ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!!   作:ストレンジ.

33 / 43
#33『Brend Friend』

 

 ハッコウシティの南入口すぐ横の原っぱの真ん中にレモンとピーニャはそれぞれ自分のテントを設営しテーブル類を用意してキャンプと夕食の準備を整えた。

「DJはてっきりホテルに泊まるんだと思ってたよ」

「無理無理! ただでさえお金ないのに、ハッコウシティだよ? 宿泊施設もお高いところばかりだからね。流浪のDJの懐事情的には厳しすぎるよ」

「ああ……うん、確かに。値段は知らないけど半年前に旅行で泊まったホテルは豪華だったな~……ソファーもベッドも心地良かったし、お風呂もみんなで入れるくらい大きかったし、ディナーも……」

「そのディナーを今から作るってときに立派なホテルのコースメニューを想像させようとするのはナシだよ」

 苦笑いでささやかな牽制をしながらピーニャはパンとそれに挟む具材を慣れた手つきで取り出して作業を進める。

「お泊まりの準備といい手慣れてるね。旅の経験値はいかほど?」

「キャンプはともかくサンドウィッチなんてよほど手の込んだメニューじゃなければササーッと作れるでしょ。まあ確かに旅というか、パルデア巡りはそれなりにしてるけどね。スター団の活動ミーティングなんかも最初の頃は各アジトでみんな集まってやってたから遠出はしょっちゅうしてたな。そのうちリモートになって最近はそうでもなかったけど……」

 言いながらピーニャは素早い手つきでアボカドサンドを作り終え、パートナーのコマタナ、ブロローム、ヤミカラスたちを呼び出し、共に夕食をとり始める。少し遅れてレモンもたくさん拵えたハーブソーセージサンドで自分のパートナーたちと食卓を囲み団欒(だんらん)の時を得た。

「DJもヤミカラス連れてるんだ」

「つい昨日仲間にしたんだ。キミもカチコミのときは連れてなかったよね」

「ボウルジムのコルサさんと戦うための修行のときに捕まえたんだ」

 ピーニャのヤミカラスはサンドウィッチを黙々とつついて食べるのに集中し、レモンのヤミカラスは食事の合間時おり頭を上げて空や周囲の状況に気を配っているようなそぶりを見せていて、ピーニャのヤミカラスは♂、レモンのヤミカラスは♀という性別の違いは元より、そういった仕草やちょっとした動きからも同種のポケモンでもそれぞれの違いを見出だすことができた。

「野宿なら寝てる間の周囲の警戒役にヤミカラスなんかの夜行性ポケモンは1匹はいたほうがいいからね」

「なるほど。そういう考えで捕まえたわけじゃなかったけど、それも冒険を続けるためのコツだね」

「そうさ。こんな広~いパルデアを旅するなら頼れる相棒(バディ)は欠かせないよ。頼れるポケモンの力を借りていきながら、自分自身も頼れるトレーナーになる! 最高にクールなWin-Winだろ?」

「冒険なんだからみんなでいっしょに成長しなきゃだよね……今のアタシはまずDJのくれたトラックに乗せるリリックを考えなきゃ!」

 食事とピーニャとの雑談でリフレッシュしたレモンは食後のコーヒーをピンクのマグに注いでからノートとペンを取り出してラップを作り上げるための作業に入った。

 

   *

 

 パルデアの長い夜を彩る星々と、ハッコウシティの家々の鮮やかな外壁、少し遠くには夜半の喧騒と共に空へと照射される何本ものサーチライト、その彼方には今のレモンには広大、巨大としか表しようのない山々が壁のようにそびえているのが見える。周りには風になびく一面の雑草にぽつぽつと見える野生のポケモンたち。風は温かく夜の緩やかな時間と空気の流れの作用か、依然として外に出て思い思いの時間を過ごしているレモンとピーニャのポケモンたちの存在のせいか、キャンプに近づいてくる者はいなかった。五感で感じるパルデアの人工と自然の交わる景観と、まだまだ新鮮な野宿生活への高揚が胸から全身へと伝わっていくのを感じながらレモンはペンをノートに走らせ、時にうんうん唸り、時にぶつぶつとリリック以前の言葉のかけらを口ずさみながら作業に没頭していた。

「まだ寝ないのかい?」

 自分のイスに腰かけてレモン同様、小一時間曲作りに集中していたピーニャが腰を上げ、身体を左右にひねって軽いストレッチをしながら尋ねた。

「もうちょっとやってる~。アタシのことはお構い無く」

「じゃあボクはもう寝るよ。ヤミカラス、見張り番お願いね」

「クエッ」

 ひと鳴きしたピーニャのヤミカラスは、彼のテントの横に設置された小型の鳥ポケモン用の小さな止まり木に足を落ち着かせ、その指示に従った。レモンはそれを見てから自分のパートナーたちに視線を移すと、ミライドンがうとうとしているのが目に入った。

