ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!! 作:ストレンジ.
近づいてきたのはチーム・セギンのとき同様、派手な装飾を施し各所にスピーカーを搭載した大型の改造ブロロロームだった。カラーリングは赤く、ライトオレンジの燃える炎のマークがシンボリックにデザインされている点がセギンとは異なり、当然、ルーフに拵えられたステージに立つチームのボスも違う人物である。
「……テメーらか、オレらにケンカ売ってんのは」
レモンたちの前に大型ブロロロームを停め、シェダルのボス、メロコは静かに言った。カシオペアから得た各スター団のボスの顔写真で見た、ほのお組を象徴するような真っ赤な髪をレモンは見上げて確認した。
「イェア!
「……星屑通りの切り込み
即興の自己紹介をねじ込むレモンに負けじと、メガネをクイッと上げる決めポーズを交えてネルケも続いた。傍観するようにクールな視線でメロコはふたりを見据え、
「細けぇことはどうでもいい。ケンカ売られたら買う……それだけの話だ」
ふたりのテンションを躓かせるように無機質に言い放ち、さらに、
「……
短くそう告げて戦闘の構えをとった。
「クールに来るぜっ、レモン!」
「よーし! ここは一発、意表を突いて……」
「シャアァァァオラアアアァァァッッ!!」
「「!?」」
クイックボールを握りしめながら天を見上げてメロコの雄叫びが場を支配した。突然の大声にレモンもネルケも目を点にしそうなほどに驚いた。
「はっ倒す……コータス!」
意趣返しのつもりなのか韻を踏みながらメロコはクイックボールからコータスを登場させた。中天から傾き始めていた空から降り注ぐ日差しが勢いを取り戻す。
「クールに見えてこの子、アツいっ……!」
速くなった胸の鼓動をなだめるように平常心を意識して、レモンはしっかりとボールを投げた。右に鋭い曲線を描きながら飛んでいったのはゴージャスボール。溌剌とした笑みのアママイコが現れる。
「……言葉は、いらねぇよな?」
ほのおタイプのコータスに弱いくさタイプのアママイコをレモンが差し向けたことに訝しみこそすれ、ミスではないだろうと悟ったメロコはそうとだけ言った。レモンも「そのとおり!」とでも言いたげに眉を上げ挑発的に微笑むと、右手に今度はテラスタルオーブを構える。
「GO! 強い子、アママイコ!」
「まいまいっ!」
テラスタルの輝きに包まれてかくとうタイプと化したアママイコ。ピーニャ戦ではブロロロームと雌雄を決した彼女が今回は先鋒を担う。
「テラスタル……へっ、そんなもん知らねぇな!」
右の拳で左の掌を叩き発奮するメロコに応えてコータスが鼻と甲羅の頂点から煙を噴き、警笛のような音を鳴らし息巻く。
「『ふんえん』で燃えろ。んで、灰になっちまえ」
コータスの甲羅に空いた穴から黒煙混じりの熱の塊が噴き出しアママイコへ飛んでいく。
「かわして接近!」
「ままっ!」
弾け飛ぶ熱エネルギーをかわしつつ、避けきれないものは腕で振り払うように防ぎながらアママイコは俊敏にコータスに近づいたところで、次の指示をわかっているかのように足に渾身の力を込めた。
「『ローキック』!」
甲羅で覆われたコータスの脇腹部へ強烈な蹴りが入る。その威力は防御力に優れたコータスでも決して無視できないものではあったが、小さなうめき声を漏らしつつもコータスの次の動きを抑止できるだけの効果はなかった。
「うかつに近づくと……痛いぜ」
アママイコの蹴りを受け止めながらコータスは甲羅中から熱エネルギーを噴き出し全身に炎を纏わせる。
「『かえんぐるま』!」
炎の塊と化したコータスは、激しく回転して強烈な勢いでアママイコを押していく。そのパワーに振り落とされるようにアママイコが弾き飛ばされると、コータスは技を解いて着地し意気揚々と鼻息を吹かせた。
「今のは……やられた下っぱ連中の分だ」
アママイコに油断なく注ぎ続ける視線にメロコが義憤を覗かせる。テラスタルによって弱点を突かれる形を逃れることはできても、コータスの特性『ひでり』による晴天下での『かえんぐるま』の破壊力はそれを抜きにしても大きく、アママイコの表情に苦悶の色が見てとれた。
「アママイコっ……『マジカルリーフ』!」
「まぃ……まいっ!」
無策に接近するのはかえって不利になると判断してレモンは距離をとって『マジカルリーフ』で小さなダメージを蓄積させる作戦に移る。
「しゃらくせぇ……焼き払え!」
