ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!!   作:ストレンジ.

39 / 43
#39『Rhythm of the Buzz Ism』

 

 夕刻、ジムテストをクリアしナンジャモとのバトルの権利を得たレモンは西陽も傾き陰りを差し始めた薄闇のハッコウシティを訪れた。街の入口でミライドンの背から降りると寄り道せずにハッコウジムへと足を運ぶ。日暮れの街は活気とネオンに溢れ、パルデア十景の『100万ボルトの夜景』を演出するサーチライトが街の中央から上空へ向けて照射され、その光景は暖かな風の流れも伴って(こころよ)い胸騒ぎをレモンに与えた。

 ジムへ入り受付を務める男性に用件を伝えジムリーダーのナンジャモへ確認がとれるのを待つ。合間にスマホロトムを確認すると、今朝1000再生を越えた動画は1400まで再生数を伸ばしていた。

「レモンさん、お待たせしました。エレキトリカル★ストリーマー……ジムリーダー、ナンジャモへ挑む準備はよろしいですか?」

「大丈夫です!」

「けっこうです。では中央広場のバトルコートまでどうぞ! 頑張ってください」

 受付に促されジムをあとにしてレモンは街の中央の広大なバトルコートへ意気揚々と歩いていく。広場の外縁の数々の電光掲示板からはお菓子や美術館などのさまざまな広告が忙しなく入れ替わり、趣の異なる光が周辺を歩く人々の網膜に刺激を与え続ける。そんな、オフィス区画には何棟もの高層ビルも建ち並ぶ科学技術の装い著しい街からでも、遠景には切り立った東2番エリアと3番エリアにそびえる崖を隔てる河川から怒涛の勢いで流れ落ちる滝が望める。『100万ボルトの夜景』という現代人工の美術を内包しながらも、すぐ傍には余りある自然の息吹が逆巻くパルデアという大地の美々しき暴威が、(くれない)の残る藍色の空に少しずつ雨雲を湛えさせていた。そんなことは露知らず、軽くくしゃみをひとつしながらレモンはナンジャモの待ち構える中央広場のバトルコートへ足を踏み入れた。

 

 コート外周でざわめきたつ人々を横目に中央に立つナンジャモのもとへ進んでいくと、レモンがナンジャモの対戦相手であることに気づいて観客たちのざわめきがいっそう増す。彼女の目の前でレモンが立ち止まると、いよいよといった調子でナンジャモは数あるトレードマークのひとつであるギザ歯を見せて楽しそうに笑った。

「来たねチャレンジャー! テストクリア当日早々ボクとバトろうとか、明日まで待てなくなっちゃったかな~?」

「それもあるけど、夜のハッコウシティでジムリーダー戦! ……なんて、“()え”が狙えるんじゃないかなって」

「なんと! さすがテストをクリアしただけあられる! バズりを考えたシチュ選びだったか~」

 少女のように余った袖をパタパタ振りながら無邪気そうにはしゃぐナンジャモが着込んでいる大きなコートの内から、U字磁石模様が全体にあしらわれた赤と青のツートンカラーのカバーをまとったスマホロトムパッドがふわりと姿を現す。

「んじゃ、そんなサポートも受けまして~……始めようぞ! 『ドンナモンジャTV』、ジムバトルSP!」

 高らかに声を上げたナンジャモのその言葉にコート外周に集まり始めた観客たちが色めき立つ。周囲の高揚感に突き動かされるようにナンジャモの側頭部のパステルピンクとパステルブルーのコイルを模したふたつの髪飾りが飛び上がり頭上をぐるぐる回りだした。

「本物のコイルだった!?」

「ノンノン! 髪飾り……兼ドローンなのだよ! ちょっと重い!」

 それまで装飾品だと思っていたコイルが動きだし驚いたレモンだったが、見立ては間違っておらずコイル型のドローンだったようで、ふたつのドローンは場を盛り上げるようにしばらくの間ふたりのそばを飛び回ってから持ち主の頭へと戻っていった。

