ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!!   作:ストレンジ.

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#36『Mystery History』

 

 自信に満ちた顔つきで姿勢よくたたずむウェルカモの、クワッスから大きくなった体に遠慮がちに抱きついてレモンは喜びの感情をダイレクトに伝え、ウェルカモはそれを誇らしげに受けた。

「よく鍛えるんだな。オレに勝った以上、他のボスにあっさり負けられるのはシャクだ。いい勝負ができるくらいにはなりな」

 腕を組みながらメロコが朴訥にそう言うと、それまでふたりの少し後方で様子を見ていたネルケが機を見ておもむろに近づいていく。

「レモン、そろそろオレの用事を済まさせてもらうぜ」

「コイツの相方だな。用っていうのは、オレにか?」

「そうだ。アンタに会ってほしいポケモンがいる」

「は? なんだよそりゃ」

 疑念を見せるメロコの前でネルケは戦いでは見せなかったクイックボールを取り出して軽い力で放り投げた。ボールが地に落ちて、出てきたのは甲冑に身を包んだ子どものような見た目の、ひのこポケモンのカルボウで、ボールから出てくるなりカルボウは嬉しそうな鳴き声をあげてメロコの足下へ駆け寄っていった。

「ボウジロウ……!?」

「ボウボウ!」

 親しげに自分を見上げてくるカルボウに、メロコはずいぶんと驚いて彼を見返していた。その様子を見ながらネルケがさらにメロコへ距離を詰める。

「テメー、どうして……」

「組へのカチコミの前にアンタのこと調べさせてもらった。アカデミーにいた頃のアンタを見知っていた生徒を探して、このカルボウ……ボウジロウと親しげにしていたと話を聞いた。反応を見るに確かな情報……いや、思ってた以上の関係のようだ」

 カルボウの首と背の間辺りから流れている炎が、風にたなびくスカーフのように揺らいでいるのを見てネルケが言うと、メロコはうつむきカルボウを見たまま話す。

「……アカデミー通ってた頃は、コイツと毎日遊んでたからな」

「キミのポケモンってこと?」

「アカデミーにはいろいろなポケモンがいるだろう? ボウジロウはその一匹だ。今回連れてくるためにボールには入ってもらったが、誰のポケモンというわけではない、が……」

 そこまで言ってからネルケは少し含みを持たせたような、よそよそしい調子で続きを言った。

「ボウジロウはアンタといっしょにいたそうに見えるな」

「……ヘッ、先公(センコー)の回しもんか、アンタ。決まり文句が出てきそうだ。アカデミーに戻ってこい、ってな」

「ああ、そうだ……その気はないか?」

「それはオレにじゃなく下っぱどもに言ってやんな。組が解散しちまう以上、行くあてはあまりないからな。アカデミー側に許そうって気があるなら、その情けはアイツらにかけてやんな」

「下っぱはよくて、なぜお前は断る?」

「組がなくなろうが団を去ろうがメンツってやつは消えはしねぇ。テメーらが他のヤツらとどう決着つけんのか見るまでオレの肩書きは元・スター団、それ以外はなにもいらねぇ……それにアカデミーは気に食わねぇ」

 メロコは頭を上げて歯がゆそうにネルケを軽くにらみつけてからすぐ目をそらした。苛立たしげなメロコのその態度に眉を困らせながらまた尋ねた。

「やはり……マジボスとやらのためなのか?」

「んだよ、知ってんのか。ピーニャが言ったか……まあ、だったらわかんだろ。そうだ。マジボスが戻るまでアカデミーには戻らねぇ。それで退学っていうなら……勝手にしろ、って伝えておけ」

