ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!!   作:ストレンジ.

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#38『Tap the Rap』

 

 翌朝、寮の自室のベッドでレモンが目覚めると、ボタンからおそらく意図していないであろうモーニングコールがかかってきた。

「レモン……でき、たよ……」

 挨拶もなしにいきなり聞こえてきた気力のない呟きに心配を抱えつつもレモンは感謝した。

「ほんとに一晩で完成させたんだね……お疲れさま。ゆっくり休んでね」

「うん、渡したら寝る……。じゃ、データ送るよ……」

 ボタンからの短い通話が終わり数秒経つと、レモンのスマホロトムがデータの受信を通知する。送られてきたデータを開くと、そこには確かに一件の動画データがあった。ドキドキしながらそそくさと再生し、内容を確認する。

 

 Hey! パルデア降り立つNew Challenger

 探すよ光差すMy Treasure

 今度の課題は難題(もん)じゃ……

 出したの何(もん)? ナンジャモさんじゃん!

 

 ピーニャのアレンジした『Pokédance』のテーマに乗せてレモンのラップが流れ始める。画面にはダンスを踊るコンパンが大写しにされている。レモンがパートナーたちと踊ったのを撮影したものにズームをかけて、コンパンだけがアップで映し出されている。短い手をパタパタと動かしてレモンの動きを真似る愛くるしい姿に色違い種であることが一目でわかる青い複眼の瞳が画面中央を占めていて目を引く。

 

 バズればクリアのジムテストは

 なかなかなかなかなか大変じゃん!

 そんななか頼れる仲間に感謝!

 んじゃ紹介しちゃうよレモンズ・サイファー!

 

 1stヴァースが終わり、次の『Hey,you're my my ma my buddy!』のセクションを間奏として、オリジナルよりもメタリックなギターシンセと重いビートでアレンジされた曲をバックに画面ではチャットのスタンプ画像を組み合わせてミキサー卓を操るDJの装いが演出されたコンパンから、クワッス、アママイコ、ウリムー、ヤミカラスの4匹を引きで映した画に切り替わり、真ん中にいるクワッスの画面下からはステージ、上からはミラーボールを模したスタンプ画像がフレームインし、周囲から中央に向けてネオンライトの光までが照らされ、画面はクラブの装いを呈し出し、踊るポケモンたちがそれぞれフィーチャーされる。最初にスポットライトを浴びたのは今は進化してウェルカモになったありし日のクワッスだった。

 

 水しぶき撒き上昇 ジェットな登場 『じしんかじょう』で威力も上々!

 アカデミーライフを陽気に向上 クワッス参上 次どうぞ!

 

 『アクアジェット』を炸裂させる映像を交えながら加工された背景とエフェクトの中で踊るクワッスを見て早くも懐かしさを感じるレモンの目を、唐突に画面が中央から砕けるエフェクトとともに『ローキック』を放つアママイコへと画変わりし驚かせた。

 

 あーまい香りの蹴りお見舞い! きりきり舞いでも可哀想でも容赦しないの 素直な子 GO! アママイコ!

 

 落ちたタマゴ間一髪キャッチ そのままリュックですくすく育ち

 生まれたEarth & IceのつぶてをShoot ウ・リ・ムー!

 

 アママイコの次は、『こおりのつぶて』と『マッドショット』を放つ勇姿と、ほとんど見えない短い手足を動かして踊るウリムーの愛嬌のある姿が映し出された。

 

 小さな体 でも勇敢だから きらめくお宝 探すお仲間

 WackなLuckはWingで突き放す ヤミカラス!

 

 さらにそこから空を飛び回り『つばさでうつ』の鋭い一撃を敵に食らわせるヤミカラス。気ままなのか不服なのか、ダンスの最中でも彼女だけは踊ることなく中空を旋回する姿が映される。

 

 ブルーな『いろめがね』で見れば 半減なんか勘違い

 準備は万端 勝利はコンパン カントー産の色違い!