しかし再び『ふんえん』を辺りに撒き『マジカルリーフ』を焼き払いながらアママイコへのヒットも狙ってコータスは次から次へと炎を飛ばしてくる。手負いながらアママイコはそれらを必死にかわして二度目の接近をかける。
「しつけぇっ……!」
「アママイコ! もっと低めを狙って……足に『ローキック』を!」
「まぁ……いっ!」
柔らかい身のこなしで上体を反らしながら先程よりもより低く、コータスの足めがけてアママイコが蹴りを放つ。
「ばらまけコータス!」
メロコの指示に二度の『ローキック』を受けながらも至近距離から今度は『ふんえん』をアママイコに浴びせにかかる。
「『こうそくスピン』で緊急離脱!」
「なにっ!?」
頭のヘタを回転させてアママイコが空へ舞い上がり『ふんえん』をかわす。
「逃がすかよっ!」
連続して撃たれるコータスの『ふんえん』を空中を飛びかってかわし続けながらレモンは反撃のチャンスを窺う。
「そこっ!」
タイミングを掴みすかさず攻撃を合図し、アママイコが『こうそくスピン』で素早くコータスにぶつかり、再度空へ離脱する。
「間合いをとられちゃこっちが面倒か……」
すばしっこいアママイコに決め手の一発を当てられないメロコは小さく地団駄を踏んでからコータスに更なる指示を出す。
「踏ん張れコータス……『ふんえん』を派手にばらまけ!」
息んで煙とともにありったけの『ふんえん』をコータスが空へ噴き飛ばしていく。
「かわしてアママイコ! キミならできーるっ!」
「まっ! ままままま……!」
細かなヘタ捌きで空中を果敢に動き回って攻撃をかわし続けていくアママイコの軌道を、コータスのためにメロコは見極める。
「そこだっ、『かえんぐるま』でぶっ飛ばせ!」
渾身の『ふんえん』すら陽動に用い、絶好のタイミングで出された指示に応えて、コータスは今再び自らを燃え盛る車輪に変えて砲台から放たれるように空へと飛び出した。
回避行動中の隙を突いた一撃にアママイコは危機を感じ目を大きく見開く。目に映るすべてを覆わんと迫る炎を前に生存本能が働きかけたのか、アママイコは無意識の内に頭のヘタの回転を上げスピードを増す。その微増した移動距離分によって直撃を避けることには成功するが、結果としては『かえんぐるま』を受けてアママイコは自分の意図せぬ軌道で空中を舞ってから地面へと落下した。
「アママイコ……よし、お疲れさま」
直撃を避け落下後もすぐに起き上がったアママイコだが、傷の深さを鑑みてレモンは彼女をボールに戻した。
「クワッス、出番っす!」
団ラッシュでも活躍したクワッスがアママイコの後釜を担う。先の戦闘での疲労がないわけではないが、タイプ的にはレモンの手持ちのメンバーでは本命と言える。
「『アクアジェット』!」
クワッスの素早い攻撃を前に、アママイコとの戦いで鈍りきったコータスの機動力は致命的だった。『アクアジェット』の直撃を受けたコータスは倒れ、早々に状況を五分五分に戻す。
「……チッ! だが、オレたちはまだ燃えッカスになってねぇんだよ」
コータスをボールに戻し、メロコが両足に力を入れ人馬一体、自らが戦う者のように猛りを上げた。
「シェダル・スターモービルッ!」
「オオオヲヲヲヲヲヲヲヲーーン!!」
メロコの言葉を受けて、ルーフの頂上に設けられたステージ部分に彼女を乗せたまま改造ブロロロームからなるポケモン、スターモービルが多気筒の分厚い唸りを聞かせてクワッスに立ちはだかった。
「コータスのぶん、くらわせろ! 『オーバーヒート』!」
「なっ!?」
初擊から大技を躊躇せず指示するメロコにレモンは思わず驚愕し、そこに隙が生じる。スターモービルから放たれた強大な炎のエネルギーをクワッスがもろに浴びる。辺りには短い間、蜃気楼が上がり熱気が舞う。
柔らかい歪みを見せる不明瞭な空気の中で、レモンは傷つきながらも敢然と立ち続けるクワッスを見た。指示を受ける用意ができていることをその背中に感じ取ったレモンは熱気に突き動かされるように声を出した。
「『アクアカッター』!」
「チィッ、『ひでり』が終わっちまってたか……!」
大技ながらタイプ相性に助けられ攻撃を耐えきったクワッスから水の刃の連弾による反撃が飛び、スターモービルに小気味よくヒットしていく。弱点を攻められ状況が一転したように思われたが、メロコはそんな流れも力でねじ伏せるべく次の一手をブロロロームのエンジンの振動を全身に感じながら打っていく。
「コイツの馬力はそんなチマチマした技じゃ止められねぇ……爆ぜな!」
スターモービルが轟音を唸らせ、その巨体がまっすぐクワッスに向かった。