「説得は無駄……か。なら別のことを尋ねよう。近々アカデミーに襲撃をかけるという噂は本当か?」

「あ? んだそりゃ? 知らねーよ、そんな話……」

「さっきのスターモービルという改造車で襲おうとしてるんじゃないのか?」

「ちげーよ! テメーも決めつけかよ、腹立つぜ……スター団はアブないだ、不良集団だ……どいつもこいつも知りもしねぇクセして見当外れの憶測を広めやがって……」

 メロコはそれまでと違い少し口調を荒くしてネルケの言う“噂”を否定した。

「スターモービルは……過去のケンカで使おうと用意したモンだ。結局使わなかったけどな」

「過去の……ケンカ?」

「そうだ……『スター大作戦』って知ってるか?」

「『スターダスト大作戦』ではなく、『スター大作戦』?」

「知らなそうだな。昔のことだ……知りたけりゃテメーらで調べな」

 そう憮然と言い放ってから、メロコは今度は下っぱたちの方へ向き直り大声を出した。

「オマエら! さっき見たとおり負けたのはオレだ! 団の掟に従ってチーム・シェダルは解散して、オレは団を離れる! 不甲斐なくてすまねぇが……あとのことは自分たちで考えろ! アカデミーに戻りたいヤツは戻れ! 以上!」

 誰にも口を挟ませない頑なな威圧を発しつつ、メロコは簡潔にチーム解散の旨を団員たちに知らせ、動揺の広がる下っぱたちに忸怩たる思いを抱えつつ、次はそばにいるボウジロウを見つめる。

「ボウジロウ……じゃあな。オレはまだアカデミーには戻らねぇ……いつか帰るときがあったら、また遊ぼうぜ」

「ボウッ……ボウ!? ボウボウ!」

 訴えるように鳴くボウジロウに背を向けて、メロコはこの場を去ろうと歩み始める。

「待ちなっ!」

 その背中をネルケがピシャリと呼び止めた。まだ話があるのかと、メロコはうんざりと振り返って冷たい目でネルケを見た。

「これ以上話は聞けなさそうだな」

「ああ。さっき言ったとおり、スター団を知りたいなら、あとはテメーらで調べな。オレは……しばらくひとりで考えるとするぜ」

「そうか、それは構わないが……ボウジロウは連れていけ」

「なに……!?」

「ボウッ!」

 ネルケの思わぬ一言にメロコは目を見開き、ボウジロウもネルケの方を振り返り、拳を震わせた。

「オレも自分なりにアカデミーのポケモンたちとふれあってきた……ボウジロウがお前と居たいという気持ちはわかってるつもりだ。アカデミー側への説明や手続きはオレがやっておく」

「……恩を売るつもりか?」

「それは違う。いや、最初はそう思っていた……ボウジロウを連れて説得すれば復学してくれるだろうと……だが話はそんな簡単じゃなかったようだ。しかし、ボウジロウとアンタの間には、どうやら絆があるというのはわかった。ボウジロウがいなくなるのを寂しがる生徒には申し訳ないが、アンタといっしょにいるのが幸せなんだと、この子の様子を見てて思ったんだ」

「……だとよ。ボウジロウ……どう思う?」

「ボウッ! ボウボウ!」

 控えめに尋ねるメロコに、ボウジロウはぴょんぴょん跳び跳ねて全身で肯定の意思を伝えた。

「そうか……なら遠慮はしねぇ。お前にも、アカデミーの連中にも、な。しばらくはあてのない旅だ。ま、気長にやろうぜ」

「ボウ!」

 ブーツにすり寄るボウジロウに、メロコは少しだけ傍目にもわかるような微笑を見せて口元を歪ませた。

「じゃあ、今度こそおさらばだ。せいぜい頑張れよ」

 そう言うとメロコは返事を待たずにボウジロウを引き連れ、レモンたちがやって来たゲートを通ってチーム・シェダルのアジトを去っていった。

「団員たちはチームの解散にショックを受けてるだろう。今はそっとしておいた方がいい。オレたちも長居は無用だ」

 ネルケに促される形でレモンもゲートへ静かに歩いていきシェダルのアジトを後にする。団員の大半は呆然としたままのようで、誰もふたりを止める者はいなかった。

 

   *

 