 

 BGMはエンディングに入りコンパンが『アシッドボム』を放つ姿、そして色違いの青い複眼を瞬かせながら左右に揺れ、ダンスを踊っているつもりであろう様子が映し出され、音楽とともに映像も終わりを告げ画面は暗くなった。

「ほ……えぇぇ~、すごいや……すっご……わぁ」

 完成された動画を確認してしきりに感嘆の声を漏らしながらもう一度改めて見返し、クレジット表記にも誤りなどがないことを確認してから満を持してサイトに動画を投稿した。反応を気にしつつもナンジャモとのバトルが近いと確信したレモンは昼までパートナーたちを鍛えることにし、一度テーブルシティから離れていくのだった。

 

   *

 

 ポケモンの特訓を終えてミライドンを駆りアカデミーに戻ってきたタイミングでレモンのスマホロトムにふたたびボタンから連絡が入った。

「おはよ、ボタン。改めて動画、ありがとね。ナイスな出来栄えだったよ」

『どうも……へへ』

「確認して問題なかったからあのあと早速投稿したんだ……反応はまだ見てないけど」

『あっ、じゃあうちのアカで拡散しとく……効果そんなないかもだけど』

「サンクス! じゃあもう少ししたら確認してみようかな」

『……思ったんだけどさ、ジムテストだから当然ナンジャモさんは確認するよね、この動画』

「うん? それはそうだろうね」

 かしこまった調子でボタンが少し声を潜めたことをレモンは不思議に思った。

『今さら遅いんだけど、この動画見たらレモンの手持ちとか、ある程度技とか特性とか筒抜けになっちゃうじゃん……って』

「あ……」

 ボタン同様今さらながらそのことに思い当たるレモンだった。自分のパートナーたちをラップで紹介している内容な以上、自分がどんなポケモンを連れているかが動画を見れば一目瞭然となってしまう。ましてやレモンには他の手持ちもいないためバトル前からナンジャモが有利になってしまう。

「ぐぁ~、動画の内容考えるのに必死で全然そんなこと気づいてなかったぁ……」

『うちも今の今まで気づかんかった……』

「まあ……出しちゃったものは仕方ない! それでも勝ってみせるさ!」

『大丈夫……?』

「だいじょぶ……と思いたい! そんなこと言ったらジムリーダーだってタイプ統一してるから事前に予測立てられてるのが当たり前なんだし……状況が五分になっただけだよ! あ、クワッスはウェルカモに進化したし!」

『……でんきジムだからクワッスでもウェルカモでも、そもそも不利だけどね』

「ぬぬ……」

 動画作りが終わってもハッコウジムに頭を悩ませさせられるレモンだった。

 

 ボタンとの本日二度目の通話を終え、バトルへの不安材料を抱えつつもまずはジムテストのクリアと、レモンは数時間前に投稿した動画のページを出し、恐る恐る再生数を確認する。

「おぉ……」

 尻込みするレモンの目の端が『278』の数字を捉えた。

「3時間ちょいで合格ラインの1/4……!」

 今すぐクリアとはいかないとはいえ、その数字はレモンを安堵させるものだった。

 その後は数分おきに再生数を確認しつつ食堂に向かい昼食をとる。少しずつ、少しずつ動画の再生数は数を伸ばし、レモンが食後のティーブレイクを終える頃にはその数は400に迫りつつあった。

 しかしそこから先は伸び悩み、すっかり他のことに手が付かなくなって自室で動画の再生回数をひっきりなしにチェックしてはレモンはやきもきするのみだった。ネモを始めとしてアカデミーのクラスメイトたちに周知し、拡散してもらえれば再生数の上昇は見込めそうなものだし、それはルール外の行為ではないことを認識してはいるものの、レモンはこれ以上のアクションを自分から起こすことなく一連の流れの中で合格ラインの1000再生に達してほしいという誰に課されたでもないこだわりに胸を(はや)らせながら、ただただ現状を積極的に傍観する形で見守っていた。

