクは声を上げて泣き出した。

「ハッサク先生……!? 落ち着いて落ち着いて……」

「ままままー、ままままー……」

 赤ん坊のように人目をはばからず激しく泣き声を上げるハッサクに戸惑いを見せながらも、バトルを終えたばかりのレモンとアママイコはハッサクをなだめようとする。

くう゛ぅぅぅ~……ぅう、ありがとうございます、レモンくんにアママイコくんも……」

 ふたりがかりでなだめすかし、ようやくハッサクは落ち着きを取り戻し始めた。

「うむ! ハッさんが感情をだいばくはつさせるのも無理はない! 剛直な拳のテラスタルジュエルを頭上に戴いたアママイコによる、ウソッキーをも吹き飛ばす驚異の脚力! 末恐ろしく、かつ実にアヴァンギャルド!! キサマとのバトル、実に意義深いものだった!」

 ハンカチで目元を拭うハッサクの横に立ち、優しい眼差しで彼を一目見やってからレモンに向き直ってコルサは熱い調子で語った。

「湧き出すインスピレーションに任せて新たな創造に励みたいところだが、その前にアレを渡しておかなければな!」

 そして観戦スペースへと視線を移して目配せすると、レモンをこの場所へ案内した受付の女性が歩み寄ってきた。彼女はモンスターボール模様が上部に刻印された白い小さな箱を取り出し開けて、レモンに中身を見せた。そこにあったのは、くさタイプを表すシンボルマークがあしらわれたバッジ。コルサに勝った者が手にすることができるボウルジム制覇の証だった。

「ふおおぉぉ……」

「受けとるがいい。そして更なる表現の高みへとポケモンと共に歩むがいい!」

「ありがとうございまーす! ボウルバッジ、ゲットだぜ!!」

「まいまい♪」

「うんうん、よかった……よかったですねぇ……」

 受付の女性の持つ箱からうやうやしく中身を取り、ボウルバッジを空に掲げるレモンと、横で笑顔で拍手するアママイコ、そのふたりを目頭を軽く押さえながら滋味深い表情で祝福するハッサクだった。

 

   *

 

 緩んだ夏服のネクタイを締め直してポケモンセンターで仲間たちを回復させると、バトルを終えたレモンはレストラン『バラト』のチョコバニラフルーツパフェで午後の活動に向けてエネルギーを補給し、キマワリ広場のキマワリたちを眺めながらポケモンたちのランチを済ませ、早くも次なる目標へ向けてボウルタウンの東入口に降り立った。

 遠くにはテーブルシティに次ぐ都市、ハッコウシティを彩るサーチライトの数々が昼間でもよく見えている。パルデアに旅行で来た頃のレモンにとってはライムのライブで訪れた、記憶に新しく印象深い街のひとつだ。

「ばばーっとミライドンにかっ飛ばしてもらって行っちゃいたいとこだけど……」

 そこまで呟いてからレモンはスマホロトムを呼び出し、マップを確認する。ここから少し北に行けばスター団ほのお組、チーム・シェダルのアジトがあり、近場とあってはレモンに行かない理由はない。

 セギンのピーニャと比べると、このメロコって子、怖そうだけど……まっ、度胸でいこう!

 カシオペアが登録してくれたスター団の情報から見てとれるメロコの独特に華美な姿に若干気後れしつつもアジトへ向かうことを決める。

「……って、ネルケとカシオペアに連絡しなきゃだ」

 スター団との対決にあたっては各々の思惑を持った同志たちと一蓮托生、レモンはマップ画面を閉じてそのままふたりに連絡を取ろうとする。

 

「うぇっ、ダメ!?」

「悪いな……スター団について調べていたら、そのチーム・シェダルのボスのメロコについてある情報が出てきてな。事実関係がはっきりするまではシェダルへのカチコミは待ってほしい……大切なことなんだ」