「みんなもおやすみ」

 ミライドン、クワッス、アママイコ、ウリムーをボールに戻し、レモンの前にはコンパンとヤミカラスが残った。

「おふたりには夜の間、回りの見張り役をやってもらいとうございます!」

「アー」

「フリャ!」

「いいお返事サンクス! ピーニャくんのヤミカラスもいるので仲良くお願いね!」

 レモンは夜間のキャンプ周囲の安全のための見張りを2匹にお願いし、ふたたび詞作に戻る前に街の遥か向こうの自然の行く末の途方もなさを思わせる山々をもう一度眺めた。今のこの、街に限りなく近く向かいにはポケモンセンターもある人の手の入り込んだ場所を離れ、山々や洞窟、湖、森林、雪原、そんな自然の(てのひら)の上で夜を明かすかもしれないことへのうすら寒さと、それはそれとしての未知へ足を踏み入れることへの楽しみとが頭の中をぐるぐると回り、少しして消えてからまたノートへ意識を集中させた。1時間ほどしてからテントの中へ入り、思考の運動が睡魔と交代するまでレモンは言葉を書き連ねた。

 

   *

 

 そうして夜が終わり、朝を寝過ごすこともなくレモンは目覚めて、テントから出た。外に出るとピーニャが朝食用のサンドウィッチを作り始めていて、彼のヤミカラスはすでにボールに戻っていて姿がなかった。

 昨夜から出したままのテーブルの端に座ったヤミカラスと、イスの脚にもたれてうとうとしている風のコンパンが目に入りレモンは夜警のねぎらいの言葉をかけ、2匹をそのまま自由にさせ自分も朝食の準備に取りかかった。

「おはよう。で、できたのかい?」

 朝の挨拶とともにピーニャがラップの進捗を尋ねる。レモンより先に起き手際もいい彼はすでに朝食をパートナーたちと分け合っているところだった。

「だいたい出来上がった! あとは寝落ちして書けなかった部分だけ」

「じゃあ午前中にまとめられるかな? ハッコウシティには顔なじみのレコーディングスタジオがあるからさ、予約しておいてあげるよ」

「……へっ?」

 ピーニャのその言葉と、別段特別でもなさそうな口ぶりにレモンは二重に驚き面食らった。

「『ねこだまし』くらったような顔しちゃって。上げれるならクオリティは上げなきゃ損だよ。ただ何時間も借りられるほど安くはないから、お昼過ぎまでには完成させて、ざっくりここでリハもしておきたいね」

「ええ……そんな手伝ってもらっちゃっていいのかな……」

「大丈夫でしょ! 歌うのはあくまでキミだし、リリック書いたのもキミだし」

「そうじゃなくてさ、DJはいいの? っていうかなんでそんなしてくれるのさ」

「え? そうだな……」

 レモンの問いが思いがけなかったらしく、ピーニャは自分でも不思議そうに考え、しかしすぐに合点がいったようだった。

「自分で言うのもなんだけど、ボクまめだからさ。好きで回りの期待に応えたいっていうか……キミのカチコミとおんなじで、動画作成(ジムテスト)の結果も気になっちゃってさ。それとも余計なお世話だったかな?」

「いやいや、とんでもない! アタシひとりじゃ形にするのにもっと時間かかりそうだし、ありがたいよ。トラック・メイカーだけじゃなくスーパー・アドバイザーとしてもDJの名前クレジットしておかなきゃね」

「あはは……じゃあ食べ終わったらスタジオ予約して、ボクはそのまままたバトルDJやってくるから、キミはキミの仕事を仕上げといて!」

「ラジャー!」

 自分のしていることが一気に動き出したのを感じ、レモンは慌ただしく朝食作りを終えて自分は矢継ぎ早に食事を終えると、パートナーたちをたまに目の端で見守りながら昨夜の作業にまた戻った。

 

   *

 

 そうして正午を越え、ピーニャが原っぱに戻ってくる頃には、レモンは自信ありげな表情で満足げに彼を出迎えた。

「その顔は準備OKってことでいいのかな?」

「まあね! あっ、でもスタジオのこととかはまったく知らないです……」

「その辺はボク……っていうかスタジオの人たちに任せて大丈夫。じゃあ完成させに行こっか……キミのラップを!」

 ドキドキしながらレモンはピーニャについていき、ハッコウシティの彼の馴染みのスタジオまで向かう。

「あ、もちろん費用は折半で……」

「ラ、ラジャー。お金のことはちゃんとさせなきゃね……」

 