 勝機はあった。ピーニャによる宣伝だ。ボタンに続いて彼がこの動画を勧めれば、動画内の楽曲のアレンジャーでもある彼のチャンネルを応援している者たちがこぞって確認するであろう、と。ピーニャはレモンのジムテスト用に作ったチャンネルを登録してはいるが、まだ気づいていないのか、それともすでに彼による拡散は成されていてその上でこの伸び具合なのか。そうは思いたくはなかったが彼の連絡先を知らず、また見守る姿勢を貫くばかりの今のレモンには確かめようもないことだった。

 陽も傾き始めた頃、そんな彼女の胸を高鳴らさせる動きがあった。再生数が数分で一気に100近く増え、ふたたび伸び始めたのだ。確信を得たレモンがピーニャのチャンネルを覗くと、告知用の投稿欄に『トラック・アレンジ担当したよ。CHECK IT OUT!』という一言とともにレモンの動画リンクの載った報告が発信されていた。

 来た! とレモンが心の中でガッツポーズを構えるより早く再生数は500を越え、2回3回とページをリロードするたびにも視聴回数はじわじわ上がり続け、『Like!』や簡素ながら肯定的な内容のコメントもつき始めた。DJ悪事様々とばかりにレモンは拝むように両手を合わせながら表情をにやつかせ祈った。

 

 そうして夜は更け、パートナーたちと晩ごはんを食べる以外はなにも手のつかぬまま画面を一心に見守り続けるレモンのスマホロトムに、三たびボタンからの着信があった。

『あ……こんばんは。動画、伸びてきたね……知ってる? ピーニャが拡散したの』

「うんうん、一気に1000に近づいたよね……明日か明後日には、いけるよね?」

『たぶん……。てか、ジム戦の対策はどうなの? 勝てそう?』

「あっ! 再生数見るのに夢中でなにも立ててない……!」

 いよいよ動画の再生数が800を越えたところでレモンは肝心のナンジャモとの戦いにあたって技の選定や作戦をまだなにも考えていないことに驚愕した。

『気がかりなのはわからんでもないけど、今はバトルのこと考えなよ』

「や~、お恥ずかしい……テストに受かってバトルに負けてちゃ本末転倒だよね。ボタンもDJも協力してくれたんだからジムテストは合格間違いなし! あとはバトルを考える!」

『そうだね……スター団のチームふたつ潰してるんだから。バトルに集中すればレモンなら勝てるはずだよ』

 ボタンに話す形で自分にそれを言い聞かせると、ボタンも彼女なりにレモンを鼓舞する言葉を贈った。

「ありがと。それじゃね」

 通話を切ると反射的に画面を動画のページに戻そうとするのをこらえ、レモンはベッドに仰向けになり、(きた)るべきナンジャモとの戦いをイメージするのだった。

 

   *

 

 夜が明け、次のジム戦のことを考えたまま寝落ちしたレモンは目を覚ましスマホロトムをいじろうとしたところで、自身のアカウントのページに一件メッセージが届いていることに気がついた。送信元の名前は『ハッコウジム運営事務局』とある。

 

 @ハッコウジム運営事務局・24分前

 @Lemonade_Dated様。ジムテスト合格の条件を満たしたのを確認しました。おめでとうございます! ハッコウジム受付にて挑戦をお待ちしてます

 

 メッセージを見てレモンの頭は一気に覚醒する。画面をスワイプしてページを上にスクロールして現在の再生数を確認すると、『1027』の文字が目に飛び込んできた。

「の……ぉおおおおおっ!?」

 不意打ちの嬉しさに朝から奇声を上げて混乱しそうになるのをなんとか収め、今一度ジムテスト合格の条件を満たした数字とメッセージを見る。レモンの意識は急速にバトルへ向けての準備を促し始めた。

「特訓は昨日もしたし大丈夫なはず……あっ、わざマシン! ポケセン!」

 ついにハッコウジムのテストを乗り越えたレモンは慌ただしく出かける準備を整え、パートナーたちの技の見直しのため最寄りのポケモンセンター目指して部屋を出た。

 

 

 

(つづく)

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