ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!!   作:ストレンジ.

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#37『Virtual Calamity, Actual Insanity』

 

 レモンはポケモンセンターにポケモンを預け、回復が済んだパートナーたちの入ったボールを受け取る。そうしてから2分も待っていると、ボウルタウンからの道からボタンがこちらへ歩いてくる姿が見えた。

「ども……お疲れさま」

「待ってたよ。LPに素材にいろいろ融通してくれて、カシオペアさまさまだよ」

「はは……そう言われると、カシオペアも喜ぶと思うよ……じゃあ、これ。今回の報酬」

「サンクス!」

 ボタンからわざマシン作りに必要な各種素材を受け取り用件を済ませる。そうして今回のスターダスト大作戦が区切りを迎えたところで、レモンは直近のやるべきことを振り返ってため息を漏らす。

「次はジムチャレンジ、終わらせなきゃなぁ……」

「あ、宝探しだね。そっちは順調……?」

「それがね……」

 レモンはハッコウジムでのナンジャモに課されたジムチャレンジについてボタンに話した。

「へぇ……そんな内容のジムチャレンジもあるんだね。ナンジャモさんがジムリだし、あり得なくはなさそうだけど」

「っていっても素人には大変なジムチャレンジだよ~。助っ人がいてくれたりして音源は用意できたけど、映像をどうにかしなきゃならないもん……」

「その音源って、聴いてみてもいい……?」

 ボタンの催促を受けてレモンはスマホロトムに記録されたピーニャのアレンジトラックにのせて歌い上げたラップを再生し聴かせた。

「……この『Pokédance』のアレンジって……ピーニャ?」

「え! わかるの!?」

 ボタンが楽曲の提供者である助っ人の名を的確に答えたことでレモンは驚いた。

「あ、うん……ピーニャのチャンネル、登録してて……曲好きだから、もしかして……って」

「わかる人は気づくんだね~……って今は『元』とはいえ、スター団に助けてもらうのって作戦的に大丈夫かなぁ?」

「ん……大丈夫、かな。カシオペアには黙っといてあげる。ウチもピーニャのチャンネル登録してるから人のこと言えんし……」

「そりゃどーも」

「うん……で、このラップ、映像の方はどういう内容にするかとかって決まってるん?」

「あー、アタシのポケモンの紹介ラップみたいな内容だから、動画もそんなふうにしようと思ってるんだ。編集とかはまだやってもいないけど……」

 そう言いながらレモンは自分のポケモンたちの遊ぶ姿や、野生のポケモンとのバトルや昼寝をする姿を収めた動画を続けて流しボタンに見せる。トレーナーのパートナーたちを撮影したものとしてはコンパンが色違いであること以外に特に目を引くようなところはなく、日常風景を捉えただけのものだった。

「なるほどなるほど、素材自体は揃ってそうだね……色違い(イロチ)のコンパンをメインに据えて……お、このアママイコの蹴りの動き、いいね、綺麗……こういうのは別に無理に面白そうに見せようとしなくていいんだから……」

 レモンの撮ったとりとめのない動画を見ながらぶつぶつと楽しそうにボタンがひとり喋っていく。

「うん、浮かんだ。これはいけるよ……」

「……な、なにが?」

 ひとりでなにかに納得して微笑で語りかけるボタンにわずかに困惑しながらレモンがそっと尋ねると、彼女は眉を下げつつもキリッと目を見開いて、思いきった調子で言った。

「ウチにやらせてくんない……動画作り」

「え!?」

「や! もちろん自分でやるならそれがいいんだろうけど……助っ人OKだし、レモンも困ってるんでしょ? ウチが請け負うよ……編集」

 思いがけないボタンの提案に息を飲んだレモンだったが、申し出そのものは彼女を大いに安堵させ喜ばせるもので、その自分本位な幸福感に申し訳なさを抱きつつも力強く首を縦に振った。

「いやいや、全然オッケー、というかありがとうとしか言いようがない! もう困って悩んでたからさ……」

 渡りにラプラスとばかりにボタンの助力の願い出を全力で肯定し、レモンはすっかり『あつぞこブーツ』を預けた気になって、根拠もなくすでにジムチャレンジをクリアしたつもりで笑顔を弾ませた。