 アジトを出て手近な原っぱでひと心地ついたふたりとカシオペアは改めて今回の作戦の成功について語り合う。

「さて、今回もやはり肝心なことには口をつぐまれたが、ひとつ気になる言葉が出てきたな。『スター大作戦』……次はこの謎の作戦について調べる必要があるわけだが……カシオペア」

 ネルケは神妙な面持ちで、今まで沈黙しふたりの作戦の遂行を見守り続けていたカシオペアへの通信が開かれたままのレモンのスマホロトムに声をかけた。

「この作戦についてなにか知ってるんじゃないか? スター大作戦とスターダスト大作戦……名前はとても似ているが」

「『……まずはチーム・シェダルの殲滅、ご苦労だった。メロコが言っていたスター大作戦……私は噂くらいしか知らないが、かつてスター団はなにか大きな対決を控えていたらしい……それが関係しているのではないだろうか』」

「対決……襲撃なんてかけないとメロコは言っていたが……」

「『過去のケンカにスターモービルを用いようとしていたと彼女は言っていた……その“過去のケンカ”がスター大作戦に関係、あるいは作戦そのものだったのではないだろうか』」

「昔のスター団について詳しく調べなきゃならないな……当時を知る生徒を探さなければ……」

「先生の方が知ってるんじゃないの? 校長先生とかハッサク先生とか、ベテランの」

「いや、わた……校長も含めて、今の教員は皆グレープアカデミーに赴任して日が浅いのです。2年近く前になりますか……当時の教員と総入れ替えする形でアカデミーに来たものですから、スター団のことは生徒の方が詳細を知っている可能性があるのです……」

 なにげないレモンの言葉にネルケというよりクラベルは残念そうに異を唱えた。

「『……そもそも、なぜそのような大規模な教員の入れ替えが起こったのだろう。スター団と……なにか関係があるのだろうか?』」

 教員の総入れ替えという過去の出来事に、思索するように間を空けながらカシオペアがそう言うと、ネルケは気づきを得たようで神妙な調子になる。

「関係がある……? あれは……まさか……」

「ネルケは先生の入れ替えのこと、なにか知ってるの?」

「知っているというか、なんと言うべきか……」

 ネルケは言葉を選ぼうとして返答に詰まるが、すぐに顔を上げてレモンを見て答える。

「今言えることは……ない。とにかくもっと調べる必要があるな。スター団のことも、それからアカデミーのことも……。情報集めはオレに任せてくれ。レモンはまた宝探しに励みながら次の準備を整えておいてくれ」

「そう? アタシも手伝うけど」

「いや、大丈夫だ。レモンは最近アカデミーに入ったばかりだろう? ここは少し長く在籍しているオレに任せてくれ……今後のことは、情報が集まってからだな。少し時間がかかるかもだが……問題ないよな、カシオペアさんよ」

「『ああ……作戦の完遂には万全を期さねばならないからな。諜報活動も必要なことだろう』」

「そうと決まればさっそく行動に移らせてもらうぜ。レモン、作戦のことはあるが引き続き宝探しを楽しんでくれ。なにかあればすぐ連絡する。じゃあな」

 ネルケはふたりに別れを告げるとすぐさまモトトカゲに跨がりその場を後にする。

「『ではレモン、前回同様報酬にLPと補給班からわざマシン作りのための素材を提供する。次の戦いに役立ててくれ。補給班は最寄りのポケモンセンターに派遣するとしよう。目と鼻の先だ。そこで落ち合ってくれ』」

「サンキュー。それじゃ、情報集めはネルケに任せて、ボタンと会った後はアタシは旅を続けるよ」

「『ああ、良い旅を。私もスター団の今後の動きに注意しておこう。以上、通信を終了する』」

 カシオペアとの通話を終え、辺りには静寂が戻った。レモンは振り返りチーム・シェダルのアジトへの道を少し眺めてから、ボタンと合流すべくここからすでに見える東1番エリアのポケモンセンターへと向かった。

 

 

 

(つづく)

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