「『バーンアクセル』!」
「『アクアジェット』!」
炎のエネルギーを込めたスターモービルの素早い突撃をクワッスもまた水のエネルギーで対抗し、ふたつのエネルギーがぶつかり合う、と思われたが、レモンの技の指示は空に向かって行われていた。
「んだとぉ!?」
『アクアジェット』で空へと打ち上がってスターモービルの『バーンアクセル』をかわす狙いが成功したのを確認して、レモンは素早く次の指示をクワッスに出した。
「『アクアカッター』!」
「クァオッ!」
レモンの指示に懸命に食らいつき、空中でスターモービルの中枢部を担うブロロロームの頭目がけてクワッスが刃の連弾をまた放つ。
「ロロロロ……!?」
頭上に『アクアカッター』を浴びたブロロロームは二度目のダメージにたまらず動きを止めた。その少し目の前に技を出し終えたクワッスが華麗に着地する。
「ど真ん中ストレートに『アクアジェット』!」
そして着地と同時にレモンがさらに攻撃をかける。
「押し返せ、『バーン』……」
「プルゥッ!」
クワッスの連続攻撃を迎撃しようとしたメロコだが、わずかに命令が間に合わず、水のエネルギーに包まれ『ロケットずつき』さながらに飛んでくるクワッスの『アクアジェット』が、ブロロロームの目玉に直撃した。
「ロロロヲヲ~~ン!」
スターモービルの要であるブロロロームは気を失い、それに連動するようにマシンの各部は金属の軋む音を立てながら動きを止めた。
「……」
沈黙したままメロコは片膝をつき、スターモービルの状態を確かめるように下を向いてから、やがて立ち上がって機体から飛び降り地に足を着けると、
「終わりかよ……やれやれ」
他人事のような、あるいは自らの諦念をもねじ伏せたかのように素っ気なく呟いた。
*
「燃えて、燃えて……燃え尽きちまったか」
メラメラと燃えている炎をデザインしたであろう、うねったレザーが側面から伸びた、脚部のほぼ全体を覆うほどの長いブーツを器用に履きこなし、ほとんど関節を曲げずに居丈高な投げやりさをもったような足取りでメロコはレモンにゆっくり近づいていく。
「テメーのアママイコとクワッス……マジで気合い入ってたぜ。文句ねぇ……ダンバッジ、持ってけ」
ニヒルに微笑みながらメロコは腰に斜めにもたれかかるように巻いていた大きく厳ついベルトに挟んでいたバッジを取り外し、レモンへ差し出した。
「勝っ…………た」
メロコからダンバッジを受け取りつつもレモンはどこか呆然とした調子だった。
「なんだぁ、バトルが終わってフヌケちまったか?」
「いや……まだ動くんじゃないかと思って……」
『オーバーヒート』の強烈な熱量を至近距離で目撃し感じたこともあってか、レモンにはスターモービルを撃破できた実感がいまいちなかった。
「ヘッ……まあボディはまだまだ余裕だ。司令塔のブロロロームがノビてなきゃまだ動けたかもな。そのブロロロームを真っ正面からブッ飛ばしたのはこのクワッスだぜ。自分のポケモンのためにも胸張れや」
そう言いながらまだ勝利を確信しきれてないレモンにメロコは今度は空の右手を差し出す。反射的にレモンも右手を出し、互いの掌を重ねる。
「……っ、あだだだだだだっ!?」
「ははははは! オラ、気合い入ったかよ?」
ぼんやりと自分の手を握ってきたレモンに対し、メロコは思いきり力を込めてその手を握り返した。いきなりの鈍痛にレモンは思わず手を握ったまま身を引いてしまい、ずっこけそうになる。
「おっと。テメー、そんなんでほんとに組ぜんぶ潰す気かよ!?」
「だ、大丈夫です! ばっちり気合い入りました! ナイスファイト! クワッスもお疲れさまっ! ダンバッジゲットだぜ!」
「プルゥ……」
必死に弁明するように矢継ぎ早に声を上げるレモンに半ば呆れを見せながらも寄り添うクワッスを見て、納得した面持ちで力を緩めレモンの手を解放した、そのとき、メロコの目が眩んだ。
「おわぁ!?」
「うぇ……あっ!?」
一瞬あとに続いてレモンも自分の傍らに突如発生した眩しい光に腕で目を覆った。閉ざされた視界の中で右手の痛みを感じながら、光の意味を理解し興奮で全身に力が入る。
「……ウェーーール!」
光が失われると、レモンの真横にいたクワッスの身長が伸びていることにメロコが気づき、直後に──
「ウェルカム、ウェルカモ~~~ッ!!」
パートナーの進化に歓喜の声が、目の前のメロコ、まだ敗北を受け入れ切れていないチーム・シェダルの下っぱの面々、一歩引いてふたりを見ていたネルケの耳に、メロコの気合いの雄叫びほどではないがやかましく響いた。