ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!! 作:ストレンジ.
逸る気持ちと共にミライドンの背に乗ってボウルからハッコウシティへと来た道を戻りポケモンセンターが見えてくると、手を後ろに組んでたたずむネルケの姿をレモンの視線が捉えた。集合地点へたどり着き、ミライドンから降りてスマホロトムを呼び出し颯爽とカシオペアへの連絡を入れる。
「到着! 作戦開始だよカシオペア!」
『了解した。ほのお組、チーム・シェダルのボス、メロコはスター団きってのなんでも屋だ。どんな問題も強引に解決する力量の持ち主で、もちろんポケモンバトルも例外ではない。私がしたスター団への宣戦布告にもっとも関心と怒りを表しているのが彼女だ。しかし気が荒れているからといって付け入る隙を与えてはくれないだろう。正面からアジトに切り込み、堂々と正攻法でチームを制圧していくのがいいだろう。下っぱでは敵わないことがわかれば彼女は出てくる。それまで戦力の消耗に注意してくれ』
「前回と同じように団ラッシュの切り込みは任せてくれ。レモンのポケモンがボスまで余裕を持たせられるよう、オレがまず突っ込む」
ネルケとの連携を軽く確認し、準備の完了を見てとると、ふたりとスマホロトム越しのカシオペアは迷いのない足どりでチーム・シェダルのアジトへの道を歩き出した。
入口ゲートの前には、あく組のとき同様、門番役を務める下っぱが待機しており、こちらへ近づいてくるレモンとネルケを訝しげに見つめ、少ししてふたりの目的がこのアジトであることを確信すると慌てだした。
「ななな、なんのご用ですかあっ!?」
「イェア! 打倒スター団、レモンとネルケ参上!」
「うわっ、セギンを潰したヤツらっ……!? で、デルビルッ!」
おろおろとおぼつかない手をなんとか御して下っぱがふたりの前にモンスターボールを投げる。
「任せたネルケ!」
「任されたぜ!」
意気の合った返事をしてネルケが淀みのない動作でモンスターボールを振りかぶって投げた。相手のデルビルに対して出てきたのは、以前の団ラッシュでモトトカゲにライドしてコンビネーションプレイを見せていたニャローテ。
「おっと? こいつは……」
相手のポケモンを見て下っぱの緊張した面持ちがわずかに緩む。その油断をネルケは見逃さなかった。
「ニャローテ、『でんこうせっか』!」
「に゛ゃあぁ!」
デルビルを襲う素早い先制の一撃に下っぱが目を白黒させる。
「『どろかけ』!」
「ひ、『ひのこ』っ!」
隙を突いて立て続けに攻撃してくるニャローテに、効果抜群の技を受けつつもなんとかデルビルは『ひのこ』で反撃をかける。
「『でんこうせっか』!」
しかし多少のダメージを受けながらも『ひのこ』を振り払い、ニャローテがふたたび指示通りに素早く攻撃を加えると、体力の尽きたデルビルは倒れた。
「なっ……んで『ひのこ』をものともしない……!?」
引きつった声で下っぱはニャローテに釘付けになりながら言った。
「相性が悪いのなら、タイプを変更してしまえばいい……そういった特性を持つポケモンもいるのですよ。アカデミーで習いませんでしたか?」
若干のクラベルを漏れ出しながらネルケが言ったとおりニャローテは特性『へんげんじざい』で、本来のくさタイプでは弱点となる『ひのこ』を、初擊に放った『でんこうせっか』のノーマルタイプに自らを
「やっぱセギンに勝っといて相性を理解してないわけないよなー……お疲れさまでスター!」
負けるや否や下っぱは門番役を放棄してゲートを自分ひとり入れるスペース分だけ解放してアジトに引っ込み、律儀に素早くゲートを閉じた。門番の撤退でアジト内の団員にふたりのカチコミの報は瞬時に知れ渡るだろう。正攻法によるチーム・シェダル攻略に取りかかろうとするレモン、ネルケにとってはなんの問題も憂いもなく、レモンはゲートに備え付けられた、ゴングに連動されたインターホン様のボタンを張り切って押した。