「皆の者~、おはこんハロチャオ~! あなたの目玉をエレキネット! 何者(なにもん)なんじゃあ~? ……ナンジャモですっ!」

 レモンも何度か聞いたことのある配信者(ストリーマー)、ナンジャモの決まり文句が始まり、スマホロトムパッドが彼女に寄ったり引いたり、別角度へ回り込んだりと落ち着きなく動きだす。

「さてさて、今夜の『ドンナモンジャTV』は事前告知15分前のゲリラ感ちょいありなジムバトルSP! まれによくあるスペシャルなジムテストをクリアしたチャレンジャーとの生配信バトル!」

 観客だけでなくスマホロトムパッドにも目線を送りながら、先ほどよりもハキハキと高いテンションで喋り始めたナンジャモの様子と言葉に察したレモンは自身のスマホロトムを呼び出し、動画サイトのナンジャモのチャンネルを表示した。

 ((・))ライブ の表示がある動画をタップすると、やはり今この瞬間のこの場所が配信されており、彼女のチャンネルからの配信ゆえ客演の形ではあるものの、いわゆる生配信デビューを果たした感慨深さにレモンは震えた。

「『100万ボルトの夜景』をくり出すテン上げハッコウ・ナイトの中央広場バトルコートからお送りするのは~、このチャンネルの視聴者ならとっくにご存知! ハッコウシティ、ジムリのナンジャモと……ポケモンたちのダンスとラップの動画でジムテストをクリアしたチャレンジャー、レモン氏だ~! 皆の者、拍手~」

 自分の名が呼ばれた瞬間、スマホロトムパッドがいきなり目の前にぐいぐい寄ってきて驚くレモン。自身のスマホロトムをちらりと覗くと、大写しになった自分の困惑顔と、

 

 

 みょん吉

  〈 おおおおお

 

 KENDI

  〈 8888

 

 グレッグルマニア

  〈 この子があの動画作った子?

 

 

 視聴者たちのチャットによる反応がいくつか見えた。

「グレッグルマニア氏、そうだぞ~! バズる動画を作れることを証明したインフルエンサー &(あ~んど) ポケモンマスターのタマゴなのだぞ~!」

「おはこんハロチャオ! アカデミーはグレープでも名前はレモン、a.k.a『レモネード・トルネード』あっ、チャンネル名は『Lemonade_dated』……よろしくです!」

 レモンは気を取り直してナンジャモのスマホロトムパッドに向けて笑顔で手を振り挨拶をした。

「おーっ、困惑から返しのターンにでんこうせっかのてきおうりょく! いいね! ボクの目に狂いはなかった~!」

 

 

 コジおじ

  〈 ふいうちアップは誰でも驚く

 

 エレキン

 ¥5000

 

 

「バトり前からチャレンジャーの驚く顔が見れるのもまた一興……あ、エレキン氏、ありがとー! 配信勢も現地勢も賑わってきたね!」

 寄せられるチャットのコメントに反応しながらコートに集まった観客へ向けても手を振りアピールをしながらナンジャモは改めてレモンの顔を見やる。

「んじゃも~ボクらもギャラリーもあったまってきたし、始めていこっかジムバトル at ハッコウ・ナイト! 皆の者、応援よろしく~!」

 

 

 みょん吉

  〈 わいわいがやがや

 

 DJ悪事

  〈 チャレンジャー ファイト!

 

 もちものはじしゃく

  〈 どっちも頑張って下さい!

 

「おっと!? レモン氏の動画でBGMを担当したDJ悪事氏もご覧だ~!」

「えっ……ホントだ! サンクス、ピー……DJ!」 

「しかしレモン氏! 動画はよかったけど仲間の情報をラップしちゃって視聴者はもちろん、ボクにも筒抜けなんだぞ~! その辺どうなんだい!? やれんのかいっ!?」

 痛いところをナンジャモに突かれたレモンだったが、拳を握り冷静に彼女を見て微笑んでみせた。

「手の内がある程度わかるのはジムリ側も同じ……それに、そんななかで勝ったらドラマチックっしょ!」

 スマホロトムパッドを意識しつつナンジャモにそう言い放って拳を突き出す。そんなレモンにナンジャモはまたギザ歯を見せて嬉しそうに小躍りしてはしゃいでみせたのだった。

「うんうん、いいねぇ~その精神! ポケモンバトルはいつだってガチってナンボだよね! 本気でバトってバズって……どっちもやらなきゃならないのがボクの辛いところ……でもレモン氏はその期待に応えてくれそう!」