 スピーカーの向こうからネルケが申し訳なさそうな声で懇願するのが聞こえてくる。

「大急ぎってわけじゃないから構わないけど。カシオペアにもまだ連絡してないし」

「助かるぜ。調べがついたらオレの方から連絡する。そのときがカチコミだ」

「わかった! ……さて、じゃあ今日の残りの時間はどうしよっかな……」

 半ばひとりごとのつもりで通話状態のままレモンがぼそりと言うとそれにネルケが反応を示し言葉を返した。

「宝探しはどうなってるんだ?」

「さっきボウルタウンのコルサさんに勝ったとこ! それでシェダルのアジトの近くにいるから連絡したわけで」

「ほう、それはおめでとう……だったら、そのままハッコウシティまで足を運んでもいいんじゃないか?」

「一日でジム連戦!? なかなかハードだけど、でもチャンピオンランクになるんだったらそれができるくらいの力が要るよね……」

「それもそうだがオレが言いたいのは、ジムテストだけでも受けておけばいいんじゃないのか、ってことだ。ハッコウシティのジムリーダーはひとクセもふたクセもあるジムテストを出すって話だからな。一日で終わる内容とも限らない。今のうちに合格しといて、後日戦うのもいい手だろう」

「な~る。でも一日で終わらないかもなジムテストってなんだろ?」

「内容は常に一定ではないからな……やってみなきゃわからんさ。なにせジムリーダーのナンジャモは人気ストリーマーだ。パルデアのジムリーダーはジムリーダー業以外でも著名な者が多いが、その筆頭みたいな存在だからな」

「そっかー、お恥ずかしながら流行りものはあまりわからなくて……アタシ的には断然ライムさん派だしね!」

「ふむ? ナンジャモを知らない若者もいるのですね」

「ハラバリーと『POKÉDANCE』踊ってる動画くらいはさすがに見たことあるけどさ。あとハロウィンでバリヤードのコスプレしたやつとか」

「まあ私……オレはそれも見たことないから他人のことはとやかく言えないが、今までよりもテストで苦労する可能性は高いから、再テストを受けることも考えて早めに受けておくのをオススメしておくぜ」

 落ち着き払った理知的な響きの声がスマホロトムのスピーカーから流れる。ネルケの喋り方には説得力があるなぁ、とレモンは考えるともなしに思った。

「じゃあせっかくのアドバイスだしそうしようかな」

「そうか。なんにせよ頑張れ。オレもできるだけ早く調査が済むよう心がける」

「うん、そっちはよろしく。じゃーねー」

 通話を終え、レモンは懐に戻っていくスマホロトムと交代するようにモンスターボールを取り出しミライドンを出す。

「やっほーミライドン。ハッコウシティまでびゅびゅーんとよろしくお願い!」

「ギャス!」

 ひと鳴きして応えたミライドンは颯爽と背に乗るレモンを受け入れ、ハッコウシティまでの道中を危なげもなく駆け抜ける。

 

   *

 

 正午の少し前にハッコウシティへと到着したレモンは、旅行のとき訪れたきらびやかな喧騒との再会に胸を踊らせる。あのときはライムのライブを楽しむのが主な目的だったが、通りに建ち並ぶ種々多様なショップでの買い物の時間も至福だったことを思い出す。

「旅行で来たときはジムの場所なんて気にしなかったなー……どこだろ」

 観光目的ではない今回は様々な店舗や周辺の観光スポットが気にならないではないものの粛々とジムの場所を調べ、一直線に向かう。

 華やかなハッコウシティでもジムは外装も室内も他の場所と変わらず簡素なもので、レモンは例によってジムテストを受けるべく受付へ向かい担当の係員に話しかける。

「ジムテスト受けに来ました。登録お願いします!」

 

「ふむふむ、宝探しが始まったグレープアカデミーから我がハッコウジムにニューチャレンジャーの登場だ~っ!!」

 

 係員ではない、背後からのいきなりテンションの高い大声にレモンだけでなくその場にいた者たちも驚き、なにごとかと声のした方に顔を向ける。

「おはこんハロチャオー! あなたの目玉をエレキネット! 何者(なにもん)なんじゃ? ナンジャモですっ!」

 その言葉が示すとおりレモンに近づいてくる声の主はハッコウシティジムリーダー、ナンジャモに他ならなかった。

「ナ、ナンジャモ……さん!?」

「地味~なジムの雑務をこなそうとやって来たら、ちょうど! テストを受けに来た子がいるじゃ~ん! ナンジャモのミラクルウルトラ10まんボルトジムテスト、さっそくいっちゃう?」