「まあ今回の作戦成功報酬の追加みたいなものだとでも思っといて。じゃあ楽曲と動画のデータをウチのスマホロトムにコピーするね?」

 浮遊した互いのスマホロトムを手慣れた動きで操り、データのやり取りを交わす。

「慣れてそうな感じだけど、やっぱりボタンも動画作ったりしてるの?」

「うん、ゲームやったり。実況とかはしないけど……PCの扱いには自信あるから情報処理系は任せて」

 なよっとした口調は変わらないものの、レモンはボタンの自信ありげな雰囲気をその言葉から感じ取り、彼女の技術が自分(とピーニャ)の用意したものにどんな風に手を加えるのかワクワクし始めた。

「じゃあ帰って動画編集するから……出来上がったら連絡するけど、たぶん明日には完成してると思う」

「え、一日でてきちゃうの? 別に急がなくてもいいけど」

「完成形をイメージしたらむしろウチが早く作りたくなっちゃって……えへへ。まあ、そんなだから任せてよ」

「そういうことならよろしくお願い!」

 やる気に溢れるボタンに後を任せて彼女と別れると、レモンは夕景の東1番エリアをしばし散策することにした。

 

   *

 

 夜になる前に一日の締めのバトルとばかりにエリアに佇む、あるいはうろつくトレーナーたちとレモンはスター団との戦いの疲労も忘れてポケモンバトルを楽しんだ。

「ウェルカモ、『アクアジェット』でゲームセット!」

「プウェルッ!」

「マルマイーーーンッ! ……うぅ、速すぎる」

 進化を経てより強さと速さを増したウェルカモの突撃に対戦相手のアカデミーの生徒のマルマインは持ち前の素早さを活かすことなく戦闘不能に陥り、レモンたちの勝利が決まった。

 辺りが薄暗くなり始めたのを頃合いに再度ポケモンセンターへ寄ってから、今晩はアカデミーの自分の寮のベッドで寝るのもいいかと考えたところで、レモンは耳なじみのある声が自分を呼ぶのを聞いた。

「レモーン、久しぶりっ! バッタリだね!」

「ネモ!?」

 レモンを呼びかけながらポケモンセンターへ小走りで近づいてきたのは、宝探し初日に互いに違う方面から旅をスタートして以来会っていなかったネモだった。

「ジム巡りはどう? 順調?」

「カエデさんとコルサさんに勝った! 次はハッコウシティのナンジャモさんに挑む! ……ためのジムチャレンジ中!」

「そっか! わたしはボウルジムをクリアしてじっくりポケモンたちを育成中! ほんとうは今からレモンとバトルしたいけど……」

 そう話すネモの背後から機を見てこちらへ近寄って来る者がもうひとり。歴史教諭のレホールだった。

「レモン、だったな」

「レホール先生、こんばんは……ふたりで宝探しってこと?」

「正確には彼女は宝探し中のワタシのお目付け役だ」

「そうなの。校長先生にアカデミーに呼び出されてさ、レホール先生の宝探しの付き添いをして欲しいって。それで、どんな活動をしたか報告してください、って」

「まったく、生徒を巻き込むなと釘を刺しておいて自ら生徒会長を差し向けるとは……。クラベル校長(ご老人)の苦悩の末の配慮が見え隠れして、なかなか愉快だ」

 機嫌良さそうにレホールは微笑をもってネモとレモンを見て、さも満足といった様子で頷いた。

「先生~、そんなこと言って! まさか朝から晩までがっつり手伝わされるとは思ってなかったですよ! もうクタクタ……」

「いや、実に助かったぞ生徒会長。貴様のおかげでワタシの宝探しは、さっそくひとつの契機を迎えられそうだ。今晩はしっかり休息をとって、校長への報告は明日にしよう」

「レホール先生の宝探しってなんです? そんなにハードなことなの?」

 ネモもレホールも、服のところどころが土埃などで汚れており、いかにも一仕事終えたという風体であった。

「進捗としては、目的のための仕込みが完了したというところだな。しかし生徒会長の言うとおりワタシもなかなか疲労困憊だ……貴様はこの後どうする気だ? 寮に戻るのか?」