 余った袖の上から器用にモンスターボールを取り出し両手で差し出すようにナンジャモはレモンに突きつけた。

 

「レモン氏の実力、どんなもんじゃ~!」

 自身のチャンネル名にかけた言葉をゴングに、ナンジャモは袖の上から掴んでいるボールを下手投げで軽く放ち、いよいよジムバトルが始まった。

「おいでませませカイデン!」

 ナンジャモが最初にくり出したのはでんき、ひこうタイプのうみつばめポケモン、カイデン。じめんタイプを弱点とするでんきタイプでありながらひこうタイプによってその問題を克服しているポケモンだが、レモンは果敢にも手持ち唯一のじめんタイプポケモンを出し、勝負に挑む。

「ウリムー!」

 オレンジとグリーンの光とともにサファリボールからウリムーがバトルコートの地に四つ足で立ち登場する。

「先手必勝、『つぶて』がいいっしょ!」

 役者が揃い戦いが始まると間髪入れずにレモンは『こおりのつぶて』を命令し、小ぶりの氷塊があっという間にウリムーから放たれカイデンに炸裂する。

「ひこう持ちでじめん技が通らないならひこうの方の弱点を突く! さすがだぞレモン氏! タイプの相性を、バッチリ理解しているんだな!」

 決して安くはない一撃を受けながらもナンジャモは楽しげにレモンとウリムーを見て軽い称賛を贈る。しかし同時に油断なくカイデンに意識も向けて反撃のタイミングを窺っていた。

「静かに素早く……『でんこうせっか』!」

「クヮッ!」

 短いひと鳴きとともにカイデンが一気にウリムーに接近し鋭い体当たりを食らわせた。

「そのまま『ついばむ』!」

「『こおりのつぶて』もう一度撃て!」

 『でんこうせっか』の一撃による接近から流れるように『ついばむ』を加えるカイデンに向かって、攻撃を受けながら至近距離から放ったウリムーの『こおりのつぶて』が再度ヒットする。つぶての衝撃で後ろに押し出されたカイデンは、のけぞり仰向けで地を滑り、動きが止まっても起き上がる気配はない。緒戦を勝利したのはウリムーとなった。

 

「相性的には不利でもお仕事はこなしたもんね。戻ってカイデン! ……いってらっしゃいハラバリー!」

 傷ついたカイデンをボールに戻し新たに登場したのは、ナンジャモの動画でも時おり姿を見せることもあり、彼女のパートナーとして象徴的な存在であるでんきがえるポケモンのハラバリーだった。

「ッ! 『マッドショット』!」

「『みずでっぽう』!」

 ハラバリーの姿を確認するやレモンは慌ててウリムーに『マッドショット』を撃たせた。一瞬あとに放たれたハラバリーの『みずでっぽう』と『マッドショット』は空中で交差し、お互いにそれぞれ技を受けると、ウリムーが短い足を投げ出し地面に伸びて力尽きたのをレモンは見てとった。

「サンクス! ウリムー」

「いや~、無傷で一撃ダウンの流れだと思ったのに……反応がお早い! でもきっちり倒したし、互いの弱点を突いた『みずでっぽう』と『マッドショット』の早撃ちバトル……()え映えなんだなっ!」

 勝ち星を並べつつも手持ちの数では未だ不利ながら、レモンの指示とウリムーの反応の素早さを称賛するナンジャモ。一方レモンはウェルカモ、ヤミカラスと、でんきに弱いパートナーが多いことを鑑みて、タイプ上有利なウリムーの退場に少なからず焦りを感じていた。

 