*
カーン! やかましくも気持ちのいい金属音が周囲に響いた。ネルケと左右のゲートをそれぞれ開けアジト内への侵入を果たす。中はすでにモトトカゲに跨がりモンスターボールを手に持った団員や、生活拠点であろうテントの周囲に展開した団員たちが待機していた。
ふたりが数歩進むと、入口横に設置された金属棒の先に取り付けられたスピーカーから団員によるチーム・シェダルの緊急放送が流れた。
『まぐれで他のチームに勝ったやつがアジトにカチこんできました。スター団の力の見せどころです! 侵入者を叩き出してあげましょう!』
「まぐれとは……仲間への気休めか、事態を理解できていないのか……」
放送を聞いたネルケは渋い顔でそう呟きながら腰に携えたボールを手に取る。
「それはバトればわかること! 行こうっ!」
サファリボールを手に持ちながらレモンが走り出すと、それに続いてネルケがプレミアボールからモトトカゲを出しライドしてレモンを追い越す。
「先頭は任せてくれと言ったよな? お先に失礼!」
モトトカゲで疾走して先行するネルケに戦闘開始を見てとったシェダルの面々は次々と自分のポケモンたちをボールから出していく。あっという間にアジト内には様々なほのおポケモンたちが展開され、スター団は手ぐすねを引いてふたりを待ち構える者、ネルケ同様モトトカゲを駆って積極的に攻撃に出る者、大きくふたつのスタイルに分かれてレモンたちを迎え撃つ。
「頼んだ、ドロバンコ!」
「ライドバトルだ! シシコ、『ほのおのキバ』!」
走り回るモトトカゲの上でネルケが器用に新たなプレミアボールを投げ、うさぎうまポケモンのドロバンコが登場する。ドロバンコはシシコの『ほのおのキバ』を受け止め耐えると、反撃に『じゅうまんばりき』の重い一撃を食らわせる。一匹のシシコがダウンすると、他の団員たちがすかさずフォローに自分のポケモンたちを向かわせ、ドロバンコの前にほのおポケモンたちが殺到する。
「『てっぺき』を!」
ネルケの指示を聞き入れたドロバンコの全身の表面を薄い青銅色の光が覆う。
「ガーディ、『かえんぐるま』!」
「かみつけっ!」
「『ニトロチャージ』だカルボウ!」
身構えるドロバンコにガーディ2体とカルボウが一斉に攻撃を加えるが、持ち前の防御力を技でさらに強化した耐久性を活かしてそれらをすべて正面から受けきる。その上に特性『じきゅうりょく』が発揮されることで、ダメージを負いつつもドロバンコの防御力は攻撃を受けるほどに、踏み固められた土のように堅牢性に磨きをかけていく。
「『じゅうまんばりき』! ニャローテも『どろかけ』で援護を!」
「ヒィィン!」
「はにゃっ!」
まとわりついた3体の団員のポケモンへネルケたちが反撃に転じる。自前の土にまみれたドロバンコの足から繰り出される『じゅうまんばりき』によってカルボウが吹き飛ばされ、その勢いにたじろいだ2匹のガーディにニャローテの『どろかけ』がヒットする。弱点を攻められ隙の生じたガーディたちに追撃の『にどげり』と『でんこうせっか』が容赦なく放たれダウンすると、ドロバンコとニャローテは後続の団員たちのポケモンをネルケの手から離れて迎え撃つ態勢に入る。
「ここは任せたぜ! モトトカゲ、進撃!」
「アォォ~ウッ!」
その場の制圧を2匹に任せ、ネルケはモトトカゲと共にアジトのさらに奥を目指し、向かってくる新手のライド団員たちと戦闘になる。
「カルボウ部隊、『おにび』用意……撃てー!」
「ボウ!」
次にネルケとモトトカゲに挑んできたのは多数のカルボウからなる部隊で、それらが一斉に『おにび』を放ってくる。おどろおどろしい小さな火の玉は動きこそ素早くはないものの、当たれば確実にやけど状態を付与する侮れないものであり、一発でも当たればモトトカゲが機能不全に陥ってしまう。