「そのつもりですけど」

「ならワタシたちと食事をどうかな? 晩餐と共に、本日ワタシと生徒会長が為した、偉業への足がかりについて話せる範囲で聞かせてやろう」

「それ賛成! わたしもレモンの宝探しのこと、いろいろ聞きたいし!」

 レモンが返事をするよりも早く横で聞いていたネモが目を輝かせ、首を大きく縦に振る。

「もち、アタシもオッケーだよ! 今は待ち時間的な感じだったから」

「では街へ戻るとするか……そらとぶタクシーを手配しよう」

 疲労の溜まったネモとレホール、そんなふたりを眺めているうちに忘れていた疲れを再び取り戻し始めたレモンたち一行は、そらとぶタクシーで薄闇のパルデアの空をテーブルシティへ向けて飛び立った。

 

   *

 

 本拠地へと戻りファミリーレストラン『バラト』へ入った3人は席に着くやサッとオーダーを入れ、それに応えた店側も注文の品を手早く提供する。レモンとネモ、ふたつのハンバーグ&ミックスフライとレホールのドライカレーに全員分のシーザーサラダがテーブルにところ狭しと並べられた。

「……アカデミーに赴任してからというもの、なにかにつけ校長から行動を制限されてきたが、今は違う。ワタシも彼への交渉材料を得られたおかげで、監視役がいようがこうして望む活動ができるようになった。そうして成し遂げられた第一歩が、これだ」

 夕食を摂りつつ器用に饒舌に話しながらレホールがレモンにスマホロトムから見せた画面には、どこかの地面に突き刺さった、紫色に光る杖のようなものが映し出されていた。

「なんですか、これ? でっかい錫杖(しゃくじょう)?」

「錫杖ではない、聖なる力の宿った“杭”だ。この杭が、かつて『災厄』と呼ばれ(いにしえ)のパルデアを暴れ回ったポケモンたちの力を抑え、封印しているのだ」

 レホールはそこで一度水を飲み、自分の話を聞くために手を止めてしまっているふたりに食事をしながら聞いていいとジェスチャーで促し、続きを始める。

 

「むかしむかし、パルデアにとある王様がいた。彼は異国のいわくありげな宝具の類に目がなく、その財と権力をもって様々な宝を配下に探し回らせ蒐集(しゅうしゅう)していた──

 ある日、東の国から来たという商人が、蒐集家の王の噂を聞きつけ、自分の国に伝わる宝を紹介し、商談を持ちかけた。その宝とは、(うつわ)(つるぎ)木簡(もっかん)勾玉(まがたま)……。強欲な王はその四種の宝を自らの意志のままに商人から手に入れると、その夜は甘美なる喜びのままに宝を愛で、満足そうに眠りについたという……そして一夜にして、王の国は滅んだ……」

 

「……と」

「唐突……!」

 しばしの沈黙の後、口に入れたフライをしっかりと噛んで飲み込んでからネモとレモンは困惑の呟きを漏らす。

「王が商人から手に入れた宝には、まさしく“いわく”があったのだ。宝のために人生を狂わされた人々の怨念が逸品たちには宿っていた……。そこに王の盲目的な強欲さが込められ、宝は負の念を抱えたポケモンへと変貌を遂げ、一夜かどうかは眉唾物だが往時のパルデアを滅亡に追いやった……とされる」

「……される、ということは、おとぎ話とかではないってことですよね?」

 空腹に手も口も素早く動かしネモはハンバーグを食べ終えると、疑問調ながらもレホールの言に真実味をうっすらと感じ控えめに尋ねた。

「フフフ……さながら一夜の夢物語のようだろう……しかし、国破れど()(ほろ)ばじ……。当時の清廉にして強大な力を持った高名なポケモン使いたちによって災厄たちは倒され(ほこら)に封印され、パルデアの各地に聖なる力を込めた杭を打ち立て封印の鍵としたという……」

 そそくさとサラダを平らげてレホールは誇らしげにそう言うと、ネモが驚きを見せる。

「そんなもの、抜いたりしたらダメだったんじゃないんですか……?」

「え、抜いちゃったの? その杭……」

 レホールのスマホロトムに映された杭の写真を指差してレモンが言うと、さぞ楽しそうにレホールは大きな笑顔を見せた。

「そうだ! ワタシが一年あまりをかけ、校長の目を盗んで災厄の伝説について地道に収集した情報を元に少しずつ探索を積み重ね、災厄の一角である祠とそれに対応する杭が打たれたすべての場所を特定し、結果的にはこのネモにそれらを抜き取ってもらったのだ! 太古のパルデア史を我が手にし、探究するために!」