「頼みの綱は……アママイコ!」

「まうっ!」

 レモンの2体目はアママイコ。相手の十八番のでんき技、さらにはウリムー戦で見せた『みずでっぽう』のふたつに耐性を持ち、さらにもうひとつ有効な手だてがあるように思えたくさタイプの彼女に、この場を凌いでもらおうとレモンは考えた。

「『ひかりのかべ』!」

 レモンがさっそくアママイコに使わせたのは特殊技に耐性を持つ不思議な壁を一定時間発生させる『ひかりのかべ』だった。

「半減+半減! カタイ子、アママイコ!」

「それアタシが言おうとしたやつ!?」

「それなら二重に残念でーした! ハラバリー、『アシッドボム』を食らわせちゃれ~!」

「ぐぇっ!」

 攻撃への対処をじゅうぶんに整えたつもりのレモンだったが、ナンジャモが指示したのはでんき技でも『みずでっぽう』でもなく『アシッドボム』。くさタイプに弱点を突けるどくタイプ、さらに『ひかりのかべ』で強めたばかりの特殊技への耐性を大きくダウンさせる技だった。自身のコンパンの技として親しみのあるその攻撃に、レモンに緊張が走る。

「まぅ~っ!」

「耐えてアママイコ! 『タネばくだん』!」

「まー……いぃぃ!」

 『ひかりのかべ』越しとはいえ酸に身を焼かれながらもくり出した『タネばくだん』がハラバリーの腹部にヒットし、タネが弾ける。吹っ飛んだハラバリーだったが大きなお腹をクッションに受け身をとってすぐさま立ち上がる。

「ハラバリー、続けて『アシッドボム』でとくぼうガン下げだ~!」

「よけっ……」

「まぁお~っ!」

 回避を試みるレモンとアママイコだったがハラバリーの『アシッドボム』の意外な発射スピードに対応できずに2発目を受けてしまう。

「……まぃいい!」

 大きく体力を消耗したアママイコだったが、怯みもせずレモンの指示も待たずに勢いでハラバリーに突進していく。相手の懐に近づけたチャンスを逃してはならないと急いでレモンも指示を送った。

「『ローキック』!」

「『スパーク』!」

 下腹部にアママイコのパワフルな蹴りを受けながらハラバリーは受けたダメージででんきエネルギーを蓄えることができる『でんきにかえる』の特性を用いて威力を増した『スパーク』を放ち、そのエネルギーでアママイコを引き剥がしにかかる。『ひかりのかべ』とタイプ相性で威力を抑えられているとはいえ、その耐久力を二度の『アシッドボム』によって大きく下げられたうえでの特性によって強化された『スパーク』は鋭く、アママイコは弾き飛ばされた。

「まぃまぃま……」

 見事なまでに目を回し起き上がらないアママイコを見て気色ばむレモンだったが、「のぉっ!」と短く叫ぶナンジャモの声を聞いて相手側に目をやった。

「削りきられたのはこっちも同じ……かぁ~っ」

 見ると、嘆息するナンジャモの前にはうつ伏せで倒れたハラバリーの姿があった。耐久力を削がれた上から攻撃を受けたアママイコ、ウリムーの『マッドショット』の一撃とアママイコの奮闘で体力の尽きたハラバリー、まさかのダブルノックアウトだった。

「えへへ……楽しませて、バズらせてくれるじゃないレモン氏! こんなにヒリつくジム戦はちょっと久しぶり……!」

 焦りを楽しむナンジャモの表情にジムリーダーの胆力を垣間見たレモンだったが、自分とて負けるわけにはいかない。不安な顔をこらえられずになりながらも次なる一手を打つ。

「こんばんはコンパン!」

「フリャ~!」

「きたきたっ! 色違いコンパン! ハッコウ・ナイトの煌めく夜の街に青いお目々がよく映える!」

 コンパンの登場に嬉しそうに目を輝かせるナンジャモにレモンはますます焦りを募らせる。

「さあさあ、色違いコンパンちゃんに立ち向かうネクスト・ナンジャモズ・フレンド……いってみよう!」

 スマホロトムパッドを自身に向け、ウインクしてみせながらナンジャモが次のボールを構えた。

 

 

 

(つづく)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。