「これはっ……! 少しワイルドに行かねばなりませんね……」
自分たちに迫り来る『おにび』の初弾をかわしながら、モトトカゲの背に装着されたライドポケモン制御用のハンドルを握る手にネルケは力と覚悟を込めた。
「はあっ!」
次から次へと撃たれる『おにび』を、大胆かつ繊細なハンドリングで回避しながらカルボウの群れへと突撃をかける。
「持ってくださいよ……私の身体っ!」
カルボウの集団の目前に迫ったところで、ネルケは力加減に注意しながら両腿でモトトカゲの脇腹を締めつつ腹部を背に押し付け姿勢を低くした。
「モトトカゲ、思いきりおやりなさいっ……『こうそくスピン』!」
「アゥッ!!」
モトトカゲの短いひと鳴きを耳にした瞬間、ネルケは全力で意識を目に集中させた。激しく横回転しながら疾走するモトトカゲの『こうそくスピン』を、自らも回転の
「なん……なっ……ん……!?」
モトトカゲにライドしたままグループに攻撃をかけ、次々とカルボウを弾き飛ばしていくネルケの行動に団員たちは度肝を抜かされ、驚愕を通り越して絶句する。
群れの中を縦断するように『こうそくスピン』でカルボウたちを蹴散らし回転を終え、攻撃後の勢いで横滑りしていくモトトカゲをネルケは懸命に御して停止させる。
「ぅう、やはりライド中の技の使用は危険ですね……皆さんは絶対! 真似しないように!」
「できねーよ! てか、なんでできるんだよ!」
正論ではあるものの場の空気に馴染まない調子のネルケの注意に団員のひとりが感情をあらわにして返した。団員たちはそれぞれのカルボウをボールに戻しながらも、皆一様に信じられなさそうな目でネルケを見ていた。
「私の若い頃はライド中のポケモンを用いた肉弾戦も、バトルのテクニックのひとつ程度のものでしたからね……今のアカデミーで教えたら大問題ですが……」
メガネ越しに遠い目をして呟き、わずかな哀愁を残してネルケは次の団員たちを相手にすべくその場を走り去っていく。
「なにもんなんだ、あのおじさん……」
カルボウを倒されて為す術のない団員たちはネルケという存在に謎を抱えつつその背中を見送るしかなかった。
「しかし……『こうそくスピン』でこんなに体力を消耗するとは……」
走るモトトカゲの背の上で全身の倦怠感に抗いながらネルケが独りごちる。
「昔は『げきりん』中でも乗りこなせてたのですが……あと10歳若ければ……はあ」
自らの重ねた歳月に思いを馳せため息をつき、すぐに気を取り直してネルケは次なる戦地を目指した。
*
怒濤の勢いで進撃していくネルケとは異なる進路をとりながら、レモンは自分を中心に3匹のポケモンを回りに展開して進んでいく。前方にクワッス、右方にはヤミカラス、左方はウリムーが、それぞれ各方向から迫ってくる団員のポケモンたちと対峙する。
ネルケの先行のおかげで若干数を減らしこそしてはいるもののまだまだスター団の人員は多く、物量でレモンたちを制圧しようと団員たちはこぞって近寄り勝負を仕掛けてくる。
「デルビル『ひのこ』!」
「ドンメルも続け!」
「ガーディ、『でんこうせっか』!」
一度に向かってくるスター団の攻撃に、レモンは目と頭をぐるぐる回しながら対策を講じていく。
「クワッス! 『アクアジェット』、ウリムーは『マッドショット』、ヤミカラスは……え~と、よけて!」
多数のポケモンからの攻撃をいなし、その上で自らも多くのポケモンに素早く命令を下す高度でスピーディーな展開のバトルに、まだまだレモンは手をこまねいた。
「クワッス、前方はキミに任せた!」
「プル!」