 熱くまくし立て残りのドライカレーを平らげ水を飲み、レホールは曇ったメガネを外してレンズを拭き取った。

「……ど、どうしよう? わたし、やっちゃった?」

「かもね……」

 はしゃぐレホールを前にネモは珍しく顔を青くし、レモンは話のスケールの大きさに唖然とそう答えるしかなかった。

「クククク……思えば校長が貴様をワタシによこしたのが、結果としてこちらにとって非常に有意義な働きとなった。やっと見つけた杭が、ワタシやポケモンたちの手では抜き取れなかったのだからな」

「わたしが一本目を抜いたときに言ってましたね……。でもやっぱり不思議。ポケモンが抜けないなら、腕っぷしとは別の力がないと抜けない杭ってことですもんね」

「そのとおり。ゆえに災厄の伝説がいよいよ現実味を帯びたというもの! 封印を解く素養を持った人物がワタシの元へ遣わされる……パルデアの大地はワタシの味方をしていると言えよう!」

「……どうして先生はそんな喜んでばかりいられるんですか?」

 レホールの調子に思わずネモは呆れてそんな質問が口を突いて出た。

「なにを! スリルこそ人生のスパイスであろうが! 校長やポケモンリーグが怖くて歴史探究が出来るか! ……それにネモ、貴様もこの件に関しては旨味があるのだぞ?」

「え?」

 意外なレホールの言葉にネモは眉を歪ませその答えを求めて彼女とレモンを交互に見た。

「考えてもみろ生徒会長。祠の封印を破れば、かつてのパルデアを亡国に追いやったほどの力を持つポケモンが我々の前に現れるのだ……災厄とてポケモン、探究のために奴らを捕まえる必要がある。そして捕まえるためには、戦って弱らせる必要が……ある!」

「そ、そっか……そんな相手と、()れるんだ……!」

「そうだぞ! 捕獲が叶わねば、アカデミーとポケモンリーグとタイム先生を敵に回しかねず、さらには現代のパルデアが太古の二の舞(ダブルウィング)となる恐れすらある……いわば一世一代の大勝負となろう。それが貴様を待っているのだ。勝てば官軍、貴様は滅多にない強敵との戦いを味わえ、ワタシは災厄をこの手に研究の日々、パルデアの平和も守られアカデミーの面目も保たれる……」

「まさにWin-Win!」

「いや、負けたときの被害が大きすぎるでしょ……?」

 一転して目を光り輝かせ興奮を覚えるネモにレモンが真顔で呟くが、レホールの言葉を前にもはや彼女の疑問はネモを曇らせるほどの働きは持っていなかった。

「なに言ってんの! 自慢になっちゃうけど、チャンピオンランクのこのわたしが相手! 伝説だって目じゃないよっ! それに、教えられてこそなかったとはいえ杭を抜き取ったのはわたし……自分で撒いた『やどりぎのタネ』は自分で『こうそくスピン』して取らなきゃ! 先生、わたしやりますよ!」

「うむ! 杭を抜いた以上のんびりはしていられない、明日にも祠へと向かい、伝説の戦いを繰り広げようではないか!」

「はいっ! そうと決まればメンバー決めなきゃ!」

「フフ……ワタシもポケモントレーナーの端くれとして、全霊をもって戦いに臨む生徒会長が見れるのは楽しみだ。気分が良いな……どれ、ここはワタシがおごってやろう。レモン、貴様の分もだ。今話したことは他言無用、内密にしておけ……いいな?」

「ら、ラジャー……」

 爛々とした目つきのふたりにレモンは思わずレホールの要請を受けるしかなかったが、思い出したように忠告も入れた。

「でもネモの校長先生への報告はどうするんですか? ウソついちゃうんですか?」

「フン、そんな心証を悪くするようなことはしない。ご老人には、ありのままを話す。彼とて探られたくない腹はある……災厄の捕獲さえ達成すれば大事にはしないだろう。ククク、明日の朝が楽しみだ。驚愕にうち震えるご老人の顔を見物させてもらうとしよう」

 校長の説得に自信ありげなメガネ越しのレホールの瞳と、メガネ越しの渋い顔のクラベルを比較するように想いながらその場は解散となり、災厄と呼ばれるポケモンへの関心を抱きつつレモンは寮への帰路へと着くのであった。

 

 

 

(つづく)




『蒐集』の読みって『きしゅう』じゃないんだ……(今話書いてて得た学び)
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