「あ、ナンジャモさん。彼女、登録がまだですが……」

「はいはーい! じゃ、サクッとデータ確認しちゃってー!」

 いきなりのナンジャモの登場には関係者も呆気にとられたようだった。それでも受付の男性は若干うろたえ気味ながらもレモンのジムテスト挑戦の手続きを滞りなくPCに打ち終え登録完了の旨をふたりに告げた。

「そいじゃアカデミーからのニューチャレンジャー改め、レモン氏! まず確認したいんだけど~……顔出しとか、だいじょぶ?」

「えーと、大丈夫ですけど、配信とかはやったことないです」

 ナンジャモに関する知識は少ないものの彼女がジムリーダーとしてポケモンバトルを配信していることは知っており、バトルを交えたテスト内容かとレモンは考えた。

「オーケー! そんなレモン氏のための、ナンジャモ流未来のストリーマー育成ジムテスト! 内容はいたってシンプル明解! ……バズれ!」

「え、はあ……?」

 シンプル過ぎる指示へ、反応に困るレモンを見て満足そうに頷いてからナンジャモが詳細を語る。

「レモン氏にはジムテスト用のアカウントを作ってもらって、なにか動画を投稿してもらいます! その動画の再生数が1000を越えたらテスト合格! エレキトリカル★ストリーマー、ナンジャモとのバズいバトルが待ってるぜ! あ、ニャーんてニャ……ってな感じで!」

「え、え、動画を……作る?」

 思わぬテスト内容とナンジャモの勢いに困惑し尻込みしてしまうレモンだが、当のナンジャモはあっけらかんとさらに話を続ける。

 

「いやー、まあボクはジムリでもあれば配信の(たみ)でもあるわけで、ポケモンバトルの生配信なんかもやっちゃってるわけ。でもボクがバトってるからって、いつでも高視聴数! って具合にはいかないわけ。できるならやっぱりバズが見込めるお相手とコラボしたいってホンネがあるのさ……そこでこのジムテスト! チャレンジャーがちょっとは知られてれば、相乗効果が見込めてお互いWin-Winなポケバトができるってわけ! まあ基本的にチャレンジャーとボクとじゃ知名度がダンチだからチャレンジャーの方にうまみがあるのかな~って感じだけど、それを機にストリーマーデビュー! しちゃうのもいいよねっ。未来のライバルを生むことになるかもしれないけど、ホンネを足しちゃえば、ずーっとやっていけるかわからないお仕事だし、そのときが来ちゃっても後進の育成に回っておけば安定するし、そのための下積みってのもあるけど……」

 

「私情が見えるんですけど、それはテスト内容として問題ないの?」

 至極まっとうな意見を投げかけるレモンにナンジャモはチャームポイントのひとつであるギザギザと尖る白い歯を見せてウインクしてみせた。

「ノープロブレム! さっき言ったけど、うまみはチャレンジャーの方に多いからね。勝てばチャンピオンランクに一歩近づき、バズればワンチャン配信者としての足がかりも得られる……なんてオトク!」

「質問なんですけど、どんな動画を作ればいいんです?」

「基本はなんでもオーケー! だけどジムテストだし、ポケモンが関わった内容だといいな。あんまりなんでもアリだとリーグのエラい人に注意されちゃう……もちろんアブなすぎる内容もNG! アカデミーのエラい人にまで怒られたうえストリーマーとしての寿命まで縮めたくないし! 炎上ダメ、ゼッタイ!」

 オーバーサイズのコート袖で隠れた両手で“×”を作ってナンジャモが注意する。

「まあボクもオニゴーリじゃないから、どーしてもムリってときは素直に言って。もっとフツーのテスト内容に変えるからさ。でもレモン氏ならクリアできると思うよ。保証はないけどバズい雰囲気(ふいんき)、感じたからね!」

「うーん、動画作るとかまったく経験ないんだけどな……」

「トモダチと協力してもいいよ! 友情パワーでバズっちゃうのもエモくていいよね!」

「はあ……。とにかく、今までと変わっててもジムテストはジムテスト! 頑張るんで、そこは心配ご無用です!」

「その意気だ若者よー! ……ボクも若いけどなっ!?」

 自分の言葉になぜか不意に焦るナンジャモとサムズアップを交わし合ってレモンはジムをあとにした。まったく心得のないテスト内容に途方に暮れながら、それでもとにかくまずは動画についてハッコウシティを散策しながら考えることにしたのだった。

 

 

 

(つづく)

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