ポケモン自身の裁量で動いてもらった方が指揮系統の混乱を招かずに済むと察したレモンはクワッスに行動の判断を委ね、自分はウリムーとヤミカラスの2体の指示に集中することにした。クワッスはタイプ上のアドバンテージと持ち前の素早さを活かし、『アクアジェット』による確実な先制で正面から来る敵が後方左右のウリムーとヤミカラスをターゲットにしないよう壁となって立ちはだかった。
クワッスの気配りで左右に注意を払いやすくなったレモンはヤミカラスとウリムー狙いの団員たちのポケモンの撃退にかかる。
「シシコッ! 『ほのおのキバ』!」
「迎え撃つは『つばさでうつ』!」
レモンのヤミカラスは接近して高熱の牙を突き立てようとしてくるシシコの頭をギリギリまで引き付けてから急上昇で攻撃をかわし、今度は急降下して翼をシシコの横面をビンタするように打ち払った。
「ドンメル、『ふんえん』!」
一方、向かい側では別の団員がウリムーへとドンメルを差し向け『ふんえん』を放ちダメージを与えることに成功する。
「もう一発くらえ!」
「がんばれウリムー! 何度しようと『マッドショット』!」
「むぅ~~~!」
くり返される『ふんえん』でばら撒かれる炎を『あついしぼう』で耐え切ると、仕返しとばかりにウリムーは力んだ声で『マッドショット』を放つ。泥の塊の見た目をしたじめんタイプのエネルギー弾がドンメルの顔面にヒットし、その威力に悶える。
「援護するよ! デルビル、『おにび』!」
得意気になっていたウリムーだが、後から駆けつけた別の団員がサポートに入りデルビルに『おにび』を撃たせ、やけどを負ってしまう。
「ヤミカラスッ!」
「クァーッ!」
ウリムーのピンチにレモンはほとんど反射的にヤミカラスの名を叫ぶと、ヤミカラスはデルビルに『あやしいひかり』を放ってフォローに入った。
「よし! ウリムー、ワンモア『マッドショット』!」
「むぅ~……ぁ!」
やけど状態をこらえながら二度目の『マッドショット』をデルビルに撃ち込んで撃退する。とはいえレモンたちに挑んでくるスター団の数はまだまだ多く、倒しても倒しても新たな攻撃が飛んでくるような状況だった。
「にゃあ!」
そんな中、ネルケの指揮を離れ独力で戦っていたニャローテが四つ足の柔らかい身のこなしでレモンたちに駆けつけ合流してきた。ニャローテはヤミカラスが『あやしいひかり』で混乱させていた数体のスター団のポケモンたちに意地悪そうな笑みを向け、『でんこうせっか』の連続で敵を翻弄し始めた。これに正面からの団ラッシュを捌ききったクワッスが呼応して自らも『アクアジェット』で飛び回り、相手に攻撃のタイミングを与えないように仕向けながら全身でぶつかっていく。そして2匹の俊敏な攻撃で弱ったポケモンをヤミカラスが『ナイトヘッド』で手堅く仕留め、ウリムーもほのおタイプ相手には十分な威力を発揮しきれないもののスピーディーに放てる『こおりのつぶて』で援護に回る。
最大戦力ゆえレモンの一群にほとんどの兵力を割きたかったスター団だが、第一波を防がれ、少し離れたところでもドロバンコが奮闘し、遠方の後詰め要員も快走するネルケとモトトカゲコンビの脅威にさらされ、新たにレモンたちにかかってきた第二波は小規模なものとなり、それでは到底クワッスたちを止めることはできなかった。チーム・シェダルの面々は時間が経つほどに先細りし、レモンのパーティーも消耗が激しいとはいえそれを上回る勢いで戦闘不能者が増える一方だった。
「ちっ……ダメだ。連絡班!」
「はいっ! ……『ボス、お願いします!』」
限界を悟った団員が合図をするとスピーカーからボスを呼び出す下っぱの声が響き、スター団の面々は波が引くようにレモンとネルケとの距離をとっていく。直後に、奥に控える巨大なテントの入口が開き中からエンジン音と共に、既視感のある巨大な塊が肩を怒らせ歩くように上下に微震しながらこちらへ近づいてくるのがレモンには見えた。