 時間的な余裕がないことも手伝ってあっという間にレコーディングは終わり、レモンとピーニャは思い思いに完成した音源をスマホロトムに収めてスタジオを後にした。

「ラップはまずまずなんじゃないかな。キミのコンパンが自身を含めてキミのポケモンたちを紹介する……」

 ピーニャの言葉にレモンは頷く。彼女が考え歌ったラップは、MC役に据えられたコンパンが、自分のパーティーたちを紹介していくという、シンプルで私的な内容だった。

「ってことは、動画の内容というか、方向性も決まってるってことだよね?」

「そうだね。実は動画もお昼までにざっと撮ってはおいたんだ……まあ、問題はそれをいろいろいじって編集しなきゃなんないわけだけど」

 ピーニャの質問に快活に答えつつもレモンは次なる課題の存在に眉をひそめた。

「映像でアドバイスできることはないな……ボクもそっちはまだまだ手探りでやってるからね。トラックは出来上がったんだし、頑張って」

「ヤー……そうするしかないよね。やっぱり今までいちばん難しいジムテストだあ、っとっとぅ!?」

 ため息をつき力を抜いたレモンが、突如震えだした懐の感触に驚く。スマホロトムが飛び出し、画面にはネルケからの着信が表示されていた。

「びっくりした……あ、ネルケ」

「おっと、外しておくよ」

 着信の相手の名前を聞いてピーニャは連絡を受けた当人より先に事情を察してその場を離れた。着信に出ると、ネルケは彼の予測通りの内容をレモンへ告げた。

「待たせた。レモン、調査と準備が完了した。ほのお組へのカチコミ……いつでも行けるぜ」

 渋く少しドスのきいた声がスピーカーから聞こえると、レモンは肩の荷が降りた気分になった。

「いつでも行けるなら、今から行こう!」

「はははっ、そいつは予想済みだったぜ。今ボウルタウンにいるんだ」

「ほんと? アタシはハッコウシティだからすぐ集合できる……ああ、カシオペアにも連絡しなきゃだった……」

「そうだった。じゃあ、一度そっちで話を着けてくれ。またな」

 スムーズに通話が切れると、レモンはジムテストから頭を切り替えてカシオペアへ連絡を入れた。

『……来たか』

 カシオペアもまた通話に出た途端、要件を察した返事をいつもの合成音声から伝えた。

「話が早い!」

『わたしへの連絡は最低限にして貰わなければ困るというのは知っているはずだからな』

「今からチーム・シェダルへカチコミに行こうと思うんだけど……いいかな?」

『準備ができているなら異議はない。次のミッションを始めようではないか』

「よしっ、じゃあアジトに着いたらまた連絡するね」

 先ほど以上に短い通話を終えて、レモンはふたたびネルケへ通話を入れる。

「どうだった?」

「オッケー! どこで待ち合わせたらいい?」

「ボウルタウン東のポケモンセンターで待ってるぜ」

「わかった。じゃ、すぐ後で」

 素早く連絡を終え、重ねて素早く集合場所へ向かう前に、レモンは離れた場所で待つピーニャに手を上げた。

「終わったかい」

「うん……急かもだけど、今からほのお組にカチコミ入れてくるよ」

「今から!? え、ジムテストは?」

「いったん休止! 動画作りもいいけど、バトルも頑張んなきゃね!」

「メロコは簡単に勝てる相手じゃないからね?」

「それはキミにも言えること! 全力で……ぶつかるのみ!」

「うん……頑張って……じゃあ」

「え、連絡先交換しようよ?」

 別れ際を見出だしたピーニャにレモンは慌てて言った。

「いやあ、それはなんか……敵ではないけど、元スター団としての美学に反するかな……」

「うぇ~……ジムテストにこんなに協力しておいてくれて?」

「それはそれ、これはこれ! とにかく今はノー・サンキュー! キミのジムテスト用のアカウントは登録しといたからさ。動画は出来上がったらちゃんとチェックするよ!」

 困った様子で微笑んでピーニャはレモンをなだめた。

「アタシとしては連絡先を交換して当然なくらいには仲良くなれたと思うんだけどな~?」

「それを言葉にして言うかい……でも意地を通させてくれよ。それに今のボクは流しのDJ……キミが冒険を続けるなら、またどこかで会えるさ」

「……いいよ。とにかく、手伝ってくれてありがとう。動画のクレジットは『DJ悪事』でいいかな?」

「ああ、それで頼むよ。じゃあここでサヨナラだ。キミはキミの道を頑張って」

 ふたりは昨日と同じくまた互いの拳をぶつけ合い、道を異にしてレモンはミライドンを駆りネルケとの集合場所を目指すのだった。

 

 

 

(つづく)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。